不思議な子ども達
片手を上げて近づいて来る旧友に内心ルディはホッとした、二人でエリカと何を話せばいいかわからなかったしカリンの為にも三人だけの状況は避けたかった。エリカの方を振り返りルディは確認する。
「エリカ、アニエスだ。一緒にいいかな?」
「ええ、勿論よ。」
普通の男なら魅了されるであろう微笑みでエリカは答えた。ルディ達四人はエリカのテーブルに着く。
「やあ、エリカ久しぶり・・・と言ってもたま〜に職場で見かけてるけど。」
片手を出し握手をするアニエスが次に隣の妻を紹介した。薄桃色がメインのドレスを着た艶のある栗毛を可愛らしくまとめ上げた薄い空色の瞳の、控え目で大人しそうに見えるその女性にカリンは見憶えがあった。
「あの、失礼ですけどルリ様?」
ルリが少し頬を紅潮させ、アニエスが驚いた様にカリンを見る。
「え⁉︎知ってたの?」
「あ、はい。あの私が近侍としてお勤めしていた時にアルベリヒ様の侍女をなさってらした方・・・ですよね?」
「お久しぶりでございます、ガウスご夫妻。それから初めまして、エリカ・ペイン男爵婦人。先程カリンさんが言われた通り王太子付き侍女を務めておりました、ルリ・クラークでございます。」
「へぇ、滅多に顔は会わさなかっただろうによく覚えていたね。あ、僕はアニエス・クラークで今は王宮の魔法省担当事務官をしてます。じゃあ、ルディ彼女を紹介してよ。」
「あ、ああ。え〜っと、妻のアレクシア・カーテローゼです皆カリンと愛称で呼んでるからそう呼んで貰えればいい・・かな?」
最後はカリンに同意を求める姿に皆が吹き出す。
「はい、皆様カリンとお呼びくださませ。初めましてエリカ・ペイン男爵婦人、アニエス様、お久しぶりですルリ様。よろしくお願いします。」
それから5人は他愛もない話しを交わし、少しして給仕から飲み物と食べ物を受け取り乾杯になった。ソレは多分口元に運んだカリンしか気づかない本当に微かな香りだった。飲み物はそれぞれが給仕の盆から選び取りエリカには何かを混入させる隙は無かったはずだ。
(どうやったんだろう?)
不思議に思いながらも表には出さず仕方なく口をつけようとした時にそれは起きた。グラスがスッと滑り落ち割れたのだ。
「まぁ大変!大丈夫カリンさん⁈」
「だ、大丈夫です。すみません、あ〜ルリ様ドレスに飛び散ってないですか⁈」
「ええ、大丈夫みたい。それよりカリンさんは?」
「はい、私も大丈夫です。」
「危ないなカリン、今片付けに来てくれるから足元注意して。」
「すみません皆さん。どうしたのかしら、急に手が滑って・・・え?」
ツンツンと後ろから引っ張られ振り返ると小さな着飾った子どもがいた、カリンの手を取り引っ張ろうとしている。
「え?あ、あのどなたかお知り合いのお子様ですか?」
テーブルを見回し問いかけると皆が首を振る。
「あのね、ちょっときてほしいの。」
ー困ったな、いま離れられないんだけど・・・ー
そうは思うが何故か手を引かれて一旦テーブルを離れる。
「いいよ、カリン。少し離れてる間にここも片付くさ。迷子かもしれないからちょっと様子見てあげたら?」
「じゃあ、ちょっと行って来ますね。」
5・6歳だろうか、クリクリの巻き毛をきちんとカールしてリボンで両脇に結んでいるそのリボンと同じ色の翠の瞳はパッチリとしていてピンクの唇がぷっくりと愛らしい。ドレスは薄い翠色の生地を幾重にも重ねカリンはなんだか羽が取れた妖精に見えてきた。ルディ達のテーブルからかなり離れてから、前を見ながらカリンに話しかけてくる。
「あのね、しらないひとからもらったものをたべたりのんだりしちゃだめでしょ?なんでのもうとしたの?なんかおかしいってわかってたでしょう?」
最後の方は振り向いて問いかけてきた。
「え⁉︎あ、はいごめんなさい・・・じゃなくて、あなた誰?」
「誰でもないの。今は誰でもないけどいつか誰かになるかも。」
「???」
「おにいちゃん!」
呼ばれた先には黒髪の少し年上の男の子がいた。
「ああ、良かった。お兄さんがいたのね。」
「良くないよ!」「よくないっ」
「え、でも迷子だったんじゃないの?」
カリンはしゃがみこんで二人に視線を合わす。ふたりとも上質な衣服を着ているから、この中でも貴族位の子どもかも知れない。すると兄の方が内ポケットから銀の短刀を取り出し渡してきた。
「あげる、今日必要だから。」
「あのね、いちどテーブルにもどるでしょう?たぶんあのひとさっきのことがしっぱいしてすごくおこってる。だから、きをつけて。」
「あと、王子様をよく見ていて。あの人多分禁術を使うから、王子様を助けてあげて。」
「おうたいしさまは、なにがつかわれるかしってるの。だけど、まんがいちってあるでしょう?」
「じゃあ、お願いしたよ?テーブルに戻って僕らは近衛に預けた事にして。」
「がんばってね!」
そう言うと二人は自ら近衛の元に向かって行った。
「は?なに、どういうこと⁈」
わけもわからず取り敢えず担当を取り出しやすい場所に隠し持ちテーブルに帰る。よくわからない正体不明の子どもだったが、知ってる気もした。平静を装いテーブルに戻ると床の割れたグラスは既に片付けられカリンは話しの輪の中に入っていった。




