鴉
この国の次期国王たるアルベリヒは長い間、病弱と偽り離宮で生活していた。確かに幼少の頃は身体が弱く、心配した父王が離宮で静養を勧めたが国一番の癒術師ツェツィーリア・ガウスにより10歳頃迄には通常の子ども以上に健康であったがその間に亡き母に代わり新しい王妃が娶られ、更に腹違いの妹弟が出来た事で幼いながらも自分の立場が微妙な位置にあり、病弱とされる自分と歳の離れた現王妃の産んだ弟とどちらが後継者に相応しいかという派閥が勝手に出来ていることも知り、迂闊に王宮に帰るよりもこのまま暫く離宮で貴族達の様子を伺うのが得策と考えた。それから彼はツェツィーリアや義母に読み聞かせしてもらっていた物語からヒントを得て自警団「鴉」を組織する。
その「鴉」が今回持ち込んだ情報は笑い事では済まされない内容だった。国内の二大派閥だったオーランド派は今や王太子を認め王太子妃にも一目置いている、その状況にもかかわらずに派閥の外側でただ一人の人物が国政をかき混ぜる様な事を企んでいるというのだ、それも爵位を持っているとはいえ元は一般人だった魔法師エリカ・ペインが。
カリンもルディも何も知らされず今日この場に来た、そしてエリカの標的の一人であるカリンにまずダンスの最中に説明がされた、何故なら彼女にはルディ以外の魔法は通用しないから。そして、もしその身に危険が生じようとしてもルディとカリンは今はお互いの指輪で繋がっていてルディはすぐに対処できる、更に今回ルディはエリカの対象外であることから取り急ぎカリンにだけ知らされたのだ。国家を揺るがすかもしれない陰謀を密かに秘めて会場に現れた魔女エリカ・ペイン。相手が魔女だけに「鴉」も迂闊に手を出せない、しかし「鴉」の中には魔法師も存在する。いまこの和やかに見える会場内外で「鴉」に属する魔法師らと近衛兵がエリカ嬢の一挙手一投足に目を光らせている。それはもう一人の標的オーランド王子を守るためであった。
「・・・って、私は鴉の皆さんに守って頂けないのですか⁈」
「すまん、お前は旦那が必ず守るから。」
「いやそれ彼は知らない話しですよねっ⁉︎」
カリンはワザとアルベリヒの足を踏みつけた。
「いっ・・・た。お前なぁ、今のは十分不敬罪で懲罰ものだぞ!」
「あら、ごめんあそばせ。私、庶民の出なので慣れていなくって。」
そういって、もう片方も踏みつけると涙目でアルベリヒが問いかけた。
「俺がこの国でどの様な立場の人間か知ってるよな?全くこんな所はアナスタシアやヴィルヘルミナそっくりだ、次やったら査問会開くぞ。」
「へぇ〜、次期国王陛下になられるお方が一市民をどの様な理由で裁かれるのです?足を踏まれたから⁉︎まぁ!小さい理由ですこと、もちろん何故踏みつけたか私が申し開きする機会を与えて下さるのでしょうね。”命の危険にあるかもしれない場所に何も知らされず招かれた”と言えば査問会の皆様はどう思われるでしょう?いえそれ以前に壇上でにこやかに鋭い目つきで殿下をジッと観察なさっていらっしゃるファンテーヌ様はきっと、私の気持ちを汲んでくださいます事でしょう。」
「・・・相変わらず怖いなお前は・・・人妻になって落ち着いたかと思ったがやはりある意味この国の要注意人物なのは変わりないな。すまん、本当にすまん。人目があるので深くは謝罪できんが必ず礼はするから、な?許してくれ頼むよ。」
二人が喧々轟々と口喧嘩している場にルディが近づいて来た。
「殿下、すみませんが旧友が妻に挨拶をしたいそうで、そろそろよろしいでしょうか?」
アルベリヒとカリンは視線を合わせにこりと微笑み別れを告げた。
「エラく長かったね。待ちくたびれたよ、一人でエリカの相手だし。何かあった?」
心配するルディを見上げ詫びを言い、アルベリヒが相変わらず失礼なので軽く口論をしていたと伝える。そして、ダンスの輪から離れエリカの待つテーブルに向かう途中声をかけられる。
「よぉルディ!悪いけど俺らも同席いいかな?うちの家内がそちらの奥方の大ファンなんだ。」
アニエス・クラーク夫妻が二人に近付いて来ていた。




