ハニートラップ
ー 気に入らない、イライラしてくるわ。何であそこでグラス落とすのよ?まさか、気付いてるとか?ハッ、馬鹿みたいあり得ないわだってこの二人の魔法師すら気付いてないのよ?じゃなんでって事になるけど、偶然ね。彼女あと少しで口をつけるとこだったもの。ー
エリカは回想しながらイラつく気持ちを沈めようとしていた。あと少しでカリンに秘薬が盛れたことが失敗に終わったのは済んだ事、忘れよう。そして目の前の二人の魔法師が気付いていないのをいい事に次の策を練っていた。彼女の目的はルディとカリンに溝を作る事、そしてそれ以上に重要なのは第二王子オーランドの目に留まることだった。
「すみません!遅くなりました。」
やっとテーブルに帰ってきたカリンにルディが問いかける。
「グラスの破片は綺麗に片付けてくれたから足元は大丈夫だよ。ところであの子はどうした?」
「えっと、完璧に迷子みたいなので近衛兵に預けてきました。」
「同窓生の子どもならめでたい事だな。」
アニエスが言う。
「ルディのとこはどうか知らないけどうちは最初から諦めてるから。」
ああ、そうかあの子達が魔法師の子どもなら確かにおめでたいわ。しかも兄妹だったもの。
「ルリ様はお子様を望まれませんか?」
隣のルリに尋ねる。
「ええ、私はこの人の求婚を受けた時に子どもは望まないと言ったの。居れば確かに嬉しいけれど出来ない可能性が高い事に期待しながら過ごすよりも、他の事を考えたり楽しんだりした方がいいと思って。カリンさん達は?」
「えっと、うちは何にも考えてないです。ね?」
「そうだね、話し合ったことも無いな。」
「はは、相変わらず呑気だなルディは。ところでエリカはまだお相手はいないのかい?高望みしてると行き遅れるぞ、魔法省では君を狙ってるって奴が何人かいるらしいのにさ。」
「あらそうなの?なら早く言ってくれればいいのに。私だってそろそろ身を固めたいとはおもっているのよ?」。
「お、言ったな。じゃその情報明日から流すから求婚の長蛇の列に覚悟しろよ。」
そんな話をして笑っていると、壁際の食事を置くためのテーブルにデザートが運ばれて来た、するとエリカが女性二人に声を掛ける。
「あら、デザートが来たわ!ねぇ、ルリさんカリンさん取りに行きませんこと?今日は特別に王室御用達のパティシエが作ると聞いていて私楽しみにしていたの!」
「行っておいでよ二人とも、王室御用達職人の菓子なんて滅多に社交界に出ないなら記念に食べとくべきじゃない?」
「へぇ、ルリさんもあんまり出ないんだ。」
「そうそ、今日なんかも君んとこの奥さんが欠席なら来てないさ。何たってこの人これであのこ・・・」
「あーっ!言わないでってばっっ///い、行きましょうエリカ様カリンさんも。」
慌てて話しを遮り自ら先頭切ってデザートコーナーに行く愛妻にひらり〜と手を振り送り出すアニエスを見て、成る程かの奥方は元子鹿会会員かとルディは納得した。するとアニエスがルディに向き直り声を潜め話す。
「な、カリンさんのグラスなんで落としたんだ?」
「ん?いや、あれ僕じゃないよ。手が滑ったんじゃないかな、なんか仕込まれた様にも見えなかったし。」
「だよな?だけどさ、大人し過ぎないかエリカ。わざわざ夫婦で来いって呼び出しといてさ、なんか・・・いや何もなければそれでいいんだけどさ。」
「これからだったりして・・・」
そう男二人が話しているとその場にオーランドが現れた。
「わ、殿下どうされました?」
「いや、僕の領域にエリカ・ペインが近づいて来たから慌てて逃げてきた。」
殿下の領域?ああ、デザートコーナーか。
「え?でもなんで逃げなきゃいけないんですか?」
問いかけるとオーランドが驚いた様に目を見開いて次にガックリと肩を落とし椅子に座り込み頭を抱えた。事もあろうにやはりあの兄はルディに肝心なことを話していないらしいし、今回の件は久々の遊びの様にまた楽しんでいる様だと気づき取り急ぎ今はまだなにも知らされていないこの大陸一の魔法師に全て打ち明け自分も守ってもらおう、うんよし!決めたっ。
「あのなルディ、君何にも聞いてない?うちの兄上から。」
「はい。そう言えば今日はご挨拶もまだでした、怒ってらっしゃいますか?」
「いや、いい。あんな人間に挨拶なんか気にしなくていいぞ、アニエスはどこまで知っている?」
「ルディの奥方が狙われてるっていうアバウトな情報です。で、何かあれば力になれる様こうして一緒にいるんですが。」
アバウト!まさにその通り・・・。
「エリカの標的は二人いる。カリンと・・・僕だよ。カリンは昔の恨みでルディに嫌がらせするためらしいけど、そんな生易しいもんじゃない企みがあるらしいし僕に対しては妃、または側室の座を狙っているそうだ。」
そこまで話すと急に三人の周りの空気がキンと冷えた。
「お、落ち着けルディ。向こうに気づかれずに取り押さえたいんだ、あ〜もぉ兄上め面倒な役を僕にさせて自分は高みの見物か。」
「ハニートラップ、とはこの事でしたか。いや、事務所や同僚から聞きかじった程度ですがてっきり標的はルディかと思ってました。どれだけ危ないんですか?」
「国規模で危ない。そもそも魔力持ちは王族に連なれないんだ、だけど彼女コッソリと禁術を会得したらしいしそれがあれば後継者問題も難なくクリアできるらしい。その為の標的が僕ってわけ。すぐ思いつくのは惚れ薬の類なんだが・・・ヤバい一旦失礼するよこっちに来てる。」
オーランドは慌てていたが表に出さずさり気なくその場を去って行った。




