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友達って重要。

 いよいよ宿泊学習当日だ。

 合宿先の施設は同県の県境にあり、学校からではバスで二時間ほどかかる距離にある。

 バスの席順はグループごとで、私と岸山くん、月翔九十九と綾里さん、幽と茅島さんのペアで座った。

 月翔九十九はいつもの仏頂面だったけど、綾里さんは周りの女の子たちからの鋭い視線にさらされて肩身の狭い思いをしていた。

 利己的でごめんねと心の中で謝り、けどやっぱり不憫だったので次の休憩所で席を替わろうと思っていたら、その前に岸山くんがダウンした。


 岸山くんはただのバス酔いだ。

 断じて私のせいなどではない。断じて。


 とにかく岸山くんは他の酔ってしまった子たちと一緒に、教頭先生が運転する車のほうへ移った。

 岸山くんの移動で私の隣がちょうど空いたので、綾里さんを私の隣へ呼んだ。


 月翔九十九じゃないのかって? ないない。


 クラスの席は許されたけどね、ここで彼を呼ぶのは私にとっても自殺行為だよ。 クラスの席も隣、バスの席も隣じゃまるで私が彼に好意を抱いているみたいじゃないか。そんな不名誉な誤解は避けたい。

 岸山くんのおかげというのもあれだけど、施設に着くまでの道のり、綾里さんと楽しく談笑することができた。

 彼女は花が好きらしく、野花を観察するのが今から楽しみで仕方ないらしい。

 花のことを嬉しそうに話す綾里さんはとても可愛くて、胸がほっこりした。

 

 施設に着くと、なぜかバスを降りたときよりも顔色の悪い岸山くんがいた。

 岸山くん曰く、乗車早々、教頭先生が落語と演歌の素晴らしさについて語り始めたらしい。

 興味もないので寝ようと思ったら、今度は演歌を大音声で歌い始めてしまい寝るに寝られず、またそれが音痴で雑音甚だしく、施設に着くまでずっと続いたという。

 そういえば集会なんかで、やたらと演歌や落語に絡めた話をしてた気がする。

 よっぽど話を聞いてくれる人がいないんだな、教頭。

 だからって、バス酔いで体調が悪い子たちにそんな苦行を強いなくてもいいじゃないか。本人に悪気がないのが、また問題だ。

 岸山くんとその苦行に耐えた子たちは、二度と教頭先生の車には乗らないと固く誓い合っていた。


 ごめんね、岸山くん。

 君が苦行に耐えている間、私は綾里さんに癒されていたよ。


 私は苦行に耐えた子たちを称え、兄さんからもらったちょっとお高いチョコレートを彼らに振る舞った。今回は特別にお菓子OKなのだ。

 疲労には甘い物が一番だよ。

 もちろん、癒しを提供してくれた綾里さんと幽の相手を引き受けてくれた茅島さんにもあげたよ。

 二人とも喜んでくれた。よかったよかった。

 ここまできたら仲間外れもあれなので、月翔九十九にもあげよう。

 え、幽? なにも聞こえないわからない。


 視線を巡らして探すと、案外近くにいた。

 が、彼はなぜかいつにも増して不機嫌そうな顔をしていた。

 それ、あまりやらないほうがいいよ。眉間のしわ、取れなくなっても知らないぞ。

 月翔九十九の視線が私とチョコレートの箱へ交互に注がれる。

 やっぱり君もほしかったんだな、チョコレート。私と同じ甘党だもんな。

 そう思って渡したら、余計に険しい顔をされた。


 あれ、違った?

 それとももうちょっと高級なものをご所望かい?


 それなら幽のとこに行ってきなよ。

 奴なら今、ちょうど自家(社)製のマカロンを食べているよ。

 私はあとでたかりにいくからさ。

 しかし、月翔九十九は私の前を動かない。

 一体なんなんだと首を傾げると、月翔九十九がぼそっと呟いた。


「……普通、俺を呼ぶだろ」

「え?」

「……別にいーけど」


 それだけ言うと、彼は足早に施設の中へ入っていった。


 ……え、なに? 今の。

 ちょっと待って。え?

 つまりあれ? 綾里さんではなく月翔九十九を呼べと?

 …………いやいやいやいやいや、ちょっと待て私。まずは落ち着こう。

 落ち着いて考えろ。私はフラグなんてやばいもん、決して立ててはいないのだ。

 これはあれだ、友達なら云々発言した彼のことだ。

 友達歴が長い月翔九十九よりも短い綾里さんを選んだから、蔑ろにされていると感じたんだ。

 きっと彼の中では友達とは斯くあるべきというものがあるんだ。うん、そうに違いない。


 そもそもフラグなんてそうそう立つはずがないんだ。私が自意識過剰すぎるんだ。

 そうだよ、ツンデレがデレを発揮しただけじゃないか。

 艶子さんと同じだ。艶子さんとは違う意味でドキドキしたけど(主に命の危機的な意味で)。


 これから先、月翔九十九がああいった発言をするたびに私は心臓に悪い思いをするのか。それはかなり問題だな。

 今度からは彼に「友達なら」を語頭に入れてもらおう。語尾でもいいけど。

 いや、まずは私たちがちゃんと”友達”であることを確認したほうがいいか……。

 照れなら良し。ありえないも、むなしいけどまあ良し。不機嫌は要注意、だな。

 ”友達”ということが確認できたら、改めて頼むことにしよう。


 どのタイミングがいいか考えながら、私は月翔九十九の後を追って施設へ向かった。

会話文が少なすぎた……!

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