{西の集落での戦闘}
「あっちは片付いた」
「弱ぇな」
「どっち? 私の小竜? それとも人間?」
「人間だ。小竜のほうは、単純に質量負けだな」
”晶竜召喚”に気づいた時、地竜たちを使ってある程度の試運転を行っていたが、耐久面に関しては確認ができていなかった。今や片手間とはいえ、地竜たちも本来なら覚醒してから挑む相手。地竜たちの攻撃では一発くらった瞬間に砕け散ってしまうため、今回でようやくある程度の耐久力を測れたことになる。
「魔法三発で手のひらサイズ一体破壊か。いいのか、悪いのか……まあ、使い勝手はいいんだけど」
息吹の威力もだいぶ落ちているが、弾丸のように螺旋を描くように回転させ、貫通力をあげている。人間の張った結界を破壊した時のように、ある程度の硬さであれば貫くことも可能。小竜を偵察や奇襲用と考えれば性能としては十分だろう。
さて、グレンの発言だが、まるで小竜と人間との戦いを見ていたかのような物言いだ。それを説明するには、まずルゼの現在のステータスを見る必要がある。
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【名前】ルゼ=フェンドル=リンドアルヴ
【年齢】14歳
【性別】女
【種族】結晶竜(混血)
【固有スキル】息吹、竜晶化〔攻撃・防御〕、竜晶生成・操作・分解、気配察知
【特殊スキル】竜玉作成〔中品質/念話・画像共有〕、晶竜召喚〔自立・感覚共有・息吹〕、
【進化状態】覚醒
*
【魔力】505000
【火魔法】Lv4(上限Lv7)
【水魔法】Lv3(上限Lv5)
【土魔法】Lv2(上限Lv5)
【風魔法】Lv4(上限Lv7)
【光魔法】Lv2(上限Lv5)
【闇魔法】Lv2(上限Lv5)
【力魔法】Lv4(上限Lv5)
【時空魔法】Lv2(上限Lv5)
【生物魔法】Lv5(上限Lv7)
【創造魔法】Lv5(上限Lv5)
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お気づきだろうか。竜玉作成のところに、何か増えている。そう、【覚醒】に至ったことによって、ルゼは晶竜召喚以外にも、もうひとつ、スキルに目覚めていた。
それが竜玉作成〔中品質/念話・画像共有〕。
ルゼが作成した竜玉を持った者同士であれば、念話による通話と視覚画像の共有ができるようになったのだ。難点があるとすれば、【覚醒】以前に作成した竜玉には適応されない点と、やり取りを行う者同士の距離によって消費魔力が異なるという点。
拠点内ぐらいなら当事者同士の魔力でどうにかなるだろうが、数百キロ離れたここから拠点にいる者たちと会話をすると、数時間で魔力貯蔵庫の魔力が空になってしまうことだろう。余談である。
グレンの腕輪には新たに小竜を象った小さな竜玉がはめ込まれている。これによって、ルゼが小型晶竜との感覚共有によって見た光景を画像としてグレンに送り、グレンも晶竜たちの戦いの様子を見ることができたのだ。なお拠点組の全員の腕輪にもこの竜玉がはめ込まれており、試しに使ってみた彼らがあまりの使い勝手の良さに狂喜乱舞したのだが、余談である。
唐突に、ルゼが舌打ちをした。
「どうした?」
「今片づけた部隊、補給部隊だった。本隊が村にいる」
晶竜に馬車の中を確認させると、獣人確保の補給部隊としての指令書を発見した。指令書によると、本隊出発から少し遅れて出発した追加の補給部隊らしい。
ミルバの森に近くなっていくにつれ、あちらこちらで火の手があがっているのが目についた。遠くから怒声や爆発音、剣戟の音などが聞こえ始める。ルゼは五十センチくらいの晶竜を召喚し、ロッドを背に乗せた。
「ロッド、”大波”で火を消して回ってくれ」
ロッドは「了解!」と蔦でサムズアップすると、”大波”の魔道具を抱えて空に飛び上がっていった。グレンほどの気配察知の性能はないが、ルゼにも森にいる者たちの気配が感じ取れるようになってきた。ルゼは追加で一メートルほどの晶竜を十体召喚した。
「獣人族を襲っている者を殺せ。獣人族同士が争っていたら静観しろ」
念のため獣人が洗脳されていた場合も想定して命令を下す。小型晶竜は命令に従い、森に散らばっていった。
森のあちこちで戦っている気配を感じる。ルゼの感知範囲だけでもおおよそ人間百人。そのうち、右側に戦闘に参加せず、獣人族を取り囲んでいる気配があった。近くには戦闘中の獣人族と人間の気配もある。が、様子がおかしい。獣人族のほうは精彩を欠いているように感じた。おそらく、取り囲まれている獣人族が原因だ。人質にでも取られているのだろう。ルゼの目が、竜の瞳に変わった。生物魔法により消していた角と尻尾が現れる。戦闘を想定していなかったため、翼を出した際に背中側の服を突き破ってしまったが今は気にしている時間も惜しい。
「グレン、右側殲滅してくる」
「なら、俺は左からいく」
「よろしく」
端的にやり取りを終えると、二人は左右に分かれた。木々の隙間を縫うように、されど迅速に進んでいく。所々に獣人族の戦士らしき死体が転がっている。ほとんどは魔法によるものだろう外傷で死亡している。
ルゼが感知した気配が間近に迫る。そこは開けた場所だった。ここだけ木々が伐採されており、奥にはいくつかの家屋が見える。察するにここは集落の広場のような場所なのだろう。
広場は激しい戦場と化していた。中央付近では獣人族の戦士たちと、二人一組で行動する人間たち、おおよそ二十組。人間たちは一人が防御し一人が攻撃するという先方を取っている。対して、獣人族側は魔法は使えないのか盾や剣、弓などの武器を使い戦っている。
端には獣人族の女性と子供たち、合わせて十五人ほどが集められ、女性の一人がその場に倒れている。上半身が血で濡れているところを見るに、戦士たちへの見せしめとして刺されたのか。
女子供を取り囲む兵士五人のうちの一人が子供の首根っこを持ち上げて、ナイフを翳しながら聞くに耐えない言葉を吐いている。あまりの醜悪さに反吐が出そうだ。
ルゼの瞳孔が収縮する。全身に竜晶を纏うと、囚われている者たちの方に近づいた。兵士の一人がルゼの存在に気づき、惚けた表情を晒す。
常として見たことのない美しい獣人族。それも結晶竜。しなやかな肢体に豊満な体。竜宝を回収する前に遊ぶ許可をもらおうかなんて、馬鹿げたことを考えた男は、次の瞬間目を剥いた。女が片腕を振るうと、まるで紙屑のように結界が砕け散ったのだ。その音で残りの兵士たちもルゼの存在に気づいた。
「なんッ」
「喋んな」
周囲に出現した竜晶の杭五本、兵士たちの二の句を許さず頭に大きな風穴を開けた。子供を掴んでいた兵士から子供を奪い取り、地面に下す。女性や子供たちはルゼの姿と、たった今兵士が瞬殺されたことに驚愕を露にする。ルゼは倒れている女性の傍に膝を折った。浅いがまだ呼吸をしている。獣人族の女子供は奴らにとって大切な商品なので、治療できる程度の傷に留めたのだろう。
「”治癒”」
女性の体を淡い光が包み込む。程なく傷が塞がった女性はゆっくりと起き上がると、刺されたはずの腹部を触ってきょとんとする。助からないかもと思った同胞が起き上がったことに、歓声をあげる獣人たち。その声に、中央で戦闘中の者たちがこちらの状況にやっと気が付いた。
獣人族の戦士たちは見たこともない獣人族に目を白黒させる。人間の兵士たちは赤い水たまりを広げながら地面に倒れ、起きる様子のない仲間たちの姿に驚愕し、先ほどまでそこにいなかったはずの結晶竜に怒りを滾らせた。獣人族の戦士そっちのけで、魔法の照準をルゼに合わせる。
直後、森の中から三体の晶竜たちが飛び出してきて、それぞれ別の敵に息吹を放った。瞬間的に消滅する人間の上半身。新手の存在に騒然とする人間たちは、晶竜に気をとられてルゼから視線を逸らしていた。なによりも、一番やばい存在から。その報いは、すぐに受けることになる。
空に一斉に出現する無数の杭。それらはまるで雨のように人間たちに降り注いだ。晶竜による息吹の乱れうちと杭の雨。程なく、広場で動く者は獣人族のみとなった。晶竜たちが人間たちの死体の始末を始めると、ハッと我に返った獣人族のおそらく戦士長らしき熊の獣人が走り寄ってきた。
「ご、ご助力いただき感謝いたします! ご無礼を承知で言わせていただきたい! まだ戦っている同胞たちがおりますゆえ、大変申し訳ないのですが我らはこれで」
「南の方なら私の仲間が行ってる。時期に戻って―――ああ、来たな」
「え?」
ちょうど、南の方角からグレンが姿を見せた。当然、無傷である。その後ろから獣人族の戦士たちが遅れてやってきた。先頭の獣人族の戦士が、熊獣人の姿を見つけると喜色を顔に浮かべて叫んだ。
「戦士長! ご無事でしたか!」
「おまえたちも無事か!?」
「はい! こちらの方と竜たちが助太刀をしてくださったおかげで、なんとか。そちらは……」
戦士の男性は、広場を見渡すと口を噤んだ。人数が足りないことに気づいてしまったのだろう。
「我らも被害を最小限にすることができた。これも、あなた方に助太刀いただいたおかげです。本当になんとお礼を申し上げればよいか」
戦士長はそう言うと、深く頭を下げた。周りの獣人たちもそれに倣う。
「感謝は受け取る。私たちはこの村の村長に用があってきた。これからバタバタするだろうから、落ち着いたら取り次いでくれ」
「お心遣い、重ねて感謝を。しかし、此度の戦いの終息の報告をすれば、村長はすぐにでもあなた方に感謝を述べたいということでしょう。どうか、このまま私と一緒に来ていただけないでしょうか?」
「そういうことなら――――」
突然、虚空を見つめながら固まったルゼに、獣人たちは不思議そうな顔をする。ひとり、ルゼが固まった理由に察しのついたグレンが、口を開く。
「どうした?」
「東と南の集落も襲撃を受けてる。同じ人間だ」
「なんですと!?」
戦士たちがどよめき声をあげる。ルゼはロッドを乗せた晶竜との感覚共有により、東と南から狼煙があがっているのを見た。また離れているが、この集落を襲った人間たちの身に着けている紋章と同じものを纏った人間たちの姿も目にした。
戦士たちはルゼが一体どうやってその情報を手に入れたかわからなかったが、今しがた自分たちを救ってくれた救世主の言葉を疑うことはせず、悔しそうに表情を歪めた。
「この周辺の獣人族の村を狩りつくすつもりか…! いったいなぜ…!?」
「考えてる暇はない。――――グレン」
ルゼはグレンを呼んだ。少し不安そうに目を合わせると、眉根を下げながら口を開いた。
「どっちか頼めるか?」
頼りすぎだろうかと内心心配するが、心配に反してグレンはすぐに頷いた。
「いいだろう。どっちだ?」
「助かる。南だ。晶竜に案内させる」
迅速に行動を決めると、ルゼは一メートル級の晶竜を十体召喚した。グレンは晶竜を伴って、南に走って行った。本体よりスペックの劣る晶竜に乗るよりも、グレンが走るほうが断然早いからだ。グレンが走り去ってから、ルゼはしまったと思った。ひとり、この集落の獣人をつければよかったと。今回起こった同時襲撃を南の集落にも伝える必要があるが、グレンはそういった話はしないだろう。失態である。
「誰か、後を追って南の集落の者に今回のことを説明してくれないか? さっきの男、たぶんそういう話はしないから」
「では、自分が行きます!」
立候補したのは羊獣人の戦士だ。ルゼは頷くと、晶竜一体を呼び寄せた。
「乗って行け」
「はい!」
羊獣人の戦士は晶竜にまたがると、グレンたちの後を追って行った。行くのを見届けたルゼは竜化した。魔力の繭に包まれ、瞬時に弾ける。現れた十メートルほどの巨大な竜。人が竜になるという現実味のない光景を目の当たりにした獣人たちは、大きく口を開いて固まった。グレンに南の集落を任せたのは、東の集落のほうが遠かったからだ。ルゼは竜化すれば、グレンよりも移動時の速度は上だ。
「こちらにもひとり、来てくれ」
「……お、オレ行きます!」
呆けていた彼らは、ルゼの呼びかけにハッとすると、鷹獣人の戦士が挙手をした。鷹獣人は恐怖とドキドキわくわくが入り混じったような表情でルゼの背に乗りこんだ。
「本気で飛ぶ。しっかり掴まっていろ」
「は、はい!」
「よ、よろしくお願いします!」
「ああ。あと、そのうち竜に乗ったトレントがここに来ると思うが、余裕があったら適当に水とか果物とか与えておいてくれ」
「しょ、承知しました!」
ルゼはそれだけ伝えると翼を羽ばたかせて浮かび上がり、刹那、消えた。否、消えたとしか思えない速度で飛び出しただけなのだが、獣人族たちには消えたように見えたことだろう。ルゼの背中に乗る、鷹獣人の戦士が必死な形相で縋り付いている。鷹なので、落ちても飛べるから問題ないはずなのだが、落ちたら死ぬ! とばかりに必死だ。
「と、とんでもないな……」
ルゼを見送った戦士長は、呆然としながら呟いた。だが、すぐに気を取り直すと、部下の戦士たちに指示を飛ばし始めた。被害状況の確認、村人や村長への報告、そして頼まれた食料の調達。彼らもあわただしく動き始めた。




