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{拠点完成}※途中

「……やっぱ、不自然だよなあ」


 シェルンフト大峡谷の谷底を空から眺めたルゼは額に手を当てながら呟いた。肩に乗るロッドも同じポーズをしている。


 本日、新拠点が完成する予定なのだが、完成に合わせてトレント達もこちらに引っ越しを始めていた。時間はかかったものの、誰一人(?)欠けることなく移動が完了したのだが、一点だけ問題があった。


 シェルンフト大峡谷は、山肌に木は生えているものの基本的には岩場が多い。そこに数百体からなるトレントたちが密集したらどうなるか。なぜか一部だけ、青々とした木々が生い茂る谷底。非常に不自然である。


「もう少し、山肌のほうに数を散らせるか」


 ロッドは蔦でOKマークを作ると、枝をぴこぴこ動かして下のトレントたちに合図を出した。合図に従って、散開し始めるトレント達。


 元々伝達役としてロッドをリーダーとルゼ達のほうで定めていたが、固有魔法に目覚めたことによってロッドは名実ともにトレント達のリーダーとなっていた。チェントロ山とデクシア山にいたトレント達もいつの間にか仲間にしており、数は増えたがロッドの指示をよく聞いているため今のところ支障はない。


 不自然でない程度にトレント達の配置決めが終わったところで、小型UFOに乗ったドゥルグがやってきた。


「おーい、完成したぞ!」

「あ、ほんとー? こっちも配置確認終わったし、見に行くか」


 肩のロッドが賛成を示すように蔦をぶんぶん振った。


 二人プラス一体で拠点の入り口の前に降り立つ。数歩中に進んだところで、二人は収納箱から緑色のペンデュラムを取り出した。表面には、”玄関”と刻まれている。


 小人たちが転移水晶を真似て作った個人用転移結晶だ。転移水晶のように大人数で移動することはできないが、結晶に認定石を融合し、持ち主でなければ使用することができないようになっている。転移の魔法陣を掘る難しさから、まだ人数分の”玄関”用のペンデュラムしかできていない。


 二人がペンデュラムに魔力を流すと、一瞬のうちに玄関ホール(エントランス)に転移した。玄関ホール(エントランス)では、マイヤを始めとしたロンプとペルシェなどの小人たちがルゼたちが来るのを待っていた。


「来たね。じゃあ、さっそく行こうか」

「楽しみだな。私、まだちゃんと見てないんだよな」


 実は、拠点が完成したらみんなでルームツアーをすることにしていたのだ。ルゼはグレンと地獄の特訓で忙しくしていたこともあり、拠点内を見て回るのを完成してからのお楽しみとしていたのだ。そのグレンだが、この場にはいない。気まぐれな男なので、拠点内のどこかにはいるだろう。おそらく。ルゼは玄関ホール(エントランス)を見渡して、感慨深げにつぶやいた。


「ここは必ず通るから何度も見てるけど、本当に様変わりしたよな」


 当初、この転移部屋は外からの入り口から入って程なく到達する、対象を鍛錬場(闘技場手前の空間をそう名付けた)へ転移させるためだけの行き止まりの空間だった。大体一キロほどの円形の空間だったが、現在は奥側の壁全体を拡張して、長方形の回廊が伸びていた。

 

 なおルゼとドゥルグは転移によって玄関ホール(エントランス)に入ってきたが、もともとの入り口だった通路は封鎖している。転移結晶があればどこからでも玄関ホール(エントランス)にアクセス可能だったため、わざわざ時間と危険を犯してまで人目につくかもしれない入り口を使用する必要はない。


 なのでもともとの入り口は、外部の者に見つかった時用のトラップとして残している。外からダミーの入り口に入った場合、この拠点に認定された魔力の持ち主でなければ自動的に通路内に毒ガスが噴射される仕組みとなっている。毒ガスは致死性を減らしており、あくまでも敵意なく入ってきてしまった時のための仕組みだ。


 悪意ありの侵入者にはもっと苛烈な罠を用意した。熱した大きな鉄球が油をまき散らしながら転がってきたり、天井や壁の至るところから致死毒を塗った矢や槍などが飛び出してきたり、落とし穴に毒付きの剣山を張り巡らせたり、敵が魔法で攻撃してきた時は設置した魔道具から”雷槍””炎弾”風弾”などの魔法が飛び出したりする。


 また悪意ありと検知した場合、侵入者が通路に入ったことを確認すると自動的に入り口が閉じるようになっている。生きては返さぬという強い意志を感じるトラップだ。発案者は某殺意マシマシ鬼さんだ。敵は逃すな、殲滅しろの精神である。殺伐としている。


 ルゼたちは並んで回廊を歩いていく。先頭のドゥルグが、案内人よろしく左右の部屋を指さしながら説明を行う。


「この回廊は五階層に分かれてる。ここは第一階層。奥の居住区画に繋がるメインの通路だな」


 ドゥルグが回廊の上を指さす。つられて視線を上にあげると、吹き抜けになっていて他の階層に繋がっている。ルゼはもちろん小人たちは重力操作によって飛べるようになったので、わざわざ階段で移動する必要がないため、こういう作りになっていたほうが移動は容易だ。一人飛ぶ力はない鬼さんだが、跳躍すればどうにかなるので一切考慮されていない。ルゼは翼を広げ、小人たちは各々の好きな乗り物に乗って第二階層に移動する。


 第二階層は食堂だ。一階層すべてが食事をするためのスペースとなっている。テーブルや椅子などは、基本的に岩を削りだしたものにクッションなどを敷いたものを使用している。食堂の一番奥はキッチンと配膳エリアとなっていて、キッチンは小人たち用とルゼたちのような人用の二つが用意されている。食堂の端には、通常置かれることはあまりないだろう黒板が設置されている。唐突に、緊急会議を始めることが多いので設置された感じだ。


「念のため聞くけど、酸素対策は大丈夫なんだよな?」

「問題ない」

「そのあたりは、私たちでしっかりと確認したものね」


 山の中に住居を作っている関係上、通常の家屋以上に排煙や酸素供給などに気を遣わなければならない。特に火を使うことが多い食堂の対策は必須だ。


「外と繋がる酸素の通り道を無数に作ってあるから心配する必要はねえ。バレねえための偽装と埋まらねえようにする工夫もしてある。もちろん、雨水対策もな」

「なら、安心だな」


 ドゥルグの言葉に納得したルゼは、嬉々として次の階層へと足を運んだ。


 第三階層は、ルゼごり押しの大浴場だ。浄化の魔道具の力でお風呂いらずとはいえ、元日本人としてはお風呂は必須設備だ。そういったものに馴染みのないドゥルグたちをどうにか説得して、作ってもらったのだ。


「おお、すごく広い!」


 入ってすぐは休憩スペースだ。あちらこちらに椅子とテーブルが設置されている。誰かと待ち合わせをしたり、お風呂から出た後にちょっとくつろぐにはいい空間となっている。壁に扉が三つ設置され、それぞれの暖簾に”男風呂”と”女風呂”と”(はざま)風呂”と書かれている。


 男風呂と女風呂はそのまま性別が男性と女性用の風呂という意味だ。間風呂というのは、性別が中立寄りの者のための風呂だ。一応、小人たちに間の者はいないが、念のため作られた風呂である。


「最初はそんなものいるだろうかと思ったものだが、実際に入ってみるととても良いな」

「あなたったら、何時間も出てこないんですもの。どうしたのかと思ったわ」

「す、すこし長湯をしてしまっただけだ」

「ははは、わかるよ! あたしも時間があればずっと入っていたいと思ったからね!」


 小人たちから次々と絶賛の声が上がる。ルゼも今日入ってみようとわくわくしながら、間風呂の中を覗いてみた。脱衣場の奥の扉を開けると、広々とした風呂場になっている。手前は体を洗うためのシャワースペースが二十ほど並んでいる。シャワーは魔道具を使用し、水とお湯を選べるようになっている。


 奥は広い浴槽と小人用の小さな浴槽が並んでいる。ルゼの注文で、水またはお湯を注ぐためのオブジェクトとしてマーライオンのようなものがついている。今は湯は張られていないが、決まった時間に自動的に湯が張られる仕組みとなっている。浄化の魔道具があるため、風呂の掃除もいらない。


 排水はそのまま各階層または個室に取り付けられているトイレの水を流すために再利用される。汚水は一度地中奥深くに掘った穴に溜められ、浄化の魔道具で綺麗にしてから最終的に川に流すようになっている。この辺りも地盤や周辺環境に問題がないように、細心の注意を払っている。


 第四階層は小人たちの工房区画だ。メインの工房には複数の長テーブルが並べられ、すでに使用しているのもあり資料や素材などが散逸している。壁には五つの会議室と資料を保管する書庫、個人用の工房などの扉が並んでいる。一番奥の頑丈な扉の中には、拠点に置いて最も重要な魔力貯蔵庫や宝物庫などの結晶が安置されている。


 第五階層は試遊区画だ。小人たちが作成した魔道具の試運転をするための区画なので、基本的にはなにもない空間が広がっているだけである。回廊側の階層は以上の五階層となっている。


 第一階層に降りてきたルゼたちは、回廊を歩き、居住区画にやってきた。


「居住区画も回廊側と合わせて五階層にしてある。ま、今のところワシらとルゼの嬢ちゃんと鬼の坊主しかいねえから、三階層までしか使用予定はねえがな」


 居住区画は、ドゥルグの言う通り回廊側の階層と同じく五階層から成っている。円形の空間の第一階層となるここは、交流のための談話室となっている。モンスターの毛皮を使った革張りのソファと木を加工して作ったテーブルが点々と置かれている。


 第二階層にあがると、小人たち用の居住スペースとなっている。小人サイズで余裕があるためか、一見すると街にしか見えない。岩を削りだして等間隔で家が建てられており、おそらく家族構成によって大きさも変えているのだろう。怪獣映画用に作られたジオラマのような光景だ。


 第三階層はルゼとグレンの部屋がある区画だ。部屋の作りはほとんど一緒だが、スペースに余裕があるため一部屋で3LDKほどの広さがある。岩を削りだした空間ではあるが、壁や天井、床などに木を敷くことによって空間に柔らかさを演出しており、岩を削りだした家具類と合わせても、不思議と調和がとれている。お風呂とトイレも各部屋に備え付けられており、非常に快適な空間となっていた。


 第四、第五階層は同じく居住用としてスペースを確保しているが、今のところ使用者がいないため必要最低限の設備しか作っていない。


 回廊側の階層と居住区画側の階層は連絡通路によってつながっており、回廊から居住区画に直接移動することも可能だ。


 一通り見て回ると、一行は食堂に集まった。完成のお祝いをするためだ。なお、一人ルームツアーに参加していなかったグレンは、闘技場で地竜たちと戯れていたので強制的に連れてきた。


 ルームツアーに参加していなかった小人たちが、食事の準備を済ませてくれていたため、各々席に着く。本日のメニューはせっかくのお祝いなのでということで、バーベキューにしている。ちょうど、狩猟チームが森蜥蜴(全長二十メートルほどもある大柄の蜥蜴。凶暴だが肉はおいしい)を仕留めてくれていたので、焼肉にはもってこいだ。



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