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{グレンと初邂逅}

 亀の死体が塵となって消えると、どういう仕組みなのか破壊された地面までもが元通りになる。だがそんなことはどうでもよい。それよりも、問題なのはひとつ。二百メートル付近の、ルゼ達が入ってきた通路とは反対方向に、新たに通路ができていた。進めということだろう。


 ルゼとロッドは死んだ目で通路を見つめ、お互いにしゃがみ込むと密談でもするかのようにぼそぼそと話し始めた。


「……どうする? 私もう、行きたくないんだけど」

《僕ももうやだ~! 次も絶対何かいるよぉ~!》

「だよね。ずぇったい、もっとえげつないのがいるぞ。この世の理不尽全部詰め込みましたみたいなやばいのが。モンスターも出てこないし、ここで休憩しよ? ドゥルグたち、待と?」

《さんせーい!》


 二人がそう結論付けて休憩タイムに入ろうとすると、刹那、足元に魔法陣が浮かび上がった。二度目まして、地竜さんがこんにちはしたのである。


 二週目すてんばーい? ノー!!!


 地竜の咆哮を背中に浴びながら、ルゼはロッドを抱えて通路の中に飛び込んだ。幸いにも、飛び込んだ瞬間に入り口は土に覆われた。肩で息をしつつ、その場に脱力するルゼとロッド。


「止まらず進めってことか……くそ、性格が悪すぎるぞ!!」

《鬼ー! 悪魔ー! ひとでなし―!!》


 思いつく限りの悪態を吐き、疲れた表情で立ち上がる二人。互いに治癒の魔道具で傷を癒し、カロリーチャージのために適当な果物やら干し肉やらをかじる。


「もうそろそろ体力が限界なんだけど……そうも言ってられないか」


 深くため息を吐く。共鳴石発掘の際に体力不足を実感したルゼは、今日に至るまで体力づくりに励んだ。外に行くときはトレントに乗らず走って行ったし、空いている時間もストレッチをしたり筋トレをしたりと自分なりに努力した。半年前と比べて多少体力はついたものの、神経をごりごりと削るような連続戦闘のせいで、余力はもうあまり残っていない。


「せめて引きこもり戦法が有効な敵でありますように……」


 祈るような気持ちで呟きつつ進むと、通路の終わりが見えてきた。慎重に部屋の様子を確認する。その部屋は今まで通ってきた転移部屋と円形闘技場とは、明らかに異なる空間だった。まず狭い。今までの空間が直径一キロほどあったのに対して、こちらはせいぜい十メートルといったところ。部屋の真ん中には二メートルほどの長方形の台座がひとつ、置かれているのみ。ぱっと見、棺桶のようにも見える。


 ルゼはロッドと視線を合わせ、首をかしげながら、しかし慎重に台座に近づく。


「え……っ?」


 台座は上部を半透明の膜で覆われていたものの、中身を見るのに不自由はない。覗き込むと、人が横たわっていた。否、ただの人ではない。頭から二本の赤い角が生えている。身長百九十センチはあろうかという長身の亜人族の男が、目を閉じ、まるで死んでいるかのように眠っている。呼吸をしているようには見えないので、もしかしたら本当に死んでいるかもしれない。


 男をまじまじと見つめる。ここまで容姿の整った者を、ルゼは見たことがない。


 癖のない長い黒髪。スッと通った鼻梁に、形の良い眉。和服と漢服を合わせたような黒とえんじ色の服を着ており、前世であれば時代劇の撮影現場に紛れ込んでしまったと考えただろう。


 ふいにロッドがルゼの手をつんつんする。視線を下に向けると、台座の前にしゃがみ込んだロッドが台座を指さす。見ろということらしい。隣に同じようにしゃがみ込んで台座に目を凝らすと、少しわかりにくいが文字が刻まれていた。台座には、こう書かれていた。


『突然の招待に、さぞ驚かれたことでしょう。まずは謝罪を。無理やり招いたばかりか、一歩間違えば死んでしまうような状況にあなたを追いやってしまい、申し訳ございません。ですが、これは私にとって絶対に必要な措置だったとご理解頂きたい。重ねて失礼を承知でお願いします。あなたに、この台座で寝ている男を支えてやってほしいのです。彼の名はグレン・ヤギョウ。鬼人族です。とある事情によりここで長い眠りについています。その事情をあなたにお話しすることはできません。また彼の記憶もその事情に関係があるため、一部を封印しています。詳しい事情を話せないことお許しください。いずれ、その事情を彼もあなたも知るときがくるでしょう。ですが、まだその時ではない。能力、思想、人格、人種。私の設けた基準を突破されたあなた、どうか我らの同胞をよろしくお願い致します。※追記、この台座には収納スペースがあります。彼の詳しい取扱説明書を入れておくので、見てください。本当に、ごめんなさい。』


 台座の文字を読み終わると、ルゼは能面のような無表情で台座のでっぱり部分を引っ張った。ぱかりと開くと、なかに紙が一枚入っていた。


 無言で目を通す。要約すると、①キレたら手がつけられないから気を付けてね。②情が深く激しい男なので、懐かれすぎに気を付けて! 以上だ。


 紙をぺいっして、もう一度なかを漁る。他にはなにも、入っていない。ルゼはしゃがみ込んだ。万が一にも声を出さないために口元に手を当てて、そして、


(もっと便利なアイテムとかを寄越せーッ!!!)


 心の中で絶叫した。


 怒りマックスである。ここまで怒りを覚えたのは、記憶を取り戻した時以来だ。隣ではロッドも内容を理解して地団太を踏んでいる。


(なんだ、この地雷しかなさそうな内容! 私に何の関係があった!? え? こんなどこの誰かもわからないやつの事情のために私あんなに死にかけてたの!? なにがごめんなさいだ! ごめんなさいで済めば警察はいらないんだよ! 謝るんならせめて見返りを寄こせ! 一切応じる気はないけど、最低限話はそこからだろうが!!)


 肩で息をするルゼ。実際に声を出していないはずだが、感情が高ぶりすぎてない体力をさらに消耗したようだ。


(ロッド、帰ろう。私もう疲れたよ。ドゥルグたちには、この洞穴やばいから別の場所探そうって言お)


 視線だけでロッドと意思疎通すると、大きくため息を吐きながら立ち上がる。実は台座の文章を読み終わったタイミングで、部屋の奥のほうに魔法陣が浮かび上がったのだ。ルゼが最初に飛ばされた時に現れた魔法陣と同じ模様だ。きっとあの部屋に戻ることができるだろう。


(……隣から視線を感じる気がするが、きっと気のせい。私、こんなに疲れていたのか。早く帰って一年分は寝よう。そうしよう)


 くるっと華麗にターン。遠足は帰り道はダッシュで帰る。常識だよねと言わんばかりに走り出そうとした。


 がしっ


 尻尾を、なにかに掴まれた。


「ロッドさん、私の尻尾を掴まないで?」


 ロッドさんはルゼの左腕にへばりついている気がするが、これはロッドさんなのだ。間違いない。絶対に後ろは振り返らない! 振り返ったら死ぬぞ! の心意気で足に力を入れ、一歩一歩踏みしめながら前へ進む。


 が、すぐに引き戻された。


「うわぁっ!?」


 勢い余って台座の縁に後ろ足が当たり、ひっくり返った瞬間にすっぽりとお尻が台にはまってしまった。ちょっと間抜けな恰好だ。否応なく、自分を見下ろす紅い目と目が合った。台座の上部を覆っていた膜が消失している。そのせいでお尻がはまっちゃったのか~と内心納得するルゼ。現実逃避である。


 台座の人曰くグレン・ヤギョウという男は無表情でルゼを見下ろすと、柳眉を寄せて言った。


「誰だ」


 イケボだ。イケメンは声もイケメンか。現実逃避である!


「名乗るほどの者ではありません。ただの通りすがりです。すぐに立ち去ります」


 足を振った反動で立ち上がると、そのまま走り去ろうとした。が、グレンは未だにルゼの尻尾を掴んでいる。しかも、首の横を何かがかすめた。


 嫌な予感がしつつもちらみすると、それは刃であった。大太刀みたいな刀が首に添えられていた。どっから取り出した? と思ったが、とりあえず言いたいことはひとつだ。


(取説に”初対面の相手にいきなり刃物を向けるので気を付けてください”って書いてなかったぞ! ちゃんと書いとけ!!)


 脳内で取説を書いたであろう人物を全力で罵倒する。ついでにタコ殴りにもする。


「うっ」


 グレンがいきなりうめき声をあげ、大太刀を落とした。手で頭を押さえている。今が逃げるチャンス! と思ったものの、相変わらずもう片方の手がルゼの尻尾を掴んでいる。


「おまえ……その状態であれに勝ったのか」

「…あれ?」

「地竜とか白狼とか、あの辺りのやつだ」


 なんで男がそのことを? とかその状態ってなに? とか気になることは多々あるが、それよりもその時、男はまだ封印されていたはずである。ルゼの疑問に答えるように、グレンが口を開く。


「頭に映像が流れてきた……おまえが小人三人とそこのトレントと一緒に、この洞穴に入るところから……」

「映像……?」


 台座に文字を刻んだ者の仕業だろうことは容易に想像がつく。


(なんだってそんなことを?)


 するといつの間にか腕から離れていたロッドが、台座の反対側を指さした。まさかと思い、本当に仕方なくグレンの手を引きつつ反対側に回る。


 そこには文章が刻まれていた。


 曰くグレンが目覚めるときに、この試練を突破した者の記録を脳に送るようにしている。曰くルゼが戦ったあれらは鬼人族が訓練用に戦うモンスター。勝って一人前と認められるので、見直してある程度は話を聞くようになるだろう。


「戦闘民族か!」

「戦闘部族だ。いきなりなんだ?」


 思わず叫ぶと、グレンからどうでもいい訂正が入った。ルゼは説明するのも面倒臭いとばかりに、台座の文字を指さした。見せちゃいけないとは書いてないので見せていいだろう。ダメって書いてても見せる。グレンは相変わらずルゼの尻尾を掴んだまま、台座をぐるりと一周し、ふむと顎に手を当てた。


「なんだこれ?」

「私が知るか」


 思わず吐き捨てる。自分の種族の知識はあるらしいが、自分を封印した人物どころか人間関係自体をまったく思い出せない様子。


「私はたまたま新しい拠点の候補としてここに来ただけ。で、あんたを封印したどっかの誰かの策略で仲間と引き離されて、しかも強制的にモンスターと戦わされて、その苦労の結果が今この状況なんだけど」


 なんか言いたいことある? とジト目で睨みつける。


「そうか。その結果を受け取っていけ」

「やだ」


 ルゼは、ノーといえる元日本人。いらないものはきっぱりすっぱり拒否だ。


「そもそもなんで覚えてもいない誰かの言葉に従おうとしてるのかがわかんないんだけど」

「覚えてないが、何となく信用はできる」

「根拠は?」

「勘」

「私、帰ってい?」


 話すのが疲れてきた。もう小人の住処おうちに帰りたい。切実に。


「帰るのか」

「なんでついてこようとしてんの!? 無理! 小人の住処だから! 大人は入れないから! 入れてもくんなぁ!」


 自分の体がすでに大人なみというのは考えない。グレンのほうが三十センチ以上も背が高いのだ。端的に言って、邪魔である。とっても。必死に尻尾の拘束を解こうとあがく。びくともしない。


「そうなのか」

「そう! 子供しか無理!」

「子供になればいいのか」

「へっ?」


 想定外の言葉に一瞬もがくのをやめると、信じられない光景を見た。グレンの体が赤く光ったかと思うと、みるみるうちに小さくなり、ちょうどルゼくらいのサイズになった。光が収まると、そこにいたのはルゼと同い年くらいの美少年である。意味が分からない。


「鬼人族の固有スキル…?」

「違う」

「じゃあ、なんだ?」

「……忘れた」


 封印された記憶の部分らしい。ルゼ、ものすっごく大きなため息を吐いた。


「…本当についてくるつもりか? はっきり言うけど、封印を施したやつに洗脳されてるぞ、絶対。そうでなきゃ、今しがた初めて会ったやつについていくはずがない。現に私がここに来た映像が頭に流れてくるまでは、それで私を殺そうとしただろう」


 傍らの大太刀を指さす。洗脳系なら、浄化の魔道具でなんとかならないだろうか。浄化は体の汚れを落とす効果があるが、それ以外にも自身にかかったバフ・デバフを解除することもできる。もちろん、中には解除できないものもあるが。


「殺そうとはしてねえ。強度を確かめようとしただけだ」

「なにか違いあった?」

「…気づいてないのか?」

「なにが?」


 グレンが自分の寝ていた台座の上を指さす。台座はぴっかぴかに磨かれていて、鏡のように覗き込めば顔が映る。渋々台座を覗き込んだルゼは、そこに映る自分の目に驚愕した。瞳孔が縦に割れた竜の眼。あの屋敷からの脱出の日からずっと竜眼になっていたのだが、小人たちの住処には鏡がないのでずっとそのことに気づかなかったのだ。


「なんだ、これ……」

「竜眼だ。竜になる初期状態だ」

「竜になるのか…?」

「? おまえ、結晶竜だろう?」

「そうだけど」

「なら、竜になるだろ?」

「他の結晶竜会ったことないから知らない」

「ひとりなのか? 珍しいな。竜化が進めば結晶を纏わなくても地竜くらいの攻撃なら効かなくなる」

「ああ、だから強度の確認を……って、それ首でやる必要ある?」


 目をそらされた。


「…なら、手で試してみるか」


 グレン、徐に掴んでいるルゼの尻尾の中ほどを指弾した。バチコンッと大きな音が鳴る。


「いッッッた!!」

「少しは強度あるな」

「どこが!? めっちゃ痛かったんですけど!?」

「本来なら尻尾が吹き飛ぶ威力を出した」

「ふざけるな! 無くなるわ!!」

「無くなってねえだろ。無くなっても生やせばいい」

「生えるかッ!! トカゲの尻尾と一緒にするな!! …え、生えるの?」

「いや、生えんが」

「ふざけんなよ」


 もうやだ、離せ! と全力で振りほどこうとする。尻尾の代わりに両腕を掴まれた。ぐぎぎぎぎっと頑張っていると、魔法陣が光り、ドゥルグ、ロンプ、ペルシェが現れた。転移部屋のほうからでも来られるようになったようである。


「嬢ちゃん! 無事か!? ………って、なにやってんだ?」


 ルゼは簡単にここに至るまでの経緯をドゥルグたちに説明した。ドゥルグたちはルゼとロッドだけで多くのモンスターに襲われた話を聞いて顔を青ざめさせ、無事で本当によかったと涙ぐみながら安堵した。


「で、その坊主はどうすんだ?」


 ドゥルグが台座にちょこんと座った状態のグレンを指さして問う。状況は悪化して、今はルゼの両腕を掴んでいる状態だ。


「どうするんだ? じゃない! 置いてくんだよ、なにがなんでも!!」

「置いていけそうか?」

「頑張る!」


 ロンプの問いに力強く頷く。


 腕を竜晶化! 握力で砕かれた!!


「…置いていけそう?」

「が、がんばる…!」


 ペルシェの問いに、震えながら頷く。

 竜晶バリアを展開! 頭突きで砕かれた!? 額に傷一つない! もうやだぁ、この化け物。


「連れて帰りたくない! こんな存在自体が厄介事っぽいやつ!!」

「本人を目の前にして普通言うか?」

「わかった。向こうでこっそり話してくるから、手を放せ?」


 手は離れない。ほんと、やだぁ。


「どんだけ強力にかかってるんだ、洗脳。頑固にもほどがある」

「本人に自覚があるのか?」

「あるぞ」

「「「「あるの!?」」」」


 ルゼぷらす小人族三人が叫んだ。


「洗脳というよりも意識の誘導だな。おまえたち…というか、おまえを友好的に感じるように誘導されてる感覚がある」

「誘導されてるってわかってるのになんで…?」

「おまえに興味があるから」

「ぅへえ」

「強くなりそうだな」

「よかった、戦闘部族の考えだ。そうじゃなかったらロリコンと全力で罵って何が何でも逃げてた」


 ほっと胸を撫でおろし、両腕と両足の竜晶を解除する。無数に出現させた杭さんたちにもお帰り願った。心なしか、先端がいつもより鋭利だった気がするが、きっと気のせいではない。


「感覚があるなら解除できないのか?」

「意識誘導は認識できれば問題ねえ。が、記憶の封印は強固だな。今の状態だと解除できねえな」


 ルゼはその言葉に疑問を覚えた。グレンを封印した者はなにをしたかったのか。記憶に強固な封印をかけられる者が、意識誘導でそれができないとは思えない。台座の文面や取説からはグレンへの悪感情は見受けられない。話せないという事情の中に、この疑問の答えが全部詰まっているのだろう。


 なにはともあれ、だ。


「面倒。関わりたくない」


 その言葉に尽きる。誰かの願いなど知ったこっちゃない。ルゼ達にはまったく関係のない話だ。


 ふむ、と右手で顎をさするグレン。ようやく手が離れた! と、もう腕を掴まれないように、右腕を背中に隠すルゼ。グレンは気にせず、自身の懐をごそごそと漁ると、黄金色に輝く双角錐の結晶を取り出した。なかには複雑な魔法陣のようなものが刻まれている。


「転移水晶。これがあれば、どこにいても一瞬で洞穴の最初の部屋か、闘技場の手前の部屋に転移できる」

「え……」


 破格すぎるアイテムである。


「この部屋までこれた奴に渡すような誘導がかかっていた」


 台座の人的に、やはり強敵撃破のご褒美はグレンではなくその水晶のほうなのだろう。だが、ひとつだけ声を大にして言いたい。


「なんでこいつに持たせた!?」


 引き出しに入っていれば、そのまま持って逃げたものをと地団太を踏むルゼ。台座の人もそんなことをすれば持ち逃げされると思っていただろうから、引き出しにいれることはないだろうが、悪態を吐かずにはいられない。いらないの? とばかりに水晶を振るグレン。ルゼはすんとした顔で言った。


「……私たち、別の拠点候補を探すからいらな」

「いる!」

「それをくれ!」

「欲しいわ!」

「くそっ! 職人特攻か!」


 転移水晶。職人の魂を揺さぶる品だったようだ。職人たちがきらっきらの目で手を差し出し、グレンの足元でぴょんぴょん飛び跳ねている。


「一方通行の転移じゃ意味がないでしょうが!」

「双方向可能だ」

「余分なことをいうんじゃない!!」


 結局、技術に憑りつかれた職人たちの熱い希望により、転移水晶とともにグレンも持って帰ることになってしまった。ルゼの顔は終始死んでいたが、転移結晶を貰った小人たちの顔は輝いていた。


 ルゼはこの封印の部屋に入る前に、予想した。なかに入れば、この世の理不尽を詰め込んだみたいなやばい存在がいると。少々方向性は異なるものの、やばい存在であることは違いなかった。


 …それから十日後、ルゼ達は住処に戻ってきた。


 連絡を受けていた住処メンバーが、出迎えに顔を見せる。事前にグレンの存在を知らせていたため、彼らが驚くことはない。しかし彼らはグレンが掴んでいるものを見て、目を丸くさせた。ルゼの尻尾だ。飛んで逃げないようにするために、住処の場所をきちんと把握するまではとずっと掴んでいるのだ。


 マイヤたちは、無言で宝物庫からお酒を取り出した。食材なら歓迎。お酒はお祝いである。何のお祝いかは、ちょっとわくわくした表情のマイヤたちの表情から推して知るべし。


 ルゼの顔が死んだ。


「私、男を連れて帰ってくるように思われてるってこと? …傷つきました。立ち直れません。ロッドと家出します」

「ダメよ、ルゼちゃん」

「俺たちに押し付けて逃げようとしてないか?」

「嬢ちゃん、あきらめろ。家出先にもついてくるぞ」


 ルゼはロッドを抱きしめて涙を流した。ロッドが慰めるようにルゼの頭を枝と蔦で撫でまくる。「よーしよーし、泣かないで~」と犬でも慰めるかのような仕草だが、ルゼは気にしない。グレンが不思議そうに首をかしげているのが腹立たしい。


「私への篤い風評被害をどこに訴えたらいい……?」


 ルゼの切実な問いに答えをくれる者は、誰もいなかった。

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