{転移トラップ~池竜戦}
二日、三日と経ち、四日目にしてチェントロ山とデクシア山の境目に到着した。
チェントロ山とデクシア山の間は、シェルンフト大峡谷と呼ばれる深い谷になっている。谷の深さは約二キロ。広さは一キロから五キロといったところか。大昔には川が流れていたそうだが、今はその名残もなく岩肌から植物が生えていたり木が生えていたりと森に浸食されていた。
デクシア山側の谷底で、一行はのんきにレジャーシートを敷き、昼休憩をしていた。この谷底は見通しもよく、モンスターが襲ってきても即座に対処できるので、こんなにも堂々と休憩をとっているのである。一同が今、食べているのは具沢山のビーフシチューもどきである。傍らにはよく冷やされた水がコップに入って置かれている。
「飯のたんびに思うな。宝物庫作ってよかったってよ」
ビーフシチューをすすりながら、ドゥルグがほっと息をつきつつ呟く。
「外出先で暖かい料理など食べたこともなかったな。それどころか、常に食料と水の心配をしていたぞ」
「ほんと便利になったわ」
ロンプがペルシェにおかわりの水を注いでもらいながら言う。ペルシェもにこにこと満足げな表情だ。
「途中で気づいて、本当によかったよな」
食べ終わった皿を宝物庫に戻しながら、ルゼは出発一日前のことを思い出しつついった。
当初は宝物庫に火を通す必要のない食料などを中心に入れていたのだが、果物を入れたときに思ったのだ。そういえばいつ取り出しても鮮度が変わらないなと。検証のために焼いた肉を宝物庫に入れ、数時間後に取り出して温度を確認してみると、入れたときと変わらず熱々のままだった。
宝物庫に入れた物は、入れたときと鮮度に違いがない。そのことに気づいた一同はすぐにマイヤのもとに走り、四人が遠征に行った後も変わらず食事を準備し、宝物庫に入れてくれるよう頼んだのだった。
夜は山肌に穴をあけ、寝床を準備する必要があるもののほぼ快適と言って差し支えのない遠征だ。ルゼもペルシェに水を入れてもらっていると、散歩に出ていたロッドが枝をわさわささせながら戻ってきた。態度に焦りや緊張感が見受けられないので、単純になにか見つけたのだろう。
「どうした?」
尋ねると、ロッドは枝で半円を描いた。その仕草は、洞窟の入り口を見つけたらするようにと決めていた合図だ。ルゼ達は顔を見合わせた。
「休憩が終わったら行ってみるか」
「今度こそまともな洞窟だといいな」
休憩を終えると、ロッドの案内に従って発見したという洞窟に向かう。
ロッドが見つけた洞窟は、デクシア山側の岩肌に木や大きな岩に隠れるようにして存在していた。穴の広さは縦十メートル、横五メートル。それなりに広い穴だというのに、近づくまでまったくその存在に気づくことができなかった。
「入り口は結構いいな」
「ちと広すぎると思ったが、木や岩が遮蔽物になってあまり存在を感じねえ」
ロッドがふら~っしゅで洞窟内を照らす。まっすぐ伸びた長い通路が見えるが、それ以上は実際に進んでみなければわからない。四人(ぷらす一体)は顔を見合わせると、宝物庫から”リリーフ”を取り出し乗車する。
穴の広さから見て問題なく”リリーフ”が走行できる広さがある。暗闇でも”ヘッドライト”で照らせるうえ、いざという時は結界も展開できるので、襲撃にも対応できる。ある程度の広さがないと使えないが、乗れるのであれば乗っていたほうが安全だ。
ルゼもボードを取り出した。だが、”リリーフ”のようにライト機能はないので、収納箱から角に装着するタイプのライトを取り出して着ける。
”リリーフ”を先頭に慎重に穴の中を進んでいく。なかは一本道になっていたが、念のため一定間隔ごとに壁に光玉石を取り付けていく。これはドゥルグたちが住処でも使っているオレンジ色の光を発する鉱石だ。岩にくっつく性質があるため、いわゆる常夜灯として便利な鉱石なのである。
十分ほどで大きな空間に出た。ヘッドライトだけでは奥行きがまったく把握できないほどの広さ。ロッドレーダーに何の反応もないため、空間を壁沿いに光玉石を取付ながらぐるりと一周。二十分もしないうちに最初に入ってきた穴の前まで戻ってきた。高さはわからないが、おおよそ一キロはあるだろう空間だ。
「こりゃ、洞窟っていうより洞穴って言ったほうがいいかもな」
「ほかに道もなさそうだ」
ルゼが飛べるだけの高さはあったので、壁を照らしながら一周してみたが、次の空間に続く道などはなかった。
「ここ、とてもシンプルでいいんじゃないかしら?」
「見る限り綺麗だし、変なモンスターが住み着いてたりもしないし、高低差もほとんどない。ここから改造していくのなら、やりやすいんじゃないか?」
「谷底ってのが人間の往来って点で少し気になるが、入り口も見つかりにくい場所にある。認識疎外の魔道具をおけば見つかることもねえだろう。よし、おめえら新しい拠点はここで問題ねえな?」
ドゥルグの言葉に三人は首肯を返した。
「決まりだな。じゃあ、さっそくーーー」
刹那、ルゼの足元に魔法陣が浮かび上がった。
「嬢ちゃん!」
咄嗟にバックステップをして魔法陣の範囲から離脱する。だが、着地地点にも同じ魔法陣が浮かび上がると、足がついた瞬間に光が迸り、空間を白く染める。
光が止んむとそこにはーーーールゼの姿がなくなっていた。
「る、ルゼちゃん……!?」
「今のはなんだ!?」
ペルシェとロンプが慌てた様子でルゼが最後に立っていた場所の地面を叩く。だが、魔法陣が浮かび上がることはない。
「ドゥルグ! 今のは……ッ」
「落ち着け! おそらく、転移の魔法陣だ……嬢ちゃんは、どこか別の場所に飛ばされたんだろう」
「別の場所って、どこに……」
「わからん。とにかく、このままここにいていいかわからん。ワシらも一旦避難するぞ! 嬢ちゃんが無事なら、宝物庫にメッセージを送ってくるはずだ!」
それは事前に決めていた取り決めである。万が一はぐれてしまった際は、宝物庫を使って連絡を取り合う。ロンプもペルシェも悔しそうな表情を浮かべながらも、ドゥルグの言葉に従い”リリーフ”に乗り込んだ。
「ペルシェ、宝物庫を見ててくれ」
「わかったわ」
「ロッド! 周囲の警戒を……って、お?」
「ロッドがいないぞ」
すぐそばにいたはずのロッドまでもがいなくなっていた。
「まさか、ロッドちゃんもルゼちゃんと一緒にどこかへ……?」
「ここにいないんだ。おそらく、咄嗟にルゼの嬢ちゃんに飛びついたんだろう」
「嬢ちゃんにロッドがついてるなら……まあ、まだ心配だが、精神的には少し楽になるだろう。ワシらは外に出るぞ!」
ドゥルグは”リリーフ”の風量をマックスまであげ、最大速度で洞穴の外を目指して走り出した。
***
一方、転移によりどこかへ飛ばされてしまったルゼとロッドは、先ほどまでいた空間と似たような場所にいた。
「ここは……洞穴の中、か」
あたりをきょろきょろと見回す。ロッドが地面をぺしぺし叩いているのが目に入ったルゼは、驚愕の表情を浮かべた。
「ロッド、おまえも飛ばされたのか」
ロッドは枝で×をつくると、地面に円を描き、そこに飛び込むような動作をした。
「ああ、魔法陣に飛び込んだのか……危ない真似をするなよ。さっきのが飛ばされるだけだったからよかったけど、あれが攻撃だったら間違いなく死んでたからな」
ロッド、チッチッチッと枝を振り、自分の胸(?)を叩く。「大丈夫だ」と言いたいのだろう。ルゼはあきれながらも、少し感謝していた。知らないところに一人で飛ばされるというのは、精神的にクるものがある。だが、解せない。
「なんで私だけに魔法陣が…?」
魔法陣はルゼの足元にのみ浮かび上がった。もしやこの洞穴は人間が仕掛けた罠なのだろうかと考えるが、それにしてもおかしい。本当に人間が仕掛けた罠なら、ルゼを拘束しようとする動きがないのは変だ。それにルゼ達は新しい拠点を探すためにここに来た。人間たちはそのことを知るはずもないだろうし、この洞穴に入ったのも偶然だ。わからないことが多すぎる。ルゼはため息をついた。
「ドゥルグたちは、あの空間に残されたのかな……あ、宝物庫でやり取りするんだった」
冷静さを欠いていたことを苦笑しつつ、手早くメモに今置かれている状況と周囲の様子、ロッドも一緒にいることなどを書き、宝物庫に入れた。程なくして、ドゥルグたちからの返信が宝物庫に入れられていた。
「あっちは大丈夫そうだな。問題はこっちか……」
視線をロッドに向け、どうしようかと逡巡する。実はこの空間、ひとつ道があるのだが、あからさまに怪しいので今まで無視をしていた。ドゥルグたちが無事で、ひとまず外に避難したのなら、ルゼ達も行動を起こすべきか。一応、宝物庫にはアクセスできるし、簡単な傷くらいなら治せる治癒の魔道具もある。
「……ダメそうなら引き返して、ここでドゥルグたちが救助に来てくれるのを待つか」
宝物庫のおかげで遭難者の最大不安事項、餓死の心配はない。ルゼは安易に進むことを選択してしまった。遭難した時は、危険がない限りはその場を動かないという常識を知らなかったというのもある。あからさまな罠にはめられて仲間から引き離されてしまったことで、冷静さを欠いていたというのももちろんある。だがそれ以上に、ルゼは慢心していた。竜晶と息吹があるがゆえに、最悪死ぬことはないだろうと。ルゼはロッドを伴い、ひとつしかない通路を進んでいってーーーー
進んだことを後悔した。
通路の先は、円形の空間だった。広さは今までの空間と同程度。高さも五百メートルはあるだろう。ルゼのいる場所は、おおよそ真ん中あたりの二百メートル付近の位置。ここから上に向かって階段状に地面が整備され、観客席のようになっていた。律儀に下に落ちないように手すりまでついている。ルゼは手すりにもたれかかって下を覗き込んで――――すぐに顔をひっこめた。
(な……なにあれ……ッ!?)
絶対に声を出さないよう手で押さえながら、もう一度そろりと慎重に下を覗き込む。モンスターだ。だが今まで見てきたモンスターとは明らかに一線を画している。それは地竜と呼ばれるもの。体全体を鋼のような筋肉で覆われた、膂力に特化した竜だ。飛べない代わりに、爪を突き刺してどんな急斜面だろうと移動することができる。端的に言うと、今までルゼが相手にしてきたのがそこらへんの道端で遭遇するモンスターとするならば、地竜はダンジョンの最奥で待ち構えている系モンスターだ。
ルゼはなぜか同じように口(?)付近を押さえるロッドと視線(?)を交わし、頷きあった。さっきの部屋に戻ろう。言葉は不要。あれ、まじやばい。音を出さないよう、そろりそろりと後退し…どんっと背中を壁にぶつけた。ばっと振り返ると、道がなくなっていた。
「は………っ?」
ありえない事態に思わず漏れた呟き。すぐに口を閉じ、確認のためもう一度手摺から下を覗き込むと―――地竜さんが、こちらを見ていた。
「グルアァァアアアアアアアアアアアア!!」
空気を震わす地竜の咆哮が轟いた。生物に根源的な恐怖を与える竜の咆哮をあげると、地竜は爪を地面に食い込ませてものすごい速度で壁を上り始めた。すべては標的と定めたルゼを殺すため。ルゼは顔色を青くしながらも、意を決して翼を広げた。逃げ道はない。やらなければ殺される!
地竜の爪が迫る瞬間、大きく羽ばたいて空中に退避する。振り返ると、首だけこちらに向けた地竜がかぱりとアギトを開き、岩の弾丸と呼ぶべきものを放った。ルゼは正面に竜晶バリアーを展開して防御の姿勢をとった。一発一発がバリアに当たるたびにガァンッと鋭い音をあげる。
バリアにどんどん亀裂が入っていくが、すぐに魔力を流して修復し、逆にお返しとばかりにいつもより大きめに作った無数の杭を地竜目がけて放った。もちろん、放つときに思い切り回転を加えるのを忘れない。
地竜は杭と接触する直前、壁から爪を引き抜き、落下することでルゼの杭を回避した。だがルゼの本命はそれではない。今この時、地竜の攻撃が止んでいる。ルゼは両手を真下の、地竜の着地地点に向けた。
(出し惜しみしない! 全力で撃つ!!)
両手に凄まじい密度の魔力が集中する。一拍置き、緑黒色の極光が放たれた。今までの威力を制御していた息吹とは格が違う。空間をも焦がさんばかりの破壊力を持った息吹が、着地直後の地竜を襲う。
地竜の体が極光に飲み込まれ、余波が地面までも緑黒色に染める。極光は周囲の地面、壁すらも破壊して大きく砂煙が舞う。ルゼ渾身の全力の息吹だ。これで生きてたらお手上げというしかない。半ば祈るように「倒れててくれ」と願いつつ、砂煙が巻き上がって視界が悪くなった地面を見つめる。刹那、砂煙の一部が動いたように感じた。悪寒がした。本能に従って急激に高度を下げると、その上を岩の弾丸が通り過ぎていった。
(嘘だろ……ッ!?)
砂煙が止む。地竜は依然として形を残したままそこにいた。無論、無傷ということはなく、ところどころ竜鱗は砕け肉が露出し、骨まで見えている部分もある。だが、その戦意はいささかも衰えず、むしろ自身に絶大なダメージを与えた獲物に激しい憎悪を宿しているように見える。
「ガアァアアアアアア!」
咆哮とともに、岩の弾丸が飛んでくる。が、数が今までの比ではない。ほぼ空間を埋め尽くさんばかりの弾丸が、一斉にルゼに襲い掛かる。弾幕と呼ぶにふさわしい攻撃。逃げ場はない。ルゼは竜晶バリアを展開すると、自身も負けじと杭を射出する。
杭と弾丸がぶつかり合う音がそこかしこで響き渡る。弾丸はルゼの防御を抜けないが、杭は地竜にあたるとわずかながらもダメージを与えている。持久戦になれば勝てる。ルゼがそう確信したその時、ふと奇妙なことに気づいた。
地竜の尾がない。正確には、地面に突き刺さっている。背筋を氷塊が滑り落ちる感覚に、無意識に竜晶バリアを背中側にも展開した。直後、壁の中から現れた地竜の尾がルゼのバリアを強かに打ち付けた。咄嗟に展開したバリアゆえに強度が足りず、バリィンと音を立てて砕け散る。ダメージを免れないと無意識に悟ったルゼは、わずかながらも地竜の尾が振り抜かれる方向に飛んだ。
「ぁぐっ!」
それが功を奏したのか、吹き飛ばされ、運よく壁の窪み付近に落下する。バリアが衝撃の大半を持って行ってくれたおかげで、致命的な傷は回避することができた。だが叩きつけられた衝撃で体を強かに打ち付けており、すぐに立ち上がることができない。肘を支えに立ち上がろうとすると……ふいに頭上に影が差した。
頭をあげて、目に入ったのは大きく開いた口だ。回避も防御も間に合わない。死ぬ。眼前に地竜の口が迫る。ルゼが半ば死を覚悟したその時、地竜の動きが止まった。
「えっ」
よく見ると、地竜の体は地面から生えた無数の樹木に絡みつかれていた。こんなことができそうなのは一人(一体)しか思いつかない。ロッドだ。
ロッドはルゼから少し離れた場所で、黄緑色の魔力を噴き上がらせていた。ロッドの今しがた手に入れたスキル”樹木操作”である。本来自分の体しか操れないトレントだが、スキルに目覚めたことによって離れた場所にある樹木を操ることができる能力である。
しかし魔力量も多くはなく、スキルに目覚めたばかりのロッドでは地竜を長く留めることは困難。現にぶちぶちと自身に絡みつく枝を力技で引きちぎっている。もう数秒も持たない。
だが、数秒持てば十分だった。
「ありがとう、ロッド」
ルゼは両手を掲げた。狙いは大きく開いた口。硬質の竜鱗や皮膚に守られている地竜でも、口の中はそうはいかない。ルゼの緑黒色の魔力が噴き上がる。両手に集まる魔力が刻一刻とその威容を増していく。さきほど撃った一撃が、児戯であるかのような迫力を醸し出す。
ルゼの竜眼が、仄かに輝いた。一瞬の停滞もなく、緑黒色の息吹が放たれた。息吹は地竜の口内を蹂躙し、後頭部から突き抜けて後方の壁を破壊する。頭部のほとんどを消失した地竜は、そのまま後方にぐらりと傾くとルゼの視界から消えた。次いで、ドオオオォンと重たい音が響き渡った。
ロッドが駆け足でルゼの隣にやってきた。二人そろって、手摺から下を覗き込む。地竜は少しの間痙攣していたが、やがて端からさらさらと塵になって消えていった。後に残ったのは、破壊され大きくえぐれた地面のみ。ルゼはロッドと視線を合わせた。どちらともなく抱き着く。
「やったあああ! ロッド、ナイスアシスト! えらい! すごい!!」
ぶんぶんぶんぶんぶんっ
ルゼ、テンション高くロッドを掲げると、その場をくるくる回りだす。ロッドも興奮を抑えきれないらしく、せわしなく枝を激しく振り回している。
「あんなスキル使えたんだな! え、今使えるようになった? さらにすごい! あれがなかったら、私死んでた!」
あの瞬間、ルゼは回避も防御も間に合わなかった。ロッドがスキルに目覚めてなければ、確実に今、この世にはいなかっただろう。テンションあげあげでロッドを胴上げするルゼ。ロッドは楽し気に胴上げされていたが、突然くたっと脱力し、動かなくなった。
「ロッド!?」
胴上げをやめて地面に下すと、ロッドはわずかに痙攣していた。どことなく体もかさかさしているように感じる。魔力が枯渇しかかっているのだろう。
「と、とりあえず魔力と、あと栄養も摂れ! 水もな!」
ロッドに魔力を補充するように促しつつ、宝物庫から肉や果物を取り出して周囲に置いていく。ロッドは腕輪から魔力を供給すると、すごい勢いで周囲の食料を吸収し始めた。ルゼは追加で食料を置きつつ、”小波”を取り出して水をかけてやる。
ロッド、完全復活。それを横目で見つつ、ルゼも治癒の魔道具で傷を治していく。幸いにも擦り傷切り傷打ち身に打撲等々あるものの、骨にひびが入っている様子もない。地竜の尻尾に吹っ飛ばされ、壁に激突したというのにタフな体である。それとも地竜が頑丈なように、結晶竜の体も頑丈にできているのだろうか。他の結晶竜に会ったことのないルゼは、その判断がつかなかった。
「もう余分なことはしないぞ! ここでドゥルグたちの救助を待つ!」
ロッドが同意するように枝を振り上げた、その時――――下の方から赤い光が走った。たらり、とルゼとなぜかロッドの顔に冷や汗が流れる。
ぐぎぎと壊れたブリキのおもちゃのような緩慢さで、恐る恐る手摺から下を覗き込むと――――でっかい狼さんがこんにちはしていた。全身真っ白な体毛に覆われ、所々に水色の文様のようなものが走っている狼。気のせいか、冷気を纏っているように見える。気のせいであれ。ルゼはにっこり笑顔でロッドのほうを向くと、無言で下の狼を指さした。ロッドは首を振った。
下に何かいる気がするんだけど、見える?
なにもいないよ?
だよね~
現実逃避である。
ルゼは嫌なことに気が付いた。この空間の形状、上部に作られた観客席にしか見えない床、そして対戦相手を用意するかのごとく現れるモンスター。
そう、ここは――――――闘技場だ。
挑戦者たるルゼに、戦いを拒否する権限など、ありはしない。




