ぼっちは辛いです。
皆々様方、わたくし狩矢京は見事! 死地より生還いたしました!
「あ、これ死んだわ」と思ったことが何度あったことか!
女の子たちの情熱は、電車の通勤&帰宅ラッシュに勝るとも劣らないということを身をもって知りました。
今度からは真っ先に逃げることにいたします。
敵前逃亡は恥? 何とでも言うがいい。命あっての物種だ。
さて、昨日保留にしておいた対策のことだが…実はすでに考えてある。
昨日、死にかけだった私は家に帰ってすぐベッドにダイブしたんだ。そのまま11時までずっと寝ていた。
余談だが、夕食に呼びに来た円が、ピクリとも動かない私を見て死んでいると思ったそうだ。
揺さぶっても殴っても起きないから、脈をはかることで安否を確認したと言う。本当に疲れていたからな、不思議はない。
その話を聞いたとき、とりあえず私は円への感謝の念を込めて、鳩尾に正拳突きをおみまいした。通りでやけに後頭部が痛かったわけだ。
その後、簡単に食事を済ませた私は暇になった。寝すぎたせいで眠気がやってこなかったのだ。
無下に時間を潰すというのもあれなので、その間に対策を考えておいたというわけだ。
さっそく本題へ…といきたいところだが、その前に昨日私は月翔九十九が隣の席になったことを嘆きに嘆きまくったが、逆にこれは好機なのではと考えた。
最初はなるべくヒーローズには近寄らず、目立たず且つバレないようにルートの誘導を行ったほうがいいと思っていた。いや、他のヒーローズはそのほうがいいかもしれないと思っている。
しかし、月翔九十九は公式で唯一ヤンデレ認定されているキャラなのだ。
そしてそれに違わず、彼はヒーローズの中で最も多くの、そして凄惨なルートの持ち主だ。
彼のルートはどれもすごい。私の記憶から抜け落ちているルートもあるかもしれないが、完全なハッピーエンドと呼べるのはひとつだけだ。
他のルートはたいてい誰かが死に、よくてもヒロインちゃんがヤンデレ化して月翔九十九の愛に応えるくらいだ。ただし、包丁付きで。
そう、彼はヒーローズ一番の危険人物と言っても過言ではない。
なにせこの世界で私が大団円を迎えたいなら、彼のハッピーエンドを狙うか、他のヒーローズのハッピーエンドを狙わなくてはならない。
月翔九十九のハッピーエンドを狙うのは、あまりに危険な賭けだ。
どれだけ危険かと言うと「虎穴に入らずんば虎児を得ず」ということわざがあるだろう?
ことわざの意味は置いておいて、その状況を想像してほしい。
虎児を得るために虎穴に入る。なかには親虎がいて食い殺されるかもしれないが、運が良ければ遭遇せずに虎児をゲットできる。
まだ希望も見いだせるだろう。
だが私の場合は、両親健在下手したら親戚様ご一行も一緒という最悪な状況下での虎児ゲットを狙うようなものなのだ。
希望もなにもありはしない。一縷の望みにかけるほど、私はギャンブラーではないのだ。
なら他のヒーローズのハッピーエンドを狙えばいいと思うだろう?
だが、現状ではそれも賭けなのだ。
私が思い出したのは月翔九十九のことだけだ。
他のヒーローズも接触しなければ、おそらく思い出すことはできないだろう、と昨日言ったと思う。
しかし接触しようにも顔を思い出せない。
中学は窮聖館へ通うことになっているので、そこで接触できるかもしれないが、如何せん月翔九十九の例がある。
なぜ彼がこの学校に来たのかわからないが、他のヒーローズもまだ窮聖館に通っていない可能性が出てきた。
接触がいつになるかわからない以上、私は今できる最善の行動をしなくてはならない。
前置きが長くなったけど、私が思いついた対策…その名も「レッツフレンドリー大作戦(通称、LFD作戦)」だ!
ん? 頭の悪そうな名前?
だから、ネーミングセンスには目をつぶってくださいってば。
ではなくて、そもそもヤンデレってある人物に対して、病的に執着した人のことをいうのだと思う。厳密には違うかもしれないが、私はこう解釈した。
どんな人物にもそこまでの執着を他人に見せるからには、なにかしらの原因があると思うのだ。
ならその原因自体を取っ払えば、その人がヤンデレ化する確率はぐんと下げられるのではないだろうか?
これらは私の自論のもとに確立した考えだから、確証はない。だが、やってみる価値はある。
月翔九十九は、昔からたいていのことは何でもできてしまう、いわゆる万能型の人間だ。
それゆえに彼は何をしてもすぐ飽きてしまい、何にも執着できなかった。
彼が唯一執着できたのがヒロインちゃんというわけだ。
そんな何にも執着できなかった月翔九十九だから、加減がわからず病的にヒロインちゃんを愛しちゃったと思うわけさ。
なら、彼が執着できるものを他にも見つけてやればいい。
おそらく(いや、確実に)至難の業だろうが、彼と執着されない程度に仲良くなって、友人という立場から周りの人や物事に興味を持たせる。
それが私が考えた「LFD作戦」のすべてだ。
…うん、正直無謀なような気がしないでもない。けど、今やれるのはこれだけだ。
私の命のためにも、いっちょ頑張ります!
「あ、京くん、おはよう!」
「はよー、狩矢」
「おはよう」
教室に入ってすぐ、挨拶をしてきた友達に笑って挨拶を返す。
席に着いてちらっと隣を見るけど、まだ月翔九十九の姿はない。
おそらく昨日の女の子たちの怒涛の攻撃が効いたのだろう。
もしかしたら登校時間ギリギリにならないと来ないかもしれない。
せっかく計画を実行に移そうと思ったのに、肩透かしを食ってしまった。
「京くん、月翔くんまだ来てないね」
「ね~、あたし今日こそは話しかけようと思ってたのに!」
楽しそうに話ていた女の子二人が、私が入ってきたのを見て話しかけてきた。
上から相原さん・吉田さんだ。昨日、月翔九十九が私の隣の席になったのを、羨ましそうに見ていた女の子たちだった。
「そうみたいだね。ところで、吉田さんは昨日どうして彼に話しかけに行かなかったの?」
意外だ。
正直、真っ先に話しかけに行くと思っていた。
「行ったんだけど…ほら、あたしの席って端にあるでしょ? 授業終わってから話しかけに行こうと思っても、その頃にはみんな集まってるから近づけなかったの」
私の席は廊下側の一番後ろの左端にあり、月翔九十九はその隣の右端の席だ。
対して彼女の席は窓側の一番後ろの左端にある。
それほど遠くはないが、彼女たちの情熱は若干のタイムラグさえ見逃さないからな。納得だ。
「でも私は話しかけたけど、なにも答えてくれなかったなー……」
相原さんの席は、真ん中の列の左端。間に合いはしたが撃沈したと、そういうわけだ。
二人して物憂げにため息を吐く。うん、可愛い。
「元気出して。二人とも、今日また頑張ればいいと思うよ。それい月翔くんも来たばかりで、緊張してたんじゃないかな?」
確実にそんなことはないと思うが、そういって二人を励ます。
私の言葉で元気になってくれたが、決して二人が単純なわけではない。
彼女たちは素直で純粋なだけなんだよ。そうなんだよ!
それから彼女たちとしばらく談笑していたが、月翔九十九が来たのは彼女たちが席に戻った後だった。
いつも先生が教室に入ってくる一分前の時間帯。絶対、狙ってやってる。
とはいえ、さっそく計画実行だ!
「おはよう、月翔くん」
「………………」
はい、無視。これ二度目!
だが今回はあ諦めない!
今日の私は昨日とは一味違うのだ!
「今日は」
「おはようございます。ほら、みんな席に着いてくださーい」
続けて話しかけようとした私の声を遮り、狙ったとしか思えないタイミングで先生が教室に入ってきた。
先生は生徒へ注意を促すと、そのまま朝の諸連絡を始めた。
結局、できたのは挨拶だけだ。しかも一方的。
いや、挨拶は大事だよ。うん。なんてったって一日の始まりだからね!
うん、次だ! 次があるぞ私!
連絡事項を聞きながら、私は胸中で再び気合を入れた。
――しかし、月翔九十九という人物は、私の想像以上の曲者だった。
まず一時間目は国語。昨日のように教科書を見せようと思ったら、すでに持っていた。
それほど私に見せてもらうのが嫌だったのか、はたまた面倒だったのか…両方っぽいな。
とにかく交流できないまま終了。
二時間目の図工は、学校周辺にあるものを自由にスケッチすることになった。
一緒にスケッチをしようと誘うチャンスだと思い振り返ると、いない。
すでに彼は去った後だった。
そのあと、彼は三時間目の授業になるまで帰ってこなかった。
またしても失敗。
三時間目は体育。だが、今日に限って男女別々でやることになった。
サッカーやってる月翔九十九を、他の女の子たちと見てることしかできなかったよ。
三度目の正直はなく失敗。
四時間目の社会では、一時間目と同様に教科書を持参していた。
いっそワザと消しゴムでも落として、無理やり交流しようかとも考えた。が、そもそも拾ってくれなさそうなのでやめておいた。
神様イジワル! と思いながら失敗。
そして給食の時間、月翔九十九は消えた。
この学校は珍しく給食がお弁当なので、それを持って逃走したものと考えられる。
だが給食がお弁当でも、どこでも好きな場所で食べていいというわけではない。
教室でみんな一緒に食べなくてはいけないのに、奴は消えた。
先生もみんなも、困惑した顔で月翔九十九の席を見つめている。
転校二日目でこれだからな…先生もさぞかし頭が痛いことだろう。
ああ、ちなみに先生が月翔九十九を連れ戻しに行かないのは、奴の親が権力者だからだろう。
三次元でドラマや漫画のようにふるまっても、首になる可能性のほうが高いからな。
「はあ……狩矢」
「はい? なんですか?」
「悪いが、月翔を探してきてくれ。時間がかかると思うなら、弁当も持って行っていいから」
「…わかりました。行ってきます」
私はお弁当を持ち、先生やクラスメイトたちに見守られながら教室を出た。
先生が吉田さんや相原さん、川崎さんではなく、私の隣に月翔九十九を宛がった理由がわかった気がする。
忘れがちだが、私も一応権力者の両親を持つ。
権力者同士ぶつけるほうが、一番被害が少ないと踏んだわけか。
先生もなかなかに打算的だ。いや、もしかしたら校長とかが考えたのかも。となると、月翔九十九が私と同じクラスになったのは必然か?
思考を巡らせつつ、月翔九十九を探す。
今は給食の時間なので、廊下に人影は見当たらない。
おそらく、もっと人気のない場所だろう。
中庭の大きな木の陰とか、体育館裏のベンチとか、立ち入り禁止の屋上とか。とりあえず、思いついた場所から回ってみることにした。
――…その結果、立ち入り禁止の屋上で月翔九十九の姿を見つけた。
何にも興味がないような顔で、ぼーっと空を眺めている。
時々、風にさらわれる青色の髪を鬱陶しげにかきあげる。
ゲームで見た彼の髪よりも、少し短いように思う。
違うところがあるもの当然か。まだ小学生だ。
背は私と同じくらいだし、肩幅も狭い。
恐ろしく整った顔立ちをしているが、まだ幼いせいか中性的な印象を受ける。
これから成長して、ゲームで見た”月翔九十九”の容姿になるのだろう。
彼ばかりに目を向けていたせいで気づくのが遅れたが、傍らに彼の物と思しきお弁当が転がっている。
開けた形跡はない。
食に対する関心も、かなり低いようだ。
ふと、視線を感じて顔をあげる。
いつ気づいたのか、月翔九十九が私をじっと見ていた。
彼の薄氷色の瞳を「氷のようだ」とゲームの中で表現している描写があった。
確かにと思う反面、無機質で透明なガラスのようだとも感じた。
今はどちらかというと後者の印象が強い。
ガラスだ。色のついたガラス。
彼の瞳を見ていると私を本当に認識しているのか、訝しく思う。
精巧に作られた人形がこちらを見ている。そういうふうに感じてしまう。
本当に、なににも興味がないんだ――…。
画面越しではなく、自分の目で見て、改めてそう確信した。
「月翔くん、みんなと一緒にお弁当食べない?」
「………………」
三度目の無視。今回は三度目の正直はあてにならないらしい。
私は苦笑して扉を閉め、彼から近くも遠くもない場所に膝をついて座った。
立ち入り禁止の屋上は、あまり掃除が行き届いていないらしく、ちょっと汚かったけど気にしない。
私がお弁当を広げ始めたのを見て、彼はすごく嫌そうに眉根を寄せた。
「…………おい」
そのとき、初めて月翔九十九のほうから話しかけてきた。
顔も声色も不機嫌丸出しという感じだったが、初めてのことだったのでちょっぴり感動だ。
「なに?」
「教室戻れよ」
「その時は君も一緒だよ」
「ひとりで帰れ」
「無理だよ」
なおも食い下がる私に、月翔九十九の眉間に深い皺が刻まれていく。
「…担任には見つからなかったって言えばいいだろ。帰れ」
どうやら私が帰らないのは、先生の言いつけが原因だと思っているようだ。
「先生は関係ないよ。僕個人の事情というか…うん、単刀直入に言うよ。月翔くん、僕と友達になろう」
「は?」
月翔九十九は「何言ってんだこいつ頭大丈夫か」とでもいうような視線を私に向けてくる。次いで、徐々にその視線は何か企んでるのではと疑うようなものへと変わる。
「…なんで俺がおまえと友達にならなきゃいけない。優等生気取りたいならよそでやれ」
「違うよ」
月翔九十九はその言葉を言えば、私が怒り出して帰るだろうと考えていたと思う。
しかし予想に反して、冷静に否定してきた私に反応できず口ごもる。いや、反応しようと思えばすぐに反論できただろう。
できなかったのは、私が真顔になっていたからだ。
真剣な話をしているとき、へらへらした相手の話をまともに受け止めることができるだろうか? いや、できない。
私も幼馴染で経験しているので、そこのところはよくわかっているつもりだ。
そして幼馴染曰く「”笑顔”のあとの”真顔”は相手に信憑性を与える」らしいが、どうやら本当のようだ。
まったく、小学生が考えることではない。
助言をくれた幼馴染に呆れつつも感謝し、まっすぐに月翔九十九の瞳を見つめる。
困惑の色を宿した瞳が、ゆらゆらと揺れる。
初めてはっきりとした感情を宿した瞳を綺麗だなと思いながら、私は破顔した。
「もう一度言うよ。月翔九十九くん、僕と友達になろう」
「…………ッ」
彼は渋面を浮かべてそっぽを向いた。
しばらく何もない地面を睨みつけていたかと思うと、弾けるように立ち上がり、お弁当を抱えて屋上から出て行ってしまった。
「ん~…………」
彼の後姿を見送った後、私はお弁当を開き、おかずをつまみあげて口の中に放り込んだ。
もぐもぐ咀嚼しながら考える。
失敗だろうか?
いや、去り際にほんのわずかだけど耳が赤かったような気がする。
もともとこの色だったんだとか、怒り心頭だったんだとか反論されたらなにも言えなくなるけど。
まあ、意識させることができたかもしれないということで、良いということにしておこう。
私がお弁当を食べ終えると同時に、給食時間の終了を知らせるチャイムが鳴った。
そこで私は気づいた。
「…あれ、結局、私ぼっち」
呟いてみると、なんだか余計にむなしくなり、私は足早に屋上をあとにした。
すみません、夏風邪とバトッてたら更新が遅れてしまいました。
ここ一・二年ほど風邪引かなかったんですけどねー…
みなさんも気を付けてくださいね。
給食がお弁当の小学校が近くにあったのですが、偏食としてはものすごく羨ましかったです。
聞いた話によると、給食かお弁当、どちらか選ばせてくれる学校もあるらしいですよ。
知っていたら通ったのに……!
あれ…昼休みに入る前ってチャイム鳴りましたっけ?
覚えてないんで、その辺は間違っててもスルーの方向でお願いします。
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