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クジ引きはまだですか?

 突然だが、”狩矢京”が乙女ゲームにおいてどのような立ち位置のキャラかは、以前説明したと思う。

 で、だ。私はそれに対して、”私が強くなってロリコンぶっ倒す”という対策を取ることにした。

 これで私のヤンデレ化が防げる、と安直にも喜んだ。

 ぶっちゃけ、もう何もする必要ないじゃんとさえ思った。――あとは体鍛えてりゃいいじゃん、と。


 だが、愚かだった。

 一番忘れてはならない人物たちを忘れていたのだ。


 おわかりだろう。――攻略対象たちだ!

 奴らの存在を、今の今まですっっっっっっっかり忘れていたのだ!

 正直、自分で自分が信じられない。あれから何年経ったと思っているのだ! 4年だぞ、4年!!


 その間、私は何をやっていた!? 学校行って王子キャラ演じて、道場行って空手やって、家に帰って「あ、今から乳製品摂りまくれば身長伸びんじゃね?」との発想のもと、乳製品摂りまくってただけじゃないか!!!


 だが、身長のことは仕方ない! だって前世の私、身長149㎝しかなかったからね!

 このあと1㎝が届かない悔しさがおわかりいただけるだろうか!?

 背の低さで悩みに悩んでいる方々はおわかりいただけるだろう!

 背の高い人(女子)に憧れる気持ちが!

 背の高い人(男子)を見ると「わあ~縮めばいいのに」と思ってしまう気持ちが!!


 なに? 私も十分”狩矢京”のようだと? 否! 私は女の子が大好きなだけだ! 男に恨みはないぞ! …恨みはないが、もともとこんな性格だったから”狩矢京”に転生してしまった感は否めないが。

 ともかく、身長関係の時は何を忘れていても仕方ないんだ。誰が許さなくても私が許す。

 空手は本来の目的から逸脱していないので問題なし。


 あ、王子様キャラを演じている理由? べっ別に大した理由はないっすよ。

 ほら、やっぱり転生したとはいえ、”狩矢京”のキャラを崩しまくるのはどうかなって思っただけだから。断じて「この顔なら両手に花とかハーレムとか夢じゃないじゃん。やったね!」って思ったわけではないのよ。断じてないのよ!


 え? 前世では男だったろうって?

 だが、私は女だった!


 …さて、そろそろふざけるのはやめにしようか。自分で始めといてなんだけど、埒があかないわ。

 私が攻略対象キャラ…これ長いから、これからは”ヒーローズ”と呼ぶ。

 ネーミングセンスが皆無? ほっておけ。

 ヒーローズのことを忘れていたのは、単に私がおつむ足りない大間抜けというわけではないのだ。言い訳ではなくね。


 その説明のためにも、小学校の話をしようと思う。

 乙女ゲームの舞台となる学校は”窮聖館きゅうせいかん学園”と言って、お金持ちのお嬢様お坊ちゃんが多く在籍している。

 今までの会話やら私の独白からすでにお気づきかもしれないが、うちはそれなりに裕福なのだ。

 本来なら私もそこの初等部に通うのだが、しかし私は一般人が通うごく普通の小学校に入学した。

 これは我が家の教育方針なのだが、幼稚園・小学校は一般の学校に通うことになっている。両親曰く「価値観や金銭感覚を狂わせないため」らしい。

 父は私には甘いが、そういうところは一応しっかりしているのだ。意外にも。


 小学校に通い始め4年、私のクラスに転校生がやってきた。

 小学校のうちは、何気に転校生がよくやってくるだろう? 学期の始めなんかは特に。

 だから、あまり興味を抱かなかった。先生の話では男子だと言っていたしな。

 どうも、生前より男性に対する興味が薄れているようだ。”狩矢京”に転生した影響だろうか?


 ともあれ、転校生はやってきた。

 先生に先導されて、教室へ入ってきた不機嫌そうな彼を見た瞬間、私の頭はとある事柄で埋め尽くされた。

 それは一人のヒーローズに関するデータと、彼のルートの情報だ。

 私がその内容に驚愕するのと、先生が転校生の紹介を始めたのは、ほぼ同時だった。


「今日からこのクラスの仲間になる”月翔九十九(つきがけつくも”くんだ。転校してきたばかりでわからないことも多いだろうから、みんな気遣ってあげてください」


 先生の言葉もクラスメイトの返事も、左から右へと突き抜ける。

 彼の顔、私の”記憶”と比べてずいぶん幼いが、間違いない。


 彼は、月翔九十九はヒーローズのひとりだ。


 なんでなんでなんでなんでどうして!? どうして月翔九十九がここにいる!?

 ここ一般の小学校ですが!? アンタは窮聖館に通っているはずだろう!?

 

 今、考えればそれほど焦る必要はなかったのだが、あの時の私は突然の記憶の復活とヒーローズの登場に動転していた。その後の教室内のやり取りなど一切耳にも入らないくらいに。


「――――狩矢」

「……ッ…はい」


 先生の唐突な呼びかけに、一瞬叫びそうになり(狩矢京は他人の前で大声をあげてはいけない。キャラが崩れるから)、慌てて平静を装って答えた。


「よし、じゃあ月翔くんは狩矢の隣だ。狩矢、しばらくはおまえが面倒を見てやるんだぞ」


 …は!? いや、何がどうなったらそうなった!?

 なぜに私の隣!? ほかにももっと空いているだろう!?

 ほら! 吉田さんとか相原さんとか川崎さんとか見ろよ! 空いてんじゃん!

 それに3人とも、めっちゃ私のこと羨ましそうに見てくるんですけど!!

 あ、睨んだりはしてこないよ。 クラスの子はみんな友達だよ!


「はい、わかりました」


 先生! 私、了承してません! 今一度考えなおしてください!!とは言えないんだよ、ちくしょう!

 女にあるまじき口調? ほっとけ、これは生まれつきだ!

 

 私が笑顔(内心、泣き顔)でうなずくと、先生に促され月翔九十九が隣の席にやってきた。

 なんで私が、少女マンガとか乙女ゲームのヒロインみたいな体験してんだ。

 え、なんだっけ? 脇役も頑張ればフラグとか立てられるんだっけ?

 とりあえずこのフラグ、膝蹴りで折っていい? むしろ折らせろ。


「僕は狩矢京です。よろしくね、月翔くん」


 だが、顔には出さない。

 いくら心に台風並みの暴風が吹き荒れてようとも、それを悟らせてはいけないのだ。


「………………」


 それに対する月翔九十九の反応、無視。

 はい、知ってた。そういう性格だもんね、君。データ通りすぎてむしろ泣けてくるよ。

 とりあえず月翔九十九の無視に対して、私は苦笑を浮かべておいた。

 そのまま簡単な諸連絡が述べられ、程なく1時間目の授業が始まった。

 

 さて、そして”最初”に至るのだ。

 意味がわからない? 当然だ。

 私がなぜヒーローズのことを忘れてたとか、乳製品がば飲みして高身長ゲットとか、下心ゆえの王子様キャラとかを語ったのかと言うと、ただ現実逃避をしたかっただけだ。

 …石を投げないでください、危ないです。


 確かに無駄に長話して悪かったと思ってるけどもさ!

 だってヒーローズだよ? しかも私の隣の席!!!

 ヒロインちゃん! ヒロインちゃん出てきて!

 私と代わろう、今すぐに!!!

 さっきからずっと一息で喋ってたせいで酸欠だよ! と言っても脳内だから、実際に口開いてるわけじゃないんだけどね。


 いや、聞いてください。

 無駄はあったけど、意味もなく現実逃避したわけじゃないんすよ。

 私が言いたいのは、まだ私がボケでド阿呆のせいで忘れてたほうがよかったってことだ。

 私が忘れてるだけなら、記憶をたどれば思い出せるのだ。

 しかしこれでは、実際にヒーローズひとりひとりに会っていかない限り、そのヒーローズの情報は得られない。

 月翔九十九の記憶と一緒に思い出したが、彼も他のヒーローズも全員BAD ENDにヤンデレ化によって死亡するルートがあるのだ。

 しかもヒーローズだけではなく、私もヒロインちゃんも他の生徒すら巻き込むようなルートを持つ者も、何人かいた。


 ヤンデレは、私も嫌いではない。むしろキャラによっては好きかもしれない。が、それはあくまで2次元の世界のみだ。

 現実で、しかも自分がその渦中にいるなど冗談じゃない。

 私だって命は惜しい。

 ゆえに、対策が必要だ。

 だがその対策は、また明日考えることになりそうだ。


 なぜかって? 簡単なことだ。

 休み時間ごとに、美形の転校生の周りに集まる(群がるとは言わない)女の子たちの波にもまれて、すでに私のHPが限界ギリギリだからだ。


 ゆえに諸君ら、私が生きていたら、また明日会おう。


 ああ、だが最後に言わせてくれ。

 誰か席代わってぇええええええぇええええー!!!



小学校には転校生が多い、というのは私個人の意見です。うちの学校は(私を含め)比較的よく転校生がきたんです。


気づいたら、書き始めて4時間くらい経過してました。さすがにめっちゃ疲れたです。


お気に入り登録及びポイント評価、ありがとうございます!

これを励みに日々精進しつつ、時々サボりながら頑張っていこうと思います!

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