{腕輪完成~魔素収束装置構想}
三日目の夕方、住処に戻ってくると大パニック状態の小人たちに迎えられた。
「おめえら、一体どうした?」
ドゥルグが首を傾げながら尋ねると、代表してマイヤが答えた。
「なにって、あんたたちトレントがすごい速さでここに向かってきてたの見なかったのかい!? 音と振動がかなり響いてただろう!?」
「長いこと生きてたが、あんな光景見たことがない!」
「なにか別の強力なモンスターに追いかけられてたのかもしれねえぞ!」
「とにかく外は危険だ! おまえら、無事に帰ってこれてほんとよかったよ!」
マイヤの言葉を皮切りに、小人たちが早口でまくしたてていくのを、ルゼとドゥルグは引きつった表情で聞いた。冷静に考えればわかることなのだが、トレントとはいえあんな大群が森の中を爆走することなど普通はあるわけがない。小人の一人が言ったように、他のモンスターに追いかけられていると考えるのが自然だ。
「あー、その、なんだ…とりあえず落ち着いて聞いてくれ」
やいのやいのと防衛力の強化や籠城の準備、最悪の場合の戦闘準備などを整えようとする小人たちを困り顔のドゥルグが制止する。
「信じられねえかもしれねえが、あいつらはワシらが連れてきたんだ」
「は?」
「北の採掘場所に向かう途中でいろいろあってだな」
ドゥルグは唖然とした表情の小人たちに、この三日間起こったことを順番に説明した。トレント達の食料不足に数の増加、外敵の出現とそれらをルゼとドゥルグが成り行きで解決したこと。その結果、彼らに懐かれてしまったこと、今後は労働力として考えていることなど。
「にわかには信じがたいけど、本当のことなんだね?」
「間違いねえ。な、嬢ちゃん」
「間違いない。というか、まだトレント達に荷物を預けたままだから、実際に見てみるといい」
「お、そりゃいいな! 手っ取り早い!」
二人は名案だと首肯するが、マイヤたちは困惑した様子で互いに顔を見合わせた。
「トレントたちには道中念を押したが、危害をくわえようとしたら私が撃ち抜くから心配しなくていい」
安心させるようにそういうと、困惑していた小人たちはそこまで言うならと、一応各々火柱の魔道具を握って住処の外に出た。トレント達には住処の周辺で待機するように言っていた。彼らはその言いつけをきちんと守り、しかも列を組んだ状態で律儀に待機していた。
住処の一番近くにいた大柄のトレントが「さっきぶり~」というかのように蔦をひらひらさせる。そしてひらひらさせた蔦をルゼたちがいた穴の中とひとつ下の穴にそれぞれ入れると、置いておいた素材を掴んで順番に地面に並べていく。荷物を取りにきたと思ったようだ。荷物の運び出しが終わると、蔦で自分の根元付近をぺしぺしした。水くれの合図だ。
頷いたルゼはついでだと思って”大波”の魔道具を出し、範囲を正面のみに絞って発動。現れた波がトレント達を順番に濡らしていき、一番後ろまで到達するとほどなく消えた。手前のトレントたちは大満足の様子で枝をわさわさ、後方のトレントは「もっと欲しい!」と主張するかのように枝をばさばさしている。
ルゼは小人たちを振り返った。誰も彼もがぽかんと口をあけて間抜け面を晒している。ルゼは肩越しにトレント達を指さして言った。
「こんな感じだ」
「驚いたよ……トレントってこんなに友好的だったんだね」
「状況が特殊だったのもあるだろうな。飢餓感がほぼ限界まで達してなきゃ、ここまで友好的だったかはわからん」
食糧問題を抱えていなければ、わざわざ人に従う理由はない。今は恩人バフでテンションあげあげで友好的だが、ある程度落ち着いたときどういう行動にでるかわからない。後程ドゥルグにその場合の対策について相談しようと心に決め、ルゼはトレント達に向かっていった。
「この小人たちは私たちの仲間だ。危害を加えようとしたらその段階でおまえたちを薪に変えるからな。わかったか?」
トレント達は「りょ、りょうかいです!」というかのように蔦で敬礼した。そのあとは簡単に必要事項を確認して解散となった。
ドゥルグ達はさっそく竜晶と持ち帰った共鳴石を使って、魔力貯蔵庫と収納箱の研究及び製作作業に取り掛かった。ルゼのほうはというと、魔道具作成では役に立てないので、その分は狩りや料理の手伝い、トレント達への依頼やご褒美というなの水やり、魔力供給に力を尽くした。
そして三か月後、ルゼ含めた小人たちは全員広間に集まった。――――新作魔道具のお披露目会である。
「おめえら集まったな!? 今日はワシらが魂を込めて作った魔道具のお披露目だ!」
ドゥルグの言葉に、小人たちが歓声をあげる。いつかの会議のように、左右にはルゼとマイヤが控えている。そして、傍らには三十センチほどの黒と金の結晶が置かれていた。
「約一か月前、ワシらは三つの魔道具を製作すると宣言した! ひとつめは魔力貯蔵庫。ふたつめは収納箱。三つめは宝物庫。この一か月心血を注いで取り組んだ結果、最高の結果を出すことができた。今から、その結果をおまえたちに配る!」
合図を受けて数人の小人たちが整列する小人たちに順番に銀の腕輪を渡していった。腕輪には赤・青・金・金・緑のひし形にカットされた結晶がはめ込まれており、一部不思議なくぼみがある。
「赤が魔力貯蔵庫。青が収納箱。金が宝物庫だ。そして緑がストック用の魔力貯蔵庫だ。腕輪の窪みの部分に血を一滴たらすことで装備者の登録を行う。登録された腕輪は他のやつは絶対に使えねえから注意しろ!」
続いて針が配られた。小人たちは各々、指の先を少し傷つけて腕輪の窪みに血を一滴垂らす。すでに登録を済ませているルゼは、その光景を見ながら感慨深げな顔をした。
三つの魔道具が完成した後、どういう風に装備するかという話になり、腕輪を提案したのは何を隠そうルゼだ。ペンダントでもよかったのだが、失くしたときに気づきにくいため視界に入りやすい腕輪にすることになった。
最初は腕輪の素材は何の変哲もない金属にする方向で話が進んでいたのだが、何かのアクシデントで腕輪を失くし第三者が拾ってしまった場合、その者に貯蔵品すべてを奪われるなんてことになりかねないと気づいた。
そこで防止策として出たのが、腕輪を認定石という鉱石で作ることだ。認定石はその名の通り、血によって持ち主を認定する鉱石だ。認定されると、それ以降、鉱石は認定者の魔力しか受け付けなくなる。
人間が高級な装備を作成した際に、その装備につけることの多い石だ。ちなみに比較的安価な装備にはつけない。それは認定石が貴重なのではなく、いざというときに店に売れなくなってしまうためだ。
認定石もこの森の中にあるとのことだったので、ルゼと数人の小人とトレントで採りにいった。採掘場は住処から割と近い場所にあったので、一日で戻ってくることができた。
が、帰り道にトレントの大群と遭遇。何かと思って同行していたトレントに通訳を頼むと、なんと彼らは北にいたトレント達のなわばりに残った者たちで、引っ越したトレント達に話を聞いて小人の住処に移住を希望してきたのだという。
そういえば岩犀を討伐した時に、北に戻っていったトレント達が数体いたなと思い出す。てっきり外敵が排除されたことを伝えにいったのだと思ったが、まさか引っ越しまで提案していたとは思わなかった。
ルゼたちが口元を引きつらせていると、もちろんタダとはいわんとばかりにそれぞれが幹の中にお土産を携えていた。そのほとんどがモンスターの魔核だった。モグラのもののように大きくはなく、五センチくらいの小ぶりのものが大半だったが、ちょうど必要だったのもあって彼らの移住を受け入れた。
なぜ魔核が必要だったのか。それは収納箱に使用するためである。収納箱と宝物庫の製作にあたり、一番難題だったのは空間の固定だった。
魔力貯蔵庫と違い、収納箱と宝物庫に収納するのは実体のある物質。小人たちの能力で空間は作れるが、作れるだけでその空間が安定しているわけではない。たえず漂っているような空間であるため、質量のない魔力は同じように揺蕩うことができるので貯蔵することができた。が、質量のある物体はアイテムボックスのように強制的な縛りを設けないと入れることができない。
アイテムボックスは物体を入れるために、安定していない空間を無理やり圧縮して密度を高め、圧縮した空間で境を作り、空間を個室に変えている。圧縮されたことによって個室に物体を入れることはできるが、ひとつひとつの個室はとても狭いし、概念が同じものは同じ部屋に入れられるが、概念が異なるものは入れられない。
そこで役に立ったのが、モンスターの魔核だ。全身岩でできた岩犀があの形を保てているのも、頭を吹き飛ばされても瞬時に修復できたのもすべて、魔核に存在の安定化と形状記憶という力があるからに他ならない。試しに竜晶と小さな魔核を融合させてみたところ、空間の安定化に成功した。
この時ばかりは、ドゥルグ達は飛び上がって喜んだし、ルゼも思わず全力で拍手してしまった。
魔核が安定できる空間の範囲は、その魔核の大きさによって異なる。つまり大きければ大きいほど広範囲の空間を安定化できるのだ。
幸いなことにトレント達からもらったモグラの魔核約二十センチがあったので、宝物庫を二つ作ることができた。この宝物庫を第一宝物庫と第二宝物庫とで分け、収納する素材の種類によって使い分けることになった。
個人用の収納箱だが、魔核はあったものの全員分を作るだけの量が足りなかったので、魔核を持つモンスターの集中討伐計画が組まれていたところだった。なのでトレント達のお土産は渡りに船だったのである。
「魔力貯蔵庫だが、貯蔵庫内の魔力が三分の一まで減少すると赤い結晶が点滅する。点滅し始めたら、緊急の場合を除いて緑のストック用から魔力を引き出すようにしろ。点滅しなくなってもすぐに使うんじゃねえぞ? 一日は待てよ。わかったか!?」
「「「はい!!!」」」
「発言を求める!」
ひとり、列の真ん中あたりにいた男性小人族が挙手をした。
「いいぞ! 許す!」
「魔力についてだ。あまりにもルゼの嬢ちゃんに依存しすぎている。いざという時、別口からも魔力を供給できるような仕組みが必要じゃないだろうか?」
「正論だな。そのあたり考えてないわけじゃねえが……今のところ、代替案がないのが現状だ」
ルゼ、そんなことを考えていたのかと目をぱちくりさせる。小人たちも確かにルゼへの依存、負担が大きいとして近くの者と代替案についてなにかないか、議論を交わし始めた。
「魔光石はどうだ? あれならある程度魔力を含んでるぞ」
「確かにそうだが、あれは魔力濃度の高い場所にしかねえだろうが。しかも数も多くねえ。代替案としては微妙だろ」
「周囲から魔力を集めたらどうか?」
「それも魔力濃度の高い場所じゃないとあまり効果が期待できないぞ。それに、結局その土地までいちいち魔道具を回収しに行く必要がある」
議論がどんどん白熱していくが、なかなかいい案が出ない。ルゼは小人たちの話に耳を傾けながら、手を挙げた。
「嬢ちゃん、なにかいい案でもあんのか?」
「周囲から魔力を集めるっていうのはいい意見だと思う。ただ場所と回収の問題があるなら、それぞれ役割を分けたらどうだ?」
「どういうことだ?」
「魔力貯蔵庫のように親機と端末に分ける。親機は吸収した魔力を貯める役割。端末は魔力の吸収と親機への送信の役割。これなら端末だけを魔力濃度の高い場所に置くだけでいいし、最悪壊れたらまた置けばいい。素材に余裕があるなら親機と端末を複数作れば、私がいなくてもある程度の量を持続的に供給できるようになるだろう。あと端末は人間に見つかる可能性を考えてできる限り小型化。収束量に問題が出そうなら、人間側に解析されないようにするか遠隔で爆破できるような機能が欲しい」
ドゥルグたち、カッと目を見開く。いつか見たような気がするが、体をわなわなと震わせ、叫んだ。
「う…うおおおおおぉーっ!! 野郎ども、会議を始めるぞぉーっ!!!」
「「「おぉーっ!!」」」
魔道具のお披露目会は急遽、緊急会議に変更となった。
なお後に魔素収束装置”レウニル”と名付けられ、試作品は三か月後に、完成品が半年後にできるのだがこの時はまだ誰も知らない。




