{共鳴石発掘~トレントが仲間になったよ}
簡単に朝食を食べ、トレントが開けた穴に入ったまま出発。快適度がさらに増した。時々トレントの要求に従って、床に新たにあけた小穴に水を注ぐ。トレントも快適であろう。一時間ほどして、一行は共鳴石の採掘場所である崖下にたどり着いた。
「ここか」
トレントの穴の中から崖を見上げるルゼ。一キロは優にあるだろう高さだ。トレントに地面に下してもらう。ここでお別れかなと思ったが、トレントは森に帰る様子がない。
「なんで残ってるんだ?」
「まさか帰りも送ってくれるつもりなのか?」
枝がゆ~らゆ~ら。そのつもりらしい。だいぶ懐かれたものである。
「道中快適だったしな。そうしてくれんならありがたい」
トレントさん、「任せろ!」と蔦でサムズアップ。どこで覚えたのだ、そのサイン。ルゼが訝しげな視線をトレントに向けているうちに、ドゥルグは岩肌部分を触りながらあちこち歩き回り、徐に足を止めた。
「嬢ちゃん、これが共鳴石だ!」
ドゥルグが指さす部分を見ると、岩肌の中に大小さまざまな紫色の鉱石が点在している。大きなものではドゥルグの体よりも大きい。
「よし、どんどん採るぞ!」
「おー」
ドゥルグのノリに合わせて拳を振り上げて応えるルゼ。二人は掘削機を取り出すと、手分けして作業を開始した。
共鳴石の周囲を掘削機で削り、掘り出したものはそのままにして次の共鳴石へ。少し溜まったら場所をあけるために、重力操作の魔道具を使って共鳴石を少し離れた場所に積み上げていく。途中でルゼたちの意図を理解したトレントが、どちらかが共鳴石を掘り出すと蔦を伸ばして、共鳴石を積み上げている場所に移動してくれるようになったので、さらに効率があがった。
作業の最中に鳥系のモンスターと前歯が異常発達した大柄のねずみが襲ってきた。どちらもルゼが杭鉄砲で撃ち抜き、食いでがありそうなラ〇タみたいなねずみはトレントのご飯とした。異常発達の前歯だけは、ドゥルグが素材として欲しがったためきちんと残している。鳥は後程の休憩時間の際に、二人のお昼ご飯となった。
「よぉーし! こんなもんでいいだろう!」
周囲がオレンジ色に染まり始めたころ、ドゥルグの宣言で採掘は終了となった。集めた共鳴石は、上下五メートルほどの範囲内に山のように積み上げられている。掘削機があるとはいえ、二人で行ったにしては十分満足のいく結果だ。
「つかれた…」
強制引きこもり生活を余儀なくされていたせいで体力の少ないルゼは、頻繁に休憩を挟みながらの作業となった。現在は地面に寝転がり、いつ瞼が閉じて寝始めてもおかしくない様子だ。
「よく頑張ったな、嬢ちゃん。あとは共鳴石をアイテムボックスに突っ込むだけだから、もう少し我慢してくれ」
「おー……」
寝転がり、尻尾の先を少し持ち上げて返事をするルゼ。それに苦笑しつつ、ドゥルグは手早くアイテムボックスに共鳴石を収納した。
「今日はここで野宿して明日帰るぞー」
尻尾ゆらゆら。返事をする気力も消えたようだ。トレントがルゼの体を蔦で持ち上げる。ドゥルグはリュックの中から浄化の魔道具を取り出すと、ルゼの体と衣服の汚れを綺麗さっぱり浄化し、そのまま穴の中へ。ドゥルグも自身の汚れを落とすと、トレントに穴まで運んでもらう。
内側ではすでにルゼが自分用の寝袋を布団にして寝ていた。仕方ねえなと頬を掻き、トレントに葉っぱを集めてもらって掛布団に加工し、ルゼにかけてやった。
「ワシも今日は飯食ったらさっさと寝るか」
携帯食料で食事をしトレントに水をやった後、ドゥルグも早々に寝袋の中に引っ込んだ。
次の日。体を揺らす感覚に目を開けるルゼ。
「お、起きたか。かなり眠ってたな」
「ん……いま、なんじ?」
「大体十時ってところだな。嬢ちゃん、半日以上は寝てたぞ」
「そんなに…?」
驚いて起き上がって空を見上げる。確かに太陽の位置が高い。慣れない掘削作業とはいえ、たった半日の作業でここまでバテてしまうなんてと自分の体力の無さが半ば信じられないルゼ。同時にこれからのことを考え、住処に戻ったら徐々に体力づくりをしていこうと心に誓う。
「腹減っただろ? ほれ、これでも食いな」
渡されたのは、黄色の梨みたいな見た目の果物。
「これ、どうしたんだ?」
「食えって、こいつが」
「こいつって……」
すると、穴の中に同じ黄色の果物を抱えた蔦が入ってきた。「あ、おはよー。お腹空いてるっしょ? これでも食べなー」というかのようにルゼの目の前に果物を置いた。トレントが道中の木に生っていたのを回収したものだろう。
「至れり尽くせりか」
果物をひとつ手に取り、かじってみる。味は梨で、歯ごたえはリンゴに近い。だが種はないのでとても食べやすい。
「住処まであとどのくらいなんだ?」
「二時間くらいだな。こいつに乗って移動してるおかげで、思ったよりも早く帰れそうだ」
「ということは、昨日会ったトレント達のいるエリアはもう通り過ぎたのか」
「おう。かなり友好的だったぞ。ほら、そこ見てみろ」
言われた場所を見ると、穴の端にいくつかの素材が置いてあった。何かのモンスターの角やら爪らしき部位や、よくわからない鉱石。さらには昨日貰った同じくらいの大きさの魔核まで置いてある。
「連中がくれたんだ。”大波”がずいぶんお気に召したようだ」
「魔石の魔力がなくなったら使えなくなるのわかってるのか?」
「一応、伝えておいたし予備の魔石も渡しておいたぞ。ま、トレント達も魔力を持ってるから、魔石の魔力がなくなっても自力発動できるだろう。ただ規模はだいぶ小さくなるだろうがな」
なるほど、と頷きつつ果物をむしゃりするルゼ。
「ところでさ」
「おう」
「この音はなんだ?」
ルゼが起きた時から、やたら重たいものを引きずるような音が後方から聞こえているのだ。それも複数。正直、ルゼとドゥルグが乗っている大柄トレントの移動音に似ているような…。
「あー……そうだな。ちょっと後ろ見てみろ」
「後ろ?」
背後はただの壁(?)である。刹那、壁(?)がべりぃっと裂けて外が見えるようになった。便利なトレントである。
「…………なんで?」
思わずそう言葉を漏らす。
トレントの行軍。近くからこの光景を見た者がいたら、おそらくそう名づけたことだろう。大柄トレントの後方を、無数のトレントたちが列をなしてついてきている。
しかも先ほどルゼが貰った果物、大柄トレントが差し出したのではなくすぐ後方のトレントが差し出したものだった。今も自分の枝に生るその実を蔦でもいで、「あ、おかわり食べなー」とでもいうかのように小窓(?)から渡してきた。
「こいつからなんか聞いたのか知らねえが、半分くらいついてきちまってな」
遠い目のドゥルグが半笑いで答える。現実逃避しているようだ。
「……この森、そんなに食料足りない?」
どう考えても餌付け(水)が原因だろう。だがここは深い森の中。モンスターもうじゃうじゃいる。本来食料には困らないはずである。
「こいつらにとっちゃ足りないのかもな。しかもこの辺りは陽気がいい。雨もあまり降らんから、太陽の光と地面からの養分、迷い込んだモンスターくらいからしか栄養が取れん。通常ならそれでも十分なんだろうが、枝分けで数も増えすぎてた。こいつらのいたエリア、普通の木が枯れてたり成長が悪かったりしてただろう? 自然の恵だけじゃどうにもならんところまできちまったんだろう」
「枝分け?」
「トレントの繁殖方法だ。たとえばワシらが乗っとるこいつだが、かなり大柄だろう。こいつがもう少し大きくなったら、食料の消費を防ぐために体をいくつかに割く」
「あ、だからこんな簡単に裂いたりしてるのか。それにしても、ますます移動しなかったのが謎というかなんというか」
「こうやってワシらの住処に一緒に来ようとしてるところを見る限り、たぶん外敵だろうな」
「トレントの外敵って?」
「火系のモンスターは大体天敵だが、森でそんなのがいたらすぐにわかる。おそらく養分として吸収できないタイプのモンスターだろう。たとえば体が岩でできてるとか…」
突然、ルゼ達が乗っている大柄トレントが動きを止めた。
「お?」
「なんだ?」
目的地につくにはまだ早い。穴から頭を出し、周囲を確認するが特におかしなところはなさそうだ。
「なにかあったのか?」
内側から壁(?)を叩くと、入り口付近に蔦が伸びてきて、どこかを示すようにゆらゆらと揺れる。もう一度穴から顔を出して、その方角を確認する。
普通の森だ。どこにでもある木々、苔の生えた巨大な岩石。おかしなところはないように思える。突然、ただの岩だと思っていた岩石が動き始めた。
それは全身が岩でできた犀だ。体長は五メートルほどだが、全身岩でできているためか太い足で地面を踏みしめるごとに振動と音が響く。犀は頭をこちらに向けると、赤く光る眼を剣呑に眇め、地響きを立てながら突進してきた。
トレントの行軍、今通ってきた道を一目散に逃げ始める。穴から外を覗いていたルゼとドゥルグは、反対方向に走り出した反動で体が飛び出そうになるのをぐっと踏みとどまってなんとか耐えた。
「外敵ってあれか!」
「ありゃ岩犀だ! 奴らは他のモンスターどもと違って魔核を好んで食う! トレントの魔核はでかいから狙われてんだ!」
ルゼは杭を出現させると、岩犀の額目掛けて発射する。寸分たがわず岩犀の額を打ち抜いた。しかし、
「効いてない!?」
岩犀は一瞬の停滞もなく突進を続けている。
「無駄だ。奴は全身岩のモンスターだからな。全身を消滅させるか、魔核を壊さない限り死なねえ」
「魔核はどこにあるんだ?」
「自在に場所を移動できる。決まった位置にはねえ」
「……ドゥルグ、なんか冷静だな」
話を聞く限り、物理攻撃タイプのルゼと相性の悪い相手である。ただ奥の手があるので、ルゼもそこまで焦ってはいない。だがドゥルグはそれを知らないし、”鎌鼬”も岩犀相手ではほとんど効果などないだろう。
「なんとなく最初は焦っちまったが、さっきも言ったが岩犀は魔核が主食だ。人は食わん」
「私達だけ安全ということか」
「そういうこった」
小窓から蔦が入ってきて「助けてよ!?」みたいな感じで荒ぶる。
「はいはい。うーん……とりあえず、足止めするか」
ルゼは振り返って岩犀の前に竜晶の壁を展開した。岩犀は壁に激突し、衝撃で地が揺れる。頭部分の岩が粉々に砕けるが、すぐに元通りになって壁に激しい頭突きを繰り返す。
一応、壁の一部を槍状に変化して突き刺したりもしてみたが、瞬時に修復してしまう。ふと気づく。岩犀の足元の陥没が激しい。自身を修復する際に、地面の土を使って補っているようだ。
そうとわかれば簡単なことだ。ルゼはわざと足止め用に展開した壁を手前に倒した。岩犀はようやく邪魔な壁がなくなったことで、唸り声をあげながら壁を踏みつけて進もうとする。
が、すぐに左右に別の壁が展開され、岩犀を閉じ込めた。岩犀は突進して壁を壊そうとするが、ひびが入っても瞬時にルゼが修復してしまううえに、壁同士が完全に癒着したために倒れることもない。
「ドゥルグ、岩犀の魔核って欲しい?」
「欲しい!」
「よし、じゃあ”小波”を”大波”に変更してくれ」
ルゼが”小波”の魔道具を渡すと、ドゥルグは首をひねりながら魔法陣を”大波”に書き換えてルゼに返した。”大波”を受け取ると、ルゼは穴から外に出て翼を広げ、岩犀の頭上に飛ぶ。”大波”を下に向けて構えて発動させると、まるで滝のような威力の水流が岩犀に叩きつけられた。
水流の激しさにより、岩犀の体が徐々に崩れていく。崩れた体はルゼが最初から開けていた側面の穴から外に押し流された。
十分ほどで、岩犀だったものは魔核を残し、跡形もなく消えていた。トレント達が、歓声らしきざわめきをあげる。どの個体も、枝を限界までわさわさして外敵の排除を喜んでいる。
数体、後方にいたトレントが元来た道を帰って行ったので、残った仲間たちに報告に行ったのだろう。ルゼは魔核を回収し、ドゥルグのところに戻った。
「はい、魔核」
「ありがとよ。しかしよく思いついたな」
「体が砕けた時地面から補給してるのが見えたから、地面と接触さえしてなければ削り殺せると思って」
「なるほどな。しかしあの巨体を地面から離すなんざ、普通できるもんじゃねえ。便利な能力だな」
「一番便利なのはドゥルグの能力だと思うけど…?」
そんな会話をしていると、ぽとりと小窓から果物が投げ入れられた。お礼のつもりかななんて思っていると、黄色の果物に限らず色とりどりの果物が次から次へと小窓と正面の穴から差し込まれるようになった。
「ちょ、ちょっと多すぎるぞ」
「おーい! 気持ちは嬉しいがワシらが埋もれちまう! ほどほどにしてくれ!」
が、トレント達は聞こえていないのか、果物の差入の勢いは止まらない。なんなら、大柄なトレントが無駄に気を利かせて正面の穴の入り口の下部分をせり上げた。果物が零れ落ちないようにという配慮のようだ。こういうのを余計なおせっかいという。
喜びが爆発したトレント達の説得を続けたがまったく聞く耳を持たず(そもそも耳はないが)、最終的にはルゼが竜晶で両方の穴をふさぐという荒業に出てようやく止まった。ドゥルグが完全に果物の海におぼれてあっぷあっぷしていたので、もう少し遅ければ沈んでいただろう。
足の踏み場どころかほとんどボールプールの様相になってしまったので、大柄トレントにもうひとつ穴をあけてもらい、果物はそちらに移した。
ようやく帰路につくことができたが、明らかに先ほどよりも移動スピードがあがっている。岩犀から逃げていたのと同じくらいのスピードだ。というより早すぎである。全員一様に枝を高めにあげ風を切って爆走している。「ヒャッハー!」という声が聞こえてきそうだ。
「どんだけ嬉しいんだ……」
「無理もないことだと思うぜ? 本来こんな森の中に岩犀なんて出ねえからな。トレントどもじゃどうしようもできねえし、やつが縄張りを変えるのを願うくらいしかできなかっただろうな」
「岩犀があそこに陣取ってたせいで、トレント達は移動ができなかったってことか。……ん? じゃあ、なんでこいつら私たちについてきたんだ?」
素朴な疑問である。こちら側に天敵がいることを知っていたのなら、途中でルゼ達と別れることもできたはずだ。だが、実際には大柄なトレントだけでなく多くのトレントがついてきた。ルゼが岩犀を倒せたのはたまたまである。その段階ではどうにかできるとは考えていなかっただろう。
「こいつらは間引きを受け入れたんだろう」
「間引き?」
「トレントは数が増えすぎると長生きの個体から順番に縄張りを出ていく。それを間引きっていうんだが、所謂口減らしってやつだ」
ドゥルグは、トレントの床(?)を触りながら続ける。
「通常の間引きなら生き残る可能性があるから、わりかしすんなり受け入れるそうだが、今回の場合は違う。明らかな外敵がいて、その状態で間引かれれば死ぬ可能性が高い。だから、深刻な食糧不足に陥ってもあそこに残り続けたんだろう」
「余計にわからないな。なら、なんで今さら間引きを受け入れたんだ?」
「おそらくだが、それが原因だろうな」
正面の穴から伸びてきた蔦が、床に開いた小穴をぺしぺし叩く。水くれの合図だ。ルゼはほとんど無意識のまま”大波”で水を注いだ。水がどばっと出てきた。慌てて出力を限界まで絞った。ドゥルグが指摘したのは、この一連の流れだ。
「ちょっとした労働で好きなだけ水が飲める。植物にとっちゃ最高だろうな。運よく生き残ればその環境が手に入るんだ。こいつに話を聞いたやつらも、賭けてみたくなったんだろうぜ」
ルゼはなるほどと首肯する。この世界は命の危機がそこかしこに転がっている。その際に何を選択するかは当人次第。トレント達は、最高の環境を得るために命の危機を惜しまなかったということだろう。
そこまで考えて、少し微妙な表情になるルゼ。
「どうした?」
「すごく自然に、こいつらの面倒を見ることを受け入れてるなと思って」
「移動が楽だし、安全なのがいい。嬢ちゃんのおかげで魔力には困ってねえし、水やるだけでここまでしてくれんだ。受け入れたほうが得だろう?」
ドゥルグのいう通り、お腹が空けば果物をくれたりもするし、何かあれば幹の中に隠れることもできる。小人族の移動手段としては、最高の部類かもしれない。
「仕方ない。三食昼寝付を保証してやるか」
「おう、かわりにおまえらしっかり働けよ!」
「りょうかいでーす!」というかのように、サムズアップした無数の蔦が穴の中に入ってきた。
ルゼとドゥルグは互いに顔を見合わせて、同時に苦笑を漏らした。




