{魔力貯蔵庫とアイテムボックス構想}
小人たちと暮らし始めて一週間。ルゼは毎日、せっせと魔石に魔力を込める生活を送っていた。時々、小人たちと一緒にアープの実を採りに行ったり、偶然遭遇したモンスターを狩ったり、魔道具のアイデアの提供などをしている。
一日の終わりには必ず魔力を限界まで使用するようにしていたせいか、ルゼの魔力総量は日増しに増えていた。現在ではドゥルグたちが用意した魔石ひとつでは、魔力を込めても全体の一割未満しか減らない。
魔石だけでは魔力を使いきれないので、竜晶を大量に生成しては消し、生成しては消しなどの無駄使いする時間ができてしまったほどだ。ルゼはたった今、魔力を込め終わった魔石を抱えてドゥルグの下へ向かった。
「よお、嬢ちゃん。今日もご苦労さん」
「ドゥルグ、今時間あるか?」
「お? どうした?」
「魔石のことで話がある」
ドゥルグは受け取った魔石を他の小人たちに渡し、どかりと座布団の上で胡坐をかいた。手でルゼにも座るように促し、同じように胡坐をかいて座る。
「で、魔石の話ってのはなんだ? まさか魔力を込めるのがつらくなってきたのか?」
「いや、その逆。私の魔力総量が増えたせいで魔石に魔力込めても大幅に魔力が余る」
「……贅沢使いしなきゃ、すでに一年はもつ量を入れてもらってんだがな」
「…正直、これが普通なのか私が特別なのかもわからない。けどまだまだ限界まで使えば増えていくから、できる限り使い切りたい。なんとかならないか?」
「そういう相談をされるとは思ってなかったぜ……」
ドゥルグは頭を掻きながら苦笑を漏らす。
「そうさな…一番いいのは、魔石の純度を高いものに変えることか」
「ああ…前に言ってた純度が高ければ、入れられる総量も増えるっていうあれか?」
「そうだ。だが、純度の高い魔石っていうのはかなり貴重なもんだし、早々手に入るもんでもねえ」
魔石とは、魔力密度の高い場所にできる結晶だ。密度が高ければ高いほどその場で生成される魔石は純度の高いものになるが、反面、そういう場所はモンスターの出没数がとにかく多い。魔力のせいで異常進化する個体や強力な力を持った個体も発生しやすく、戦闘能力のない者は近づくこともままならない。
ドゥルグの説明をふむふむと聞いていたルゼは、ふと気づく。要は魔力純度の高い鉱石であればなんでもいいのではないか? と。
「なあ、魔力純度の高い鉱石ならなんでもいいのか?」
「まあ、そうだな。ただ魔石が一番不純物が少なくて純度の高い鉱石とされてる。代わりの鉱石っつっても、早々あるもんじゃ」
「私の竜晶は? あれ、全部魔力だけど」
「…………え、おまえさん、あれ魔力供給切れば消えるって」
「意識すれば実体化させたまま残せる」
ほら、と試しに五センチくらいの四角い竜晶を作り、意識しながら魔力を切る。すると竜晶は消えることなく、ルゼの掌の上にころんと転がった。
ドゥルグはわなわなと手を震わせながら、今しがたできたばかりの竜晶を掴む。スキルを発動させ、竜晶の中に空間を作ったドゥルグは――――驚きすぎて、呼吸を止めた。
徐々に白目を剥き、口の端から泡が出始めて―――
「おい! 息を止めるな!」
「かはっ!?」
ルゼに背中をばしんっと叩かれ、危ういところで現世に生還を果たした。
「こ、こりゃやべえぞ! 魔石の比じゃねえ! ワシら全員が雑に使っても一年はもつ空間ができた!」
「それはどうなんだ?」
「最高純度の魔石でも慎重に使って半年がせいぜいだ! だが、いいのか? 使っちまって」
先ほどの狂乱ぶりが嘘かのように、ルゼを気遣うようなそぶりを見せるドゥルグ。結晶竜の竜玉が、人間たちにどのような扱いをされているのか知っているがゆえの反応だろう。
竜玉をただの美しい宝石としての価値しか見出さず、そのために結晶竜を狩る。使用目的は違えど、道具とすることには変わりないことを気にしているのだろう。
ルゼは仄かに笑った。この一週間、一緒に暮らしてきて小人族が本当に優しい種族であることに気づいていた。
ドゥルグたちは魔力を提供してもらうためにルゼを助けたといったが、それだけが理由ならあまりにリスクの大きな賭けだ。人間の屋敷を半壊させたのがルゼだと思ったのなら、そこにいた人間たちの死体も多かれ少なかれ確認しているはずである。
小人族といえど他種族。自分たちが攻撃されない保証はない。だというのに、彼らは貴重な魔力まで消費してルゼを助け、気に病ませないために魔力と引き換えという条件を出した。ルゼが彼らに協力的なのも、魔力量が多いのも、結果論でしかない。
傷ついて倒れている子供がいる。ただそれだけの理由で助けてくれたのだ。こちらもそれに応えるだけの誠意を見せるべきだろう。
「私の生活向上のためだ。気にするな」
「……そうかい。わかったぜ。ありがたく使わせてもらう!」
「それで重ねて確認なんだが」
「ん? 他にもなんかあんのか?」
てっきり魔力のことに関することだけだと思っていたドゥルグは、続いたルゼの言葉に首を傾げた。
「効率の話だ。魔力供給と分配について、もっと効率化できないかと思って」
現在はルゼが多くの魔石に魔力を込め、魔石を受け取った小人たちが順番に使用したい魔道具に魔力を注いでいるような状態だ。魔石の数が小人たちの人数分だけあればいいのだろうが、さすがにそれだけの数をそろえられないらしく、毎日必ず順番待ちの時間が発生しているのだ。
「私が小人たちの人数分の竜晶を作ってもいいんだが、もっと根本的にどうにかしたいなと」
「具体的には?」
「遠隔アクセスとかできないか?」
「遠隔アクセス? なんだ、そりゃ?」
ルゼは最近おなじみになりつつある簡易黒板とチョークを取り出して、簡単に絵を描き始める。竜晶らしき大きな丸から小柄な人型に向かって伸びる矢印。角と翼が生えた人型には双方向の矢印が描かれた。
「こんな感じに、基本的に魔石は所定の位置に置いたまま、離れた場所にいる小人たちが魔石から直接魔力を引き出す。私は供給と注入をどこからでもできるみたいな。なんとかならないか?」
「おおぉん……ちと難しいな。例えばおまえさんの竜晶に相互作用するような性質があれば、まだなんとかなるかもしれんが」
「相互作用?」
「簡単に言うと繋がりか。例えば今ワシが持っているこの竜晶を砕いて二つの欠片にしたとする。その欠片同士で魔力パスのようなもんが繋がり続けるのならできるかもしれねえ」
「私にもわからないな。試しに砕いてみるか?」
「お、おお……ちと躊躇われるな」
「いくらでも作れるぞ?」
「規格外すぎんだろ。いや、ワシとしちゃ嬉しいが……」
「それに割れてもくっつけられるだろ?」
「そうだった!」
竜晶化した腕で殴りつけると、竜晶はあっさりと二つに砕けた。二人で砕けた竜晶を上から覗き込む。
「…やっぱ繋がってねえな」
「そんな気はしてた」
ドゥルグは割れた竜晶をスキルで元に戻した。
「待てよ……」
すると何かを思いついた様子で、顎に手を当てて考え事を始めた。
「どうした?」
「徐ちゃんの竜晶に相互作用の効果がなくても、そういう効果のある鉱石を融合させればいけるかもしれねえ」
「そんな鉱石があるのか?」
驚いて尋ねると、ドゥルグは頷き、部屋の隅の棚から小さな紫色の欠片を持ってきて台の上に置いた。
「これは共鳴石って鉱石だ。こいつに魔力を通した後に砕くと、砕いた石同士は魔力のパスが繋がって共鳴する。片方の欠片がなんらかの理由で砕けると残った欠片は共鳴しなくなる。大体は仲間に危険を知らせる手段として使われていたりするな」
携帯がないこの世界では、仲間との連絡手段は限られる。共鳴石は数少ない連絡手段の一つなのだろう。
「重要なのは砕いた石同士で魔力パスが繋がっている点だ。共鳴石と竜晶を融合させれば、共鳴石の性質を利用して遠隔で魔力を引き出せるようになるかもしれねえ!」
「じゃあ、早速試してみよう」
「おう! だがさすがに量が足りねえ。嬢ちゃんとワシら全員分の魔道具を作る必要がある。比率はあとで細かく確認するが、最悪の場合は竜晶と同等の量がいる。採りに行く必要があるな」
ルゼとドゥルグたち小人族百十人分の魔道具を作るとなると、おそらく竜晶は一メートルほどの大きさになるはずだ。それだけの量の共鳴石の採取となると、結構な重労働となるし量もかさむ。重力操作で持ち運ぶにしても、帰り道の移動に影響するだろう。
「切実にアイテムボックスが欲しいな……」
「あるぞ」
「あるのか!?」
「ただ性能がなあ……ちょっと待ってろ」
ゲーム、特にRPGでは定番の初期装備アイテムボックス。所持上限はゲームによるだろうが、現実にあったらぜひとも欲しいアイテムのひとつだ。ちなみにゲームに登場する道具で欲しい物の最たるものは、どこでも行けるドアだ。
思わず愚痴をこぼしたルゼに、大したことでもないように言うドゥルグ。驚いて声をあげると、ドゥルグは歯切れの悪そうな顔で再度棚に行くと、シンプルな銀の指輪(小人サイズ)を持って戻ってきた。
「ほれ、中に入れたいものを念じれば入るからやってみろ」
「お、おお」
指輪をつまみ上げ、何を入れようかと周囲を見回して、近くに大量の葉っぱが積まれた籠があった。小人族にとって、葉っぱは簡単に手に入るしなんにでも加工できる便利アイテムだ。住処のあちこちに積まれている。
ルゼはあれでいいかと思い、念じると葉っぱがすべて消えた。アイテムボックスに振れていると、中に葉っぱが入っていると感覚でわかる。が、なんというか、所持枠が十五枠あり、葉っぱだけで一枠埋まったようだ。
ドゥルグの歯切れの悪さも、これまであまり使用してなさそうだったのも理解できる性能だ。と、ドゥルグの言わんとするところを察して納得していると、
「ど、どういうことだ!?」
なぜかドゥルグが素っ頓狂な声で悲鳴を上げた。
「あの大量にあった葉っぱはどこにいった!?」
「どこって、アイテムボックスの中だけど、見てただろう?」
「見てたが…そんなことがあるのか!?」
「どういうことだ?」
ルゼにはドゥルグがなにをそんなに驚いているのかわからない。困惑するルゼを見て、ドゥルグは少し落ち着きを取り戻したようだ。
「嬢ちゃん、アイテムボックスにいくつ入れられるか答えてくれ」
「十五枠だな。不便だな。十五種類しか入らないなんて」
「本来なら十五個しか入らないはずなんだ」
「…え?」
「厳密に言うと入る個数は人それぞれだが、葉っぱなら二枚入れれば枠は二枠埋まる」
「ゴミ性能じゃないか」
「だから重たいもんか本当に大事なもんを運ぶ時にしか使わねえんだ」
納得できるような、できないような。いや、できない。
「あれ、じゃあなんで私は十五種類入れられるんだ?」
「おそらく常識の差だ。ワシらはそういうもんと思って使ってるから、全部まとめて一枠に入れようなんて考えたことがねえ」
そういうものだろうか。誰か一人でも試す者がいても不思議ではなさそうだけどとルゼは思うが、これが最初からここに生きている者とゲーム知識がある者の差なのだろうか。
「というか、思ったんだけどこれ魔石で代用できないのか?」
静寂。
「どういうことだ?」
「さっき魔石の中にドゥルグたちのスキルで空間を作ってそこに魔力を貯めるって言ってただろ? なんで魔力だけなんだ? アイテムは入れられないのか?」
質量があるものとないものの差だろうか。なんて考えていると、ドゥルグはカッと目を見開きわなわなと震えだした。
次いで、大きく息を吸い込むと
「同胞たちよ、集まれえええええええええぇーッッ!!」
絶叫した。
ルゼの耳がキーンッとなっている間に、何事かと集まった小人たちがドゥルグに話を聞いて同じように絶叫しだす。まるで性質の悪い感染症にでも感染したかのように、狂乱の輪はどんどん広がっていって、ついに収集がつかなくなった。
あまりにもテンションが振り切れまくっているので、怖くなったルゼはこっそり逃亡を図ろうとするも…技術の鬼となった小人たちにあっさりと発見。連れ戻されてしまうのだった。




