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{服作り~これからよろしくねまで}

「あたしはマイヤよ。よろしくね」


簡単に会釈を返すと、マイヤが先ほどドゥルグが持っていたものと同じ魔石を取り出す。


「悪いんだけど、これにも魔力を入れてくれないかい? さっき入れてもらったものは、ドゥルグが持っていっちまったからね」

「わかった」


魔力が満タンまで入ったことを確認すると、マイヤはルゼが寝ていた葉っぱに手を当てた。すると見る見るうちに葉っぱが形を変え、一枚の布のようになった。驚き目を丸くするルゼ。出来上がった布に触れてみる。感触も布そのものだ。何も知らなければ、もとが葉っぱだったなどとは思わないだろう。


マイヤはさらに布を四つに分けた。分けられた布は、一番大きなもの一枚、中くらいのもの一枚、小さいものが二枚だ。


「じゃあ、今着てるものを脱いでくれるかい」


言われた通りに服を脱ぐ。服というよりも、ぼろ雑巾といったほうがいいかもしれない。女性だけとはいえ、素っ裸なのでちょっと恥ずかしいなと思っていると、マイヤは小さな二枚の布のうち片方に触れ、瞬時にそれがパンツの形になった。


「はい、これ履いてみて」


履いてみると、サイズが合ってなく少々大きい。マイヤはそのままパンツに触れると、すぐにルゼにぴったりのサイズに変形した。同じようにもう一枚の小さな布を肌着に変える。…が、問題があった。


「あら、これじゃ入らないわね」


肌着はノースリーブタイプのものだったのだが、ルゼには翼があるので頭からかぶるタイプのものは基本的に着られない。どうしようかねえなんて悩むマイヤ。周りの女性たちも一緒に悩んでいる。


「胸だけ覆って、胸元はホックで留める感じにできるか?」

「ん? どういうことだい?」

「えーっと……紙とペンあるか?」


紙とペンはなかったが、表面をつるつるに加工した木の板にチョークのようなものがあったので、それを借りて絵を描く。所謂ブラジャーの前ホックタイプのものだ。小人女性たちは、それを興味深そうに見ている。


「なるほどねえ。でもこれ、ずり落ちたりしないかい?」

「伸縮性の高い布を使って、少しだけ長さを短くすれば大丈夫だけど…厳しい場合は両サイドに肩ひもをつければたぶん大丈夫」

「押さえつけすぎたら形が崩れるんじゃない?」

「あー、ワイヤー…じゃなくて、細い針金みたいなので形を整えればいいはず」


あまりブラジャーの仕組みに詳しくないので、質問にうろ覚えな知識を総動員して答えていく。女性たちはルゼの話をふんふん聞きながら、その通りに布を変形させていく。ワイヤーの部分は柔軟な針金を、ホックは鉄を加工して作成。


ひとつをルゼの体にあてて微調整を繰り返していくと、前世のブラジャー近しい品物が出来上がった。改良の余地はあるだろうが、着け心地は悪くない。


「やだ、これすごくいいわ! 動いても全然痛くない!」


自分たち用を作っていた小人が、試着してみながら感動した様子で興奮気味に言う。上半身裸の状態でぴょんぴょん飛び跳ねているのが、ちょっとシュールだ。


聞くと小人たちには胸部分の布を厚くしたタンクトップタイプのブラしかないのだという。服の上から形を出さないようにするためだけのものなので、激しく動けば胸は痛い。垂れるのもある程度効果があると伝えると、全員の目が光った。悩みだったらしい。


続いて問題なのはトップス。ブラ同様、翼があるので着用できるのはホルターネック系のものだけになるのだが、当然小人たちはそういう服の存在を知らないので、また絵に描いて説明する。が、さらに問題があった。頭は通っても、背中は別の方法で留めなければならない。


面ファスナーや線ファスナーについて聞いてみたが、案の定そんなものはなかった。ファスナーの存在に興味は持ってくれたので作ってみるとは言っていたが、すぐにはどうにかなりそうもない。


あれこれ議論した末に、ホックを採用することになった。等間隔に四つのホックをつけ、強度を確保する。


ただ自分ひとりで着替えられるようにとホックを背中の真ん中から下に配置した結果、背中が大きく開くことになったが仕方がないこととして諦めた。また布に余裕を持たせてしまうと隙間からいろいろ見えてしまうので、体のラインに沿ってぴっちりとしたシルエットになった。今はまだ成長途中で凹凸も少ないのでいいが、成長したら色々考えなければならないだろう。


最後はズボン。小人族が履いているのに近いスウェットズボンだ。ただルゼの場合は尻尾があって腰でしか履けないので、ずり落ちないようにゴムのほかに紐も採用。


「あら、靴と靴下のこと忘れてたわ」


靴下は葉っぱを加工して作り、靴は小動物の皮を加工して作ったズックのようなものになった。完成した衣類を纏った自分の姿を見下ろしたルゼ。


(全身緑だ)


大半が葉っぱを加工して作ったものなので仕方ない。辛うじて靴だけ皮なので茶色だ。するとマイヤが右手に黒、左手に灰色の粉末のを持って、右手をルゼのトップスに左手をズボンに触れると、たちまち色が変化した。靴下も右手で触れて黒色に変化する。


「さ、これでいいね。地味な色だが、あちこち動くと汚れるから我慢しなよ」

「全然。むしろこのほうがいい。ありがとう」


色々要望に応えてもらったことも含めて例を言うと、マイヤ含めた小人たちは鷹揚に笑った。


「かまわないよ。むしろ服の話は参考になったよ。またあとで話を聞かせとくれ」

「わかった」


約束をして、待たせているはずのドゥルグの後を追って外に出る。ドゥルグはルゼが込めた魔石の魔力を、色々な魔道具に移す作業をしているところだった。


「ん? おお、終わったか。だいぶマシになったな、嬢ちゃん」

「マイヤたちのおかげでな」


話の流れで今しがた出てきたばかりの木の入り口を振り返ると、ルゼが出てきたはずの穴がなくなっていた。一瞬見間違いかと思い目をこすってもう一度見るが、やはり入り口がない。


「認識疎外の魔道具で知覚できないようにしてんだ。そうしねえと、人間にもモンスターにも気づかれちまうからな」

「すごいな」

「だが、この魔道具を起動するのに五十人が魔力を注ぎ込んでいる状態だ。ものすごく効率が悪ぃ」

「五十人……おまえたちは何人くらいいるんだ?」

「百十人だ」

「ほぼ半数か……確かに効率が悪いな」

「だが、嬢ちゃんのおかげで認識疎外の魔道具に五十人も人員を割かなくてよくなりそうだ」

「それはよかった」


小人たちの先導で、彼らがいつも果物を採取しているエリアまで移動を開始する。小人たちの足でも移動できる範囲にあるので、程なくしてアープの実(リンゴ&桃味)の生っている場所に到着する。


リンゴや桃のように木に生る実だったのだが、ルゼから見てもかなり高い位置に生っている。


「いつもどうやって取ってるんだ?」

「ワシらも届かんから、いつもは下に落ちた奴を拾うんだ。落ちた奴だから鮮度はあまりよくないが、嬢ちゃんは飛べるから新鮮な奴が食えるぞ」


アープの実採取は手分けすることになった。まずルゼが木から直接実を採って、下に向かって投げる。下では小人たちが持ってきた重力操作の魔道具で一定の範囲を操作。その上に落ちたアープの実は地面につくことなく浮き続ける。それを小人たちが木を加工して作った箱に入れていく。箱四つ分の実が溜まると、今回はこれで良しとすることになった。


「結構な量を採ったが、どうやって持って帰るんだ?」

「重力操作で浮かしながら持って帰る。魔力に余裕があるからできることだな」

「うわあっ! サーベルボアが出たぞ!」


小人があげた悲鳴に振り返ると、木々の間から鋭く反り立った長い牙のようなものが見えた。ドシンドシンと重苦しい音を響かせて悠然と歩いてくるそれは、大柄の猪だ。


前世で見た猪よりも二回りほど大きな体躯に、一メートルはあるだろう長い牙。小人がサーベルボアと呼んだモンスターは、好戦的に蹄を地面に数度打ち付けると、こちらに向かって一目散に突進してきた。


「くそ! おめえら逃げろ!!」

「大丈夫だ」


ドゥルグは焦りを隠さぬ声音で仲間たちに退避を命じたが、ルゼの冷静な声がそれを止める。


「時に、サーベルボアの素材は使い物になるのか?」

「今そんなことを話してる場合か!? むしろいいほうだ!」


ルゼの場違いな質問に突っ込みを入れながらも、律儀に返答するドゥルグ。結構ノリがいいのかもしれない。ルゼは満足げに頷くと、人差し指をぴんと立てた。


指の先に竜晶の杭が出現する。驚愕で目を見開くドゥルグの前で杭を高速回転させると、残り三メートルほどまで近づいていたサーベルボアに向かって発射。狙いたがわず眉間を貫き、すぐに絶命したサーベルボアは慣性の法則に従って進み、ちょうどルゼたちの目の前で止まった。


「今日の晩御飯だ。……おい、顎が外れるぞ」


ドゥルグたち小人全員が、口をぽかんと大きく開け間抜け面を晒しているのを見て指摘すると、はっと反応した小人たちが一斉に自分の顎を押さえた。愉快な光景だ。


「ま、まさかここまでとは思ってなかったぜ」


顎を戻してさすりながら、ドゥルグが呟く。


「私があの屋敷を破壊したと思ってたんだろう?」

「思っちゃいたが、てっきり人間が持ってた魔道具でも起動させたんだとばかり……と、いうかなんだ、あの結晶は!? もしかして竜玉を作れるのか!?」

「”竜晶”だ。竜玉と少し違う。魔力を込めれば作れる」


試しに掌の上に球体の竜晶を作成する。小人たちがルゼの周りに集まってきて、四方から球体の竜晶を眺める。


「こいつはすげぇ…」

「こんな純度の高い結晶は見たことがないぞ!」

「魔力で作ってるからな」

「こ、これは嬢ちゃんが魔力の供給を断てば消えちまうのか?」

「消える」


ルゼはふっと掌の竜晶を消すと、小人たちは残念そうな顔をする。欲しかったのかもしれない。


「それより、あの猪は食べられるのか?」

「そうだった! もちろん食えるぞ! 久しぶりの肉だ!」


ちらりとこと切れているサーベルボアを見つつ尋ねれば、気持ちを切り替えたのか大きな声で返答するドゥルグ。


「食えるが、まずは血抜きだ! 嬢ちゃん、サーベルボアの首を切れるか?」

「切り落とすのか?」

「いや、太い血管が通っている部分を切るだけでいい」


ルゼ、指を竜晶化して言われた部分を切り裂く。すかさず、ドゥルグは短い筒のような物を取り出し、たった今付けた傷にあてる。すると筒の先からまるで水道の蛇口のように血が流れだした。


「血抜きするための魔道具だ。普段は小鳥かねずみでも捕まえた時にしか使わねえ」


他の小人たちも同じように筒を取り出し、血抜きを始めた。四人で行ったので、ものの数分でサーベルボアの血抜き作業が完了した。小人たちは重力操作の魔道具を追加で出し、サーベルボアもアープの実同様に浮かせて持って帰ることになった。


行きよりも断然軽い足取りで住処に戻ってくると、小人たちに大歓声で迎えられた。ドゥルグも言っていたが、久方ぶりの肉に喜びが抑えられないらしい。


住処の木の前にサーベルボアを置くと、ルゼは小人たちの指示のもとに解体作業を行う。まず首を切り落とした。頭と牙は魔道具の素材にするとのことで、数人の小人が運んで行った。ルゼは言われるがままに腹を裂き、骨やら内臓やらの部位を分けていく。


ただルゼも解体をしたことがないので、本当に指示のまま切り裂いて、あとはマイヤ含む小人女性たちがが器用にナイフで切っていく。解体においてルゼができることがなくなると、今度は調理用の魔道具に魔力を込めることを頼まれ、火の魔道具や水の魔道具と次々と魔力を込めていく。


その作業が終わると、マイヤが切り分けた肉を持ってきた。枝を削りだしたような櫛に器用に刺さっている。別の小人が重力操作の魔道具を使って、ルゼが使うための火の魔道具をもってきた。外出している間に作ったのだろう。


「お嬢ちゃんの分だよ。だけど悪いね。今、スープを作ってるんだけど調味料が足りなくて、お嬢ちゃんの分を用意できそうにないんだ。かわりに他の物を持ってくるから、それで勘弁してくれないかい?」

「気にしてない。むしろ私用の食器や魔道具まで用意してくれて助かった」


お礼を言って肉と調理器具を受け取ると、さっそく火の魔道具で肉を炙っていく。焼きあがったら小人たちが持ってきた葉っぱを加工したら皿に盛っていき、そのままでは味気ないからと渡された調味料をかけて出来上がり。


「嬢ちゃん、そこじゃなくてこっちで飯食うぞ!」


そう言ってドゥルグが指さしたのは木の穴の中。


「ワシらが採取に行ってる間に、嬢ちゃんが込めた魔力を使って入り口と中を拡張したんだ。嬢ちゃんも中に入れるぞ」

「こんなに早く……?」


驚きながら木の中に入ると、最初に見たときは小人たちが通れるくらいの大きさしか開いていなかった地下に続く穴がルゼが通れるくらいのサイズまで大きくなっていた。


「すごいな」

「そうだろ? 魔力があれば、こんくらいなんてことないんだがなあ」


思わず口から出た称賛に、苦笑しながら胸を張るドゥルグ。招かれるままに中に入ると、そこは円形の広間のような空間になっていて、等間隔に扉がいくつも設置されていた。ひとつ、左側に扉のない空間があった。


他の扉が小人くらいしか入れないサイズに比べ、その穴はルゼが通れるサイズのもの。ここが拡張してくれたという場所だろう。広間は長いテーブルが置かれており、その上に小人たちが作っていた料理が並べられている。他の部屋にアクセスするための部屋であるとともに、みんなで食事をするための空間なのだろう。


ルゼは広間を横切り、自分用に用意されたスペースに入る。ここも急遽作ったにしてはかなり広い空間になっていた。広さ約五メートルといったほどで、天井はルゼが立っていても余裕がある。


奥には葉っぱを加工して作ったベッド。手前にはルゼサイズの丸型テーブルと座布団。丸テーブルの上には土を加工して作ったらしきコップと、皿に盛られたアープの実。


ルゼたちが狩りに出て二時間ほど。たったそれだけの時間で空間拡張と、ルゼ用の日用品各種を用意していることに内心驚きを隠せない。


(もしかして、魔力さえあれば小人族ってものすごく優秀なんじゃ…?)


短時間で成された結果を考えるに、それは間違いなさそうだ。つい入り口の前で立ち止まってあれこれ考えてしまったが、後ろがつっかえてしまうので足早に用意された空間に入り、テーブルの上に持っていた料理を置いて座椅子に座る。葉っぱを加工したとは思えないくらい、座り心地がいい。


「よし! 全員準備はできたな? 今日は嬢ちゃんがサーベルボアを狩ってくれたから久々の串焼きと肉入りスープだ! だが嬢ちゃん用の調味料が足りなくて、嬢ちゃんだけ串焼きだけになっちまった。そこは申し訳ねえ」


頭を下げるドゥルグに、ルゼは首を振った。


「サーベルボアを狩って帰るなんて知らなかっただろうし、むしろこの空間を作ってくれていたんだ。こっちのほうが礼を言いたい」

「そう言ってくれると助かる。次はちゃんと準備するからな」


頷きを返すとドゥルグは笑って、傍らの盃を掲げた。


「よし、おめぇら盃を持て! 乾杯!!」

「「「「かんぱーい!!!」」」」


そこからは宴のようなどんちゃん騒ぎ。誰も彼もが幸せそうに肉を食べ、スープに舌鼓を打っている。ルゼも自分で焼いたサーベルボアの肉をかじる。味は牛肉に近い。渡された調味料は塩胡椒のような味がして、かけて食べるとさらにうまみが増す。飲み物はアープの実を使ったフルーツジュース。小人たちが飲んでいる物は酒精が混じっているようだが、ルゼは子供だからなのか普通のジュースだ。


栄養価の高い物は散々あの檻の中で食べさせられたが、ルゼのところに運ばれてくるころには大概冷めていた。暖かい食事は本当に久しぶりだ。味よりも何よりもその暖かさに浸って咀嚼していると、盃を持ったドゥルグがやってきた。簡単に乾杯を交わすと、ルゼの近くに座布団を引っ張ってきてどかっと腰を下ろした。


「よう、飯はどうだ?」

「暖かい料理を久しぶりに食べた。うまいな」

「…そいつぁよかった!」


ルゼの状況を思ってか、ドゥルグは一瞬辛そうな顔になったがすぐに豪快に笑った。


「マイヤに聞いたが、服に関して色々とおもしれえアイデアを出したんだってな」

「面ファスナーと線ファスナーのことか?」

「おう、それだ! 話を聞いたが、実際にできりゃ色んなものに応用が利きそうだ。その調子で、おもしれえことを思いついたらどんどん言ってくれ」

「わかった」

「嬢ちゃんとはいい関係が築けそうな気がするぜ。これから改めてよろしくな!」

「よろしく」


改めてドゥルグの手を握る。記憶を取り戻した当初は自分に降りかかる運命を呪ったが、ようやく少しずつ好転し始めたのかもしれない。


そうであればいいなとルゼは願った。

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