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どっちが理不尽?

 動物園後から、八比呂くんの態度が軟化してきたと、月翔九十九から報告を受けた。

 今までずっと兄を避けまくっていた八比呂くんが、現在では積極的に兄に関わり教育的指導を行っているという。

 うんうん、いい傾向だね。

 やはり危機感は人を急速に変化させるよ。

 そう語った月翔九十九がひどく苦々しい表情をしていたけど、贅沢をお言いでないよ。二兎を追う者は一兎をも得ず、だよ。

 欠点のない万能型より、万能型だけど苺キチな残念兄のほうが親しみやすいだろう。

 お説教ばかりでツライというキミには、特別にゲームを貸してあげよう。

 私が円と夏休みにやったアクションゲームだ。

 それを使って八比呂くんと兄弟らしい交流をしたらいいよ。あ、でも経験値稼ぎのために敵大将の取り合いはしちゃダメだぞ。

 あれは逆に喧嘩の元になるからね。

 泥沼化するから気を付けて。


 貸してから気付いた。

 万が一、残念兄がゲームうますぎたらやばいんでないか?

 せっかく埋まりつつある溝がまた広がってしまうんじゃ……彼はそういうとこで空気読まないし。

 貸したことをちょっと後悔していたら、八比呂くんからメールが来た。

 ”兄貴がゲーム下手過ぎて相手になんないんだけど、どうしよう?”……月翔九十九の能力が、珍しく空気を読んだようでいて読んでいない。

 相手にならないんじゃお話にならないぞ。

 キャラが高速で動くアクションは、月翔九十九にはまだ早かったかな。

 まずはサスペンスから始めようか。

 頭を使うのなら得意でしょ。二人で仲良く考えなさいな。






 梓川さん家のマリアさんとアリアさんから、艶子さんと一緒に自宅に来ないかと招待を受けました。先日のパーティーの時のお礼を、改めてしたいのだと言います。

 そういえばあの時はゴタゴタしていて、結局マリアさんとアリアさんは艶子さんにきちんとお礼を言えてなかったような気がする。

 二人はブローチをとても大切そうにしていたから、使いの者を寄越すのではなく、面と向かってお礼を言いたいんだろうな。

 私はそう何回もお礼を言われるようなことはしてないけど、マリアさんとアリアさんにはまた会いたいし、受けようかな。……艶子さんはたぶん、私は絶対承諾すると思ってるだろうから逆に来ると思うし。


 私は先方に承諾の返事をした。

 梓川さん家の執事さん、つまりパーティーに来ていた竹中さん(名前調べた)曰く、艶子さんからも承諾の返事を貰ったとのこと。

 私たちは四人でスケジュールの調整を行い、週末に梓川さん宅にお邪魔することになった。

 マリアさんとアリアさんのお屋敷、楽しみだな。なにか手土産とか持ってった方がいいよね。

 なにがいいかな…私はそういうの、あまり詳しくないから母さんに聞いてみよう。


 あっという間に時間が過ぎて週末、マリアさんとアリアさんのお家に行く日になった。

 岩倉さんに乗せてってもらって向かった梓川さん宅は、艶子さん家とは真逆の様式。

 艶子さん家は純日本家屋って感じのお屋敷だったけど、梓川さん家は日本にこんな中世ヨーロッパ的お屋敷あったの!? という感じの洋風のお屋敷だ。

 玄関先まで車で送ってもらうと、マリアさんとアリアさん、それに執事の竹中さんが玄関先で出迎えてくれた。


「いらっしゃい! 京さま」

「いらっしゃいませ、京さま」

「お待ちしておりました、狩矢さま」

「こんにちは、お出迎えありがとうございます」


 お互いに挨拶を交わし、母さんに紹介してもらった手土産のバームクーヘンを二人に渡した。


「わざわざありがとうございます」

「ありがとー、京さま! 艶子さまが私たちの部屋で待ってるから、京さまも行きましょう!」

「もう、アリアったら……そういうことですので、よろしいですか? 京さま」

「ふふっ、はい」


 元気なアリアさんに手を引かれる形で、私は二人の部屋まで案内された。

 道すがらお屋敷のことについて尋ねると、二人の亡くなられたお祖母さまがイギリス人で、彼女の実家に合わせて屋敷を建てたのだと教えられた。

 お祖母さまがイギリス人ということは、二人はクォーターなんだ。

 そのお祖母さまがつけたから、二人の名前は洋風チックなんだねと話をしていると二人の部屋に着いた。

 マリアさんとアリアさんの部屋は映画でよく見るお姫様の部屋をそのまま抜き出してはめたみたいだった。

 天蓋付きのベッドって初めて見た。

 狩矢家うちも洋風だけど現代的な洋風さの家だし、天蓋付きベッドっていうあきらかなお姫様アイテムは似合わないから、私のベッドは普通です。

 先に到着していた艶子さんは、白いアンティーク調のコーヒーテーブルに、テーブルに合わせてしつらえられたと思われる白いチェアに姿勢よく座って待っていた。

 純日本人なのに違和感なく部屋に馴染んでいる艶子さんは、さすがだと思います。

 逆に馴染んでいない私は違和感半端ねえっす。

 大丈夫かな、浮いてない? 浮いてない?


「こんにちは、艶子さん」

「ええ、こんにちは」


 なーんてこと聞けないんで心の中で自問するに留めます。

 けど私の心の不安を正確に感じ取った艶子さんから「残念だけどあなたはアウェー」と視線での返答をいただきました。

 ありがとうございます。泣きそうです。

 勧められるまま艶子さんの隣に座り、マリアさんとアリアさんは私たちの対面の席に座った。


「艶子さま、京さま、本日はわたくしたちの我が儘にお付き合いいただきありがとうございます」

「ありがとうございます!」


 竹中さんが淹れてくれた紅茶と用意してくれたショートケーキに舌太鼓を打ち、ほっと一息ついたところでマリアさんとアリアさんが口火を切った。


「特に艶子さま、お礼が遅くなってしまい申し訳ありませんわ。パーティーの時は、わたくしのブローチを拾ってくださって本当にありがとうございます」

「気にしないで。私は偶然拾っただけよ」

「このブローチは、私とマリアにとってすっごく大切なものなの。だから見つけてくれてすっごく嬉しかったんだ!」


 胸元で輝くカメオのブローチに触れながら、満面の笑顔でお礼を言うマリアさんとアリアさん。

 艶子さんは少し照れた様子で、それを誤魔化すように紅茶を口に運んだ。

 美少女たちの語らいは、見ていて本当に癒されます。いやあ、今日は来て本当によかった!

 なんて心で思いつつも、面には出さない。

 幸いマリアさんとアリアさんには気づかれなかったけど、艶子さんにはやっぱり気づかれて、キッと鋭い視線を向けられました。


「そっそれにしても、マリアさんとアリアさんのブローチ、すごく綺麗ですね。周囲の細工も見事ですし、なによりも真ん中の女の子がとても可憐です」


 私は艶子さんの視線から逃れるべく、ブローチの話題を振った。

 改めて二人のブローチをじっと見てみると、なんだか真ん中の女の子、どことなくマリアさんとアリアさんに似てる気がする…。


「ありがとうございます。これは、亡くなったお祖母さまがわたくしとアリアが生まれた記念にと、贈ってくれたものなのですわ」

「真ん中の女の子も、私たちがモチーフなんだって!」

「なるほど。通りでお二人に似ていらっしゃると思いました」

「そう言っていただけると嬉しいですわ」


 真ん中の女の子は、お祖母さまが成長したマリアさんとアリアさんの顔を想像したものなのだそうだ。お祖母さま、すごいな。本当に二人にそっくりだよ。

 それから私たちは、よりいっそう話に花を咲かせた。

 この間のパーティーのこと、日常生活のこと、習い事のこと。

 話題には、まったく事欠かなかった。


「そういえば、京さまと艶子さまはどちらの小学校に通っていらっしゃるんですか?」


 色々話していくうちに、話題は学校のこととなった。

 思い返してみれば、二人には私たちがどこの学校に通っているのか、まだ言っていなかったな。


「僕は三保原小学校だよ」

「私は華苑館かえんかん学園よ」

「華苑館学園は、窮聖館の姉妹校ですわね。三保原小学校は……」

「窮聖館の近くにある公立小学校ですよね?」


 マリアさんとアリアさんは、艶子さんの通っている小学校には納得したふうだったが、私の通う小学校を聞いて少し驚いたようだ。

 そうだよね。すぐ近くに窮聖館あるもんね。


「家の方針なんですよ。兄二人も、小学校は三保原小学校に通っていました」

「そうなんですの」

「じゃあ京さま、中学校はどうするんですか?」

「窮聖館へ通いますよ」

「そうなんですか!」

「艶子さまは、やっぱり華苑館の中等部へ進まれますわよね?」

「そうね。父と母が通っていたところだから、私はそのまま中等部へあがることになるわ」

「残念ですわね……」


 マリアさんとアリアさんは、艶子さんとは同じ学校に通えないと知って残念そうに眉根を下げた。

 私も本当は艶子さんと同じところに通いたいんだけど、さすがに地雷(月翔九十九)を放置してはいけないな。


「マリアさん、アリアさん。中等部へあがったら、京の面倒をお願いしてもいいかしら?」

「艶子さん、面倒って……」

「ええ、もちろんですわ!」

「中等部でもよろしくね! 京さま!」


 艶子さんは、まるで私の保護者のような口調で、二人に私のことをお願いした。

二人と仲良くできるのは嬉しいけど、面倒って……どうゆうことですか、艶子さん。せめて友達って言ってくださいよ。

 笑顔で即答してくれたことは、本当にありがたいのだけど、お二人も面倒ってところにツッコミを入れてください。

 苦笑を浮かべる私に、「だって事実”面倒”でしょ」と艶子さんは事もなげにそう告げました。ごもっともですとも。


 私はがくっとうなだれながら、改めて二人に「よろしくお願いします……」とお願いしたのでした。






 運動会がまじかに迫ってきたこともあり、本日は各競技の練習をすることになった。と言っても、私が出場するのは借り物競争だから、練習する必要はあまりない。

 だから、あまり練習する必要のない種目に出る子たちと一緒に、組み体操の練習をしている。

 前世では上に乗っかることが多かっただけに、下で小柄な子を支える役というのは新鮮だ。

 落とさないように集中していると、突然背後から聞き慣れた黄色い歓声が聞こえてきた。

 支えていたクラスメイトをゆっくりおろしてから、振り返る。

 案の定、背後ではちょうど騎馬戦の練習を行っているところだった。

 今やっているのは、クラス内対抗戦。


 女の子たちが注目しているのは、言わずもがな月翔九十九率いる騎馬だろう。

月翔九十九の騎馬のメンバーには、もちろん私が推薦しておいた幽がいる。

 月翔九十九によって真正面に配置されたらしく、ものすごい渋々顔で彼の指示に従っている。ざまあ。

 他の騎馬戦のチームを見てみると、見知った顔を見つけた。間宮くんと岸山くんだ。

 間宮くんは運動神経抜群だから、騎手に抜擢されている。

 それはわかるんだけど、なぜあまり気が強くない岸山くんまで騎馬戦に参加しているのか? と思うだろう。

 理由は単純。馬役が不足していたため、馬決めのじゃんけんで岸山くんが負けたからだ。

 岸山くんのじゃんけんの腕は、宿泊学習の時からなにも変わっていないらしい。

 面白味のない月翔九十九&幽チームよりも、私はこっちの間宮くん&岸山くんチームを応援するよ。

 特に岸山くん、ファイト!

 気張らないともみくちゃにされるぞ!


「いちについて、よーい……はじめ!」


 審判役の男子の声を合図に、クラス内対抗戦、騎馬戦が始まった。


「月翔くーん、がんばってー!」

「あたし、応援してるから負けないで―!」

「キャーッ! 冥間くーん!」


 女の子たちの熱烈の声援に応えてか……いや、まったく関係ないだろうが、月翔九十九&幽の騎馬は次々と敵の騎馬からハチマキを奪う。

 嫌そうな顔をしていたが、なんだかんだ機敏な動きで敵の騎馬のタックルを避ける幽。

 その一瞬の隙をついて、素早く相手のハチマキを奪う月翔九十九。

 だけど、間宮くん&岸山くんの騎馬も負けてない。

 間宮くんのチームは、騎馬はあまりうまく動けていなかったが、その分間宮くんが頑張っていた。

 間宮くんは運動神経の良さを発揮して、相手の手を紙一重で避けてはハチマキを奪っている。

 一騎また一騎と騎馬は減っていき、とうとう残ったのは月翔九十九&幽の騎馬と間宮くん&岸山くんの騎馬のみとなった。


 両騎馬は睨みあい、ついにぶつかりあった。

 傍目から見るに、月翔九十九と間宮くんの力は互角だ。

 月翔九十九も間宮くんも、なかなかお互いのハチマキを奪うことができないでいる。

 今までの中で、一番長い競り合いだ。しかし、徐々に間宮くんの騎馬が押し負け始めた。

 騎馬の差は、月翔九十九チームのほうが上のようだ。


「間宮くーん、岸山くーん! がんばれー!」


 白熱する応援合戦に、私も乗っかって間宮くんたちへエールを送った。


 ――――次の瞬間、誰も想像だにしていなかったことが起こった。


 ずるぅっ


 なんと、月翔九十九と幽が同じタイミングで手と足をすべらせたのだ。

 間宮くんのハチマキにもうすぐ手が届くという位置で、なぜか月翔九十九は手をすべらせて取り損ない、幽は幽でなにもない場所で足をすべらせて体勢ごと騎馬を崩れさせた。

 自滅……白熱した戦いにしては、なんとも無様な結果を残して、クラス内対抗戦騎馬戦の決着がついた。

 あまりの結末に、私も含めて周囲は呆気にとられた。

 しばらくして女の子たちの悲鳴で、ようやく我に返ることができた。

 私は罰の悪そうな顔で起き上がる、月翔九十九と幽に近寄って声をかけた。


「なにしてんの、二人とも」


 この二人にしてはあまりに無様な様相に、思わず素で話しかけてしまった。

 みんな、騒いでいて聞こえていなかったのが幸いだ。

 月翔九十九と幽は、苦虫を数十匹ほど噛み潰した表情で顔を見合わせた。

 そして、私を見る。……なんなのさ、その顔。


「どっかの誰かの間抜けな声のせいで気が抜けた」

「はあ?」

「狩矢、悪いけど本番では喋るな。気が散るから」

「なんで!?」


 なんなんの、こいつら。

 いきなり、人のこと間抜けって言ったり気が散るから喋るなって言ったり!


 すっっっごい理不尽ッ!


 いいもん、いいもん!

 そこまで言うなら本番まで喋らないでいてやるよ!

 ついでに柘榴と八比呂にチクッてやるからな!


 それから本番当日まで、私は奴らと一切口を利かなかった。……そうしようと思ったけど、先生に泣きつかれて断念することになった。

 かわりに弟妹の制裁が、奴らを襲うことになった。

 なに、そんな非道なものじゃないさ。

 ただ柘榴と八比呂に、二人の自室の机の上に紙を置いてもらっただけだよ。

 月翔九十九のほうは裏面に「バカが見る」と書いた紙を置いて、幽のほうはそれプラス、保険としてゴミ箱の底に「バカは図星をつかれて紙を捨てる」と書いた紙を貼ってもらった。


 ふんだ。

 私を怒らせたらどうなるか、思い知るがいいさ!

 

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