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馬を馬鹿にすると馬になる。

 柘榴からメールが届いた。


 正確には幽のケータイを借りた柘榴からメールが届いた、だけど。

 件名が”京姉さまへ”となっていなかったら絶対開けなかっただろう。

 余談はさておき、メールの内容はパーティーの時に約束した遊びに行く件について。

 柘榴から”動物園に行きませんか?”というお誘いが来た。

 動物園か……どーせ幽も来るんだろうな。幽のケータイだから知らないなんてことはないだろうし。


 なら、ちょうどいいかもしれないな。


 柘榴には動物園行きをOKして、日時は保留にしてもらった。

 あと人数もね。






 色々あった夏休みも開けて、新学期が始まった。

 みんな夏休み中は旅行に行ったとかキャンプに行ったとか、友達と話し合っていて楽しそうだ。

 一部区域がお土産渡しのために人口爆発が起きているので、私たちは間宮くんの机周辺に避難だ。避難民は私と綾里さん、岸山くんの三人。

 茅島さんならお土産を置いて、人口爆発構成員のひとりになってる。

 茅島さん、席となりなんだからあとで普通に渡せるのにね。

 恋は盲目。恋する乙女は暴走機関車。

 人口爆発地帯を見てるとそれがよくわかるよ。


 茅島さんはご家族で京都に行ったそうで、お土産は綺麗な折り紙と八つ橋がモチーフらしいキャラクターのストラップ。

 私のストラップは抹茶味の八つ橋なんだけど、このキャラクター顔がものすごく微妙。

 可愛いといえば可愛いような気がしないでもないような、でも錯覚のような形容しがたい顔をしている。旅行テンションで購入しちゃう感じのお土産だ。

 綾里さんたちも同じものを貰っていた。

 綾里さんはさくら味。岸山くんはニッキ。間宮くんは塩味。茅島さん自身のはオレンジだ。……岸山くんと間宮くんのマスコットのチョイスがちょっとあれすぎる。

 彼ら二人のマスコットの外見にほとんど差異がないぞ。なぜ二種類作ったんだレベルだ。

 幽と月翔九十九には何味を買ってきたのか気になるな。あとで見に行こう。

 話を聞いてるとみんないろんなところに行ったんだなあと思う。

 綾里さんは会津若松の鶴ヶ城へ。岸山くんはご両親とカヤックをしに長野へ。間宮くんは泊りがけで海釣りへ。

 私はといえば、みんなで夏祭りに行った後はパーティーの準備でてんてこ舞いでどこかへ行く余裕もなく。

 終わってからは円とゲーム三昧……うわ、むなしい。あな、かなしい。

 

 綾里さんからずんだが練り込まれたクッキーを頂きました。

 ありがとう。美味しいです。

 私も今度、きっとなにか買ってくるよ。


 始業のチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきたので、人口爆発構成員たちも名残惜しそうにしながら席へ戻る。私たちも間宮くんにお礼を言って席に戻った。

 ちらっと確認すると幽は黒ゴマ味の八つ橋だった。

 八つ橋シリーズの中でも特に微妙なその顔がなんだか幽と似てる気がして笑える。

 もうそれ鞄につけたらいいよ。その黒ゴマ八つ橋はきっとおまえの擬人化バージョンだから。

 声をあげて笑いたいけど、この状況でそんなことできない。

 パーティーで培った仮面を今こそ被るとき。平静を装って微笑の仮面を顔に張り付けて脳内で大爆笑する。

 が、私の心の声が聞こえたらしい幽が一瞬鋭い視線を向けてきた。

 あちゃ、脳内で爆笑してたのがバレた。

 こりゃ後で仕返しくるかも。注意しよ。

 月翔九十九は……考えるまでもなかったわ。イチゴ味の八つ橋。

 茅島さんもよくわかっていらっしゃる。

 彼は顔が微妙なイチゴ八つ橋でも嬉しそうだ。最早、イチゴであれば何でもいいのかもしれない。

 もしかしたら鞄につけるかもしれないな。

 それはちょっと、視覚の暴力すぎるからやめてもらいたい。






 小学校の運動会は、たいてい五月にある。

 しかしうちの学校は五月に宿泊学習があるから、かわりに運動会は十月のはじめにやることになっている。

 委員会や係り決めが終わったら、新しい実行委員の司会のもと運動会の競技決めを行う。

 五年生が参加する競技は徒競走(選抜・クラス対抗)、借り物競争、障害物競争、玉入れ、綱引き、マスゲーム、騎馬戦、応援合戦、大玉送りだ。

 選抜リレーは体力測定で脚の速い人から選ばれるのですぐに決まった。

 借り物、障害物、玉入れ、騎馬戦は選択式で、どれかひとつでも出場すればいい。

 意欲のある人は複数出場することができるが、規定人数に達してしまうと出られない。

 私は借り物競争に出ることにした。

 騎馬戦にも誘われたが、やんわりとお断りさせてもらった。

 私は乳製品摂りまくりの成果もあって、小学五年生にしては身長が高いほうだ。

すでに前世の最高身長は越えている。

 こう言うとむなしいけど、がたいがいいので騎馬戦向きと思われたのだろう。


 けど、私は騎馬戦には苦い思い出がある。

 あれは前世のちょうど今と同じ小学五年の時だ。

 私は騎馬戦にエントリーしていて、仲のいい他のクラスの友達も騎馬戦にエントリーしていた。

 私と彼女はお互いは狙わないようにしようと約束しあった。

 だが当日、順調に相手の鉢巻を奪取していた私の鉢巻を背後から敵の騎馬にとられた。その敵の騎馬が約束した友達だったのだ。

 それはまだいい。友達も立場上、目の前に自分に気づいていない敵の騎馬がいたらとらなければクラスに非難されてしまうから。

 友達とは運動会が終わったら一緒に帰る約束をしていた。

 私のクラスのほうが早めに終わったので、友達はまだかなとクラスを覗き込んだとき、みんな一斉に私のほうを向いて、そして笑った。

 私はなぜクラス中に笑われてるのかわからなくて、とりあえず顔をひっこめた。

 後で別の友達に話を聞くと、ちょうど私が顔を見せたときに騎馬戦で友達が私の鉢巻を取った話をしていたらしい。

 タイミングがよすぎたのだと友達は笑ったが、私としては全然面白くない。

 約束は破られ、他所のクラスには笑い者にされる。小五の心は繊細なんだぞ。


 以来、私は騎馬戦にだけは出ないと心に誓った。

 あと運動系の一緒に~しようねはあてにならないとあの時悟った。

 持久走とかで仲良い友達同士でよく約束するけどさ、守られることってほぼないと思うんだよね。


 だから、「ならせめて馬のほうで……」と食い下がってもお断り。

 私の意思は固いぞ。つーか、むしろそっちが本命だったろう。

 なおも食い下がるクラスメイトに、馬をやらせるのはさすがにやばいと思ったのか、先生が「やりたくないなら無理にやらせるもんじゃない」と止めに入ってくれた。


「やればいいじゃん。馬」


 さっき心の中で爆笑した仕返しか、幽がにやにや顔で私に言ってくる。

 馬がやりたくないんじゃなくて、騎馬戦に出たくないんだよ。


「幽が騎馬戦に出たいそーでーす。馬のほうで」


 あまりに鬱陶しいので実行委員に売ってやった。

 実行委員は嬉々として幽の名前を騎馬戦メンバーのところに書き込む。

 幽の抗議は全員で無視した。

 さっき無理やりやらせるのよくないと言った先生も、私の行為を黙殺した。

 女の子たちは外見だけはいい幽が騎馬戦に出ればまあまあ見栄えもいいので、私の味方。

 男子たちも運動神経のいい奴が出てくれたほうがありがたいので、同じく私の味方。

 四面楚歌だな、幽。ざまあ。

 だがしかし、おまえだけを売るのはかわいそうだから仲間を作ってやるよ。


「月翔くんも出たら? 幽が馬の騎馬で騎手やればいいと思うよ」


 どうぞ遠慮なく踏みつけてやってください。私の心もすっきりするから。

 私の副声音を的確に聞き取った月翔九十九が、ちらりと幽を一瞥して「そうだな」と首肯した。

 同時に、女の子たちの歓声が響き渡る。

 学校で一、二を争う美形が花形種目に出る。その事実に彼女たちの心は有頂天。

 私、いい目の保養を提供したでしょ? 褒めて褒めて。


 あとで女の子たちからものすごく感謝された。

 特に茅島さんには念入りにお礼を言われた。彼女は幽が馬でもなんでも関係ないのか。

 もう茅島さんと付き合いなよ、幽。

 おまえのことをこれほど好きになってくれる相手はこの先現れないぞ。

 他の競技も出場者や順番が決まったので、あとは練習して本番を待つのみ。


 けど運動会を迎える前に、私にはひとつやらなきゃならないことがある。

 仕込み・・・も終えたし、あとは成功するかどうか。



 ま、ここは不甲斐ないけど時々は役に立つ兄を信用しようか。



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