基準おかしい。
狩矢家主催パーティー”月華祭”は盛況のまま幕を閉じた。
ようやく純粋に夏休みを謳歌できる~と思った頃には夏休みも残すところ一週間ばかり。
この残された時間をどう有意義に使おうかなと思案しているとゲームのパッケージ片手に円が訪問してきた。
「京、どーせ暇だろ? 遊んでやる」
暇なのはおまえのほうだバカ兄。
遊んでやると偉そうに上から目線に言いおって。
だが、こんなお子さ円と違って私は大人。
一緒にゲームをやろうと誘う友達も彼女もいない寂しい寂しい円に付き合ってあげようじゃないか。感謝しなさい。
ついでに聞きたいこともあったし、ちょうどいい。
コントローラーも本体も円の部屋にしかないのでそちらに移動。
配線は円に任せて私はコントローラーを構えて待機。…私の部屋にも欲しいな、ゲーム機。
前世ではゲームばっかやってたけど、今生はあまりやってない。
前世はなに買ってどこに置いて誰に見られようとも大丈夫だったけど、今生は色々体裁取り繕ってるからそうもいかない。
下手なもん置いて見つかって気まずい思いしたくないしなあ。
しばらくは欲しいゲームがあったら円の部屋を占領してやろうかな。うん、そうしよう。
「ねえ、聞いてなかったけどなんのゲームやるの?」
「これ」
円が掲げたのは各時代の有名な武将を戦わせるアクションゲーム。
この世界の歴史は前世で私が習ったものと一緒。そしてどの世界でも武将はみんなに大人気だ。
前世でもそういうゲームが流行ってた。前世は圧倒的に戦国時代率が高かったけど。
配線を繋ぎ終えた円が戻ってきて私の隣に座る。
お菓子とジュースを用意してコントローラーを構えたら準備完了。
オープニングが流れてるうちにお菓子の袋を開ける。
本日のお菓子は円提供、ポップコーン。ちなみにバターしょうゆ味。
いいよね、ポップコーン。私はバターしょうゆと塩味が一番好きだ。
キャラメルの誘惑になんて負けないぞ。
タイトル画面を過ぎたら武将選択に移る。
様々な時代の武将たちがずらっと並んでいて、誰にしようか迷う。
…というか、前世でもそうだったけどあなたは武将という括りで本当にいいのかと首を傾げてしまうような偉人がちらほらいる。
こういうのはツッコんだらダメだとわかってるけど、私の性分的にツッコミたくなるんだよね。
とりあえず私は判官贔屓で有名な人を選ぼうかな。
美形、好きだよ。女の子と一緒で目の保養になるし。三次元の美形は残念なのが多いけど。
円が選んだのは「我に七難八苦を与えたまえ」という名言を残した人。
彼は私のなかでもなかなかに印象深い。
前世で歴史の先生が熱心に彼のことを力説していたが、授業後に友達が「つまりはMなの?」と聞いてきた。
勇猛果敢な武将も、現代っ子の前ではただのMになる。
涙が出るね。いろんな意味で。
「ねえ、円」
「ん?」
ステージを選択したらゲーム開始。
敵将を倒しながら武器やお金、HPやMPを回復させるアイテムを拾っていく。
ゲームを進めつつ、私は気になっていたことを円に聞くことにした。
「円さ、扇兄さんに劣等感って感じたことある?」
「劣等感?」
私の言葉を反芻した円はぽちぽちと技を打ち込みながら考えるように「んー」と唸った。
「なんでそんなこと聞くんだよ? まさかおまえが兄貴に劣等感感じてるとか? 似合わねー」
「私なわけないじゃん。円に劣等感感じるとかありえないし、扇兄さんは尊敬の対象だし。第一私が兄さんに劣等感感じるとかおこがましすぎる」
扇兄さんと私はそもそも同じステージに立っていない。
極端な話、テレビで見るノーベル賞受賞者相手にいちいち劣等感なんて覚えないのと一緒。
「俺がありえないってどういうことだよ」と文句を言う円は総スルー。
「私じゃなくてさ、友達の話。私は兄さんたちに劣等感感じたことないからいまいち気持ちがわからないんだけど…円、わかる?」
できれば、弟くんの劣等感なんとかしてあげたいと思う。
考えてみたんだけど、どうも月翔九十九が私に気を許すのが早すぎた気がするんだよね。ヒロインちゃんの悪戦苦闘具合を知っている私からすれば抵抗がぬる過ぎる。
正直、私が友達になろうとあれこれ画策しなくても彼はいつかは周りと打ち解けることができたと思う。
抵抗がぬるかったのも気を許すのが早すぎたのも、すでに弟くんという大切に想う存在がいたから心を開きやすかったというのが私の見解。
そんなに想ってるのに、一方通行なのはかわいそうじゃないか。
ぜひ両想いになってもらって、今後の危険度を大幅に下げていただきたい。
自己中でごめんね。誰でも己が命は惜しいもんだよ。
円は画面を睨みつけるように渋面を浮かべ、やがて「……まあ、少しは」と吐露した。
その告白に少々面食らう。円は弟くんと違ってそんな様子がまったくなかったから。
「…円が扇兄さんに劣等感感じるとかおこがましいにもほどがある」
「はっ倒すぞ、バカ京」
円は憎まれ口を叩いた私に制裁を加えようとするが、すぐにコントローラーを握っているのを思い出したようで諦めた。
「くそっ……まあ、今は感じてねーよ」
円の表情を見る限り本心からの言葉のようだ。
なんだ、柄にもなくフォロー入れようかと思ってしまったじゃないか。
「なんで感じなくなったの?」
聞いちゃいけないような雰囲気でもなさそうなので、聞いてみる。
円はなぜか眉間に皺を寄せて、なんとも言えない顔で私をじっと凝視してきた。
なに? 私の顔ばっか見てる場合じゃないぞ。
画面見てみなよ。円のキャラ、まさに名言通りの目に遭ってるぞ。フルボッコだよ。
私が画面を指さして、ようやくキャラの状態に気づいた円は慌てて自分に群がるモ武将たちを蹴散らす。
だがHPが瀕死だ。仕方ないから回復アイテムを投げ渡した。
今、共闘中だし。円が倒されると私が大変だ。
「……兄貴がシスコンだって知って冷めた」
「は?」
不意を衝く円の告白に今度は私が呆気にとられた。
思わず円のほうを向いて数秒、時を止めてしまった。
その間にさっきの円同様、キャラがモ武将にボコボコにされる。慌てて蹴散らすが、HPが大幅に減ってしまった。
アイテムアイテム……って、さっき円にあげちゃった!
くっそー、あげなければよかった!
「…なんでそれで感じなくなるの?」
仕方ないから回復アイテム見つけるまで攻撃を受けないように頑張ることにして、円に意味不明すぎるその理由について問う。
扇兄さんのシスコン発覚で劣等感がなくなったって…ホント意味わからん。
だいたい兄さんのシスコン具合なんて、父さんの親馬鹿加減に比べたら格段にマシだ。
近所に行くだけで黒服つけようとするのはさすがにどうだ。黒服の無駄遣いもいいとこだ。
きちんと給料出してるからいいかもしれないけどさ、私の迷惑考えろ。
それに引き換え兄さんは私の迷惑になるようなことはしない。むしろ月華祭では窮地に陥っていた私を助けてくれた。
私は自分がブラコン(扇兄さん限定)な自覚はあるけど、兄さんは兄として私を可愛がってくれているがシスコンと言うほどじゃないぞ。
そう主張すると円は首がもげるんじゃないかってくらい激しく首を振った。
「おまえ、兄貴がどんだけシスコンなのかまるでわかってねえ……ッ!!」
「いや、わかってないのは円でしょ」
「じゃあ聞くけどさ、もし兄貴の周りに女が群がってたら、おまえはどう思う?」
「女の子を群がるとか言うな。…やっぱ兄さん人気だなーって。っていうか、兄さんの周りに女の子がよく集まるのはいつものことでしょ」
「兄貴が家に彼女連れてきたら?」
「祝福して目の保養になってもらう」
兄さんが選んだ女性だぞ。とても素敵な女性に決まっているだろう。
「俺からすればおまえはブラコンって言えねえ。その前の前の前の段階だ!」
正直に言ったらばっさりと切り捨てられた。
む…私の兄さんへの想いも否定された気分。
「じゃあ、円基準のシスコン・ブラコンってなに?」
「近づく異性すべてを敵視して、社会的・物理的抹殺を試みようとする」
大真面目な顔で簡潔に言い切る円。
その返答に私は若干どころかマジで引いた。
「…………なにその基準」
「なにすげードン引きみたいな顔してんだよ。俺が一番ドン引きしたっつーの!」
「まさか扇兄さんがそうだって言ってる? 妄想は頭の中だけにしてくれない?」
「妄想じゃねえ! 事実だ!」
いやいやいや、だって……ねえ?
これを円の妄想と言わずしてなんと言うのさ。
「……円、忘れてるかもしれないけど、扇兄さんまだ中学生だよ? 中学生が社会的抹殺とか物理的抹殺とか考えたりする?」
「すんだよ! 兄貴はな!」
「それこそ兄さんとは無縁の思考でしょ」
「無縁じゃねえから言ってんだよ! おまえ、危機感が足りねえ! このままじゃ一生彼氏も結婚もできねえからな!」
「自分の話?」
「ちげえよ!!」
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「――――とにかく円は扇兄さんの人間味あふれた部分を見て自分がなんとかなんとかしなければという責任感を感じ、逆に劣等感を感じなくなったと、そういうことでいいね」
しばらく言い合いしてたけど、どこまでも平行線で交わらない。
言い合いに疲れた私は無理やりそう結論付けた。
ちなみに、その間もずっと手は動かし続けてた。フルボッコはもう御免だ。
「人間味じゃなくて幻滅点な。手におえなければおえないほど、責任感が強くなって劣等感とか考えてる場合じゃなくなる」
「……なるほど」
扇兄さんのシスコン度がそんな手におえないものとは思えないけど、円はそれで劣等感を感じなくなったのだというから信じよう。
月翔九十九の幻滅点……間違えた。人間味あふれた部分。
私からすれば友達は斯くあるべきみたいなあの考えはちょっと残念だが。
いや、同性に発揮してくれたら別に問題じゃないんだよ。異性に発揮するといろいろ誤解を生むというだけでね。
発言されるたびに私の心臓ドキバクだ。命の危機怖い。
でもこんなのを弟くんに言ったところでしょうがないもんな……。
もっと他にいいものないかな……。
考えることしばし。
「あ」
――――あるじゃん、とっておきのが。
兄妹回。またの名を円苦労人浮き彫り回。




