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減点方式で殿方を評価していた私、完璧なはずなのに見誤りました 〜異世界公爵令嬢のやり直し恋愛〜  作者: 白狼ユウ


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第5話:見えない意図


 放課後、ヴィオレッタはミレイユを呼び出した。


 人気のない廊下。窓から差し込む光が、床に長い影を落としている。


「……ヴィオレッタ様」


 ミレイユは一礼する。所作は正確だが、その動きにはわずかな硬さが残っている。


(まだ揺れていますわね)


 表情は抑えている。だが完全ではない。


「単刀直入に聞きますわ」


 ヴィオレッタは余計な前置きを省いた。


「先ほどの件——少し、不自然でしたわね」


 一瞬、空気が止まる。


 ミレイユの指先が、かすかに震えた。


「……どの点が、でしょうか」


「貴方の能力であれば、あのような失敗が起きる可能性は低い。少なくとも、あの場の状況では」


 断定ではない。だが、十分な圧力。


「それでも“自分の責任だ”と認めた」


 一歩、踏み込む。


「理由は何ですの?」


 沈黙。


 ミレイユは視線を落としたまま、答えない。


 やがて——


「……ご迷惑を、おかけしたくありませんでした」


 絞り出すような声。


(違いますわね)


 即座に切り捨てる。それは理由ではない。


 ほんの一瞬、ミレイユの視線が揺れる。


 ——ヴィオレッタではない。


 別のどこかへ。


(……今のは)


 意識して逸らした動き。


 まるで、“触れてはいけない何か”があるかのような——


「……事情があるのですわね」


 あえて断定しない。


 だが、逃がしもしない。


 ミレイユの肩が、わずかに揺れた。


「……申し上げられません」


 はっきりと拒絶する。


(……自分で選んでいますわね)


 強制ではない。


 何かを守るために、自分で選んでいる。


 そこに意味がある。


「そう」


 ヴィオレッタはそれ以上追及しなかった。


 代わりに思考を整理する。


 証言は揃っていた。状況も整っていた。あまりにも自然に、ミレイユが“責任を負う形”になっている。


(……整いすぎていますわね)


 偶然にしては出来すぎている。


 そのとき——


「お話中でしたか?」


 柔らかな声が、背後から差し込んだ。


 振り向く。


 そこにいたのは、あの令嬢だった。


 穏やかな微笑み。乱れのない所作。


(……来ましたわね)


「ごきげんよう」


 ヴィオレッタは静かに視線を向けた。


「先日の件、少々気になりまして」


 令嬢は柔らかく微笑む。


「ですが、すでに結論は出ておりますわ。これ以上、問題を広げる必要はないかと」


 正論。


 誰が聞いても納得する言葉。


 ——だからこそ。


(誘導していますわね)


 “ここで終わらせる”ための発言。


「……貴方のお名前は?」


「セレスティアと申しますわ」


 優雅な一礼。その動き一つ取っても、隙がない。


(完成されていますわね)


 だからこそ、引っかかる。


「ヴィオレッタ様……」


 ミレイユが小さく声を上げた。


 止めようとしている。


(……関係していますわね)


 確信が深まる。


 だが、それでも——


「——いいえ」


 ヴィオレッタは静かに告げる。


「この件は、終わっておりませんわ」


 空気がわずかに張り詰めた。


 セレスティアの笑みが、ほんの一瞬だけ揺れる。


「証拠が不十分。状況も不自然」


 一つずつ積み上げる。


「現時点で“事故”と断定する理由がありませんもの」


 沈黙。


 その沈黙こそが答えだった。


(……やはり)


 確信に近づく。


 これは偶然ではない。


 自然に見えるように“作られている”。


「面白いですわね」


 セレスティアは微笑む。だがその奥に、わずかな鋭さが混じる。


「そこまでお考えとは」


「当然ですわ」


 視線を逸らさない。


 ぶつかる。


 探り合い。


 そして——


 ほんのわずかに、空気が張り詰める。


 だが次の瞬間、セレスティアは何事もなかったかのように微笑んだ。


「——これ以上は、野暮になってしまいますわね」


 優雅に一礼し、そのまま去っていく。


 足音が遠ざかる。


 静寂が戻る。


 ——だが。


(……逃げましたわね)


 確信が残る。


 ヴィオレッタは窓の外へ視線を向けた。


(これは偶然ではありませんわ)


 思考が冷えていく。


(誰かが、意図して動かしていますわね)


 そして——


 その中心にいる存在が、ようやく輪郭を持ち始めていた。

※毎日20時更新予定です。

ヴィオレッタ:よろしければ、ブックマークしていただけると嬉しいですわ。

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