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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第二章 婚約者編

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99.戦闘



「《転移せよ》」


ステラは王立学園の上空に立っていた。

敵は殺気を纏った魔力を込めているが、まだ攻撃はない。


攻撃がないと捕らえることはできないので、ステラは防御を展開しようと気配に集中する。


そしてそのときが来た。



「《訪れし災厄を打ち払い、民を護れ》」


校舎近くの森から校舎に向かって鋼の刃が降り注ぐが、ステラの防御結界が校舎を覆う方が早かった。


敵は複数いる。二人の敵は上空のステラを狙い、残る一人が王立学園の校舎を攻撃している。



ステラは無詠唱の防御魔術で自分を守りながら、左手の人差し指に嵌めた王国魔術師団の紋章入りの指輪に十秒程魔力を込めた。すぐにほんのり指輪が温かくなったので父に届いたのがわかった。



ステラが杖を天に掲げると、ステラを隙のない強力な防御結界が包み込んだ。


クリンプトン先生の防御魔術だ。

この遠距離から高い精度の防御魔術を展開できるクリンプトン先生の実力に感服した。



これでステラは安心して魔術に集中できる。

再び魔力を解放して詠唱した。


「《天に反逆せし者よ、汝が罪は我が裁かん。我にひれ伏せ》」


足元に赤い魔方陣が輝くと、魔力の波が王立学園と王立魔法学院を囲う白亜の外壁まで広がっていく。


魔力が敵にぶつかる気配があり、敵の攻撃が止まった。



「《鋼の刃よ、敵を捕らえよ》」


三本の糸が杖から放たれて敵を捕らえに向かった。

木々に隠れていて姿が見えないので、警戒しながら森の入り口に結界を張って《転移》した。





森に魔力の気配はないが、殺気は残っている。

恐らくまだステラに攻撃を加えていない敵が潜伏しているのだとわかった。


魔力の気配がないが殺気を放っているということは相当な手練れの魔法使いか、魔力を持たない騎士だ。


敵が剣を持っていたら厄介だと眉をひそめる。

近衛騎士が持っているような魔法剣を使われると攻撃魔法を弾かれ、結界を切り裂かれるので非常に戦いづらい。


《敵を現す》魔術は敵の魔力に反応するものなので、魔力を放っていなければ反応は鈍い。

一応は自分の魔力に乗せて展開するが、やはり《敵》の反応はなかった。





無詠唱の防御魔術を展開して警戒しつつ森を進むと、矢が飛んできたので避けて、素早く防御結界を張る。



防御結界は攻撃魔法には耐性があるが単純な物理攻撃には盾の方がよっぽど有用だ。

結界でも大抵の物理攻撃は防げるが、大量の矢で連撃されたり、魔法剣で切り込まれたら破られてしまうのだ。


ステラは剣も盾も持っていないから、相手が騎士だったら丸腰に近い状態だ。

《王族の敵を捕らえる》魔術を使いたいが、詠唱の間に攻撃されると命の危険がある。



このまま戦うのは危険だと判断して、父からもらった指輪にもう一度魔力を短く込めて位置を知らせた。




再び森を歩いていると、前方にステラが捕らえた敵が鋼の糸で巻かれて血を流して這いつくばっているのが見えた。


「《武器を奪え》」


敵が持っていた杖と剣がステラの足元に転がってきたので杖を燃やし、剣を手に取る。

糸の絞め上げを強めて動けないようにしつつ、矢を放ってきた魔力のない敵を警戒する。




そのとき、背後から殺気を感じた。



振り下ろされた剣を奪ったばかりの剣で受け止める。


「最近の魔術師は剣も使えるのか。面白い。」


鎧を纏い、弓矢を背負った老騎士だった。

見ただけでわかる。かなりの手練れだ。



ステラは剣を右手に持ち替え、左手の杖で相手を攻撃する。


「《鋼の刃よ、敵を貫け》」


無数の鋼が老騎士に飛んでいき鎧から出ている皮膚を貫くが、致命傷は剣で弾かれて防がれる。

近衛騎士に匹敵する強敵だ。



ステラは右手の剣にぐっと力を入れる。

近衛騎士や、近衛騎士並みの剣技の実力を持つヴァレン様に勝てたことはないけど、その剣を受け止めることはできる。


老騎士の剣を受け止めて時間を稼げばそのうち援軍が来るだろう。


でもそれでは無傷ではいられない。

この真っ白なローブを血で染めるわけには行かない。

どうにか隙を見つけて早く捕らえてしまいたかった。



相手の足の踏み込みを見て動きを読む。

袈裟斬りだ、と剣を斜めに弾く。

距離が近いので攻撃魔法を出したら自分や捕まえた敵にも当たってしまう。

ステラは相手の剣をいなしながら隙を探した。


そしてふと気付いて、老騎士の背中の矢に無詠唱で火をつける。


老騎士が一瞬だけ揺らぐ。



「《転移せよ》」


一瞬の隙をついてステラが上空に転移すると老騎士は火のついたままの矢を連射して狙ってくるが、ステラの足元の結界に弾かれる。

この結界はただの箱だ。


これだ、と思ってステラは自分をただの結界で囲む。

物質を通さないただの魔力の塊の箱は敵の矢も通さない。

剣では切られるし王国騎士が持つ特殊な矢には破られるだろうが、普通の矢なら十分防げる。



そして老騎士に向かって詠唱する。


「《囲め》

《水よ、大地を潤せ》」


ただの結界の中に敵を囲み、その中に思いっきり魔力を込めて水で満たす。

水の中では剣を振ることはできない。

老騎士が溺れて気を失うのを見届ける。


「《鋼の刃よ、敵を捕らえよ》」


水で満たされた結界ごと鋼の糸で縛り上げると、結界が破れて大量の水が溢れ出す。

びしょ濡れで血塗れの老騎士が鋼の糸でぐるぐる巻きになって現れた。

意識はないが、息はしているようだった。



「《転移せよ》」


素早く地上に《転移》して、老騎士の拘束を絞め上げる。


「《武器を奪え》」


剣と弓矢がステラの足元に転がってくる。高温の鋼鉄の塊を上から落としてただの鉄屑にする。





遠くから鎧の音がしてはっと後ろを振り返ると、父が二十人程の王国魔術師と騎士を連れてステラの方に駆けてくるところだった。


「師団長、援軍をありがとうございます。」


ステラは敬礼して父を迎える。


「敵は捕らえたのか。」

「魔法使いを三名と騎士を一名捕らえました。他に殺気は感じませんが、取り逃していたら申し訳ありません。」


そのまま敵の大体の位置を伝えると、父についてきた王国魔術師と騎士が散り散りになって敵を確保しに向かった。




「よくやった、ステラ。父様は誇らしいぞ。」

「あ、ありがとうございます、師団長。」


父に頭をがしがしと撫でられていると、学院から走ってきたと思われるアーノルドが顔面蒼白でやってきてステラの後ろについた。



ステラは振り返って頭を下げる。


「アーノルド、ごめんなさい。お咎めは私が受けます。」

「いえ、ご無事でよかったです。お役に立てず申し訳ありません。」

「私が勝手に行動したんです。謝らないで下さい。」


怯えた顔で謝るアーノルドに、ヴァレン様には近衛に怒らないようちゃんと伝えないとと決意する。



そして、目の前で意識を失っている老騎士を見てアーノルドに伝える。


「この老人は手練れの騎士です。意識が戻ったら魔術師では危険なので、騎士団による管理をお願いします。」

「承知しました、ステラ様。」


アーノルドが仲間の騎士に何かの合図をすると、老騎士は糸が巻き付いたまま騎士に担ぎ上げられてどこかに連れて行かれた。




「ステラ、まだ動けるか。」

「魔力も体力ももう一戦はいけます。」


父に話しかけられてステラは笑顔で答えた。


「では国王陛下の御前に向かうぞ。」

「……え?」


父の言葉が一瞬理解できなくて、思わず聞き返してしまう。


「国王陛下に謁見する。ステラを守るために必要だ。さあ、行くよ。」

「えっ?!今からですか?!」



父に手を引かれて森の入り口まで連行されると、強引に担ぎ上げられて二頭並んで繋がれていた馬に乗せられた。



父が縄をほどき、自分ももう一頭の馬に股がると、父の馬は急発進して猛スピードで進みだした。


王国騎士団でよく訓練されたであろう馬は、ステラが鐙に足をかけて手綱を持つと、先を行く父の後を勝手に全速力で追いかけ始める。



一年半ぶりの騎乗と領地の馬とは比べ物にならないスピードに振り落とされないように必死になっていたらいつの間にか王城に着いてしまい、ステラは顔面蒼白のヨレヨレの状態で馬を下りた。



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