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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第二章 婚約者編

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100/137

100.求める力



久しぶりの馬のせいなのか国王陛下に謁見するからか、震えが止まらない足をなんとか立たせて王城の廊下を父の後ろについて歩いていく。


「そうだ。《清めよ》」

「あ、ありがとうございます…お父様…」


ふと振り返った父に、髪についていた葉っぱやブーツについていた汚れを《清め》られるが、それよりも足の震えをどうにかしてほしいと切に願った。




父に連れて来られたのは「謁見の間」ではなく、国王陛下の執務室だった。


「アルカニス魔法伯とステラ・アルカニス様がお越しです。」

「お通しせよ。」


中から王城の家令の声がしてビクッとしかけてなんとか耐える。


少し前までは一生来ることはないと思っていた恐れ多い場所に体まで震えそうになりながら、父と一緒に入室して頭を下げる。



「面を上げよ。」


国王陛下の朗々とした声に顔を上げるが、恐ろしくてお顔を見ることなどできない。


「またそなたが敵を捕らえたそうだな。」

「恐れながらさようでございます。国王陛下。」


王族はやはり情報が早い。

何が起きたのか既に全てご存知なのだろう。


ステラの言葉を聞いた国王陛下から威圧感が放たれて血管がぞわぞわする。

顔を上げなきゃいけない気がしてそっと顔を上げると、深紅に染まった瞳がステラを厳しく射貫いていた。


「なぜ襲撃がわかった。」

「学院で授業を受けていたら、強い魔力の気配を感じました。

防御魔術のクリンプトン先生と一緒に確認して、敵だと判断しました。」


「どのようにして捕らえたのだ。」

「魔法使い三名は《王族の敵を捕らえる》魔術で捕らえました。

騎士一名は魔法剣と弓矢を持っていました。

攻撃のタイミングをずらされたので魔術では取り逃しました。

捕らえた敵から奪った剣で応戦後、別の魔法で捕らえました。」


「此度の件はそなたは関与していないのだな。」

「私は何も存じ上げません。」


「ヴァレンも関与していないのか。」

「恐れながら、私の存じ上げる範囲では関与されていらっしゃいません。」



ぞわぞわする血管が気持ち悪かったが、ヴァレン様が守ってくれていると思って揺らがないように必死に耐える。




少しの沈黙の後、体を押さえつけるような威圧感から解放されて、血管のぞわぞわも収まった。


「…そなたは類い稀なる魔法の才で王国の危機を幾度となく救ったな。」

「身に余るお言葉、恐悦至極でございます。国王陛下。」


余りに恐れ多すぎてひれ伏したくなったが、なんとか堪えて深く頭を下げる。



「褒美をつかわすと言ったな。望むものはなんでもやろう。言うがよい。」


ステラはその言葉に頭を下げたまま答える。


「恐れながら、私が望むものは陛下のご健康と御代の安泰のみでございます。国王陛下。」

「魔法伯の教育が行き届いておるな。」

「恐れ入ります、国王陛下。」


父も横で頭を下げる。



「だが余が聞きたいのはそのような言葉ではない。

そなたの望みを言え。

財宝でも地位でも、望むものはなんでもやろう。」


命令されてしまい、ステラは頭を下げたままピタッと固まる。

横目で父を見るが、父も驚いた表情を浮かべて固まっている。


財宝でも地位でも、とは、例えば師団長になりたいと言ったらならせてくれるのだろうか。

ヴァレン様のお妃様になりたいと言ったら認めてくれるのだろうか。


「なんでもよいのだぞ。さあ、言え。」


ステラはパニックになりながらも考える。

財宝になど興味はない。

得たい地位はある。でもそれは努力して手に入れるべきもので、与えられて手に入れるものではない。


もし許されるのなら欲しいものを考えて、ぱっと頭に思い浮かんだ。

国王陛下からでなければいただけない、ステラが求めているものが一つだけあった。



「…恐れながら申し上げます。

私に帯剣のご許可をいただきたく存じます、国王陛下。」


ステラの言葉に父は横目どころかステラを振り返って睨み付け、国王陛下は驚いたような表情を浮かべている。


王都では王国騎士以外は帯剣を許されていない。

王国魔術師が帯剣を許されるのは訓練で必要なときか戦場のみだ。


だが、今回の敵は剣の使い手だった。

魔法剣相手に杖だけで戦うのは分が悪い。

今回はたまたま敵の剣を奪えたが、もし手元に剣がなければ斬られていてもおかしくなかった。


「私が望むものは主君をお守りする力です。どうか私にその力をお授けください。」


剣があればそれだけヴァレン様をお守りできる可能性が高まる。

ステラは頭を下げたまま、国王陛下の言葉を待った。



「…そなたの娘は誠に面白いのう、魔法伯。」

「大変なご無礼を申し訳ございません、国王陛下。」


父が横で顔面蒼白になっている。

父を見て、自分がとんでもない不相応なことを言ってしまったことに気付いて体が震えてきた。


「よい。余は実に愉快だ。」

「寛大なお心に感謝いたします、国王陛下。」


父の言葉にステラもこれ以上ないくらい深く頭を下げる。


「本当にそんなものでよいのか?

望む地位でも財宝でもなんでもよいのだぞ。」

「恐れながら、私は財宝には興味がございません。

地位を頂戴したとて、私には不相応でございます。

私は第二王子殿下の近衛魔術師として、第二王子殿下と尊き王族方をお守りする力をいただきたく存じます。」


ひれ伏したい気持ちを抑えて、頭を下げたまま伝える。




「面を上げよ。」


その言葉に父が頭を上げたので、ステラもぎこちなく頭を上げる。


「そなたに帯剣を許可しよう。ヴァレンから剣を授けることとする。」

「有り難き幸せ、恐悦至極に存じます。国王陛下。」


ステラがまた深く頭を下げ、父も続く。


「これからもその力をもって王族を守り、国の安泰に貢献せよ。」

「はい。命を懸けてお誓いいたします、国王陛下。」


父が頭を下げたまま静かに扉の方に向かったのでステラも続く。


「褒章も届けさせる。受け取るがよい。」


思い出したかのようにとんでもないことを言われて飛び上がりそうになるがなんとか耐える。


「身に余る光栄、恐悦至極に存じます。国王陛下。」


ステラがまた頭を下げると父も続く。


父が退出したので、ステラもこの上なく素早く後ずさりして、やっとの思いで執務室を脱出した。





◇◇◇





ヨレヨレになりながら、父と一緒に今度はヴァレン様の執務室に向かう。


「お父様…なぜこんなことに…」

「本当に肝が冷えた。

詳細は後で話す。まだ立てるか?」


父がヨレヨレのステラを見て笑う。


「足に力が入りませんが、担がれたくないので頑張ります。」


ステラは担がれて馬に乗せられたのを怒っていたので父を睨み付けたが、豪快に笑われただけだった。




「アルカニス魔法伯とステラ・アルカニス様がお越しです。」

「お通しせよ。」

「ひゃっ…」

「腰が抜けたのか。」


中からいつものヴァレン様の声が聞こえると安心して腰が抜けてしまい、父に笑われながら支えられる。



父に支えられたままヨレヨレで入室したステラを見て、レオナルドがぎょっとした顔をして、ヴァレン様が慌てて駆け寄ってくる。


「ステラ、大丈夫?」

「こ、腰が抜けました。すみません。」

「頑張ったんだね。お疲れ様。」


急に気が抜けて腰が立たないステラの頭を撫でると、父に代わって腰を支えながら応接用のカウチに連れて行ってくれた。



父も向かいに座ると話し始める。


「恐れ入りますが、どこまでご存知ですか。」

「国王陛下に謁見したことまでは聞いたよ。」


やはり情報が早いヴァレン様に驚くが、父は動じずに話を続ける。


「また疑いをかけられる可能性があると考えたので、先に陛下の元へ連れて行きました。

ご無礼をお許しください、ヴァレン殿下。」

「よい。そなたの行動は正しい。」


ステラは父の言葉に目を瞠る。


確かに二度続けて大罪人を一人で捕らえたら、元々襲撃を知っていたと思われてもおかしくない。

ステラを守るためとはそういうことだったのかと納得した。


「陛下とは何を話したんだ?」

「尋問された後、《真実》だとお認めいただき、褒美を授けられました。」

「そうか。陛下にお認めいただいたならステラは安全だね。」


ヴァレン様はほっとしたようにまたステラの頭を撫でる。


「褒美って何を望んだの?」


ヴァレン様に聞かれてステラはギクッとして体が固まる。

口が動かないステラに代わって父が答えてくれる。


「…帯剣の許可を望み、ご許可いただきました。」


父の言葉にヴァレン様は驚愕の表情を浮かべる。


「…野蛮で申し訳ございません。」


ヴァレン様にそんな顔をさせてしまうなんて、やはりとんでもないことを望んでしまったのだと実感して、どうにか謝って顔を真っ赤にして俯く。



ところが次の瞬間、ヴァレン様はお腹を抱えて笑い始めた。

横に立つレオナルドも笑いを耐えて咳払いしている。


「父上も驚いただろうな、やっぱりステラは面白いよ。」

「私は肝が冷えました。」


父がステラを睨み付けるが、ヴァレン様はまだ笑っている。


「では私から剣を授けることになるね。」

「…陛下もそのようにおっしゃっていました。」


ヴァレン様が目の端を押さえて言って、父が渋々というように同意する。



近衛の剣は主君から授かるのだ。

謁見中の記憶がないステラはヴァレン様の言葉でそれを思い出して嬉しくなる。


「剣の稽古にも励んで、ヴァレン様を万全にお守りします。」

「本当に頼もしいよ、ステラ。」


また頭を撫でられたので嬉しくて微笑むが、父が咳払いをしたので慌てて姿勢を正した。



そういえば、とステラはヴァレン様に言う。


「あの、戦闘の際、私が自ら騎士の護衛を断りました。私が悪いので騎士を責めないで下さい。」

「…しょうがないね。今日は許す。」


ヴァレン様がまたステラの頭を撫でようとして父の睨みを受けたので、二人で気まずくなって父から目をそらした。



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