95.強さの証明
それからの日々は、学院に顔を出すのもそこそこに、時間を見つけては王国魔術師団で訓練に明け暮れた。
たまにボロボロになって帰るとヴァレン様に近衛魔術師をやめさせられかけたが、ステラは訓練も近衛魔術師もやめる気はなかった。
「ステラ、少し筋肉がついてきたんじゃないか?」
「本当ですか!?」
今日は戦闘部隊の魔術師と一緒に走り込みと攻撃魔法の打ち込みを行ったところだった。
最初は走り込みにも近衛騎士がついてきてくれていたが、そもそも周りを王国魔術師の精鋭に囲まれているし申し訳なさすぎたので、ヴァレン様にお願いして訓練中は護衛はつけないことになった。
広い王城を走るので最初は一周でも息が切れてヨレヨレになったが、最近は息は切れても何周でも走れるようになってきた。
確かにムキムキになってきた気がして二の腕を曲げたり伸ばしたりしてみる。
「ごめん、気のせいだったな。」
戦闘部隊の魔術師達に笑われて睨み付ける。
でも、筋肉はつかなくても確実に体力も魔力も向上していた。
「今日も戦場訓練をお願いします。」
息切れが収まったので戦闘部隊の魔術師に言うと、皆張り切って訓練場に向かってくれる。
ステラ相手だと手加減無しに攻撃できるのでストレス発散になるらしい。
ステラも強力な攻撃を受ける喜びに体を震わせながら訓練場に駆けていった。
◇◇◇
二十人の魔術師が訓練場の観客席のあちこちに隠れる。
ステラは第一訓練場の真ん中に立ち、魔力を解放した。
父は自分の魔力を解放するときに《敵を現す》魔術に使われる術式を上乗せしているらしい。
敵の攻撃を察知できるので、建国祭のときもいち早く防御魔術を展開できたのだ。
《場所を示す》魔術を詠唱して上乗せすれば位置もわかるが、訓練では二十人が移動しながら攻撃するのであまり意味がない。
練習にもなるので、位置は別の方法で特定するようにしていた。
仕組みは《王族の敵を捕らえる》魔法と一緒なのですぐにコツをつかんで、今日も術式を組み込んだ魔力を訓練場全体に行き渡らせた。
「それでは、始め。」
「《訪れし災厄を打ち払い、我を護れ》」
一斉に飛んでくる二十人分の攻撃を防ぐ。
ビリビリと杖を通して感じる強烈な魔力に興奮が体を駆け巡る。
火の玉や鋼の刃や目映い光や雷がステラの防御に阻まれて霧散する。
位置を固定しないように訓練場を走り回りながら大地に魔力を込める。
攻撃で地割れる前に防いでおくのだ。
ステラを追いかけて攻撃が飛んでくるが、《敵を現す》魔術のおかげで相手が魔力を込めるとどれくらいの強さの魔法が飛んでくるか大体わかるので、無詠唱の防御魔術で防ぐ。
「《鉄よ、敵を捕らえし枷となれ》」
走りながら詠唱すると近くでステラを攻撃してきた魔術師二人が同時に枷に捕らえられる。
「《転移せよ》」
上空に無詠唱で結界を作り、《転移》すると
「《光の刃よ、敵を切り裂け》」
すぐに攻撃魔法を詠唱する。
刃が途切れたところが魔術師のいる位置だ。
「《解除せよ》
《敵を捕らえよ》」
相手の防御結界を魔力を込めて解除して、魔力の縄でぐるぐる巻きにする。
あちこちに《転移》しながら同じことを繰り返し三人捕らえる。
「《転移せよ》」
残りの魔術師達の攻撃をまた無詠唱で作った結界に《転移》しながらかわす。
「《雨よ、大地の恵みとなれ》
《雷よ、大地に轟け》」
天に向けて詠唱すると、観客席だけに大粒の雨が降り注ぎ、雷が観客席に乱れ打つように落ちる。
自分の周りは防御で防げるが、近くに落ちた雷で足元から感電してバタバタと魔術師が倒れていく。
皆、魔力を纏わせて雨に濡れるのは防いでいるし、常に命を守る防御はしているのでこの程度で死ぬことはないが、足が痺れて動けないだろう。
残りの魔術師は三人だ。
飛んでくる攻撃を察知して無詠唱の防御魔術で防ぎながら、魔力の発信源から位置を割り出す。
「《光の刃よ、敵を切り裂け》
《鉄よ、敵を捕らえし枷となれ》」
攻撃魔法を相手が防いでいる間に捕縛する。
「《木々よ、覆い繁り敵を捕らえよ》」
観客席に沿って木々が円状に生えていく。
魔術師が炎の魔法で木を燃やそうとするが、雨が降っているのでくすぶるだけで木の勢いは止まらない。
観客席を逃げ回る魔術師をにょきにょきと生える木が邪魔をして一ヶ所に追い詰めていく。
上空にまた雷の魔法を展開すると、最後の二人が杖を手放した。
攻撃が止んだことを確認して全ての魔法を解除した。
感電した魔術師は座り込んでいるが、他の魔術師は訓練場に降りてくる。
「正面突破で捕まえられるようになってしまったな。」
戦闘部隊の魔術師のディーンが苦笑いでやってくる。
「防御魔術を無詠唱で済ませられるように鍛えたんです。師団長に追い付きたくて。」
「師団長の防御魔術はすごいよな。建国祭の時も痺れたぜ。」
建国祭の父の動きを見て、魔力勝負の攻撃魔法よりも、展開するスピードと魔力の両方が求められる防御魔法の難しさに気付いたのだ。
さすがに戦闘部隊の魔術師相手は無理だが、並の魔法使い二十人であれば余裕で防げる防御魔術を無詠唱で編み出せるようになった。
「部隊長にも二回勝ってるし、俺達が勝てることはなさそうだな。」
「私は訓練しか知らないので、本来なら皆さんには勝てませんよ。」
「ご婚約者様を戦場に行かせるわけにはいかないから俺達の負けだよ。
ステラはこの中の誰より強い。」
ディーンが言うと皆も笑ってくれる。
戦闘部隊の本領が発揮されるのは戦場だ。
皆は褒めてくれるが、ステラは訓練が得意なだけで本当の意味での戦いを知っているわけではないことは肝に銘じていた。
「今度は攻撃魔法の打ち込み訓練をお願いします。」
「まだいけるのか。本当に魔力が増えたな。」
「成長期なんです。それに燃えているので。」
ステラが燃えている理由も強くなりたい理由もわかってくれているのだろう。
文句も言わずステラのわがままに付き合ってくれた。
日が暮れるまでひたすら攻撃魔法を打ち込んでもらって防御魔術を鍛え上げたらさすがに限界を感じたので、皆にお礼を言って王城に戻った。
◇◇◇
その日の夜、いつものカウチに腰かけているとヴァレン様にぎゅっと抱き締められる。
建国祭以来、ヴァレン様は心労が多いのか甘えてくれるようになった。
どれだけの重圧と戦っていらっしゃるのか想像しかできないけど、少しでも支えになれていればいいなと思いながらそっと背中を撫でると、ステラを見上げて囁いた。
「ステラ、無理しなくていいんだよ。」
「どうされたんですか、ヴァレン様。」
「最近訓練に打ち込みすぎだ。学院にもほとんど通っていないだろう。」
ステラは学院そっちのけで訓練に励んでいることを引け目に感じていたので目を伏せる。
「…申し訳ありません。」
「謝ってほしいわけではない。
ただ、本当はドレスを着て私の隣にいてくれるだけでいいんだ。
これ以上、強くなる必要はないよ。」
「ヴァレン様…。」
ヴァレン様にはステラの夢も、力をつけたい理由も伝えていない。
「とにかく学院には通ってくれ。」
「はい、ヴァレン様。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
内心はもっと訓練をして力をつけたかったが、主君を心配させるなんて護衛失格だ。
跪くことができないので頭を下げると、ヴァレン様はまた優しくステラを抱きしめてくれた。
翌朝、ヴァレン様の言いつけを守って久しぶりに学院の制服を着ると、横から急に抱き締められた。
ステラの服装を整えていた侍女が慌てて飛び退いて下がる。
「ヴァレン様、いかがされましたか?」
「ステラ。」
そう言って優しくステラを抱き締める。
また甘えたくなったのかと思い、柔らかい白銀の髪を撫でると急にその腕に力がこもった。
「ヴァレン様…?」
「そんな趣味はなかったけど、学生をいじめるのも悪くないな。」
「え?!」
ステラを見下ろした金色の瞳は致死量の色気を纏っていた。
退出する侍女を横目に見ながらベッドに連れて行かれて、甘く溶かされた。
体力をつけてしまったのでその後もしっかりと立ち上がるステラを見て、「足りなかったんだ」と言ってまた襲われて、結局遅刻寸前で学院に向かうことになった。




