93.真実を見抜く魔法
ステラが祭壇の近くに張った結界に《転移》すると、近くにいた近衛騎士がぎょっとした顔でステラを見た。
咎められはしなかったので結界から飛び降りてそのまま祭壇の方に進むと、父がステラに気付いて手招きしたので祭壇に上がって結界の中に入り、敬礼をする。
「師団長。敵は四名です。全員捕らえました。」
「承知した。後は警備部隊に引き継げ。」
「承知しました。」
祭壇を下りると警備部隊長が駆け寄ってくる。
「部隊長。敵は四名で、全員捕らえました。
一名は近衛騎士が制圧しています。残る三名の確保をお願いします。
一名は杖を破壊しましたが、残りの者はまだ杖を持っています。」
「君は…いや、わかった。場所を教えてくれ。」
警備部隊に敵の場所を引き継ぐと、また祭壇に戻ってヴァレン様に駆け寄った。
ヴァレン様は表情には出ていなかったが、なんとなく驚いているような気がする。
「ヴァレン殿下、お側を離れて申し訳ありませんでした。」
「よい。敵は捕らえたのか。」
「はい。既に拘束しております。ご安心ください。」
ステラは臣下の礼をとって頭を下げる。
ヴァレン様の横に立つ第一王子殿下の視線を感じたが、ステラは気付かない振りをしてヴァレン様の後ろに下がり、引き続き警戒に当たった。
当然だが式典は中止となり、王族方は再び馬車で王城に戻ることになった。
騎士と王国魔術師によって民衆が先に広場を出される間、結界が張られた祭壇内に王族が残り、周りを近衛騎士が囲んでいる。
警戒して見回していると第一王妃陛下がステラを見て微笑んで下さったので、ステラも静かに頭を下げた。
先ほどから民衆は不思議なほど落ち着いている。
国王陛下が瞳を紅く染めているので「王家の魔法」で支配しているのかもしれないと思った。
広場を見渡しながらヴァレン様の後ろに控えていると、国王陛下が父を伴ってこちらにやってきたので姿勢を正して頭を下げる。
「面を上げよ。」
その声に顔を上げると国王陛下の深紅に染まった瞳がステラを厳しく見つめていた。
大変な不敬なのになぜかその瞳から目が離せなくなり、ステラは国王陛下の紅い瞳を見つめたまま話す。
「そなたが一人で敵を捕らえたのか。」
「さようでございます。」
「なぜ襲撃がわかった。」
「攻撃の直前に気配を察知しました。」
「なぜ姿を消した。」
「王族方の安全は師団長が確保されると判断して、念のため上空に張っていた結界に《転移》して敵を捕らえたのでございます。」
尋問するような口調に、ステラは自分が疑われていることに気付いた。
一人で敵を捕らえるなど普通はあり得ないから無理もない。
言葉を発する度に血管がぞわぞわするので、《真実を見抜く》魔法をかけられているのかもしれない。
ヴァレン様の魔力が守ってくれるのかもしれないが、慎重に答える。
「どのようにして捕らえたのだ。」
「父の魔法を、《王族の敵を捕らえる》魔法を使いました。」
その言葉に国王陛下が僅かに目を細める。
「魔法伯、この者があの魔法を使えるのか。」
「さようでございます、国王陛下。」
父の言葉に、国王陛下の瞳がまた金色に戻ったのが目の端に映った。
「そなたの才を見くびっていたようだ。褒美をつかわそう。」
「身に余る光栄、恐悦至極にございます。国王陛下。」
ステラはほっと息をつきそうになりながらも気を抜かないように跪き、胸に手を当てて頭を下げた。
民衆がいなくなった広場でヴァレン様と一緒に馬車に乗り込むと、気が抜けたのかくらっときてヴァレン様の肩に寄りかかってしまう。
「ステラ、大丈夫?」
「す、すみません…気が抜けました…」
「よかった、いつものステラだ。」
慌てて姿勢を正そうとするが、そのまま肩を抱かれたので甘えさせてもらうことにした。
「…父上がステラを疑ったのは恐ろしかった。」
「ご心配をおかけしてすみません、ヴァレン様。」
「よく耐えたね。」
「戦いの途中だったので…」
「戦いか。なるほど。」
ヴァレン様が少し微笑んでくれたのでステラも安心してまた気が抜けてくらっとくる。
先ほどの国王陛下を思い出すと急に体が震えてきた。
「本当に大丈夫?」
「す、すみません、今になって恐怖が襲ってきました…。」
「っふ、やっぱりいつものステラだ。」
ヴァレン様が優しく微笑んで頭を撫でてくれる。
その手を感じると急に眠気が襲ってきた。
王都を覆う勢いで魔術を使ったので、もしかしたら魔力切れなのかもしれない。
「ヴァ、レン様…ご無事で...よかった…」
「ステラ?」
「す、みませ…ん…魔力が……」
ステラの記憶はそこで途切れた。
◇◇◇
気がつくといつものふかふかのベッドに寝かされていた。
誰かに優しく頭を撫でられている気がして、その名前を呼ぶ。
「ヴァレン様…?」
「殿下じゃなくて悪かったな。」
「ひゃっ…お、お父様?!」
聞き慣れた声にぱっと目を覚ますと、片眼鏡をかけて王国魔術師の正装をした父がステラを覗き込んで頭を撫でていた。
「な、な、なんで…」
「お前が魔力切れを起こしたから私が呼ばれた。」
「あっ…す、すみません。ありがとうございます、師団長。」
「誰もいないから気にしなくていいよ。」
「ありがとうございます、お父様…。」
ステラは混乱する頭で必死に状況を整理した。
「あの、私馬車で…」
「馬車で眠ってしまったそうだな。
まぁあの魔術は魔力を消費するから無理もない。
ヴァレン殿下がここまで運んで下さったんだよ。」
その言葉に慌てて飛び起きるが、またくらっときて父に抱き止められる。
「一晩もあれば治るだろうが、今日は寝ていなさい。
報告は明日でいい。」
「すみません、師団長…。」
「それじゃ、お望みの御方を呼んでくるよ。私はお邪魔なようだから。」
「ご、ごめんなさい、お父様…。」
ステラは恥ずかしくなって赤面するが、起き上がるとまた倒れそうなので横になったまま父を見送る。
入れ替わるようにすぐにヴァレン様が部屋に入ってきた。
「ステラ、大丈夫?」
「はい、ヴァレン様。ご心配をおかけしてすみません。運んでいただきありがとうございます。…重たいのに申し訳ありません。」
馬車寄せからここまで抱かれてきたのだと思うと恥ずかしさと申し訳なさが込み上げて顔が赤くなる。
「よかった。ステラを運ぶくらい、なんてことないから気にしないで。」
ヴァレン様の手が優しくステラを撫でる。
「魔法伯に睨まれたんだけど、何かあったの?」
「あっ…も、申し訳ありません。寝ぼけてヴァレン様の名前を呼んでしまったんです。」
「そういうことか。」
ステラを撫でながらクスクスと笑うヴァレン様を見てステラも安心して微笑む。
「…ステラ、先ほどの魔法は何?」
ヴァレン様は相変わらず優しい声だけど、目だけは真剣にステラに問う。
「父が作り出した魔術です。魔力に魔術を乗せて隠れた敵を見つけ出して、体の自由を奪う効果があります。
訓練で私にも使えることがわかったので、今回も使用しました。」
「では、あれは全てステラの魔力なの?」
「そうです。」
ヴァレン様は驚いたように目を見開く。
「入学式の時よりも魔力が増しているね。魔法伯にも匹敵する、膨大な力だ。」
「…ありがとうございます。」
ステラは横になりながら頭を下げる。
この話題が出たので、考えていたことを打ち明けようと思った。
「ヴァレン様、恐れ入りますが防音結界を張っていただけますか?私、魔力がまだ…。」
「ああ、いいよ。」
ヴァレン様に頼むのは気が引けたが、杖を取り出してさっと防音結界を張ってくれた。
「『王家の巫女』の件でご相談があります。」
ステラの言葉にヴァレン様は笑みを消し、真剣な眼差しでステラを射貫いた。




