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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第二章 婚約者編

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88.父の魔術



執務室を出て、王国魔術師団の本部に到着した。

戦闘部隊が訓練している第一訓練場に向かうと、いつも通りわいわいと出迎えてくれてステラは心底ほっとした。


「今日はリベンジをさせてほしいんです。」

「お、燃えてるな。」


王国魔術師のディーンに頭を下げるとぽんぽんと肩を叩かれた。

ステラは前回の戦場訓練で負けてから、リベンジに燃えていたのだ。


あれでもない、これでもないと考えてやっと一つだけ状況を打開できそうな魔術を思い出して、使ってみたいと思っていた。



「じゃあ早速やろう。十人でいいか?」

「十人でも二十人でも、受けて立ちます。」

「だってよ。おい、やるぞ!」


部隊長と副部隊長を除く戦闘部隊の魔術師が盛り上がっている。

手練れどころではない、王国の精鋭の魔術師が全員で二十人いる。


でもあの魔術さえ使えれば、ステラには勝機があると思った。





ステラは広い訓練場の真ん中に一人で立つ。

無詠唱でできる限りの防御魔術を施す。


「では、始め。」

「《訪れし災厄を打ち払え》」


無詠唱の防御魔術に加えてさらに防御魔術を詠唱する。

二十人分の雷と遠隔魔法とその他のステラをめがけてとんでくる攻撃をありったけの力を込めて受け止める。



そのまま空に無詠唱で結界を無詠唱で無数に作り出し、地面に魔力を込める。


「《転移せよ》」


そのうちの一つに《転移》すると、見つかる前に次の詠唱を行う。


「《訪れし災厄を打ち払い、我を護れ》

《転移せよ》」


訓練場の中心にまたありったけの魔力を込めてステラ一人が入れる大きさの結界を張ると、すぐにその結界の中心に転移する。



空に浮かんだ結界は半分以上が解除され、先程までステラが立っていた場所を数多の雷と火炎放射が襲っていた。


「《盾よ、我を保護せよ》」


魔力で作った巨大な《盾》が自分を覆うのを確認してから、ステラは呼吸を整えて魔力を全て解放する。


訓練場の外まで突き抜けるようにステラの魔力が広がっていく。



二十人の攻撃が防御結界と《盾》で防がれているが、どんどん亀裂が入っている。

ステラは防御が打ち破られる前に、天高く杖を掲げて詠唱した。




「《天に反逆せし者よ、汝が罪は我が裁かん。我にひれ伏せ》」




詠唱を終えるとステラの足元に赤く輝く魔方陣が浮かび、魔方陣を中心に魔力の波が広がっていく。

強力な魔術の波が訓練場を越えて王城内にまで打ち寄せていくのがわかった。



そして、自分を狙っていた攻撃が止んでバタバタと人が倒れる音が聞こえた。



ステラは勝利を確信して展開した魔術を解除して、攻撃がないのを確認してから防御結界も解除する。




散らばって倒れていた魔術師達が起き上がってステラの元に駆け寄ってくるが、皆一様に呆気にとられた顔をしている。


「ステラ、今の魔術って…」

「一か八かでしたが、成功してよかったです。」


駆け寄ってきた魔術師が唖然とした顔でステラを見つめている。



ステラが使った魔術は、父の書斎で見つけたメモ書きに書かれていたものだ。


呪文と魔方陣の構造と、「隠れた敵を捕らえる」としか書かれていなかったので今まで使ったことはなかったが、その緻密で隙のない魔方陣から、恐らく強力な魔術だと推測できた。


ヴァレン様のおかげで魔力が漲っている今なら成功するのではないかと思って使ってみたのだ。




ディーンが信じられないというような表情でステラに声をかける。


「今のは、師団長の魔術だ。

王族を守るために師団長が編み出した魔術だが、魔力の消費が激しくて師団長以外は使いこなせないんだ。」

「そ、そうなんですか…。」


まさか父が考えたものだとは思ってもみなかったが、あの緻密な魔方陣も父が考えたのなら納得できた。




「し、師団長に敬礼!」


突然入り口近くの魔術師が叫んだ。

皆が驚いて慌てて姿勢を正し、ステラも急いで敬礼する。



「なんだ、ステラか。」


鷹揚に歩いてきた父は、訓練場の真ん中に立つステラを見て呆れたように笑う。


「本部にいたら急に物凄い魔力を感じたから《転移》してきたんだ。

お前、何をしていたんだ?」


その言葉にステラは慌てる。

たしかに思いっきり魔力を解放したが、まさかそれほど遠くまで届くとは思ってもみなかった。


「あの、おと、師団長の《隠れた敵を捕らえる》魔術を使ったんです。」



父は一瞬目を瞠ったが、すぐにニコニコと微笑んだ。


「そうか、ステラもあれを使えるようになったんだな。

やっぱりステラは父様の自慢の娘だ。」


ステラをぎゅっと抱き締めて、がしがしと頭を撫でる父を、戦闘部隊の魔術師達が驚愕の表情で見つめている。



「お、お父様…皆が驚いています…。」

「ああ、つい嬉しくてな。」


師団長の威厳のない姿を見せていいのだろうかとおろおろしてしまうが、父は気にしていないようだった。


「お前達はこの者に捕まったのか。」

「恐れながらさようでございます、師団長。」


ディーンが答え、二十人の魔術師が気まずそうに父に頭を下げる。


「叩き直さないとな。訓練に励め。」

「「「はい、師団長。」」」


戦闘部隊の魔術師達は父に返事をして敬礼すると、走り込みにでも行くのか猛スピードで去っていった。





訓練場に父と二人取り残される。


「ステラ、よくあの魔術を知っていたな。」

「メモ書きがお父様の書斎に散らばって落ちていました。」

「片付けるようにトムスに頼んでおかないとな。」


父は笑い飛ばしているが、勝手に父の魔術を使ったことが気まずくなって目を伏せる。


「いずれステラにも教えようと思っていたから、いいんだよ。」

「お父様…」


その声に顔を上げると、父は変わらず嬉しそうに微笑んでいた。


「あの魔術は王族を守るために考えたんだが、王国魔術師でも使える者がいなくて困っていたんだよ。

ステラが引き継いでくれるなら父様にとっても王国魔術師団にとっても喜ばしいことだ。」

「…それならよかったです。ありがとうございます、お父様。」


父の言葉に安心して、ステラもやっと微笑んだ。


「ちなみにあの魔術は王族の敵に対して効果があるんだ。《王族の敵を捕らえる》魔術だよ。

王族がいなくても発動したのだから、天はステラを王族として認めて力を貸してくれたんだな。」

「え?!そ、そんなっ……!」


メモには書かれていなかった恐れ多すぎる真実に戦いて腰が抜けかけて父に支えてもらった。



「ステラ、自分を誇れ。お前は敬われるべき才能と実力と立場を持っている。

ステラが努力して手に入れたんだ。

父様は、ステラが誇らしいよ」

「…お父様。わかりました。お父様が誇れる娘であれるように胸を張ります。」


父は妃教育でステラがボロボロにやられたことを知っているのかもしれない。

ステラは心の澱が溶けていくように安心して、心からの笑顔を向けた。



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