83.自白
「ヴァレン殿下を攻撃しようという意思のあった者が、実際に攻撃したのは第一王子殿下だったわけか。それはおかしいな。」
「そうなんです。」
「尋問でおかしなことは言ってないはずなんだけどな。ステラも来るか?」
「…はい、もしお父様が許可して下さるのなら、私も聞いてみたいです。」
「私の許可がなくてもステラは王族として尋問できるけどね。」
「ひっ…」
「まぁ今回は私の許可でいこう。」
「はい、お父様…。」
思ってもみない父の申し出と恐れ多い言葉でステラは内心はパニックだが、自分で直接罪人に聞けるならそれに越したことはない。
「骨は折るなよ。」
「…すみませんでした、師団長。」
前回は怒りの余り罪人の小指の骨を折ってしまったので気まずくなって目を逸らした。
「他にもあるか?」
「……実は、第一王子殿下のお側にいると、血管がぞわぞわするときがあるんです。」
父に優しく聞かれたので、ステラはもう一つ、悩んでいたけど誰にも言えなかったことを口に出してみる。
父は、《真実を見抜く》という「王家の魔法」がかけられている片眼鏡越しにステラをじっと見つめる。
「ステラは、ヴァレン殿下の《忠誠》を受けたのか?」
父の言葉にステラは驚いて目を見開いたまま固まってしまう。
初代の国王陛下が「王家の巫女」に忠誠を誓う時に使ったらしい《忠誠》の魔法。
この魔法が成功すれば、「王家の魔法」によって傷つくことも命を奪われることもないという魔法。
ヴァレン様はその魔法を使って自分の魔力をステラに残してくれたのだ。
まさかこの魔法を父が知っているとは思わなかった。
ステラは父とはいえヴァレン様の許可なく話していいものか迷ったが、ステラを傷つけるわけがない父のその片眼鏡には《真実》を見抜かれてしまう。
「…はい。」
「…成功してよかったな。失敗したら殿下は『王家の魔法』を使えなくなり、王位継承権を剥奪されていた。」
初めて聞くその話にステラは腰が抜けかけて、父に支えてもらう。
「やっぱり知らなかったんだな。」
「は、はい…。」
ヴァレン様がそんなに恐ろしい魔法を使って下さったなんて知らなかった。
どれだけのお覚悟だったのかと思うと胸が震えるが、ステラの体は恐れ多さに耐えかねて足が本当に震えている。
「とにかく王族の《忠誠》を受けたステラの体に影響があるということは、やはり第一王子殿下は何かしらの『王家の魔法』を使っているんだろうな。」
「はい。その可能性が高いのではないかと私も思います。」
考え込むように話す父に、ステラも気持ちを落ち着かせながら答える。
「よく話してくれたね、ステラ。
父様が考えてみるから、ステラは一旦気にしなくていいよ。
また気になることがあったら相談するんだよ。」
「はい、お父様。ありがとうございます。」
父の優しさが嬉しくて、まだ腰を支えてもらっている父の胸にそっと顔を寄せてお礼を言った。
◇◇◇
師団長室を出るとその足で天文台に収容されている罪人の元へ向かう。
前回も尋問に使われていた部屋を警備部隊の魔術師がノックをして中に声をかける。
「部隊長、失礼します。師団長とステラ・アルカニス様がお越しです。」
「お通しせよ。」
扉が開かれて中に入ると警備部隊が臣下の礼をとって頭を下げて出迎えてくれたので驚いて飛び上がりそうになる。
「今回は私が尋問を許可した。」
「承知しました、師団長。」
警備部隊が顔を上げたのでステラは敬礼して一礼する。
警備部隊長が父と場所を変わり、ステラもその横に立つ。
舞踏会で第一王子殿下を襲った魔法使いが鎖に繋がれて頭を下げていた。
「ステラ、好きにしていいよ。」
「ありがとうございます、師団長。」
父の許可を得たので杖を手に取り、罪人に声をかけた。
「顔を上げろ。」
罪人は素直に従うが、ステラを見てすぐに目を伏せる。
生気がなく、感情の読めない表情だった。
「お前は第一王子殿下を襲ったな。」
「はい。」
「それはなぜだ。」
「…第一王子殿下を虐げようと思ったからです。」
「なぜ第一王子殿下を狙ったのだ。」
「この御代に不満があったからです。」
「なぜ国王陛下ではなく第一王子殿下なのか。」
「近衛魔術師がおらず警備が手薄だからです。」
たしかにおかしなところはない。
でもなんとなく違和感を覚えて問い質す。
「お前は第二王子殿下を狙っていたのではないのか。」
ステラの言葉に罪人がビクッと体を震わせた。
「私には全てわかっている。
言え、お前は第二王子殿下を狙っていたな。」
「…はい。最初は…そうでした。」
罪人の言葉に警備部隊長がわずかに身を固くするのがわかった。
「何者かの指示を受けたのか。」
「いいえ。」
「なぜ途中で第二王子殿下を襲うのをやめたのだ。警備の問題ではないだろう。」
「それは…」
罪人が顔を下に向けて言葉をつまらせたのでステラは杖を振る。
「《鋼の刃よ、敵を捕らえよ》」
罪人に鋼の糸が巻き付くと、その身を恐怖で硬直させた。
警備部隊に相当尋問されたのだろう。
「大人しく言えば痛め付けない。言え。」
「…急に、そうせねばならないと思ったのです。」
「第二王子殿下を狙うつもりで忍び込んだのに、急に第一王子殿下を狙わなければならないと思ったのか。」
「はい。」
「なぜだ。」
「わかりません。そうせねばならないと思ったのです。」
「そう思ったのはいつだ。」
「貴方様と第一王子殿下が踊られているときです。」
ステラはその言葉に思わず父を見る。
罪人を片眼鏡越しにじっと見て言った。
「《真実》だよ。」
ステラはその言葉に顔を歪める。
そして警備部隊長に向き直る。
「部隊長、命令させていただくご無礼をお許しください。一旦退出してください。」
「…承知しました。」
再び臣下の礼をとる警備部隊長に胸が痛んだが、あらぬ噂を立てられないためにもここから先は聞かれない方がいい。
警備部隊長が退出したのを確認して防音結界を張る。
「お前は、第一王子殿下とお会いしたことがあるのか。」
ステラの言葉に罪人が身を震わせる。
鋼の糸を身に沿わせるように締め上げる。
「言え。」
「ご、ございます。」
「第一王子殿下から接触があったのか。」
罪人は激しく身を震わせて歯をガタガタと鳴らす。
ステラは立ち上がり、罪人に近づいて膝をつくと、その目をまっすぐ見据えて言う。
「私は恐れ多くも第二王子殿下の庇護を受けている。悪いようにはしない。言え。」
「……さようでございます。」
「第一王子殿下の、御目を見て話したのか。」
ステラの言葉に罪人は目を見開く。
「な、なぜ…。」
「質問しているのは私だ。」
「…さようでございます。恐れ多くも、この目を見て微笑んでくださいました。」
ステラは一旦立ち上がり、振り返って父を見る。
父は片眼鏡越しに厳しい表情で罪人を見つめて、静かに聞いた。
「第一王子殿下と目が合ったとき、どう思った。」
「美しい瞳を恐れ多くもこの目に映したとき、仕えるべきはこの御方だと確信いたしました。」
「だが、第一王子殿下に指示されたわけではないのだな。」
「全て私の独断でございます。」
「その後もお会いしたのか。」
「はい。恐れ多くも幾度かお声かけをいただきました。」
父は静かに頷いた。
「もうよい。お前は何かあるか。」
「いいえ、師団長。」
ステラはそう言って罪人の糸を解き、防音結界を解除する。
ステラが沙汰を下すわけではないが、この者には生かしておく価値がありそうだ。
罪人を振り返って言った。
「自分を見失うな。罪を償え。」
罪人ははっとしたようにステラを見て、また頭を下げた。
部屋を出て、警備部隊長に頭を下げる。
「無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした、警備部隊長。」
「とんでもない。何か理由があったのだろう。」
「申し訳ありません。」
「謝る必要はない。王族に命令されたから従った。それまでだ。」
そう言って微笑む部隊長に敬礼して一礼する。
部屋に戻る警備部隊長を見届けた後、父と向かい合った。
父は何やら複雑そうな顔をしていたが、ステラと目が合うと微笑んだ。
「私が考えておく。お前はヴァレン殿下をお支えしろ。」
「承知しました、師団長。本日はお時間をいただきありがとうございました。」
優しく微笑む父にステラは一旦父に任せようと思い、罪人について考えるのをやめた。
敬礼して一礼をして、天文台を後にした。
外は夕闇に染まり始めていたので、ヴァレン様の執務室へと急いだ。




