75.見せたかった景色※
※後半R15注意
「…ステラ。」
胸に響く声に顔を上げると、ヴァレン様がステラを真っ直ぐ見つめていた。
「そなたは私の誇りだ。」
優しく細められた金色の瞳から目が離せない。
ステラの心臓は急に音を立て始める。
「…ありがたきお言葉、恐悦至極でございます。ヴァレン殿下。」
はっとしてステラが頭を下げようとしたが、ヴァレン様に強く手を引かれてそのまま力強く抱き締められる。
「頑張ったね。」
「はい、ヴァレン様。」
大好きな甘い香りが胸いっぱいに広がる。
鼻をくすぐる香りに急に安心して力が入らなくなり、寄りかかってしまった。
「大丈夫?」
「す、すみません。気が抜けてしまいました。」
「…いつものステラだ。」
ヴァレン殿下にいたずらっぽく笑われて首筋をなぞられる。
そして先程の出来事をまた思い出す。
「…ヴァレン様。」
「…っ、ステラ、それは怒ってるの?」
できれば見えるところはやめてほしいが、そんなことは不敬で言えないので睨むことしかできない。
だが、効果がなかったのか笑われた。
「恥ずかしくてお母様に顔向けできません。」
「それほど目立たないから大丈夫。
母上は私に文句を言いたいだけだよ。ステラのことがお気に入りだから。」
「そ、そんなことは…」
そんな恐れ多いことを言われるとなんと言えばいいかわからなくなっておどおどしてしまう。
「…豊穣の景色は美しいのだな。」
ヴァレン様が思い出すように呟いた。
濃い金色の瞳がステラを溶かしそうな温度で見つめる。
「私が育った領地の景色なんです。ヴァレン様にご覧いただけて、私も嬉しいです。」
国王陛下はもちろんだけど、一番見てほしかったのはヴァレン様だ。
「実は、ヴァレン様の『豊穣の魔法』を見て、幻覚魔法を使うことを思い付いたんです。
だから、部隊長に勝てたのもヴァレン様のおかげです。」
「ステラの力になれたのならよかった。」
そうやって頭を優しく撫でてくれるヴァレン様に、戦いの高揚感は落ち着いて幸せな気持ちで訓練場を後にした。
◇◇◇
天覧試合が終わっても日々は慌ただしく過ぎていった。
社交シーズンが始まり、今年から本格的に社交に参加されるヴァレン様は昼も夜も予定がぎっしり埋まっていたのだ。
ステラは学院に通う時間もなくなったので勉強に不安は感じつつも、ヴァレン様の護衛に精を出していた。
社交に付き添うときも、父の言いつけがあるのでいつも王国魔術師のローブで参加していた。
周囲の貴族はステラがヴァレン殿下の婚約者だということは知っているが、任務中の王国魔術師に話しかける者はいないので、気苦労もなくてむしろ楽しく参加していた。
今日も王国魔術師のローブを着て昼食会の護衛をした後、次の会場に移動しているところだ。
「ステラ、今度の夜会だが」
「はい、護衛させていただきます。」
嫌な予感がしたので被せるように即答する。
「国王陛下のご招待だ。君にはドレスを着てもらう。」
「…はい、ヴァレン様……。」
一年前にも参加した、国王陛下のお誕生日をお祝いする夜会が迫っていたのだ。
あの夜会でヴァレン様と一緒に国王陛下にご挨拶して、ステラはヴァレン様の婚約者となった。
またあの緊張を味わうのかと思うとつい声が沈んでしまう。
「そんなにドレスを嫌がる女性も珍しいよ。」
「田舎育ちなので…。」
本当は田舎育ちだからというよりも国王陛下にご挨拶するなんて気が重いのだが、あまりの不敬に打首では済まないのでとても言えない。
「私は着飾ったステラを皆に見せたくて堪らないのに。」
そういってステラの腰を抱き、優しい手付きで脇腹を撫でるのでぞくっとして体が震えてしまう。
「ヴァ、ヴァレン様のお隣では私などち」
「塵ではない。元々美しかったのに城に来てからは眩しいくらいだ。」
「…侍女のおかげです。」
毎晩十人程の侍女に髪から爪先まで磨き上げられる生活を二ヶ月も続ければどんな塵でも輝くものだ。
「とにかく、ドレスは私が用意するからそれを着てくれ。」
「…ありがたき幸せに存じます。ヴァレン殿下。」
我ながらありがたそうではない声が出てしまって、ヴァレン様にクスクス笑われる。
ヴァレン様がお優しいから許して下さるだけで、他の王族であれば打首だ。
次の会場は第一王子派の貴族も多い会合だ。ステラはまた気を引き締めて護衛に向かった。
◇◇◇
そして、夜会の前日。
例のごとく前日から気合いの入った侍女に磨き上げられたステラはピカピカの状態でヴァレン様と私室で過ごしていた。
一年前と同じなら、明日は国王陛下と第一王妃陛下がいらっしゃるはずだ。
前回第一王妃陛下に首筋の跡を見られてしまったステラは警戒してヴァレン様から距離を取っていた。
今は使う予定もない儀仗を無駄に磨いているところだ。
「ステラ、何をしているの?」
「ぎ、儀仗を磨いています。」
「…そう。」
カウチの端に座るステラを訝しげに見つめられてびくっとしてしまう。
「ヴァ、ヴァレン様は儀仗はお持ちではないんですか?」
「一般の魔法を披露することはないからね。『王家の魔法』は杖は使わないし。」
「そ、そうですよね。申し訳ありません。」
沈黙に気まずくなってくだらないことを聞いてしまった罪を謝る。
「…ステラ。」
ヴァレン様が立ち上がったので思わず儀仗を握って身構えてしまう。
そのままカウチに押し倒されて、ステラの儀仗はヴァレン様に回収されて机に置かれた。
「ヴァ、ヴァレン様…いかがなさいましたか…。」
「私から離れることは許さない。」
「…はい。」
ヴァレン様の濃い金色の瞳が色香に満ちている。
「なぜ私を避ける。」
「め、め、滅相もございません!」
まさか首筋を吸われたくないからだなんてそんな破廉恥なことはとても言えない。
「ステラは私の物でしょう。」
「は、はい…。」
「じゃあ私の好きにしていいよね。」
そういって首筋に顔を埋めかけたヴァレン様を慌てて止める。
「お、お、お待ちください!あの、く、首は…」
「首ではなかったらいいの?」
「む、胸元も…」
「じゃあステラの言うことを聞いてあげるから私の言うことも聞いてね。」
「は、はい……あっ……ん……」
その夜は散々恥ずかしい思いをさせられたが、首筋と胸元は綺麗なままだったので、国王陛下と第一王妃陛下の前で恥ずかしい思いをするよりはよっぽどましだと思って耐えた。
ヴァレン様は代わりに背中を執拗に責めたが、これ以上我が儘を言うことなど出来ないので止められなかった。




