73.天覧試合
そして、待ちに待った天覧試合の日がやって来た。
ステラは王族の前で魔法戦をすることへの緊張よりも、部隊長と戦える喜びが勝っていた。
昨夜はヴァレン様がしっかり寝かせてくれたので、目覚めも良好だった。
「おはよう、ステラ。」
「おはようございます、ヴァレン様。」
「ご機嫌だね…。」
溶かされた翌日は目を開けるのもやっとだが、今日のステラは目は開いているしはきはき話せている。
むしろヴァレン様の方がまだ眠たそうで可愛い。
「部隊長と戦えるのが楽しみなんです。」
「前から思っていたけど、ステラは勝負好きだよね。」
「お父様の娘なので。」
「そうか。」
クスクスと笑われるが、色気が滲んでいて目の毒だ。
戦いの高揚感もあり、これ以上ベッドにいると変な気持ちになってしまいそうだったので起き上がろうとすると手を引かれる。
「…ヴァレン様?」
「本当に近衛をやめさせたい。」
少しかすれた色香に満ちた声で言われて心臓を鷲掴みにされる。
前回の部隊長との戦いを見られているので心配されているのだろう。
「大丈夫ですよ。最近また鍛えているので。」
「魔力を奪って囲ってしまうか。」
「なりません、ヴァレン様。今回は正々堂々と勝つつもりなので見ていてください。」
優しい手付きでステラを抱き締めるヴァレン様に胸がときめきつつ、戦わない選択肢はないので毅然と対応する。
また起き上がろうとすると上にのしかかられて首筋に顔を埋められた。
「な、なりません!今日は陛下がっ……んっ…」
手を押さえつけられているので首を捩るが、その首筋を何度もチクッとした痛みが走った。
侍女に任せるしかない、と諦めて力を抜くと致死量の色気を放つヴァレン様がステラをじっと見つめる。
「勝たなくていいから怪我をしないでくれ。」
「怪我もしないし勝ちます。」
今日のステラは燃えているのだ。
流されないステラにヴァレン様も諦めて、ぽんぽんと頭を撫でて体を離してくれた。
侍女を呼んで首筋の赤い跡を隠してもらい、王国魔術師の正装のローブを身に纏う。
国王陛下にいただいた勲章と、ヴァレン様にいただいた金の留め具が朝日に照らされて輝いている。
元々王国魔術師の真っ白なローブはそれを血で染めることを許されないが、王家の紋章がローブに輝いている今は汚すことすら許したくなかった。
◇◇◇
ヴァレン様と一緒に第一訓練場に向かうと、既に王族以外の貴族達は集まっていて、いつもは武骨な観客席が高貴で優雅な雰囲気に包まれていた。
がっしりと腰を抱えられて横に立たされているので、ステラは護衛とは言えない状態で貴賓席に連れて行かれる。
貴賓席には第二王妃陛下と第一王子殿下が既にいらっしゃった。
ステラの腰に回していた腕を解いてさっと挨拶を済ませたヴァレン殿下に続いて、頭を下げて臣下の礼をとる。
「お成りいただき光栄にございます、第二王妃陛下、第一王子殿下。」
「婚約おめでとう、ステラさん。」
「久しぶりだね、ステラ。婚約おめでとう。」
「身に余る光栄、恐悦至極にございます。」
第一王子殿下の目を見ないように、頭を下げたまま答えた。
騎士の鎧の音がしたので後ろに下がると、国王陛下と第一王妃陛下が近衛騎士に囲まれながらいらっしゃった。
国王陛下の後ろには父も正装のローブ姿で立っていた。
王族方に続いて挨拶をすると、第一王妃陛下が微笑んで抱き締めてくださった。優しい薔薇の香りが鼻をくすぐる。
「ステラさん、婚約おめでとう。今日はとっても楽しみにしているわ。」
「お母様、ありがとうございます。私もお母様に魔法をお見せできるのを楽しみにしておりました。」
ステラが第一王妃陛下を「お母様」と呼ぶのを聞いて、国王陛下の後ろに立っていた父が驚愕の表情を浮かべて後ずさったので、思わず笑いそうになってしまった。
「それでは、私はこれにて失礼いたします。」
「頑張ってね、ステラさん。」
「ありがとうございます、お母様。」
父がいれば護衛の心配もない。
王族方に臣下の礼をとって頭を下げた後、ステラは急いで訓練場の入り口に向かう。
訓練場の入り口には王国魔術師が集まって賑わっていた。
高貴な方が集っているので警備のために配置されているのだが、壮行会の雰囲気を醸していた。
「ステラが来たぞ!燃えてるか!」
「燃えています!ありがとうございます!」
「ステラ!俺達の無念を晴らしてくれ!」
「はい!やってみせます!」
警備部隊は忙しいので姿がなかったが、戦闘部隊や他の部隊の魔術師が次々にステラに声をかけてくれて嬉しくなる。
部隊長はその地位についてから十年、天覧試合で無敗らしい。
前回は消し炭にならないのが目標だったが、今回は勝ちに来た。
皆の声援を受けてステラはまた燃えていた。
王族方に挨拶を終えたのであろう戦闘部隊長も下に降りてきたので敬礼で出迎える。
「君とまた戦えるのを楽しみにしていたよ。そのお立場は気にするなと師団長に言われたから手加減はしない。」
「光栄です、部隊長。本日はよろしくお願いいたします。」
「ああ、よろしく。」
訓練場に歩いていく部隊長に続いてステラも訓練場に入る。
今日使う魔法を考えながら、訓練場を囲う防御結界の強度を確認する。
いつも以上に強力に何重にも張られていて、攻撃が逸れても観客に当たることはまずなさそうだった。
同時に、部隊長の攻撃も前回の対戦の比ではなく強力になることが想像できたので気を引き締めた。
部隊長と並んで訓練場の真ん中に立ち、貴賓席の方に向けて臣下の礼をとる。
そのまま訓練場の反対方向に向かう部隊長を敬礼で見送って、ステラも貴賓席のある側に走っていく。
向かい合うと、部隊長が魔力を解放した。
ステラの足元に地面を焼き付くすような魔力が迫る。
部隊長の魔力が訓練場を包む前に、ステラも魔力を解放して部隊長の魔力を押し返す。
密度の高い魔力がぶつかり、熱した鋼同士を打ち当てたかのような衝撃を感じる。
部隊長を取り囲むように遠隔魔法で攻撃を仕込み、自分には無詠唱で防御魔術を張る。
前回と同程度の攻撃ならこれで防げる。
そして来るであろう次の一手を防ぐために杖を握る手に力を込めた。




