70.予選
珍しくヴァレン様が一日執務室に篭られる日、ステラは久しぶりに訓練に行こうかなと考えながら執務室で護衛をしていた。
最近魔法を使っていないので鈍っている気がして不安になったのだ。
ステラのわがままでヴァレン様の公務の邪魔をするなど不敬なので、レオナルドの耳元で小声で聞く。
「レオ様、本日はヴァレン殿下は一日執務室にいらっしゃいますよね。」
「そうだよ。どうしたの?」
「私、王国魔術師団に訓練に行ってもいいですか?」
「いいと思うよ。ヴァレンに聞いたら?」
「恐れ多くて聞けません。」
レオナルドが苦笑するのでちらっとヴァレン様を見ると話が聞こえていたのか、不機嫌そうにこちらを見ていた。
ステラは諦めて姿勢を正して、胸に手を当てて頭を下げる。
「…ヴァレン殿下。恐れながら、私は王国魔術師団の訓練に行ってきてもよろしいでしょうか。」
「いいよ。最初から私に聞いてくれ。」
「…申し訳ございません。」
深く頭を下げ、ご機嫌取りはレオナルドに委ねて退出する。
久しぶりに王国魔術師団の本部に行くと、やはり父が厳命してくれているのか皆変わらない態度で接してくれてほっとした。
「ステラ、ちょうどよかった。
天覧試合の予選をしているんだ。
部隊長と渡り合えるのはステラだけだし、出てみたら?」
「天覧試合って何でしょうか?」
休憩中だったのか、戦闘部隊のディーンがタオルを肩にかけて声をかけてくれた。
「国王陛下の前で戦闘部隊長が魔法戦をするんだよ。王族と貴族も一堂に会する。
予選を勝ち抜いた王国魔術師が相手になるんだ。
毎年五月にあるんだけど、君は前回は予選に間に合わなかったから初めてだな。」
「そうなんですね…。」
ステラは部隊長との再戦の誘惑と、王族の前で魔法戦という恐れ多さと戦っていた。
「…考えておきます。」
「戦わないと師団長の名が廃るぞ。」
「やります。」
「じゃあ、早速第一訓練場に行こう。」
「はい、ディーン様。」
ステラの葛藤は一言で解決した。
勝ち抜けばまた部隊長と戦えると思うと、ステラの心は沸き立った。
第一訓練場に近づくと、外からでもわかるほど派手な魔法が飛び交っていた。
「地割れしてそうだな。」
「ぬかるませたら勝てそうですね。」
「あれは笑いそうになった。」
「田舎では必須の魔法ですよ。」
ステラは前回、地面をぬかるませて気を引いてから不意討ちをして部隊長に勝利したのだ。
今回は同じ手は使えないのでどうしようと考えていた。
でも、まずはその前に戦闘部隊の魔術師を倒さねばならない。
ステラは久しぶりの戦いに燃えていた。
予選は途中まで進んでいたが、部隊長に勝ったことがあるステラは特別に参加させてもらった。
初戦の相手は一度負けたことがある魔術師だ。
戦いを知らなかったあの頃よりは成長していると思うけど、油断してはいけない。
ステラは訓練場の端に立つと魔力を解放する。
相手の魔術師も解放すると、競技場の真ん中で魔力がぶつかって熱が伝わってくる。
ステラは無詠唱で遠隔魔法を仕込んで、相手を取り囲むように四方八方から狙う。
同時に自分を取り囲むように無詠唱の防御魔術をかけておく。
前回の襲撃を受けて、ヴァレン様にはいつでも防御魔術をかけられるようにしておきたかったので無詠唱でも発動できるように練習したのだ。
「それでは、始め。」
声と共に下から地鳴りが聞こえる。
「《大地よ、我に従え》」
地面に相手以上の魔力を込めて鎮める。
足をとられては厄介なのと、地面は平らであってほしかったので攻撃の発動を防いだのだ。
「《囲め》」
詠唱して上空高くに数ヶ所と地面に数ヶ所結界を張る。
相手はステラが転移魔術を使えることを知っている。
転移魔術は魔力の消費が大きいので使える者自体が少ない。
実戦で使われることはまずないため、警戒される。
上空に飛ばれると厄介なので、すぐに上空の結界の解除にかかっている。
「《転移せよ》」
ステラは上空の一番高い結界の上に立っていた。
短距離であれば短縮詠唱で《転移》できるとは思ったが、成功してほっと息をつく。
ただ、相手はステラの足元の結界を解除してくる。これが狙いだった。
恐らく、相手は一つ解除してもまた別の結界に《転移》すると予想しているだろう。
ステラが落下すれば、その瞬間はステラに視線が向けられて防御が疎かになる。
結界が解除されかけたとき、最初に仕込んでいたが発動させていなかった攻撃魔法を発動させる。
同時に結界が解除されてステラの体は地面に向かって落下していく。
落ちるステラに気を取られて防御が遅れ、杖から手を離すのが見えた。
地面に落下するまでの十秒が勝負だった。
相手に無詠唱で防御魔術をかけるのと同時に詠唱する。
「《転移せよ》」
次の瞬間、ステラは地面に張っておいた結界の上に立っていた。
結界は位置を座標指定するので、地割れがあるとやりにくかったのだ。
もちろん、相手はステラの防御魔術で守られて無傷だ。
「あの高さから婚約者様が落ちてくるのは震えたよ。」
「ご心配をおかけしました。」
「君にはもう勝てそうもない。」
「とんでもないです。またよろしくお願いいたします。」
魔術師と握手をして初回の戦いを終える。
その後も日が暮れるまで戦って五連勝したところで時間になった。
侍女に磨いてもらった後、ヴァレン様と一緒に夕食をとる。
「ステラ、今日は何をしていたの?」
ヴァレン様はいつもステラの面白くもない訓練の話を聞いてくれる。
そういえば、とステラもヴァレン様に聞く。
「戦闘部隊で天覧試合の予選をしていたので参加してきました。
今年はヴァレン様も試合をご覧になるんですか?」
「私も、というよりもステラと一緒に見るものだと思っていたよ。」
「……私とですか?」
「君は王族として扱われると言っただろう。」
「…ひっ……」
予想もしていなかった回答に戦いて一瞬心臓が止まった。
自分が見る側になるなんて全く想定していなかったステラは動揺で料理の味がわからなくなる。
「…まぁ今回はいいよ。母上もお喜びになるだろうし反対する者はいないだろう。」
「よ、よかったです…。」
ステラはほっと息をつく。
第一王妃陛下に喜んでいただけるならこれほどの光栄はない。
絶対に部隊長と戦う、とステラは改めて燃えた。
「そういえば、明日は入学式で学院に行くからステラも来てほしい。」
「承知しました。」
任務とはいえ、ヴァレン様と一緒に学院に行けるのは嬉しい。
それに明日また「王家の魔法」の一つである「豊穣の魔法」が見られるのかと思うとわくわくしてきた。
「嬉しそうだね。」
「去年のヴァレン様が美しかったので…また見られるのが嬉しいです。」
「儀礼魔法は見た目だけだから。効果もあればいいんだけどね。」
「効果はないんですか?」
「あったら凶作など起きない。」
「そ、そうですよね。」
「王家の魔法」の知らなかった事実をまた知って、ステラは内心喜びに満ちていたが、あの血管がぞわぞわする感覚を毎回味わっているヴァレン様のことを考えると素直に伝えられなかった。
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