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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第一章 王立魔法学院編

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51.王国魔術師



練習場の真ん中に学院代表の男子生徒が立っていた。

観客席からは男子生徒を応援する歓声が響いている。


「本日、王国魔術師様と戦う栄誉をいただきました。学院代表を務めます四年生のラウル・ベルニエと申します。よろしくお願いいたします。 」

「王国魔術師団から参りました、第二王子殿下付き近衛魔術師のステラ・アルカニスです。

よろしくお願いいたします。」


ステラが一礼をすると、ラウルが立ったままステラを上から下までじっと見るのでステラは黙って見つめ返す。


王国魔術師の白いローブを着ているステラをニヤニヤと舐め回すように見る姿に、言葉とは裏腹に自分が馬鹿にされているのがわかった。



王国魔術師を前にして敬礼もしなければ頭も下げない。

ステラのことを王国魔術師だと認めていないのだろうか。

その不躾な視線からして、ヴァレン殿下がご寵愛下さるから近衛になったとでも思っているのかもしれない。


ステラは顔には出さなかったが静かに怒りを覚えた。




「それでは位置についてください。」


審判を務めるクリンプトン先生が言うと、ステラは先生にさっと敬礼して、練習場の端に向かう。




練習場の両端に向かい合って立つ。

ラウルの魔力は練習場の三分の一程度の量だ。

強者揃いの戦闘部隊の魔術師と比較すると少なく感じるが、学生にしてはかなりの量だ。

恐らくトーナメントでは余裕の勝利を収めてきたのだろう。


(…でも隙だらけね。)


元副部隊長のクリンプトン先生も含めて、戦闘部隊の魔術師が持つ魔力は燃えているようにも感じるほど圧倒的な質量があり隙がない。

対して、ラウルが放つ魔力は脅威とはとても感じられない。


ステラを王国魔術師だと認めていないからか、トーナメントで負けなしだからか、隙だらけのその姿を見て、ステラが本気で潰そうと思えば始まった瞬間に決することが容易に想像できた。


ただ、ステラは開始一秒で潰すことが最善だとは考えなかった。

この未熟な魔法使いに、王国魔術師とはどのような存在なのかを教えたいと思った。




腰に提げている革ベルトの上から杖に触れ、無詠唱で軽めの遠隔攻撃魔法を仕込む。

この程度の魔法なら不意に攻撃されても死にはしないはずだ。


「それでは、始め。」


クリンプトン先生の声と同時にステラの遠隔魔法が発動する。

学院の生徒で無詠唱で魔法を発動できる者はいないだろう。

前触れもなく突然降ってきた魔法にラウルは慌てた様子で防御をしている。


ステラはそれを見て杖は持たないまま静かにラウルの方に歩みを進める。


丸腰で自分に向かうステラに気づいたのか、攻撃魔法をいくつか唱えている。

上から魔力を感じる。降ってきた雷の魔法を無詠唱で防御魔法を発動して防ぐ。

正面からの魔法も同じく、杖を取り出さず手で触れるだけで無言のまま防ぐ。


相手の顔色が変わる。

ステラは初めて杖を手に取り、詠唱した。


「《霧よ、我を覆い隠せ》」


辺り一面を濃い霧が覆う。

ラウルも客席もステラを視認することができなくなっただろう。

ステラは小声で隠密魔法をかけて気配と魔力を完全に消す。


ステラの気配さえも見失ったラウルが見境なく攻撃を飛ばすが、当たることはない。

ステラは相手が発している魔力を頼りに歩く。



当てずっぽうに攻撃を飛ばすラウルに、万が一ヴァレン殿下に当たったらと思うと許せなくなったステラは、ラウルを取り囲むように遠隔魔法を無詠唱で仕込み、発動させる。


視界がない中で四方八方から自分に飛んでくる攻撃に、ラウルが慌てた様子で防御している声が聞こえてきた。


ラウルが防御に気を取られて気づかない間に十メートル、三メートル、と距離をつめていく。




そして相手の目の前に立ったとき、全ての魔法を解除して喉元に杖を突きつけた。




突然霧が晴れて現れたステラにラウルが目を見開き、恐怖に戦いた顔で杖を突きつけられた喉元とステラを交互に見つめる。

ステラは始まったときと何ら変わらない真っ白な王国魔術師のローブを靡かせていたが、ラウルはステラの攻撃による土埃を浴びてボロボロだった。



怯えたラウルと目が合ったステラはそこで初めて魔力を解放する。

練習場全体を燃えるようなステラの魔力が包み込む。


解放したステラの密度の高い魔力を至近距離で浴びたラウルは崩れ落ちて膝をつく。


その手から杖がこぼれ、地面に転がった。



突然広がったステラの魔力に驚いたのか、会場は静まり返っている。




「私はこの国に仕える王国魔術師だ。

私を侮るな。」



静かな練習場にステラの声が響く。

声に怒りが滲んでしまう。


ヴァレン殿下が、父が、王国魔術師の仲間が認めてくれた王国魔術師である自分を侮られたのが許せなかったのだ。


「…それに私は第二王子殿下の近衛魔術師です。

私を侮るのならば、第二王子殿下への不敬とみなします。」


呼吸を整えて続ける。

声は落ち着きを取り戻したが、主君を侮られた怒りで、相手の喉元に突きつけた杖先から魔力が滲む。



ラウルは体をガタガタ震わせながら胸に手を当て、臣下の礼をとって頭を垂れた。


「申し訳ありませんでした。第二王子殿下とあなた様への不敬をお詫びいたします。どうか過ちをお許しください、近衛魔術師様。」


「分かれば良いのです。…今後に期待しています。」


ステラは言いながら杖をベルトに仕舞い、相手の手を引いて立たせる。


尚も項垂れるラウルにステラが微笑んで握手を求めると震えた手で応じてくれた。




拍手の音がしてはっとして見ると、クリンプトン先生がステラに拍手を送ってくれていた。

拍手は教員席に、そして客席に広がって練習場を包み込む。


ラウルを労う歓声よりも大きく、ステラを讃える歓声がはっきりと聞こえてくる。


ステラは客席に一礼をして練習場を去ると、だんだん恥ずかしくなってきたので足早にヴァレン殿下の元に向かった。




皆の視線を感じながら客席にいるヴァレン殿下の元に戻るとヴァレン殿下が立ち上がって迎えてくれた。

ステラはその場で跪き、臣下の礼をとる。


「楽にせよ。」


その言葉でステラは立ち上がり、また頭を下げる。


「私の名に恥じぬ働きをしてくれた。」

「ありがたきお言葉、恐悦至極に存じます、ヴァレン殿下。」


再び臣下の礼をとっていると、ヴァレン殿下がつかつかとこちらに歩いてきてステラを抱き締める。


「ありがとう、ステラ。」


耳元で囁かれたその言葉に驚いて顔を上げると、ヴァレン殿下の濃い金色の瞳に捉えられた。


そのまま顔が近づきかけて、ステラははっとする。

ヴァレン殿下の肩越しに見える客席の学生は今や誰もがこちらを見ていた。


ステラはぼぼっと赤面して腰が抜けてしまい、ヴァレン殿下に抱き抱えられるようにして練習場を後にした。




◇◇◇




「……んっ…はぁ……ふ、ヴァレン…さま……」


早足で寮に連れ帰られ、応接室に押し込められると激しく口付けをされ、ステラは息も絶え絶えにその胸を押し返す。


「ヴァレン様、どうされたんですか…?」

「ステラがかっこよくて、襲いたくなった。」

「どうい…う………んっ……」


よくわからない理屈に混乱しながら、口付けの合間に必死に息を吸う。


蕩けて力が入らなくなったステラを見てようやく体を離してくれたヴァレン様は、そのまま手を取ってカウチに導く。



「ステラが、初めて自分を誇ってくれて嬉しかったよ。」


目を細めて、ステラの髪に触れながら言うと、優しく額に口付けをくれる。


「あ、あの、出すぎた真似をしてすみません…。」

「何も謝ることはない。私は君が誇らしいよ、ステラ。」

「ありがとうございます…。」


怒りの余りとんでもないことを口走った気がして恥ずかしくなってくる。


「ステラ、怒らせると怖いタイプだったんだね。気を付けないと。」


そう言って笑うヴァレン様に恥ずかしくなりながらも、喜んでもらえているようでよかったとほっと胸を撫で下ろした。



◇◇◇



翌日、教室に入ったステラは拍手に包まれて思わず後ずさりをした。


「ど、どうしたの…?」

「ステラ、最高にかっこよかったよ!」


クリスフォードにばんばん背中を叩かれて、昨日の魔法戦のことを思い出して赤面する。


「本当にかっこよかったわ、ステラ。

あなたのファンクラブが出来てたわよ。」

「え?!!」


アリスにもニヤリと笑われてステラはパニックになる。


「王国魔術師様ってすごいな。俺も目指そうかな。」


ドラードに言われて目を見開く。


「あなたならきっとなれるわ。」

「もし本当になれたら魔法戦で戦ってくれ。」

「もちろんよ。」


自分を見て王国魔術師を目指してくれるなんて、ステラは素直に嬉しかった。


皆に祝福されて嬉しかったけど、同じくらいヴァレン殿下のご寵愛を突っ込まれてステラは赤面してヨレヨレになった。



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