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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第一章 王立魔法学院編

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52.王族への許し



魔法戦が終わると、学院は今度は期末試験一色になった。

皆魔法戦に夢中だったので勉強が追い付いていないと嘆いていたが、ステラはその間に勉強していたので寝不足にならずに済んだ。



期末試験を終えた翌日、ステラの実家である王都のアルカニス魔法伯爵邸に向かっていた。

ヴァレン様が以前言っていた、ステラの母に挨拶したいという信じられないことが、本当に叶うのだ。


ヴァレン様は卒業を控えて公務が立て込んでいるらしく、長期休暇は王城に籠りきりになるから、試験を終えたタイミングで帰ることになった。



また例の王族専用の馬車にヴァレン様と並んで腰かけていたので恐縮していたが、ステラの頭はそれよりも久しぶりに会う母のことでいっぱいだった。


「ヴァレン様、母が不敬を働いてしまったら申し訳ありません。」


ステラは体を横に向けてヴァレン様に頭を下げる。


母は子爵家出身なので貴族のマナーはむしろステラよりも詳しいが、ステラを溺愛するあまりヴァレン様にとんでもないことを言うのではないかと心配していたので、先に謝っておこうと思ったのだ。


「私は気にしないよ。ステラはどうしてそんなに緊張しているの?」

「いえ…」


横に座るヴァレン様が優しい瞳でステラを見つめる。

たしかにステラは朝からずっと緊張していて、珍しく朝食もほとんど食べられなかった。


「………お母様に、どんな顔をして会えばいいのかわからなくて…。

それに、私のせいでヴァレン様にもお母様にも申し訳ないです。」


ステラは悩みながらも自分の気持ちを口に出した。

ステラは領地が近く、母の実家と縁戚関係もあるリュクス公爵家を除いて、高貴な方から遠ざけられるようにして育ててきた。


ステラの実の父親、ノクティス公爵からステラを遠ざける意図もあったのかもしれないが、恐らくはステラの髪の色のせいだと思っている。


ステラは庶民でも知っているらしい「王家の巫女」の伝承を知らなかった。

父と母がステラの髪の色を見てその伝承との関わりに気づいたから、ステラを守るために王族から遠ざけたかったのだろう。


そんなステラが母の愛に応えず、ヴァレン様と挨拶に行くことが母にもヴァレン様にも申し訳なかった。



すごく失礼なことを言っているのに、ヴァレン様はステラの頭を撫でながら変わらず優しい瞳を向けてくれる。


「君の母君は、君を守ってくれていたんだろう?」

「…はい。」

「それなら、今度は私がステラを守ると伝えないとね。

母君に安心してもらえるよう、頑張るよ。」

「ヴァレン様…っ。ありがとうございます。」


高貴なお立場であられるのに、ステラの母など気にするに足らない尊いお方なのに、そう言ってくださるのが嬉しくて尊かった。




魔法伯邸に着き、ステラがヴァレン殿下のエスコートで馬車を降りると、父と母が屋敷の前で並んで出迎えていた。


「この度は遥々お成りいただき、誠に光栄に存じます、第二王子殿下。」

「アルカニス魔法伯、夫人、本日は時間をいただき感謝する。」


ヴァレン様がそう言って軽く頭を下げるのを見てステラは驚愕する。

両親も頭を下げたまま驚いているのがわかった。


「滅相もございません。殿下、どうぞお入り下さい。」


父が応接室に案内するのでステラもヴァレン殿下にエスコートされたままついていく。




応接室で両親と向かい合って座る。

久しぶりに見る母は、ヴァレン殿下と並んで座るステラを見て顔面蒼白になっている。

話には聞いていても、実際にヴァレン殿下のお隣に立つステラを目にして倒れそうになっているのだろう。

ステラには母の気持ちがよくわかった。


「…私は貴殿の娘、ステラと婚約する運びと相成った。」

「ありがたき光栄に存じます、第二王子殿下。」


父が頭を下げ、母もそれに合わせる。


「今日は王族として来たのではない。

ご令嬢を貰い受ける許しを得るために来た。

楽にしてほしい。」


ヴァレン殿下の言葉に父がわずかに目を見開き、母は驚愕の表情を浮かべている。


先ほどもそうだが、王族が伯爵家に頭を下げたり許しを乞うなど、ありえない。

ステラもその言葉に慌ててヴァレン殿下を見るが、その瞳に揺らぎはなかった。



「ご挨拶が遅れてすまない、魔法伯夫人。」

「とんでもございません。私こそ、第二王子殿下へのご挨拶が遅くなりましたご無礼をお詫び申し上げます。」

「よい。王族として来たのではないと申したはずだ。」

「…恐れ入ります。」


ステラの瞳は母譲りだ。

声には出ていないが、自分にそっくりの母の瞳からは激しく動揺しているのがよく伝わってきた。


「夫人は、ステラが王族と関わることを望んでいなかったと聞く。驚かせてしまってすまない。」

「滅相もないことでございます。」

「既に聞き及んでいるだろうが、ステラは『王家の巫女』だ。」


母はビクッとして目を伏せる。

父は片眼鏡越しにヴァレン殿下をじっと見つめている。


「だが、私がステラを選んだのはそのような理由ではない。

私は、貴殿のご令嬢を、ステラを愛している。

ステラを絶対にこの手から失いたくない。」


その言葉に母が初めて顔を上げ、信じられないというような表情でヴァレン殿下を見つめる。


「私はステラを守り抜くと誓った。

そのために、王位を継承することも決めた。


そなたが守ってきた大切なご令嬢を奪うことになり申し訳ない。


だが、私の手に囲うからには絶対に守り抜く。

どうか信じて託してはいただけないだろうか。」


母はヴァレン殿下が口にした恐れ多い言葉に衝撃を受けたのか、口を手で覆い、目を見開いて震えている。


ヴァレン殿下の濃い金色の瞳がステラの母をじっと見つめる。

母はしばらくそのままヴァレン殿下の瞳を見つめ返していたが、やがて目を伏せる。



その姿を見てステラも初めて口を開いた。


「お母様、私はノクティス公爵様とお会いしました。」

「………ス、テラ…。」


今日初めて目が合った母の瞳に涙が溜まる。

隣で父が表情の読めない顔で片眼鏡越しにステラを見つめている。


「お話はしていませんが、ただ立っているだけでも怖かったんです。

この方の血が、第一王子殿下の後ろ盾となっている方の高貴な血が、私に流れているのかと思うと恐れ多さに体が震えました。


でも、ヴァレン様は、気にしなくていいと言ってくださいました。

私はアルカニス魔法伯の、お父様とお母様の娘だからと。

それを聞いて安心したんです。

私はこれからもずっとお父様とお母様の娘です。


ヴァレン様は、いつも私のことを気遣って、守ってくださいます。

だからお母様もどうか安心なさって下さい。

私、ヴァレン様のお隣にいられることが幸せです。」


母が気にしているであろうことをステラも知っていること、そして乗り越えたことを伝えたかった。


「ステラ…。ありがとう。貴方は自慢の娘よ。」

「そうだ。ステラは父様と母様の自慢の娘だよ。」


母の頬を涙が伝い、父が横からハンカチを差し出しながらステラに優しく微笑んだ。


「幸せになるのよ、ステラ。」

「はい、お母様。」



母が立ち上がり、膝をついて臣下の礼をとる。父も母に倣って跪いた。


「身に余る光栄、恐悦至極でございます、第二王子殿下。」

「どうか娘を、よろしくお願いいたします。」


両親がヴァレン殿下に頭を下げる。


「私の名に誓って、必ず守り抜こう。」


ヴァレン殿下も立ち上がって頭を下げると、ステラの方を見て微笑んだ。




それからヴァレン殿下は、領地から三日かけてわざわざやってきていたトムス家令にステラのダンスを鍛えた褒美として執事服一式を送り、トムス家令は感激で腰が抜けていた。


家令についてきていた領地の騎士からは、ステラが幼少期ボロボロになりながら訓練に励んでいた頃の恥ずかしい話を聞いて、お腹を抱えて笑われていた。


父とは王国魔術師団で顔を会わせていたが、立場を抜きにして話すのは久しぶりだったので、積もった話をたくさんした。



すっかり日が暮れて寮に戻る頃にはステラの心は温かさに包まれていた。


「ヴァレン様、今日は本当にありがとうございました。」

「ステラが笑顔になってくれてよかった。」


帰りの馬車の中でヴァレン様にたくさんお礼を言って、無事に寮に戻ったのだった。



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