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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第一章 王立魔法学院編

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45.最終訓練



ヴァレン様と一夜を過ごしてしまった舞踏会から三週間が経った。

あれからいくつかの社交に参加したが、ヴァレン様のお側を離れる方が危険だと気づいたステラは大人しくお隣に立たせていただいた。


直接の攻撃はないものの、ステラの空間魔術が時々《敵》を察知したので、舞踏会のようなことはヴァレン様にとっては何でもない日常なのだと気づいた。



貴族の化かし合いのような王都の社交には慣れないが、ステラは微笑んで聞いているだけでほとんどヴァレン様が対応してくれたので頭の中では警備に集中していた。

相変わらずヴァレン様は人目を気にせずステラに触れたり甘い言葉をかけたりするので、お隣で立って話を聞いているだけでいいのはむしろ気が楽だった。





学院に戻る日を翌日に控え、王国魔術師団での訓練も最終日となった。


模擬魔法戦では戦闘部隊の二十人全員と副部隊長から勝利を収め、残る相手は部隊長だけだ。

戦闘部隊長はその地位の通り王国魔術師団きっての武闘派で、戦闘経験の浅い者が戦ってしまうと防御をする間もなく命が消し飛ぶ。

部隊長と戦うには戦闘部隊全員に勝利を収めることが条件だったので、ステラはこれから部隊長と戦うことのできる栄誉に高揚していた。


「部隊長の魔法戦を見られるのは三ヶ月ぶりだな。燃えるぜ。」


初日に戦ったディーンに声をかけられる。


「私も燃えています。せめて三分は立っていたいですが…。」


ステラは、部隊長に勝利できるとは思っていなかった。

ただその魔法をこの杖で受け止めてみたかったのだ。


「ステラならもしかしたら勝てるかもな。」

「勝てそうにはありませんが、持てる全てを出すつもりです。」


初日には負けたけど、翌日にはリベンジを果たしたエメリックに言われる。

でも、今日の目標は消し炭にならないことなのでステラは落ち着いて答える。


「今日は師団長も見に来るらしいよ。」

「おと…師団長も……。では、派手に頑張ります。」


咄嗟にお父様と言いかけてやめる。

父からは初日に「派手にやれ」と言われていたので、その通りにしようと杖を握りしめる。



今日の魔法戦の会場は、初日に戦った第一訓練場だ。

貴賓席もあって、訓練場の周囲を囲うように強力な結界が張ってある。

他の訓練場は客席などはなくただフェンスで区切られただけの空間なので大規模な魔法は危険だが、ここは建物さえ壊さなければ何をしてもいいと言われた訓練場だ。



「師団長と部隊長と……第二王子殿下に敬礼!」


(ヴァレン殿下?!な、なぜお越しなの?!!)


入り口で待機していた魔術師の声がして、ステラは思わず顔を上げそうになるが堪えて敬礼をする。


「面を上げよ。」


ヴァレン殿下の朗々とした声が響く。


「ステラ、前へ。」

「はい、師団長。」


父の声がしてステラは再び敬礼して前に進み、ヴァレン殿下の前に跪き胸に手を当てて臣下の礼をとった。


「我が近衛として実力を示してみよ。期待している。」

「誠にありがたき言葉、恐悦至極にございます、第二王子殿下。」


ヴァレン殿下の胸に響く声にステラの胸は高鳴るが、声色に出さないように気をつけて頭を下げた。


「日頃の訓練の成果を存分に発揮せよ、部隊長。」

「承知しました、師団長。」


父が部隊長に声をかけると、部隊長はヴァレン殿下と父に敬礼をして訓練場の端に歩き出した。

ステラも同じように敬礼をして、部隊長とは反対側の端に立つ。


父とヴァレン殿下が貴賓席に入り、戦闘部隊員と見学に来ている数十人の王国魔術師が客席に座るのを頭を下げて見届けてから、ステラは部隊長に向き合った。


部隊長から溢れる魔力が足元をメラメラと燃やすように迫っている。

ステラも魔力を解放して、その魔力を押し返した。


部隊長の位置を確認した後、無詠唱で遠隔魔法の攻撃を仕込み、自分に防御魔法をかけた。

模擬魔法戦は決まりでもあるのか、始まった瞬間に攻撃魔法で畳み掛ける。

初日の雷の魔法もそうだ。

戦闘経験や実力に差があるとそれで勝負が決することもある。


優位に戦いを進めるべく一刻も早く攻撃をするため、そしてその攻撃を防ぐために、戦闘部隊の魔術師は無詠唱でも強力な魔法を使える。

毎日のように一緒に訓練していたステラも、無詠唱である程度の魔法を使えるようになっていた。


普通の魔術師相手であれば無詠唱の防御魔法でも防げるが、部隊長の攻撃はそうはいかないだろう。

始まった瞬間に防御魔術を展開しようと意識を集中した。



「それでは、はじめ。」

「《訪れし災厄を打ち払え》」


審判の声がして声がして、ステラは杖を空に向けて高度な防御魔術を詠唱する。

空から何発もの雷がステラを攻撃するが、防御に当たって激しく光って消えた。

ビリビリと腕に走る衝撃に警戒を強めた。


視界の端に映る部隊長はステラの遠隔魔法を無詠唱で防いだようで、既に走りながらステラに向かって魔方陣から強力な攻撃を飛ばしている。


ステラも走ってその攻撃を避けながら、上空に向けてただの箱形の結界をいくつか張る。

地上から魔法が届く最も高い位置にぐっと魔力を込めて強力な結界を張った。

結界は透明なので地上からは視認しにくい。

全てを解除されることはないだろう。


部隊長の攻撃が飛んできて、先ほどまでステラの足があった場所の地面を削る。

まともに当たってしまえば消し炭じゃ済まないだろう。


ステラは防御で防ぎながら攻撃を返し、部隊長の隙が生まれる瞬間を狙っていた。


そのとき、足元から強大な魔力を感じた。


(下から攻撃?!)

「《守れ》」


慌てて防御結界を張ると、練習場の地面がビリビリと地割れを起こし、ステラの足元で防御に弾かれて止まった。


(な、なんて魔力…消し炭どころじゃないわ…)


持久戦に持ち込まれると、体力のある部隊長には勝てそうもないどころかステラは塵も残らないかもしれない。

今やるしかない、と決意をして、次の攻撃を待った。



部隊長がまた詠唱を始めているのを確認して、再び現れた地割れがステラを襲う前に詠唱する。


「《印せし場所に我を移せ。転移せよ》」



ステラは次の瞬間、先ほど上空高くに張った結界の上に立っていた。

王国魔術師団が誇る天文台と肩を並べる高さに怖じ気づきそうになるが、そんな場合ではない。


部隊長は突然消えたステラに面を食らって隙ができていた。


(勝負は不意討ちに限るのよ。)


上空に目を向けられないうちにありったけの魔力を込めて詠唱する。


「《水よ、大地を潤せ》

《雷よ、大地を貫け》」


ステラが渾身の魔力で放った魔法に地上の訓練場は瞬く間にぬかるみ、上空からは数発の雷が取り囲むように部隊長を狙う。

この雷がぬかるんだ地面を貫いたら部隊長どころか訓練場全体が感電するだろう。


部隊長は突然現れたぬかるみに気を取られ、防御が一瞬遅れた。

その手が杖を手放したのを確認して、ステラは魔法を解除した。



再び《転移》して元の場所に戻ると、部隊長がぬかるみに足を取られることなく駆け寄ってくるのが見えて、ステラもそちらに駆けた。

と思ったが、地割れたところがぬかるんで、見事に足を取られて派手に転んだ。


ステラは部隊長の攻撃で土埃を浴びた上にぬかるみにはまったので元の白がわからないほど汚れていたが、部隊長は足元以外は真っ白なローブのままだった。

ステラも絶えず攻撃をしていたが、そのローブを汚すことなく防御していたのだ。

不意討ち以外では勝てそうもない、ステラとは格が違う相手だと悟った。


「君にはやられたよ。素晴らしい作戦だった。」

「光栄です、部隊長。」


敬礼して頭を下げる。


「これは私が直しておくよ。君は殿下と師団長のところに向かってくれ。」

「恐れ入ります。承知しました、部隊長。」


ステラは再び敬礼をすると、足を取られてよたよたしながら進み出した。

進むうちに段々ぬかるみが乾いてくる。

部隊長はどんな魔法を使っているんだろうと考えながら、このままだとヴァレン殿下を待たせるかもしれないことに気付いて入り口に向かって駆け出した。


客席から王国魔術師の仲間がわいわいと祝福してくれて嬉しくて手を振っていると、貴賓席からヴァレン殿下と父が降りてくるのが見えて慌てて訓練場を出て跪いた。



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