44.解毒※
※R15
ヴァレン様に傷を癒してもらったステラは、侍女に軽く湯を浴びさせてもらい、ドレスを着替えてから先ほどの部屋に戻った。
ヴァレン様が手配してくれた医官がステラの体を丁寧に診察してくれた。
「確かに毒のようですが、ご自身で防御されているようですので一晩もあれば解毒するかと存じます。」
医官に言われて、ステラはほっと胸を撫で下ろす。
実は、葡萄酒に入っていた毒の種類に気付きつつあった。
「わかった。もう下がってよい。」
「はい。失礼いたします、第二王子殿下。」
医官が敬礼をして退出する。
「ステラ、顔が赤いけど大丈夫?」
「んっ…ふ……はい。」
ヴァレン様に頬を撫でられるとぞわっと全身に興奮が走って変な声が漏れたので慌てて手で口を押さえる。
「ステラ…?」
ヴァレン様が訝しげにステラを見つめる。
「も、も、申し訳ありません…っ!
げ、解毒でぼーっとしてきたので帰りたいです!」
ステラは一刻も早く眠ってしまいたかった。
令嬢がヴァレン様に飲ませようとした毒は、媚薬だったのだ。
医官に診てもらっているときからむずむずして、触れられたところからピリピリと電流が走るような感覚がしたので、もしかしたらそうかもしれないと思っていた。
ヴァレン様に触れられて確信したステラは、醜態を晒す前に早く一人になって、眠って忘れてしまいたいと思っていた。
「…そうか。ステラ、歩ける?」
「ひゃっ…あ、歩けます。ありがとうございます…。」
手を取られただけなのに背中までぞわっと快感が広がり、ステラは飛び上がる。
ヴァレン様はおかしな動きをするステラに目を眇めたが、何も聞くことなくそのまま歩き出した。
「ヴァレン様…っ、送って、いただいてありがとう、ございました…っ」
ヴァレン様に手を引かれて、どうにか部屋までたどり着いたが、ステラの体の疼きは限界だった。
ヴァレン様の瞳に見つめられるだけで不純なことを考えてしまい、足をきゅっと閉じてしまう。
一刻も早くベッドに入って寝なければ、と一礼して扉に手を掛けようとすると、それよりも先にヴァレン様の手が扉を開け、ステラを部屋に押し込める。
後ろ手にドアを閉めたヴァレン様は杖を手にして防音結界を張る。
「ヴァレン様…、どうされ、たんです…んっ…ふぅ……はぁ……ん…………な、んで……?」
「ステラ…そんな顔、私の前以外でしちゃだめ。」
突然唇を奪われてふやかされたステラは、すぐに離された唇に寂しくなって瞳が涙で潤むのがわかった。
燕尾服を着て勲章がいくつも光る完璧なヴァレン様と、淫らな思考に染まり腰が抜けそうな自分との対比にまた足の間が熱くなる。
「ヴァレンさま…私、媚薬…を浴びて……おかしく、て…ぅ…あ……」
「ステラ…。」
指輪がいくつも光る、ヴァレン様の男性らしい大きな手に気遣われるように首筋を撫でられると体が跳ねる。
もう立っていられない。
腰がガクッと抜けてヴァレン様の胸にすがると、そのままベッドまで抱き抱えられて優しく降ろされた。
「………ふぅ…ん…ぁ……ヴァレンさま…………」
「…君はなんて顔をするんだ。」
繰り返される口付けに頭がぼーっとして何も考えられない。
ふと見上げたヴァレン様は目元を赤くして手で口を覆っていた。
滲み出る致死量の色気に惹かれてしまい、ステラは腕を伸ばしてヴァレン様の顔を自分に引き寄せる。
重なった唇からくちゅ、と響く水音に足の間が疼いて、身を捩る。
「……私にも我慢の限界はある。」
色気を纏う金色の瞳にぐっと力が入ると、ステラの首元を時々吸い付きながら舌でなぞる。
その唇がステラの胸元まできたときにヴァレン様は瞳を歪めて言った。
「手は出さないと言ったから守りたい。でも、君に触れることを許してくれ。」
「ヴァレン…さま、になら…何を、されてもいい…です……んっ………」
ドレスの胸元をくつろげられる。
ヴァレン様の優しい指の動きが全て脳に電流となって伝わってくる。
余裕のない息遣いすら、ステラの脳は興奮に結びつけてしまう。
ビリビリとした感覚が体に走り、頭が真っ白になると、そこでステラの記憶は途切れた。
◇◇◇
ステラは幸せな夢を見ていた。
ヴァレン様がステラの頭を撫でてくれる。
ステラは嬉しくなってヴァレン様の胸にぎゅっと抱きついた。
……妙に現実感のある温かさだ。
ステラが大好きな、胸がぎゅーっとなる甘い香りがする。
「ヴァ、ヴァレン様?!!え?!!」
目を開けると、ステラはいつものベッドでヴァレン様の腕に抱かれて、髪を撫でられていた。
燕尾服ではなく、胸元のゆったりしたシャツを着ていて、前髪が目元にかかって致死量の色気を放っている。
「おはよう、ステラ。体は大丈夫?」
「え?!」
先ほどまで舞踏会にいた気がするけど、もう朝なんて。
それに同じベッドでヴァレン様の腕の中に……
「し、し、し、失礼しました!!!」
状況を認識して慌てて飛び起きようとするが、ヴァレン様の腕がぎゅっとステラを抱き寄せる。
「君が無事で、本当によかった。」
「え…?私……ひゃあああ!!!!」
ヴァレン様の言葉でやっと昨日自分がやらかした一部始終を思い出した。
途中から記憶がないが、覚えている部分だけでも不敬どころの話じゃない。
慌ててベッドから飛び降りて膝をつこうとしたが、飛び降りかけた体をまた抱きすくめられる。
「不敬じゃないよ。」
「で、で、でも………。」
ヴァレン様はクスクスと笑う。
不敬じゃなければ大逆罪だろうか。
顔を真っ青にしているとヴァレン様は朝の気だるげな、色気に満ちた瞳でステラのことを見つめて、頭を撫でた。
「本当にかわいかったな、昨日のステラ。」
「ヴァレン様っ……ん…っ」
そういって軽く口付けされると、ステラは耳どころか爪先まで真っ赤にして手で顔を覆った。
全てが恥ずかしい。
昨日のことも、今腕の中に収まっていることも全部全部恥ずかしい。
昨日の記憶が正しければ自分は信じられない格好でいるのではないか。
はっとして自分の体を確認するとドレスは綺麗に整えられているし、体はむしろすっきりしている。
まさか侍女に直されたのかと思ってステラは辺りをキョロキョロ見回す。
「清浄魔法をかけて、ドレスは私が整えさせてもらった。
跡がついてしまったけど…まぁ私の物だとわかりやすくていいか。」
「ひゃっ…ええ?!!ヴァ、ヴァ、ヴァレン様が…っ?!」
胸元に散らばった赤い跡を指でなぞられて体がビクッとなるが、そんなことよりもヴァレン様にドレスを整えさせるなんて、自分はなんてことをさせてしまったのだろうか。
「最後まではしていないから安心してね。」
いたずらっぽく微笑むヴァレン様に、最後ってなんだろう…と一瞬考えてその意味に気付き、恥ずかしさのあまり悶絶した。
身支度を整えるために入ってきた侍女に胸元を覆うボレロをそっとかけられて、ステラはその跡の意味にやっと気付いてまた耳まで沸騰して悶絶した。
◇◇◇
ヴァレン殿下を襲ったご令嬢は三日後に目を覚ましたが、魔力は消え飛び、二度と魔法が使えない体になったそうだ。
ステラのような者が魔力が消し飛んでしまったらお先真っ暗だが、普通の生活をする分には多少不便なくらいで済むだろう。
毒を解析した結果、一口で意識を混濁させるような強い媚薬だったらしい。
ステラが自分の体にも《防御》していたことと、傷口から微量入っただけなのであの程度で済んだのだ。
媚薬とはいえ、ヴァレン殿下に毒を盛った罪は大きい。
一族郎党国外追放され、修道院で静かに暮らすことになるそうだ。
ただ、黒幕はわからなかった。
令嬢は「ただヴァレン殿下と一夜を過ごさねばいけないと思った」という支離滅裂なことを言っていたらしい。
ステラは、第一王子殿下の金色の瞳の奥に光る紅い光が頭をよぎったが、証拠もないのに口に出すことはできなかった。




