41.舞踏会
本日二話目です。
指輪を渡し終えて安心したステラは、部隊長の命令通り、ヴァレン様に防御魔術を施した。
精神防御については「王家の魔法」が使えるヴァレン様には不要だと思ったので、ありとあらゆる身体防御をしておいた。
どんな形であれ傷つけようとする者がヴァレン様に敵意を持って触れたら、防ぐ間もなくその場で気絶して魔力が消し飛び、再起不能になるだろう。
魔力を消費するため舞踏会が終わるまでの短時間しかかけられないが、効果は抜群だと思う。
魔法をかけ終えたステラがヴァレン様にそれを伝えると
「ステラが味方で良かったよ。」
とクスクス笑われた。
そして、時間が来たのでステラは侍女に連行されて身ぐるみを剥がされ、湯を浴びて、これ以上ないくらいピカピカに磨き上げられた。
王城で一ヶ月毎日磨かれて過ごしたステラは、訓練でボロボロになっているのにも関わらず毎日ピカピカしていたが、今日はまだ磨けるところがあったのかと言うくらい磨かれたので一ヶ月前とは別人だった。
ヴァレン様に用意していただいた、ステラの瞳と同じアメジスト色のドレスを纏うとどこかのお姫様だと言われてもおかしくない見た目に仕上がった。
「ステラ、入るよ。」
侍女が退出した後、入ってきたヴァレン様は燕尾服を着ていて、完璧な麗しの王子様だった。
肩からサッシュを下げ、勲章がいくつも輝いている。
目を細めてステラを見るその麗しいお顔に、本当にこの尊いお方のお隣に立てるのか恐れ多くなってステラは頭を下げた。
「…ステラ、本当に綺麗だ。」
「滅相もございません。ヴァレン様…かっこいい…です…。」
ヴァレン様と目が合ってしまい、固まる。
今日これから、この美しく尊いお方と踊ることになるのだ。
ステラは興奮がばーっと体を駆け巡り、顔が赤くなるのを感じた。
ヴァレン様がステラの方に歩いてきたと思ったら、そのまま肩を抱かれて耳元で囁かれる。
「これほど美しい姿、誰にも見せたくない。」
胸を震わせるその声で言われる。
至近距離でステラを見つめる濃い金色の瞳に引き寄せられるようにヴァレン様の口元に顔を近づけるが、はっとして後ずさる。
今、口付けをしてしまったら、侍女が時間をかけて施してくれた化粧が台無しになるし、何よりも直されるのが恥ずかしい。
「…ステラ?」
「ヴァ、ヴァレン様、参りましょう!!
時間ですので!!」
訝しげに見つめられるが、ステラの言葉を聞いて結局そのまま強引に抱き締められ、唇を奪われた。
部屋を出てきたステラを見て急いで化粧を直しに来た侍女に、恥ずかしすぎてよろめきながら謝罪したのだった。
ヴァレン殿下に腰を抱かれて王城を進む。
合間に甘い言葉を耳元で囁かれるので、ステラの顔は茹で蛸のようになっていることだろう。
「ステラ、頼むから私から離れないでくれ。」
「ご心配なさらずとも私はお側におります、ヴァレン殿下。」
ステラは王都の社交界の知り合いと言えばレオナルドだけだ。
学院の友人も話せそうなのはアリスだけなので、時間を持て余すあろうことが想像できた。
むしろ主役のヴァレン殿下の方がお忙しいだろうし、ステラが付きまとっては迷惑だろう。
今日の一番の試練は第一王子殿下とのダンスだ。
ダンス自体は、社交界でも屈指の実力を誇る領地のじいやことトムス家令に徹底的に鍛え上げられたので不安はない。
ただ一曲とはいえ、ヴァレン殿下を傷つけようとしている《敵》である第一王子殿下の腕で踊らなければならないのは憂鬱だった。
(でも、ヴァレン殿下がかけてくださった「王家の魔法」があるし、私には怖いものなどないわ。)
ヴァレン殿下が守ってくださるから大丈夫だと、ステラは思いの外落ち着いていられた。
…と思っていたのも、ホールに到着するまでだった。
「第二王子殿下のお成り。」
侍従の声が響くと、扉越しに聞こえていたホールの雑音が静まり返る。
扉が開かれると、会場の貴族が全員、頭を下げて臣下の礼をとっていた。
(き、き、き、聞いてない…っ!!)
こんな入場をするなんて思ってもみなかった。
ヴァレン殿下はわかっていたようで、真っ青になるステラの左手をとって微笑み、その手に口付けをする。
(や、や、や、やめてーーっ!!)
心の中の不敬なステラは打首になり、はっと気がついたらホールの中心にヴァレン殿下と二人で立っていた。
第一王子殿下とのダンスに気を取られてすっかり忘れていた。
今日の主役、ヴァレン第二王子殿下はファーストダンスを務めるのだ。
この衆目の中、ヴァレン殿下と二人きりでダンスを踊る。
ダンスをすることはわかっていたけど、ファーストダンスという重大な事実にやっと気がついたステラが怯えた顔をしているのを見て、ヴァレン殿下は耳元で囁いた。
「ステラ、大丈夫。気にしないで。
今は私と二人きりだと思って。」
絶対にそうは思えないが、たくさんの侍従や騎士の前でダンスよりももっと恥ずかしい行為を散々見られてきたステラは、なんだか大丈夫な気がしなくもなかった。
ヴァレン殿下の濃い金色の瞳をじっと見つめて自分に言い聞かせる。
(ただのダンスよ…あれに比べたら恥ずかしくないわ…違うあれももっと恥ずかしかったわ…ダンスなんて余裕よ……)
ステラが呼吸を落ち着かせていると、楽団がワルツのリズムを奏で始めた。
じいやに朝から晩まで何年も鍛えられたステラの体は、音楽を聴いて条件反射で動き出す。
(ヴァレン殿下、ダンスも一流なのね…)
ヴァレン殿下は、久しぶりに踊るステラを巧みにリードしてくれた。
この方に出来ないことなんてあるのだろうか。
これならなんとかなりそうだ、と微笑むと、ヴァレン殿下も微笑み返してくれた。
「ステラ、ダンスも出来るんだね。」
「家令に腰が立たなくなるまで鍛えられましたので。」
囁く殿下に胸を張って微笑むと、殿下もステラに微笑んでくれる。
本当にこのホールに二人きりのような、静かな時間が流れてステラは高揚していた。
ワルツが鳴り止むと、一息おいて会場を拍手が包む。
ヴァレン殿下のエスコートで淑女の礼をとると、そのままダンスフロアからホールの奥に進む。
次の曲が始まり、ほっと息をついたステラはヴァレン殿下の耳元に顔を寄せ、話しかける。
「ヴァレン殿下、ありがとうございました。夢のような時間でした。」
「こちらこそ。美しいステラと踊れるなんて幸せだよ。」
ヴァレン殿下が耳に口付けるように言うのでステラは赤面しながらヴァレン殿下を見つめ返した。
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