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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第一章 王立魔法学院編

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38.誰の物※

※R15



昼食会をどうにか終え、ヴァレン殿下の隣に並んで退出したステラは、廊下に出た瞬間にまた殿下の一歩後ろに下がった。

ヴァレン殿下は目を細めてステラをちらっと見やったが、特に何も言われなかったのでほっとする。


いつもより早足で歩くヴァレン殿下に、ステラは小走りになりながらついていく。


執務室に着いたが、ヴァレン殿下の歩く速度に侍従が間に合わないのを見て、ステラが代わりにその扉を開ける。



ヴァレン殿下が入室されたのを確認してステラも後に続いて扉を閉めた途端、強い力で背中と腰を抱き寄せられ、激しく口付けされる。


「…んっ……ふぅ...っん……は…ヴァレ、ン…でん、か…はな、して…っふ……ください……っ」


扉を挟んですぐ外には使用人や近衛騎士がずらっと並んでいることだろう。

何がなんだかわからないが、交わる口元からはしたなく発している水音を聞かれたくなくて、ステラはヴァレン殿下の胸を押してその手から離れようとする。


「ステラ。」


ヴァレン殿下は冷え切ったで声で名前を呼ぶと、胸を押し返していたステラの手を掴んでそのまま応接用のカウチに体を押し付ける。



急にどうされてしまったのだろう。

息継ぎもままならない中、熱に浮かされたようにぼーっとしてきた頭で考えたけど、なぜこうなっているのかわからない。

唇が離れた僅かな隙に一気に言う。


「ヴァレン様っ…どうなさったんですかっ!」

「そなたは、私の隣に立つのがそんなに嫌か?」


冷えきった表情でステラを見下ろし、胸に響く声で問われる。


「兄上の、第一王子の隣ならいいのか?」


ステラは驚いて体が固まり、抵抗をやめる。


「先ほど嬉しそうに返事をしていただろう。私の隣に立つのはあれほど嫌がるというのに。」

「あ、あれは…っ」


誤解だ。あれはお二人に喧嘩してほしくなくて無理矢理ひねり出した言葉だ。

普段は嫌がっているのではなく、恐れ多くて逃げ出したいだけだ。


「そなたが誰の物か、一度教えた方がいいかもしれないな。」


冷たい表情のヴァレン様は片手でステラの手首をひとまとめにすると、またステラをカウチに押し付けて激しく口付けをした。


「……ん、ヴァ、レンさま…っはぁ…ん…ちが……」


否定しようとしたが、息が上手く吸えなくて声が出せない。

空いている方の手で着ていたローブを脱がされ、ブラウスの首元をくつろげられる。

唇が解放されたと思ったら、そのまま首元を吸われ、ちくっとした痛みと共にくすぐったさを感じて身を捩る。


「ヴァレン、様…違いますっ…!」

「私に嘘を述べるか。いつも嫌がっているではないか。」


首元から口を離したヴァレン様は致死量の色気を発していて、ステラは赤面してしまうが、ちゃんと伝えないといけないと思い、目にぐっと力を込める。



「私は、ヴァレン様のお隣以外は嫌ですっ!」


凍りきっていたヴァレン様の瞳が、はっと見開かれた。




「先ほどは、お二人に私のことで言い争ってほしくなかったので、あのようなことを申しました。

いつもは、そのお隣に立つことが恐れ多くて、不相応なので…、決して嫌などとは思っておりません。


私はヴァレン様の物なのに、勝手なことをして申し訳ございません。

その崇高なお心にご不快な念を抱かせてしまい、申し訳ございません。」


手首を掴まれていて体を動かせないので、目だけ伏せて謝罪する。




「………ステラ、すまない。」


しばらくじっとステラを見つめていたヴァレン様はいつもの優しい口調でそう言うと、掴んでいた手首を放して、広げられていたブラウスのボタンを戻してくれた。

胸元をなぞる手に、鼓動が伝わるんじゃないかと思うほどドキドキしてしまう。


「いいえ、ヴァレン様にご不快な念を抱かせてしまい、申し訳ございません。」


ステラが改めて謝ろうと膝をつこうとして、ヴァレン様がそれを止めるように抱き締める。



「ステラ、謝らないで。私が悪いんだ。」

「そんなこと…」

「いや、私が悪い。ステラが兄上に気に入られているのを見て、ステラを奪われてしまうんじゃないかと思って、恐ろしくなったんだ。

乱暴な真似をして申し訳ない。」

「あ、謝らないで下さい…。」


初めて聞くヴァレン様の弱音に驚くが、その姿が不敬にも愛おしくなっておずおずとその頭を撫でる。

ヴァレン様はそれに気付いたのか、顔を上げてステラを潤んだ瞳で見つめる。


「ステラ、許してくれるのか…?」


ずっきゅーん、と音がしてステラの胸が撃ち抜かれる。

こんな状況なのにステラの心臓は不敬すぎる。

ヴァレン様の潤んだ瞳からは色気が駄々漏れていて、その色気にあてられてしまったのだ。


「ゆ、許すも何も…っ、怒っていません…。

私こそ、勘違いさせてしまい申し訳ありませんでした。

私は、ヴァレン様のお隣にいさせていただきたいです。」


ステラはヴァレン様の背中に手を回し、ぎゅっと抱き締める。

ヴァレン様のお隣は恐れ多すぎてなるべく立ちたくないのは事実だが、心は常にお側にいたい、と思っている。


「…ステラ、ありがとう。」


微笑みながらステラを見つめる表情がいつものヴァレン様に戻ったので、ほっとして微笑み返す。





「君は父上や母上には気に入られると思っていたが、兄上も気に入るとは予想外だった。」


押し付けられていたカウチから起こしてもらうと、ヴァレン様はステラの横に並んで座り、話し出す。


「君は私の弱みだから、兄上は君の気を引こうと、取り込もうとするのではないかとは思っていた。

だから先ほどの魔法をかけたんだけど、まさか直接兄上がステラにエスコートを求めるとは思ってもみなかった。」

「はい…。」


ステラも同意した。

ヴァレン様と踊る可能性を考えるだけで崩れ落ちそうになるのに、第一王子殿下の、ステラからすると《敵》の腕で踊るなんて恐ろしくて考えたくもなかった。


「ステラを奪われるんじゃないかと恐ろしくなって、こんなことをしてしまってすまない。」


ステラの脱がされかけていたローブを直しながらそう続けた。


「いえ…。もう謝らないで下さい。

あまり謝られると恐れ多さに倒れそうです。」

「…ステラ、ありがとう。」


ヴァレン様はいつもの微笑みを浮かべ、ステラの頭を撫でた。


なんとなくそうしたくなってヴァレン様の胸に顔を寄せると、頭を撫でる手が一瞬止まった後、ぎゅっと抱き締められた。



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