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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第一章 王立魔法学院編

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35.転移魔術



ステラは、あの日からずっと護衛を撒くための作戦を考えていた。

ステラの贈り物でヴァレン殿下を驚かそうとは思っていなかったが、それでも本人に筒抜けなのは恥ずかしかったからだ。



考えた結果、ステラは転移魔術を使うことにした。

転移魔術を使えば二つの地点を魔力で結んで移動することができる。

高度な魔術で膨大な魔力が必要なので、王国魔術師でも使える者は父くらいだと思う。


ただし、移動したい地点には事前に魔力を込めて目印をつけておく必要があるのと、離れれば離れるほど魔力の消費が大きい。

ステラの魔力だと王都内であれば往復はできるだろうが、試したことはないのでなるべく近距離で済ませたかった。


父の書斎に置いてあった魔導書を見て領地で密かに練習したので、ステラが転移魔術を使えることを知る者は父しかいない。



ステラが夜更かしをして考えた作戦はこうだ。


まず、アリスと一緒にお店に行く。

お目当ての物が見つかったら、その店に魔力を込めておいて後で《転移》して買いに戻る。

馬車にも魔力を込めておけば、馬車で移動中に買って戻って来られる。

馬車の中でステラが消えたり現れたりしても近衛にはわからないだろう。


ステラは渾身の作戦をアリスに説明した。


「完璧な作戦でしょう。これでヴァレン殿下に見つかることもないわ。」

「ステラって転移魔術も使えるのね。

それにしても近衛騎士様を撒くなんてすごい度胸ね。

面白そうだし、その作戦、乗ったわ。」


アリスの協力がなければできない作戦だったので、協力してくれて助かった。

度胸があるのはアリスの方だ。




作戦が決まったので、ヴィルゴー家の馬車を出してもらいお買い物に向かう。

ステラは王都に疎いので、お店はアリスに決めてもらう。


「ステラ、何を差し上げるか決めた?」

「あのね、魔道具の指輪を差し上げようと思っているの。…もちろん左手の薬指以外よ。」


アリスが「まあ」という顔をしたので慌てて否定する。

この国では左手の薬指をすることは、添い遂げることを決めたたった一人の相手がいることを意味する。


「いつも指輪をしていらっしゃるから、私が一つ増やしてもご負担が少ないんじゃないかと思って。」


ステラが《髪の色を変える》魔法が込められた指輪をしているのと同じように、ヴァレン殿下もいくつか魔道具と思われる指輪を身に付けている。

ステラも魔法を指輪に込めて、ヴァレン殿下にお渡ししたいと思ったのだ。

これなら近衛魔術師として出過ぎた贈り物ではないと思う。


「そう。ステラから指輪を贈られたらきっと喜ばれるわよ。

それなら、魔道具店に行きましょう。」

「ありがとう、アリス。」


知り合いの少ないステラは贈り物には慣れていないので、社交に明るいアリスにそう言ってもらえると少し自信が持てた。




魔道具店に入ると、怪しげな銀細工の魔道具から時計、アクセサリーまで様々な魔道具が売られていた。

領地の魔道具店よりも何倍も広い王都の魔道具店に、ステラの胸は高鳴った。


「こんなにたくさんあるのね。」

「ここは王都でも一番広いのよ。あ、ステラ、こちらよ。」


アリスは指輪が並んだガラスの棚を教えてくれたので眺めてみる。

どれも綺麗だけど、中でも一つの指輪に目が止まった。

柊の模様が透かし彫りになったものだ。


柊の花言葉は「あなたを守る」。

誰にもステラの心を見られてはいないのに勝手にドキドキしながら、ステラはそれを見つめた。


(で、でもやっぱり指輪って不相応かしら…。)


悩んでいると、アリスが声をかけてくれた。


「ステラの瞳と同じ色ね。」

「え?!」


よく見ると、アメジストが一粒埋め込まれていた。

それほど大きくない石なので気がつかなかった。


「や、や、やめておくわ!」


自分の瞳の色と同じ色の石なんて恥ずかしすぎるし、不相応すぎる。

ステラは慌ててガラス棚から離れる。


「ステラ、殿下はきっとお喜びになるはずよ。」


アリスがにっこりと笑ってステラの手を握る。


「か、考えてみるわ。他の物も見てみましょう。」


ステラは、指輪は一旦忘れて店内を一周した。

でもあの柊の透かし彫りの指輪が頭から離れない。

店の扉を閉めるときにぐっと魔力を込めておいた。


馬車に乗り込んでアリスに伝える。


「アリス、あの指輪にしてもいいと思う…?」

「ええ、きっとお喜びになるわ。

だってステラも、第二王子殿下のお色をもらったら嬉しいでしょう?」


ステラはヴァレン殿下の白銀の髪と濃い金色の瞳、そして深紅に染まったあの神秘的な瞳を思い出す。


「…たしかに嬉しいわ。でも…」

「それなら第二王子殿下もきっとお喜びになるはずよ。二人を見ていたらわかるもの。」


アリスは大丈夫、というようにステラの手を包んでくれる。

アリスに何かを察されてしまっているのは恥ずかしいが、アリスが言うのならきっとそうなんだろう。

ステラは不安な気持ちはあったが、アリスに頷いた。


「王城に馬車を向かわせるから、その間に戻って来られるかしら?」

「ええ、ありがとう、アリス。」


その言葉でステラは馬車に魔力を込める。

三分ほど進んだところで、アリスに声をかける。


「じゃあ、行ってくるわ。」

「ええ、いってらっしゃい、ステラ。」


アリスが楽しそうに笑う。


「《印せし場所に我を移せ。転移せよ》」


魔方陣がカッと光ると、ステラの体は先ほどの魔道具店に戻っていた。

転移魔術が成功したのだ。


ステラは急いで指輪を購入すると、再び《転移》して馬車に戻る。


「おかえり、ステラ。」

「アリス、本当にありがとう。

…気づかれていないわよね?」

「特に騒ぎにはなってないから大丈夫だと思うわ。」

「よかった。これで安心して眠れるわ。」


ステラは夜な夜な作戦を考えていたので寝不足気味だった。

アリスに王城まで馬車で送ってもらうことになり、ステラはまたお礼を言った。



◇◇◇




馬車が王城の貴族用の馬車寄せに停まる。


「アリス、あなたのおかげで買えてよかった。今日はありがとう。」

「こちらこそ、第二王子殿下への贈り物に貢献できて光栄だわ。

…殿下のお誕生日の舞踏会は参加するのよね?」


アリスにいたずらっぽく微笑まれる。

終業式のときには護衛として参加すると思っていたが、今度の昼食会以外、ドレスは避けられそうもなかった。


「あの…えっと…そうなの…。会場でお話しできたらいいわね。」

「楽しみにしているわ。それではまたね。」

「ありがとう、アリス。」




その日の夜、ヴァレン様からはリュクス公爵家の馬車に乗ったことは怒られたが、肝心な方は気づかれていなさそうだったので安心した。


素直に謝るステラを見て訝しげな顔をされたが、心の中では勝手に護衛を撒いたことも謝罪していたのだった。



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