30.戦闘部隊
「ステラ、先にローブを着替えようか。」
「はいっ!」
ヴァレン殿下の執務室を出た後、父について王城を歩いていると、父はステラの服を見て言った。
ステラは王国魔術師のローブを持っていなかったので、学院の制服とローブを着ていた。
幼い頃から憧れていたローブを着られることが嬉しくて、胸を高鳴らせながら父に案内されて部屋に入った。
王城の被服室と思われるその場所は、王族の衣服やドレスに加え、騎士や魔術師、使用人に至るまで様々な制服が作られているようだった。
父が入室すると、中にいた侍女が頭を下げた。
「頼んでおいたローブを取りに来た。」
「かしこまりました、師団長様。」
別の用事を済ませるという父と別れ、ステラは被服室の奥に通される。
「では、失礼いたします。」
侍女がシャッとカーテンを閉めると、中にいた数人の侍女に身ぐるみを剥がされた。
王城の侍女は身ぐるみを剥がす技術でも習うのだろうか。
父の口調から、もうローブはできているものと思っていたが、くるくると体を回されてあちこちを測られた。
「それでは、こちらをお召しください。」
一通り測られた後、侍女が真新しい王国魔術師の白いローブを持ってきた。
正装のローブよりは装飾が少ないが、真っ白な生地に金の縁取りが入っているのは一緒だ。
中にはブラウスと、丈の長い白いスカートを着るようだ。
侍女に手伝ってもらいながら身に付ける。
スカートに見えたが、中は分かれていて足捌きがよくて動きやすかった。
姿見に映る自分の姿に、夢が叶ったのを実感して笑みが漏れてしまう。
「お手伝いいただきありがとうございました。」
侍女にお礼を言って被服室を出ると、父がちょうど戻ってくるところだった。
「お父様っ!夢が叶いました!」
「ステラ、よく似合うな。」
ニコニコと話しかけると、父も嬉しそうにはにかんだ。
こうして父と王城を歩くのが夢だったステラは訓練への緊張も忘れかけていた。
「そういえばステラ、お前の立場だが。」
その言葉にステラはギクッとする。
「城の中ではステラはもう殿下の婚約者として扱われている。
王国魔術師団の者も勿論知っているが、訓練中は立場は気にしないようにと厳命してあるからな。
皆、手加減はしない。安心して鍛えてくれ。」
「お父様…っ!ありがとうございます!」
ステラが心配していたことを父が先回りして解決してくれて、嬉しかった。
ステラも訓練中は自分の立場を忘れて、ただの新入りの王国魔術師として参加したいと思っていたのだ。
◇◇◇
「ステラ、着いたよ。」
王城のいくつもの回廊を抜けてたどり着いた王国魔術師団の本部は、天文台が空高くそびえ、城のような外観をした建物だった。
父について中に入ると、父の姿を見た王国魔術師が一斉に敬礼をする。
「楽にしてくれ。今日の訓練の予定は?」
「第一訓練場にて模擬魔法戦を行っております。」
父が近くにいた王国魔術師に聞いた。
「魔法戦」の響きにステラは胸を高鳴らせる。
魔法使い同士の戦いを想定した実践的な訓練だ。
学院の授業で習うのはこれからなので、ステラは領地でレオナルド相手に練習で戦ったことしかなかった。
「ちょうどいいな。新人が参加すると伝えてきてくれ。」
「承知しました、師団長。」
王国魔術師がピシッとした動きで外に出ていく。
「ステラも参加してみよう。…戦ってみたいんだろう?」
「はい、おと…師団長。」
お父様と言いかけてやめる。
ここでは立場をはっきりさせておきたい。
父によると訓練場は五つあるらしい。
その中でも第一訓練場は広く、貴賓席があって王族や貴族が見学に来られるような造りになっている。
第一訓練場に近づくと燃えるような魔力を感じる。
魔力同士がぶつかり、熱を持っているのが伝わってくる。
上空からは時々魔法で起こした雷が落ちたり、閃光が走っているのが見えてステラの体は興奮で震えた。
あんなに激しい戦闘はしたことがない。
「面白いだろう、若いのが派手にやってるな。
ステラも派手にやるんだぞ。」
父も上を見上げると、ステラを見てニヤッと笑った。
派手にできる自信はないが、ステラも父を見て微笑む。
「私、体の震えが止まりませんわ。…早く戦ってみたくて。」
「それでこそ父様の娘だ。」
父にどんっと背中を叩かれ、ステラも覚悟を決めた。
戦闘が止んだのを見て父の後ろに続いて訓練場に足を踏み入れた。
「師団長に敬礼!」
扉の近くにいた王国魔術師が叫ぶと、中にいた二十人程の魔術師が敬礼をする。
「楽にしてくれ。皆に紹介したい者がいる。
ステラ、こちらへ来い。」
名前を聞くと魔術師達は顔を見合わせたが、すぐに姿勢を正した。
「第二王子殿下の近衛魔術師を拝命いたしました、ステラ・アルカニスと申します。
よろしくお願いいたします。」
背筋を伸ばし、なるべく声を張ってピシッと礼をする。
「学院の休暇中、ここで訓練をすることになった。
早速だが、遠慮せず鍛えてやってくれ。」
「「はい、師団長。」」
魔術師達はまた一斉に敬礼をする。
「ではステラ、私は陛下の元に戻るから。楽しんで。」
「ありがとうございます、師団長。」
ステラも敬礼をして父を見送った。
「ステラ・アルカニス嬢。初めてお目にかかります。
ディーン・ハーバートと申します。
…ここで爵位は関係ないが、そのお立場も気にしなくていいと言われている。
本当に遠慮しなくていいんだな?」
「ディーン様、その通りです。どうぞステラとお呼びください。」
話しかけてくれたのは、赤毛の短髪で、騎士と見間違うようながっしりとした体型の王国魔術師だ。
飄々としているが、体から漏れだす強い魔力には隙がなく、豊富な戦闘経験を感じさせる。
王国魔術師団には王国騎士団と共に戦いの最前線に向かう戦闘部隊、王都や王城の警備や王族の警護を担う警備部隊、隠密魔法を駆使して情報収集にあたる諜報部隊、魔法や魔術を管理する管理部隊がある。
近衛魔術師はこれらには属さないが、普通はどれかに所属してそれぞれの場所で任務に当たる。
胸の徽章を見るに、ここで訓練しているのは戦闘部隊らしい。
「よし、ステラ。君の噂は聞いている。
僕らにも遠慮しなくていいから、その実力を存分に見せてくれ。」
「恐縮ですが、頑張ります。」
「じゃあ、早速やろうか。
別の者が合図をしたら攻撃を始めていい。
戦闘部隊には治癒魔法が得意な者もいるから、多少の怪我は治せる。
ただ、訓練だから大怪我をする前に杖から手を離せばそれで負けだ。
訓練場を破壊すると片付けが面倒だから、それだけ気を付けてくれ。いいか?」
ステラはその言葉に目を見開く。
「模擬」とはいえ本当に魔法戦なのだ。
「承知しました。よろしくお願いします。」
「お互い手加減なしだ。よろしく。」
ステラは一礼をして、訓練場をディーンとは反対側に進む。




