292.きらめく日々※
※R15注意
年が明けて、ステラは戦闘部隊長になった。
訓練が始まるよりも前に幹部会議が召集された。
年明けの幹部会議はステラにとっては公開処刑のような気持ちだ。
「今年も派手にやってるな。」
会議室に大きく張り出されているのは王立魔法学院の生徒の今年の試験の成績の一覧だ。
ステラの五千点と一万点の試験結果もでかでかと公開されているのを見て父が豪快に笑った。
「副部隊長の悪質な冗談です。」
「冗談ではありません。師団長のお嬢様は素晴らしい才能をお持ちなので分かりやすくしておきました。」
「カール!」
すっかり回復した右腕で思いっきり鳩尾を狙ったが、パシッと受け止められてしまったので睨み付けた。
「戦闘部隊長、戦闘副部隊長、ここへ来い。」
こうして和気あいあいと始まった会議の冒頭、父がステラとカールを前に立たせた。
何だろうと思っていると、父が持っていた袋の中から木箱を二つ取り出した。
この木箱には見覚えがある。
「改めて、ステラ・レクスを戦闘部隊長に、カール・クリンプトンを戦闘副部隊長に任ずる。
命を懸けて王族と民を守り、王国の安寧に貢献せよ。」
「「承知しました、師団長。」」
カールと二人でピシッと敬礼して、それぞれ木箱を受け取った。
いつも部隊長…リーズ公爵のローブの襟に輝いていた、部隊長の証の階級章だ。
まさかこんなに早くこれをつけることになるなんて思っていなかったけど、密かに憧れていた証に嬉しくて笑みが漏れた。
席に戻ってから早速ローブの階級章を付け替えた。
大好きなあの部隊を率いる立場になったのだと思うと腑抜けていられない。
部隊長の階級章をつけたステラがまっすぐ父を見つめると父は嬉しそうに微笑んでくれたのでなんだか誇らしかった。
会議の内容は王国魔術師団の入団試験についてだ。
「各部隊、採用人数を教えてくれ。戦闘部隊。」
「特に人数は定めず、才のある者を採用します。」
今年の入団試験の対象者はステラのクラスメイトだ。
戦闘部隊を除く各部隊の合計は六人ほどだったので、十九人いるクラスメイトの半数以上は学院を卒業したらお別れすることになる。
大切なクラスメイトを選別することになるのは胸が痛んだが、やはり腑抜けている場合ではないので心を殺して話を聞いた。
会議が終わって、カールと連れ立って訓練場に向かった。
「去年は個別試験はなかったけど、今年はできるといいな。」
個別試験とは、筆記試験と魔法戦の結果、部隊に適正があると思われる学生に課される二次試験だ。
戦闘部隊の個別試験は騎馬戦だが、去年は騎馬戦まで進んだ者はいなかった。王国魔術師団の中でも精鋭揃いの戦闘部隊に卒業後すぐに馴染めるような実力のある者は二、三年に一度しか現れないからだ。
ニヤッとして聞くカールは、ステラがドラードに目をかけていることを知っている。
「彼なら大丈夫だと思うけど、学年末試験と筆記試験で失敗しないことを祈っているわ。」
「王国史が苦手だと嘆いていたぞ。姫様はオーディン先生に大層気に入られているし、教えてやったらどうだ?」
「私の成績は殿下のおかげです…。」
ドラードは総合順位で大体いつも五位以内には入っているけど、たしかに王国史だけは下の方だった気がする。
ステラは前学期も王国史は百点中三百点だったし、オーディン先生からは卒業後に共同研究をしないかと持ちかけられた。
だが、ステラに王国史の才能があるわけではなく、ヴァレン様の国宝級のノートが尊すぎるだけなのだ。
でも、せっかくの才能があるのに試験で失敗されても困るので、今度会ったら尊いノートに書かれていた試験の山を教えてあげようと思った。
◇◇◇
翌週には学院の最後の学期が始まった。
ステラは戦闘部隊長になったばかりではあるが、この学期だけはなるべく学院を優先しようと思っていた。
「おはよう、ステラ。」
「おはよう、アリス!」
ジャテーンとの戦い以来、アリスはまたステラの名前を呼んでくれるようになったので嬉しかった。
「いよいよ最後の学期ね。あなたが元気になってよかったわ。」
「もうすっかり元気よ、ありがとう。なんだか色々あった学院生活だったわ。」
「あなたは入学の頃から考えると恐ろしいくらい変わったわよね。今日も輝いているし。」
たしかに入学の時は宝石一つ身につけていなかったし、湯殿で侍女に磨かれることもなかったが、今日のステラは宝石まみれだし、四年間磨かれ続けた肌と髪は艶々だ。
「たしかに一年生の頃の私が見たら卒倒しているわね。」
ヴァレン様の名前を呼ぶことすら戦いていた自分が、王太子妃になってあちこち輝いている今の自分を見たら間違いなく気絶している。
アリスとわいわいと話していると、ドラードがクリスと一緒に登校してきた。
「クリス!ドラード!おはよう。」
「おはよう。怪我は大丈夫?」
「お、おはよう…」
ステラを見てビクッと飛び跳ねたドラードは、ステラが戦闘部隊長になったことをメーデンから聞いたのかもしれない。
「ドラードは王国史が苦手なの?」
ドラードの肩がまたビクッと跳ねた。
わかりやすくて笑ってしまいそうになりながら、ステラはドラードの顔を覗き込んだ。
「よかったら一緒に勉強しない?私、王国史にはあてがあるのよ。」
「いいのか?!」
「ちょっと待って、僕にもそのあてとやらを教えてくれ。」
「私も入れてくれる?あなたの頭の中がどうなっているのか気になるもの。」
ドラードに持ちかけたつもりがクリスとアリスまで乗り気らしい。
でも、皆で一緒に勉強できるならきっと楽しいだろう。
「勿論よ。皆で勉強しましょう。」
その日から放課後に四人で残って勉強するようになった。
ヴァレン様の国宝級のノートを貸してもらって皆に見せたが、戦いて直視できないようだったので勉強にならなかった。
代わりにステラは皆のノートを見せてもらって、足りない情報を付け足していった。
「もしかして君の頭にはあのノートの内容が全部入っているのか?」
「教科書とノートは暗唱できるわ。時間があるときに読み込んだから。」
「…恐ろしいな。」
「あなたもこれを覚えたらきっと大丈夫よ。」
ドラードが引き気味で言うのでステラは笑いながら肩をバンと叩いて、ヴァレン様の尊いノートの情報を書き込んだドラードのノートを返した。
ドラードはステラが思いっきり叩いてもダメージはなさそうだから、やはり戦闘部隊に向いていると思った。
アリスやクリスともこれまでになく長い時間一緒にいて、ステラは四年間の学生生活を三週間で味わい尽くしたような気がした。
戦闘部隊の皆と騒ぐのとは違う、年相応の等身大の自分でいられる時間が尊くて目映かった。
毎日帰りが遅くなってしまったからヴァレン様は不機嫌になるかなと思っていたけど、ステラが学生生活を楽しんでいるのをヴァレン様も喜んでくれた。
「相手が男なのは許せないけど、ステラが楽しそうでよかったよ。」
「アリスもいるので大丈夫ですよ。」
「ヴィルゴー嬢が王国魔術師になってくれれば安心だな。虫が紛れ込んでも彼女がいればステラには近づかないだろうから。」
「む、虫って…」
私室のカウチでステラの栗色の髪を指先でくるくると弄びながらヴァレン様が言った。
こうしていると学院の特別寮で過ごした日々を思い出す。
あの一年間があったから、ステラはその後学院に通える日が少なくなっても寂しくなかったのだ。
「…ヴァレン様、私、学院生活の中でもやっぱりヴァレン様と過ごした一年間が一番幸せでした。」
ステラがヴァレン様の濃い金色の瞳を見つめて言うと、ヴァレン様は驚いたように目を丸くした後、ニコッと嬉しそうに目を細めた。
「私も最後の一年以外の記憶が曖昧だよ。君と過ごした日々が幸せだった。」
「あの寮が懐かしいです。恐れ多いですが、またヴァレン様と一緒に行けたら嬉しいです。」
「まだ恐れ多いんだ。」
ヴァレン様がクスクスと笑うと耳に息がかかってくすぐったくて身を捩った。
ヴァレン様のことが恐れ多くならない日なんて来ないだろう。
四年経つけど、こうして普通に話せているのが夢のようだと思う。
「ヴァレン様に見つけていただけたことが私の人生で一番の幸運です。」
「…今日のステラは可愛すぎるな。」
「え?……ひゃっ」
あっという間にその腕に抱え上げられて、ベッドに優しく降ろされた。
「ヴァ、ヴァレン様、湯殿に…」
「《清めよ》」
「え?!ちょっと……あっ………んっ………」
いつの間にか杖を取り出されて清浄魔法をかけられると、それからはヴァレン様が与える刺激の波に溺れた。
でもその波が嫌じゃなくて、むしろもっと強い波を望んでいる自分に気付いて勝手に一人で真っ赤になった。
「ステラ、赤くなってどうしたの?」
「…っ、なん、でも……あ、りません……んんっ……いやぁ……」
「嫌じゃないでしょう?本当は欲しいくせに。」
「っあああ………」
いつも以上に色気を纏ったヴァレン様は、ステラが何度大きな波に飲み込まれても体を離してくれなかった。
このまま二人が一つになるんじゃないかと思うくらい体を重ねて、頭が真っ白になった。
眠ったことにも気付かないまま眠りに落ちて、翌朝、二人して寝坊をしてレオナルドの当て付けのような魔力の気配で目を覚ましてステラは大慌てで服を纏うことになった。




