290.夕陽に願う未来※
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※R15注意
王立魔法学院はどの教室も隕石の衝撃で物が散乱していたし、校舎の壁には亀裂が入っていた。
林は一面炭のように黒焦げで戦いの形跡が色濃く残っていたが、隕石が衝突した練習場は何もなかったかのように元通りになっていた。
恐らく戦闘部隊の魔術師達が直してくれたのだろう。あの賑やかな部隊の明るさが恋しくて、ステラも早く訓練に復帰したくてたまらなかった。
実技試験も無事に終わって、無事に全教科首席を守り抜いたという通知を王城で受け取った。
何もせずに皆の試験を見るだけだった防御魔術と魔法戦は本当に一万点が採用されていた。
流石にやりすぎで理事長に怒られるのではないかと思ったが、カールがクビにならない理由を知っている以上何も言えなかった。
「…一万点って何をしたらそんな点数になるんだ。」
「カー…ク、クリンプトン先生の嫌がらせです。私は何もしていません。」
「本当にクリンプトン先生と仲がいいんだね。私といるよりも楽しそうだし。 」
「ひゃっ…め、滅相もございません…。」
ヴァレン様と二人で私室のカウチに腰掛けながら試験結果を見ていると、ヴァレン様がステラの髪を弄びながら覗き込んできた。
耳元で話されると耳に息がかかって妙な気分になってしまう。
襲撃から三週間経って肩は動かさなければ痛くないし、ようやく普通に歩けるようになった。
その間ヴァレン様は一度もステラに手を出さなかったから、たっぷり眠れているステラは元気すぎるくらい元気があり余っていた。
ステラの心を見透かしたように、ヴァレン様は耳を食むように口付けて囁いた。
「今日は何か予定があるの?」
「ひっ…ひ、さしぶりに本部に行こうと思っています。右腕はまだ使えませんが、ひゃっ…せっかくなので左腕で魔法を使う練習を……ヴァレン様っ!」
「どうしたの?」
「み、耳が…っ…いやぁ……」
「嫌なの?そうは見えないけど。」
「…っ……」
瞳を見られたら流されそうだから見られないけど、それでもこれまでにないくらい致死量の猛毒の色気を放っているのがわかった。
「ステラ、優しくするから、いい?」
何を、と聞かなくてもわかってしまう自分が恥ずかしくてぼっと赤面した。
「…す、少しなら。」
少しという概念があるのかはわからないけどどうにか言葉を捻り出すと、ヴァレン様はクスッと笑ってステラを抱え上げた。
「ヴァ、ヴァレン様!」
「ステラが足りない。たくさんしようね。」
また顔が赤くなるのがわかった。少しなら、の裏にある自分の欲望を見透かされている気がして、恥ずかしすぎてヴァレン様の胸に顔を埋めた。
ベッドに優しく下ろされてあちこちにある火傷の痕を舌で優しくなぞられると、敏感になっている皮膚から電流が走って体が震えた。
「だ、め……っあ……ヴァレン、様……っ」
久しぶりの刺激で体がおかしくなっているのがわかった。
触られていないところが疼いて身を捩ったら、ヴァレン様は潤んだ濃い金色の瞳を細めて優しくステラの頬を撫でた。
「触って欲しいの?」
「……はい…」
消え入りそうな声で答えて恥ずかしくて俯くと欲しかった刺激が与えられた。
「っ、ステラ、可愛い。」
「あああっ……く、る……っ」
「いいよ。たくさん気持ち良くなろうね。」
何度も波に飲まれて、その度にヴァレン様にぎゅっとすがりついた。
いつも以上に甘すぎるヴァレン様に溶かされて、少しなんて言ったことはすっかり忘れていた。
全然眠くなかったはずなのにいつの間にか眠ってしまっていて、はっと気がついたら夕方になっていた。
「訓練、行けなかったね。」
「…ヴァレン様のせいです。」
誰かと約束していたわけではないが、なんとなく罪悪感に駆られたので八つ当たりで睨み付けた。
「ステラは本当に可愛いな。もっといじめたくなる。」
「な、なりません!また歩けなくなります!」
そんなことをされては怪我がぶり返しそうなので慌てて睨むのをやめてヴァレン様の手を掴むと、クスクスと楽しそうに笑われた。
この手に戻ってきた幸せなひとときを噛み締めて、ステラはこの時間がいつまでも続きますようにと夕陽の朱色に染まる空に向けて祈った。
◇◇◇
十二月も終わりに差し掛かる頃、そのときは唐突に訪れた。
「失礼いたします。王太子妃殿下に国王陛下から伝令です。」
「入って下さい。」
朝、私室で王国魔術師のローブを着終えたステラに国王陛下からの伝令がやってきた。
「国王陛下より王太子妃殿下に伝令です。本日午前中に先の戦いを称えて叙勲式を行うとのことです。十時に『謁見の間』にお越し下さい。」
「え?!…も、申し訳ございません!」
思いもしなかった言葉に驚きすぎて後ずさったら、横で準備を整えていたヴァレン様にぶつかってしまった。
ヴァレン様は知っていたようで、いつの間にか正装の煌びやかな軍服を纏っていた。
「ご、ご存知でいらっしゃったのですか…。」
「あまり早く言っても緊張するかなと思ったんだ。着替えたら行こうか。」
「っ、はい。」
たしかにそれは事実だが、次に勲章をもらえるとしたら「賢者の証」だと思っていたので、予想外の出来事を受け止めきれなくてなぜか勝手に体が震え始めた。
「どうして震えているの?」
「た、多分体が恐れ多さに耐えきれないんだと思います…。」
「っ、まだ恐れがあるんだ。大丈夫だよ。今日はリーズ公爵とクリンプトン先生も一緒だから。」
「そうなんですか?!」
リーズ公爵とは戦闘部隊長のことだ。久しぶりにその名前を聞いて戸惑ったが、二人も一緒だと思うと無意識に抱いていた恐怖は消え去った。
ステラは着たばかりの普段着のローブを脱いで、たくさん勲章がついている正装のローブを羽織った。
四年前はこのローブすら持っていなかったことを考えると、真っ白のローブと胸に煌めく勲章は自分の成長の証のような気がして誇らしかった。
王族の控え室に向かうヴァレン様と分かれて、ステラは「謁見の間」に続く廊下を歩いていた。
「部隊長!カール!」
「謁見の間」の扉の前で話している二人を見つけて、ステラは二人の元に駆け寄った。
訓練で戦闘部隊の他の魔術師達とは会っていたけど、二人と会うのは久しぶりだった。
「久しいな、副部隊長。」
「姫様、元気になったみたいだな。」
二人とも怪我は治ったようで、どこにも包帯は見当たらなかった。
「私は元気よ。…カール、あの点数は何?!冗談だって言ったじゃない!」
「喜んでいただけたようで何よりでございます。」
「喜んでいないわ!本当に理事長に怒られるわよ。」
ステラは思いっきりカールを睨み付けたが、何の効果もなくてお腹を抱えて笑われた。
「今度は何点をつけたんだ?」
「一万点です。」
「それはやりすぎだな。」
部隊長までも吹き出したので睨み付けた。
二人は爆笑していたけどステラは真剣に怒っていたので、二人まとめて腹筋に一発お見舞いした。
「…っ、元気が出たようだな。」
「部隊長、姫様の本気はこんなものではないですよ。まだお加減がよろしくないようで。」
「カール!」
もう一発喰らわせたかったが、ステラも回復していないので、これ以上攻撃しては二人の強靭な腹筋に返り討ちにされそうだった。
「揃ったか?」
「はい、揃っております。」
わいわいと騒いでいると、「謁見の間」から正装のローブを纏った父が出てきた。
部隊長が敬礼しながら答えたのでステラとカールも続いた。
「では、行こうか。」
「はい、師団長。」
父がやたらと微笑んでステラを見るので、不思議に思いながらも返事をした。
父が扉を開き、父と部隊長に続いて厳かな雰囲気の漂う「謁見の間」へと足を踏み入れた。




