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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
最終章 卒業編

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289.戦友



いつもの四頭立ての馬車に乗って王城を出ると、あっという間に民衆に囲まれて歓声を浴びた。

もしかしたらジャテーンの話が既に広まっているのかもしれない。

民衆に手を振る元気はなかったのでヴァレン様を見上げると嬉しそうに目を細めた…と思ったら、なぜか熱い口付けを落とされた。


「…んん?!」


久しぶりの口付けが恥ずかしくてぼぼっと赤面すると、揺れない馬車をガタガタと揺らすほどの大歓声に包まれて耳まで赤くなった。


「…っ、ヴァレン様!恥ずかしいです!」

「いつものステラでよかった。」


致死量の色気を放ちながら不敵な笑みを浮かべるヴァレン様もいつも通りに戻ってくれてよかったと思ったが、民衆の前で口付けをされた羞恥が喜びを上回って言葉が続かなかった。




車窓が白亜の外壁に染まり、やがて王立学園に到着した。

今日も王立学園の前には貴族達の送迎の馬車がずらりと並んでいる。

真っ白な軍服を着たヴァレン様がその中を颯爽と降りていくと、突然現れた王太子殿下に今度は黄色い悲鳴が上がった。


「ステラ、気をつけて。」


馬車の外から手を差し出された。

この衆目の中で降りるなんて考えたくなかったけど、王太子殿下のエスコートを断る不敬を働けるわけもない。

よたよたと馬車の入り口まで進み、手を取った。


「ひゃっ!ヴァ、ヴァレン様!なりません!」


よろめきながら降りようとしたらあっという間に抱え上げられた。

女子生徒の黄色い悲鳴と従者と男子生徒のどよめきがわーっと上がり、ステラは恥ずかしすぎて耳まで沸騰した。


ヴァレン様は悲鳴を気にすることなく校舎へと進み、ステラを抱えているのに重さを感じさせない軽々とした足取りで階段を四階まで上っていった。

行く先々で王立学園の生徒達から驚愕の視線を浴びせられたので、ステラは途中からは顔を伏せて周囲の目から逃れた。



「王太子殿下、もう大丈夫です。貴重なお時間を奪ってしまい、重たいのに運んでいただき、申し訳ございませんでした…。 」


目に映る真っ白な軍服がその身分を痛いほどステラに見せつけてきて耐えきれなくなった。

一人の学生の試験のために王太子殿下にここまでお出ましいただいて、しかも抱えて運んでもらうなど前代未聞だろう。

階段を上りきったところで、流石に下ろしてもらおうと思って頭を下げた。


「ステラ、気にしないで。私がしたくてしているんだから。」


ヴァレン様は優しく微笑むと、ステラを抱えたまま廊下を進んだ。

廊下の一番奥にある教室からは騒ぎを聞きつけたクラスメイト達が皆出てきていて、ヴァレン様に顔を伏せながらもステラに向けて驚愕の視線を送っていた。

アリスは顔を伏せることも忘れてあんぐりと口を開けて固まっていたので、こんな状況なのに笑ってしまいそうになった。


「ヴィルゴー嬢。」

「…っ、はい、王太子殿下。」


ヴァレン様がアリスに呼び掛けると、アリスがよろめきながら駆け寄ってきて慌てた様子で深く頭を下げた。


「ステラは怪我を負っているんだ。悪いが面倒を見てくれないか。」

「有り難き光栄に存じます、王太子殿下。ヴィルゴーの名にかけて、王太子妃殿下をお守りさせていただきます。」


ようやくステラを下ろしてくれたヴァレン様がステラの手を取ってアリスに差し出した。

アリスはステラの手をぎゅっと握ってくれたけど、その手がぷるぷると震えているので申し訳なくなった。


「終わる頃にまた迎えに来る。試験頑張ってね、ステラ。」

「本当にありがとうございました。どうかお気をつけてお帰りください。」


さっと背を向けたヴァレン様に慌てて頭を下げた。

ヴァレン様の後に続いていた近衛騎士の背中が見えなくなるまで見送った後、がばっと顔を上げたアリスに優しく抱き締められた。


「ステラ…!無事でよかった。」

「アリス…。ありがとう。驚かせてごめんなさい。」


まだ震えているアリスの手をさすろうとしたら、ぽたっと落ちてくる雫に気付いた。


「あなたが死んでしまったらどうしようかと…。王太子殿下とお二人でいられるところを見られてよかった。」


大きな瞳からぽろぽろと涙を流すアリスを見て、ステラもなぜか涙が溢れてきた。


「ご機嫌麗しくないようで。王太子妃殿下。」

「二人してなんで泣いてるんだ。」

「クリス!ドラード!無事でよかったわ。」

「それは俺の台詞だよ。急に戦闘が始まるから驚いた。美しくて、強い魔法だった。」

「ドラード、ありがとう。あなたと戦えてよかった。…王国魔術師団で、待っているわ。」

「ステラ…副部隊長様。光栄に存じます。」

「おい、ドラード、もう内定なんてずるいぞ。」

「私だけが決めるわけじゃないわ。まずはこの試験を頑張らないとね。」

「承知しました、副部隊長様。」

「僕も頭を下げた方がいいかな。」


ドラードが恭しく頭を下げて、それをクリスがからかったので今度は笑ってしまった。

皆に見られた恥ずかしさや試験の緊張もすっかり吹き飛んだ。

ステラはアリスに支えてもらいながらよたよたと席に向かった。


「怪我、酷いのね。大丈夫?」

「大丈夫よ。今学期は魔法剣術がなくてよかったわ。」

「そうね。それに魔法戦は今年も戦わなくてもよさそうよ。クリンプトン先生もお辛そうだったし、あれだけ戦ったんだからあなたはきっと免除だわ。」

「カール…クリンプトン先生も怪我をしているのね。」

「校舎の前で防御魔術を展開して守って下さったの。だから怪我をされているけど、きっとあなたよりはましよ。あなたは自分の心配をして。」

「そ、そうよね。早く治すわ。ありがとう。」




◇◇◇




ステラは王立学園で試験を受ける三日間、どれだけ拒否しても行きと帰りはヴァレン様に抱えられることになった。

王立魔法学院のクラスメイト達はヴァレン様がステラに甘すぎることをよく知っていたのですぐに慣れて、王立学園の生徒の悲鳴も三日目には収まっていた。



そして四日目、王立魔法学院での実技試験の日を迎えた。

ヴァレン様が休ませてくれたおかげもあって楽に歩けるようになってきたので、ヴァレン様をどうにか言いくるめて自分の足でカールの元に《転移》して学院へと降り立った。


「姫様、よくぞお成りいただきました。」

「カール!無事でよかった!」


防御魔術の教室でいつも通りのカールが迎えてくれた。

窓ガラスにひびは入っていたしあちこちの書類や道具が散らばったままになってはいたが、カールが防御魔術で守ってくれたおかげで思ったよりも校舎に被害はなさそうだった。

カールの無事な姿を見られたことが嬉しくて、ステラは思いっきりカールに抱きついた。


「おい、王太子殿下に殺されそうだからやめてくれ。」

「ご、ごめんなさい。怪我は大丈夫?」

「防御の衝撃で私は神経をやられて部隊長は骨をやられたが、とりあえず無事だ。」

「え?!」


見るとローブの裾から見える右腕には湿布が張られていて、上から包帯がぐるぐると巻かれていた。

神経をやられたと言っていた通り力が入らないようで、不自然にだらんとしている。


「あの隕石を受けて生きていられただけ幸運だ。君の『破滅の魔法』は下手したら師団長の本気の攻撃よりも強力かもな。」

「そ、そんな…ご、ごめんなさい…。」


褒められたけど、怪我を負わせてしまったことが申し訳なくてそれどころじゃなかった。


「部隊長はもう訓練に復帰したらしいし、どう考えても姫様の方が重傷だよ。王太子殿下に抱えてもらうくらいだからな。」

「あ、あれは殿下が心配しすぎなの。私もどうにか歩けるようになったから大丈夫よ。」

「エスコートして差し上げたいが、今腕を姫様に握られたら私も骨がやられそうだから遠慮しておくよ。

だが、魔法戦と防御魔術のときは遠慮なく《転移》してくれ。あまり歩かせても殿下に怒られそうだし。」

「…ありがとう。そうさせてもらうわ。」


カールがいつもより弱く背中を叩きながらからかうように言ってくれて、罪悪感は少し弱まった。

戦場を二回も共にした戦友と一緒に話していると家族のような安心感があって、素直に甘えさせてもらおうと思った。


「まぁ来たところですることはないがな。点数をつける気にもならない。」


ニヤッと笑うカールを見て、また点数がついていないのに首席だとかいうめちゃくちゃな試験をするつもりなのだろうと察した。


「五千点とか一万点とかいうありえない点数をつけられるよりは、いっそ点数がついていない方がましだわ。」

「ああ、一万点という手があったな。採用しよう。」

「ちょっと、冗談よ!恥ずかしいから本当にやめて!」

「お元気そうで何よりでございます。王太子妃殿下。」


無傷と思われる腹筋に向けて弱々しく一発喰らわせたけどやはり全くダメージはなかったようで、恭しく頭を下げられた。

これ以上話したら本当に一万点をつけられそうなのでステラはよたよたしながら防御魔術の教室を出て、四階の教室へと向かった。



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