284.見せたい魔法
厳重な警戒体制の中、学院では魔法戦の大会の最終戦の日を迎えた。
今日もあちこちに戦闘部隊の魔術師が配置されていて、学院の制服の黒いローブに混ざって白と金の眩いローブが日の光に照らされていた。
ステラの警備のために配置されている近衛騎士も最近は鎧に兜まで被って、剣と弓を持って戦場のような格好で警戒をしていたから物々しい空気が漂ってはいたが、屋外の練習場にはいつも通り観客席が用意されていて、全校の生徒と教職員が集まっていた。
「学院代表として王国魔術師様と戦う栄誉をいただきました、四年生のドラード・グラディウスです。よろしくお願いいたします。」
「王国魔術師団より参りました、王太子殿下付き近衛魔術師で戦闘副部隊長のステラです。よろしくお願いします。」
今年の学院代表は無事にドラードが勝ち取ったのだ。
ステラは待ち望んでいた日を迎えて、ドラードに笑顔で答えた。
「あなたと戦える日が来て嬉しいわ、ドラード。」
「俺も、君と戦える日を楽しみに一年間鍛練したんだ。よろしくな、ステラ。」
「ドラード…!よろしくね。」
ドラードが久しぶりに名前を呼んでくれて、ステラはそれだけでも涙が出そうなくらい嬉しかった。
がっしりと握手をすると、クラスメイトの四年生だけでなく学院中が熱い声援を送ってくれた。
「ステラ!」「ドラード!」
「「がんばれー!」」
自分の名前を呼んでくれる声に驚いて振り向くと、クリスとアリスが最前列でブンブンと手を振っていた。
思わずドラードと顔を見合わせて、ステラとドラードも二人に笑顔で手を振り返した。
「これより最終戦を始める。」
よく響く声で言うカールにステラは目配せをした。
ステラはドラードが消し炭にならないように手加減はするが、ドラード相手に攻撃の手を緩めるつもりはなかった。
何かあったらカールにドラードを守ってもらうつもりでいたのだ。
カールと目が合うとニヤッと笑ったので、カールもそのつもりでいるのだとわかって安心した。
訓練場の端と端でドラードと向かい合って立った。
ドラードの魔力が訓練場の半分を超えてステラの元に迫ろうとしていたので、ステラは圧縮した自分の魔力でそれを丁度半分のところまで押し返した。
ドラードはステラの魔力を見て目を丸くしたが、押し返されたのにも関わらず嬉しそうにニコっと笑った。
やはりドラードは戦いを楽しめるタイプなのだとわかって、ステラも笑顔を返した。
「それでは、始め。」
カールの声と共に、ステラの頭上に雷が降ってきた。
ステラは無詠唱で防いだが、驚いてドラードを見つめた。
客席もざわめいている。
王国魔術師でもない一般の学生が無詠唱で魔法を使ったのだ。
とんでもない才能を見せつけられて、ステラは気分が高揚して胸が高鳴った。
(やっぱりドラードは戦闘部隊向きね。最高よ。)
ドラードがまたにこっと微笑んだのが見えて、ステラも微笑んで雷をお返しした。
(《転移せし魔力を覆い隠せ》)
ドラードがステラの雷を防いでいる間に、ステラは上空に隠密に身を移した。
(《光の刃よ、敵を切り裂け》)
攻撃まで隠密にしては死んでしまうので、ステラは上空から普通に攻撃を繰り出した。
ステラの姿は見えていないはずだが、魔力の発信源を辿られたのだろう。
ドラードも攻撃魔法を詠唱し始めたので、その隙に無詠唱で雷をお見舞いした。
(あなたに見せたい景色があるの。)
ドラードがステラの雷を防いでいる間に、ステラはドラードを見つめて心の中で告げた。
そして、声を出して詠唱した。
「《我の望みし物を映し出せ》)」
ステラの魔力が練習場を覆うと、一面が丈の短い草で覆われた野原になった。
皆で戦ったあの戦場とそっくりな野原を見て、カールや戦闘部隊の魔術師達が驚いた顔をしているのがわかった。
「《炎よ、敵を燃やせ》」
再びステラの魔法が地上を襲うと、青々とした野原が激しく燃えてあっという間に焼け野原になった。
ドラードは炎の攻撃を結界で防いだので、上空から見るとドラードが立っているところだけがぽっかりと草の緑が残っていた。
「《矢よ、敵を貫け》」
ステラの放った無数の矢がドラードを狙い、結界をひび割れさせていく。
結界が崩壊する直前でドラードは結界を《解除》して走って矢から逃げた。
何本かの矢が肌を擦って出血したが、それでも杖を手放さないのを見て、ステラはやはりドラードは戦闘部隊に欲しい人材だと確信した。
「《天に宿りし星の力よ、地上に降り注ぎ、敵を滅ぼせ》」
ステラが天に杖を掲げて詠唱すると足元に赤い魔方陣が輝いて、秋晴れの空が急に暗くなった。
やがて無数の星が空に瞬き、そのうちの一つの小さな流れ星がそのまま地上に向かってきた。
恐ろしいスピードで迫ってくる小さな隕石をドラードは唖然とした顔で見ていたが、やがてそれがまっすぐ自分に向かってきていることに気付いて慌てた様子で杖から手を離した。
ステラは練習場全体を覆うように大きな結界を張った。
結界は張ったものの隕石はそのままにした。
戦いが終わったのに隕石は地上を狙ったまま消えないので、地上で審判をしていたカールがぎょっとした顔でステラを見た。
ステラは耳の魔道具に魔力を込めた。
「腕の見せ所ですよ、クリンプトン先生。」
カールがステラを睨み付けて、同じ魔道具を身に付けている戦闘部隊の魔術師達が爆笑するのが見えた。
ステラも自分に結界を張ると、地上で杖を構えるカールを結界に座ってここぞとばかりに優雅に眺めた。
やがて隕石がステラが張った結界に衝突して、ドォォォンという音が響き渡り、ブォンという音ともに衝撃波が広がった。
ステラの結界は案の定ひびだらけになったが、それをカールが次から次へと直していってくれた。
何度か衝撃波を浴びたが、カールが直したステラの結界は練習場を隕石から守り抜いた。
ステラは風が収まったのを確認してから、カールが立っていた練習場の真ん中に《転移》した。
「おい、覚えてろよ…!」
「お守りいただきありがとうございました、クリンプトン先生。」
カールが汗だくで息を切らしながらステラを憎々しげに睨み付けたので、ステラはこの上なく恭しくカールに頭を下げた。
この前、先生達の前で恥ずかしい思いをさせられたことへのお返しだった。
「やり過ぎだ。私が防げなかったらどうするつもりだったんだ。」
「クリンプトン先生は素晴らしい技術をお持ちなので信じておりました。いっっ!」
また恭しく頭を下げると、下げた頭を思いっきりバシッと叩かれた。
頭を押さえていると、ドラードが駆けつけてきた。
「ステラ、今のはなんだったんだ?恐ろしい魔法だ…。」
「ドラードにこの前の戦争を教えたかったの。あなたとはぜひ戦闘部隊で一緒に戦いたいから、本当の魔法戦を知って欲しくて。」
ドラードは目を丸くして固まった。
ステラの言葉で今の魔法が戦場で本当に使われて、人を殺した物だと悟ったのだろう。
ドラードははっとしたように表情を戻すと真剣な顔で敬礼をした。
「副部隊長、貴重な魔法をお見せいただきありがとうございました。副部隊長のご期待に添えるべく鍛練に励みます。」
「そうしてくれると嬉しいわ。」
ステラはドラードに微笑んで、再び固い握手を交わした。
静まり返っていた観客席から大歓声が起きて、ステラとドラードを讃える声があちこちから聞こえてきた。
カールのファンクラブでも出来たのか、カールを熱心に呼ぶ声も聞こえてきたのでステラは笑いそうになるのを必死に堪えた。
そのとき、耳の部隊長用の魔道具から声が聞こえた。
『諜報部隊長から至急の連絡です。部屋を監視していた魔術師と連絡が途絶えました。ジャテーンが動いた可能性があります。至急体勢を整えてください。』
『師団長から戦闘部隊へ。ジャテーンが動いた。いつ現れてもおかしくない。至急体制を整えよ。
戦闘副部隊長、すぐにそちらに向かう。どこにいるのか教えてくれ。』
「戦闘副部隊長から師団長へ。学院の練習場にいます。魔法戦の大会で全生徒が集まっています。至急避難させますが、応援をお願いします。」
『師団長、承知した。』
耳の二つの魔道具が忙しなく交信をする中で、戦闘部隊員とカールは既に動き始めていた。
カールは教職員用の魔道具でもあるのか何か指示を出していて、戦闘部隊員は生徒を守るように観客席に防御結界を張った。
生徒達は急に物騒な空気を纏った戦闘部隊の魔術師達を驚いたような顔で見つめていた。
「何かあったのか?」
「ドラード、敵襲よ。私たちが守るから、あなたは皆と一緒に避難して。」
「ステラ…、っ、わかった。」
ドラードは何か言おうとしたが、素直に従って観客席の生徒達の元に走っていった。
恐らく一緒に戦うと言うか迷ったのだろうとステラにはわかった。
でも、引き際もよくわかっているのがドラードの才だ。
「皆さん、安心してください。
皆さんの命は我々が守りますので、落ち着いた行動を心掛けてください。」
ステラが観客席に声を響かせていると、遠くから強い魔力が迫ってくるのを感じた。
「カール、来るわ!避難を急いで。」
ステラが叫ぶと、カールが観客席から校舎に向かって強力な結界を張った。
そのまま生徒の方に駆けて行き、よく通る声で皆を結界の中へと誘導していった。




