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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
最終章 卒業編

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280/298

280.あなたを守る※

本日二話目です。あと二話更新予定です。

※軽いR15注意



王室会議の翌日、ステラは夜から王都にあるアルカニス魔法伯邸に身を移すことに決まった。

と言っても、学院と訓練があるので実家で過ごすのは夜だけだ。

ジャテーン相手に騎士を警備につける意味はあまりないだろうと思ったが、ヴァレン様が譲らなかったので屋敷の玄関に近衛騎士が立つことになった。


「おはよう、ステラ。」


案の定、昨夜は寝かせてくれなかったので寝不足の目を擦りながら目を覚ますと、ヴァレン様は心配そうに顔を歪めてステラの頬を撫でた。


「…おはようございます、ヴァレン様。

ご心配なさらずとも私は大丈夫ですよ。ほとんど学院か本部におりますのでご安心ください。」


ステラが王城の外に出ることをヴァレン様は物凄く心配して下さった。

ヴァレン様は王城で育ったから外の世界を危険だと思っているのかもしれないが、ステラは外の世界の方が落ち着く。

安心してほしくて笑顔で言ったが、ヴァレン様は深くため息をついた。


「それもあるけど、ステラに会えないのが辛いんだ。訓練の見学に行こうかな。」

「…っ、なりません。野蛮な姿をお見せするわけには参りません。」


可愛すぎる理由にステラの不敬な心臓が高鳴って、思わず見学に来ても良いと言いかけた。

でも、父との訓練をヴァレン様に見られたら王国魔術師をやめさせられそうだと気付いて思い留まった。


「ステラ、渡したい物があるんだ。」

「は、はい。」


ヴァレン様がそう言って起き上がったので、ステラも慌てて姿勢を正した。


ヴァレン様はベッドの横にある棚から小さな巾着を取り出して、ステラに手渡した。


「これを、ステラにつけてほしい。」

「はい…。」


なんだろうと思って受け取って巾着を開くと、金で出来ていて、ダイヤモンドとルビーが嵌め込まれているイヤーカフだった。


「これは…」

「魔道具だ。私とステラの連絡用だよ。これを身に付けていてほしい。

何かあったら私を呼んでくれ。」


ステラは思わぬ贈り物に目を瞠ったが、素直に嬉しかった。

父が国王陛下との連絡用の魔道具を身に付けていることを知って、ステラにも必要なのではないかと思っていたからだ。


「ヴァレン様。ありがとうございます。嬉しいです。」

「そう。ステラが喜んでくれて安心したよ。」


ヴァレン様は張り詰めていた顔を少し崩してクスッと笑うと、イヤーカフを手に取ってカールとの連絡用の魔道具がついている耳に嵌めてくれた。

机に置かれていた杖でヴァレン様がこつっと魔道具を叩くと、ステラの耳にぴったりと収まった。

ちらっと見ると、ヴァレン様の耳にも同じ意匠のイヤーカフが嵌められていた。


「…お揃いですね。」


思わず呟いたら、ヴァレン様は一瞬固まった後ステラをぎゅーっと抱き締めた。


「可愛いことを言われたら手放したくなくなる。」

「どこにいても私はヴァレン様の物ですよ。心は側にいますのでご安心ください。」


そう言って柔らかい白銀の髪を撫でると、ヴァレン様はステラの胸に顔を埋めた。


「ステラ無しでは眠れない。」

「では、いただいた魔道具でお話をしましょう。」

「いいけど、ステラの方が先に寝そうだな。」

「…申し訳ございません。」


先に謝っておいたらまたクスクスと笑われた。

胸元にかかる息がくすぐったくて身を捩ると、そのまま胸元に強く吸い付かれた。


「あっ…そ、それは…」

「ステラが私を忘れないように。」

「忘れることなどありえませ…んっ……ヴァレン様……っ」


そのままなし崩しにベッドに押し倒されて、昨夜の余韻の残る体はあっという間に熱に浮かされた。


「ヴァレン、さま…っ……ああっ」

「様はいらない。ステラ、名前を呼んで。」

「…っ、ヴァレン……だめ……あああっ」


朝日の差し込む部屋でその金色の瞳を焼き付けるように体を重ねた。

この方をお守りするためなら喜んで死ねるのだから、生きて離れることなどステラにとっては全く怖くなかった。

でも、主君の不安を取り払いたくて、ステラはヴァレン様の求めるがまま体を捧げた。




◇◇◇




夕方、久しぶりに見るアルカニス魔法伯家の馬車で父と共に王城を出ることになっていた。

学院の荷物や着替えは先に馬車に積み込まれていたので、ステラはいつもの《髪色を変える》指輪をして王国魔術師のローブに杖と剣を提げているだけだ。

ステラ自身はちょっと出掛けるような気分だったが、ヴァレン様はわざわざ貴族用の馬車寄せまで見送りに来てくれた。


「ステラ、気をつけてね。何かあったらすぐに私を呼ぶんだよ。」

「王太子殿下、尊いお気遣いをいただきありがとうございます。」


ヴァレン様の瞳が気遣わしげに歪められるのを見て、ステラの胸が痛んだ。

主君を安心させたくて、ステラはその尊い名前を口に出した。


「ヴァレン様。」

「どうしたの?…っ」


ステラは首を傾げたヴァレン様に背伸びをして軽く口付けをした。

ヴァレン様は驚いたように目を見開いて固まったので、今度はステラがクスッと笑う番だった。


「お元気で。お心安らかにお過ごしください。」

「…ステラ。やられたよ。ステラも元気でね。」

「ありがとうございます、ヴァレン様。」


ヴァレン様の表情が和らいでいつもの優しい微笑みを浮かべたのを見て、ステラもにこっと笑った。


馬車の中から殺気を感じてふと見ると、父がステラを思いっきり睨み付けていた。

父と言うよりも師団長の前で腑抜けた姿を見せてしまったことに気付いて顔が真っ赤になったが、これもヴァレン様のためだと自分に言い聞かせて馬車に向かった。


馬車に乗る直前、ヴァレン様を振り返って跪いて臣下の礼をとって頭を下げた。

これも近衛魔術師としてヴァレン様をお守りするための任務だからだ。


ヴァレン様は臣下の礼をとるステラを呆れたように笑ったけど、しばらく見つめ合ってからその表情をスッと消した。

王族として気持ちを押し殺してくださっているのだとわかったので、ステラはもう振り返ることはせず馬車に乗り込んだ。


主君を守るために、ステラは主君の元を、慣れ親しんだ王城を離れた。






「…ステラと馬車に乗るのも久しぶりだな。」


馬車が出発すると、父がぼそっと呟いた。


「二人きりは入学式以来ですね。なんだか不思議な感じがします。」


父と二人きりで馬車に乗るのは、一年生の入学式で王家の馬車に乗って登校して以来だ。

あれ以来、父とは上司と部下として過ごす時間がほとんどだったので、親子としてアルカニス魔法伯家の馬車に乗っているのは不思議な感じがした。

そもそも王家の馬車以外に乗るのが久しぶりだったので、あの馬車にすっかり慣れている自分に気付いて笑ってしまいそうになった。


「昔はよく私の膝で寝ていたのにな。すっかり大きくなったな。」

「もう二十一です。馬車で眠ったりしませんわ。」

「殿下の膝ではぐっすりだったらしいが。」

「な、なぜそれを…。まさか部隊長から…?」


第一王子殿下を離宮に送り届ける任務の最中に熟睡したことを父に知られているなんて思いもしなくてステラは慌てふためいた。

父は質問には答えずに豪快に笑うと、謝った方がいいのだろうかとわたわたするステラを見て目を細めた。


「ヴェラが楽しみにしていたよ。お前がまたうちで過ごせる日が来るとはな。」


母とは結婚式で顔を合わせて以来会っていない。

ステラもこんな時ではあるが、父や母と実家で過ごすことができて嬉しい気持ちが大きかった。


「たくさん焼き菓子を用意してくださいね。一昨日買っていただいたものは食べてしまったので。」

「食べる時間なんてあったのか。太らせないように気を付けないと殿下に怒られるな。」

「食べた分鍛練するので大丈夫です。」


父と立場を気にせず話せるのが嬉しくて、話が止まらないままあっという間に時間が過ぎていった。




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