264.お世継ぎ※
※軽いR15注意
ステラが意気揚々と執務室に戻ると侍従がなぜかぎょっとした顔をしたが、いつも通り中に声をかけてくれた。
「王太子妃殿下がお見えです。」
「通せ。」
中からヴァレン様の声が聞こえたので驚くが、今からする話をレオナルドに聞かれるのは気まずいのでちょうどよかった。
ステラは改めて決意を固めて中に入った。
「ヴァレン様、お話がございます。」
さっと頭を下げてから気合いを入れて言うと、ヴァレン様はなぜか目を丸くした。
「それ、どうしたの?」
ヴァレン様の視線の先を追うと、先ほど破壊したバスケットを抱えたままなことにやっと気付いて、その場でぼっと魔法で燃やした。
「も、申し訳ございません。見なかったことにしてください。」
「もしかして菓子が入っていたかごを壊したの?」
「…はい。ちょっと力を入れたら壊れました。お目汚しを申し訳ございませんでした。」
「っ、ステラはやっぱり面白いよ。」
笑わせている場合じゃないのに、ヴァレン様は笑いすぎて目の端に涙が滲んでいる。
爆笑するヴァレン様を見ているとなんだか気が抜けてしまって、ステラも笑えてきた。
二人で一通り笑って、笑いの発作が収まってから、ヴァレン様は笑いすぎて滲んだ涙をハンカチで拭いながら言った。
「それで、話って?」
「あ、あの、ぼ、防音結界を張ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。」
自分から言い出したものの、先ほどの笑いで決意がどこかに行ってしまったので動揺した。
急に震え出した手でどうにか防音結界を張ると、またヴァレン様が笑いを耐えているのがわかったので気まずくなった。
「っ、ステラ。落ち着いて。座って話そうか。」
「は、はい。すみません…。」
ヴァレン様がステラの震える手を取ってカウチに座らせてくれたので足まで震える前に素直に従った。
「どうしたの?」
優しく覗き込んでくれるヴァレン様の、王族の証である金色の瞳と白銀の髪が目に入ってしまってステラは激しく動揺した。
この尊い御方のお子さまの話を自分が口に出していいのだろうか。
でも他に妃を娶る気がないということは自分がそのお子さまを産むことになるのだろう。
恐れ多さに手だけでなく体まで震えてくると、ヴァレン様が背中をそっと撫でてくれた。
「大丈夫だから、言ってごらん。」
優しい声に背中を押されて、ステラは意を決して口を開いた。
「あ、あ、あの、お、お、恐れながら、こ、ここここ、子についてっ!いかがお考えでしょうか!」
動揺しすぎて声が裏返った上に、どもりすぎて何を言っているのか伝わらなかったかもしれない。
大事な話なのにこんなことになってしまって自分が不甲斐なくてがっくり項垂れると、横からクスクスと笑い声が降ってきた。
「もしかして子供のこと?」
「は、はい…。」
伝わったようで安心したが、いざはっきり口に出されると恥ずかしすぎてぼぼぼっと沸騰した。
「ステラが私との子について考えてくれているなんて嬉しいな。」
予想もしなかった言葉に、ステラは赤くなったままの顔を上げた。
ヴァレン様は本当に嬉しそうに目を細めて、ステラの紅潮した頬を撫でてくれた。
「わ、私が、あの、ヴァレン様のお、お子さまをう、産むなんて恐れ多いですが、で、で、できなかったら…どうしよう…、と……っ、す、すみません。」
恐れ多すぎて上手く言えないが、本当はずっと不安に思っていたことを口に出したらなんだかぶわっと涙が込み上げてきた。
ヴァレン様はステラの瞳から溢れる涙をそっと拭うと、そのまま頭を引き寄せてぎゅーっと抱き締めてくれた。
「ステラがそんなことまで考えてくれているとは思わなかった。不安にさせてしまったね。」
優しく頭を撫でて言ってくれるので、気持ちを受け止めてもらえたことが嬉しくてまた涙が出てきた。
「私はもし子が出来なくてもステラ以外の妃を娶るつもりはないけど、それは心配しなくても大丈夫だよ。」
ヴァレン様が心配しなくても周りが心配するだろうと思って返事を出来ないでいると、ヴァレン様が続けた。
「ステラが祈れば子が出来るはずだから。」
「は、い……?」
ヴァレン様のおっしゃる意味がわからなくて、涙ながらに顔を上げた。
祈るだけで子が出来るなんて、そんなわけがないのは世間知らずのステラでもわかった。
「歴史上、王家の巫女が現れるのは、王家が存亡の危機にあるときなんだ。王位継承者が少ないときとかね。
そして、歴代の王家の巫女は皆その魔力と呼応する王と結ばれて、何人もの子を成している。
『巫女の魔法』で王との子を願う魔法があるんだ。
必ずできるわけではないみたいだけど、そのうちできるだろうから心配しなくても大丈夫だよ。」
衝撃の事実を知って、ステラは口をポカンと開けたまま静止した。
そんなことがあり得るんだろうかと疑いたくなるが、「王家の魔法」に子が出来ないようにする魔法があるくらいだから、そのような不思議な魔法があってもおかしくない。
「王家の書庫にそのことについて書かれた本があるんだけど、読んでいなかったんだね。」
ということは、父も、そして国王陛下や第一王妃陛下も皆知っているのだと気付いてぼぼっと赤面した。
恥ずかしさと恐れ多さで何を言えばいいのかわからなかったが、黙っているだけでは失礼だと思って慌てて口を開いた。
「す、すみません…戦場で使えそうな魔法しか見ていませんでした…。」
「そうか。でもそういうことだから安心していいよ。」
ヴァレン様がクスクスと笑って言うので、ステラはやっぱり恥ずかしくなって沸騰した。
「私はステラが学生の間はやめようと思っていたけど、ステラがそんなに子が欲しいならすぐ作ろうか。」
「え?!」
ヴァレン様がそう言いながら瞳を深紅に染めてステラのお臍の下に手を当てたので、ステラは耳まで沸騰しながらも慌てふためいた。
「な、なりません!父に顔向けが出来ません!」
「魔法伯が許せばいいの?」
「いえ!そういうわけでは……んっ……」
そんなことを言ったらヴァレン様が父のことを脅迫しそうだったので慌てて否定すると、開きかけた口を塞がれた。
「ヴァレン、さま、……っここでは……ふ……」
「今日はステラが悪い。」
「な、りません………っ、私室に……ぁ……んっ……」
「じゃあステラのわがままを聞いてあげるから、私の言うことも聞いてね。」
「は、はい…!」
なんでもいいからここでは絶対に出来ないと思ってブンブンと頷くと、ヴァレン様は金色に戻った致死量の色気が滲む瞳を細めてクスッと笑った。
ヴァレン様はそのままステラを抱え上げると、見ていられないほどの熱い口付けを落としながら執務室を出た。
王城の廊下で破廉恥すぎると思って胸を押し返したがびくともしなくて、ステラはそのまま私室まで溶かされ続けた。
すれ違う侍女が皆赤面して、侍従や騎士が目を背けるのを見てステラは口付けの合間に抵抗した。
「み、皆が…」
「国のためになるから見せつければいい。」
先ほどの話を聞いた後だと本当に国のためになりそうな気がして青ざめると、ヴァレン様はまた笑って優しく口付けを落とした。
ようやく私室に着いてベッドに下ろされると、ローブを着たまま性急に求められた。
「んっ…あああ…ヴァレン様………っ」
「ステラ、愛してる。」
「わ、たしも…愛して…っ…ます……ああっ……」
その日はいつもよりも余裕のないヴァレン様に激しく求められて、ステラは体の奥までヴァレン様を感じて幸せだった。




