26.妃の座
「とにかく、ステラの出自を調べていたら『王家の巫女』の条件とも矛盾しないことがわかった。
だから君が『王家の巫女』であることを確信して、魔法伯に…聞いたんだ。」
聞いたというけど、実際は尋問に近いであろうことはステラにも想像できた。
「最初は君と同じように否定していたけど、私が集めた証拠を提示したらようやく認めた。
そして、『王家の巫女』である君を守るためにはこの国の王子であり、君と魔力の波長が一致する私の妃になるのが一番安全だと、許してもらった。」
ステラを守るために、ヴァレン様がその貴重なお時間と労力を割いて証拠を集めて、父にまで会ってくれていたことが嬉しかった。
「そのときに、ステラがこのことを否定することや妃の座を辞退するであろうことも聞いた。
私も予想していたことだから、強引な手段を使ってすまない。」
「いえ…なんだかすみません…。」
ヴァレン様と父に全て見透かされていたのだと思うと急に恥ずかしくなってきて赤面する。
ヴァレン様は頭を撫でて微笑んでくれた。
「予想はしていたんだけど、実際にステラに言われると思ってもみなかった感情が湧き上がって、怖い思いをさせてしまった。
君を傷つけそうになって、申し訳ない。」
「あ、謝らないで下さい。むしろ殿下に嘘をついた私は大罪人です。」
ステラはヴァレン殿下に嘘をつくという大変な罪を働いたことを思い出し、カウチから降りて跪こうとする。
「言いはしたけど、不敬には問わないよ。ステラを罰するなんて私にはできない。」
ステラを制止しようと抱き締められ、ステラは再び赤面する。
ヴァレン殿下は、赤くなったステラに微笑んだ後、その場に跪いた。
慌てるステラを目で制止して、ステラの左手を取り、薬指に口付けをした。
「理由は全て話した。
ステラ・アルカニス。
レクス王国第二王子ヴァレンがお願い申し上げる。
そなたに私の妃になってほしい。」
真剣な顔でそう問うヴァレン殿下の美しく神秘的な金色の瞳に捉えられて、ステラの心臓はかつてないくらい音を立てた。
ヴァレン殿下の、この国の第二王子殿下の妃。
もしかしたら、国王陛下になられるかもしれない。
普通に生きていたら生きる世界が違う、手の届かない御方。
そんな御方のお妃様。
…やっぱり自分には荷が重い。
だけど、ヴァレン殿下が言葉や行動で示してくれた気持ちをそんな理由で無碍にすることなどステラにはできない。
ステラが初めて好きになった、大切な人だから。
ステラは覚悟を決めて、その金色の瞳を見つめ返す。
「ヴァレン第二王子殿下。
私、ステラ・アルカニスが恐れながらお答えいたします。
この身に余るありがたき光栄を、喜んでお受けいたします。
この命ある限り、殿下のお隣にいさせて下さい。」
「…っ…ありがとう。
私はこの力の全てで君を守る。」
ヴァレン殿下はその美しい顔を歪めて、震える手でステラを抱き締める。
「私もヴァレン殿下のことを命を懸けてお守りします。」
ステラもおずおずとヴァレン殿下に腕を回す。
ヴァレン殿下はそれがわかったのか、苦しいくらいの力で抱き締めた後、ステラに聞いた。
「…正式に婚約するまで手は出さない。
ただ、口付けは許してくれるか。」
改めて聞かれてステラはぼぼっと沸騰した。
「あ、あの、…はい……。」
顔を真っ赤にしたステラにヴァレン殿下は微笑むと、その美しい顔が近づいてきて、ステラは目を閉じて受け入れた。
殿下の柔らかくもはっきりとした唇がステラの唇にそっと触れ、離れる。
「ステラ、愛してるよ。」
至近距離で微笑むヴァレン殿下の麗しさに危うく気絶しそうになる。
「わ、わ、私も、あ、あ、愛して…います…っ。」
「可愛い、私のステラ。」
元々甘いヴァレン殿下の甘すぎる姿にステラは自分の心臓の未来を本気で心配した。
◇◇◇
ヴァレン殿下と恐れ多くも将来を誓い合った翌朝、ステラはいつものようにヴァレン殿下の鍛練を見学兼護衛をしていた。
「おはようございます、ヴァレン殿下。」
「おはよう、ステラ。」
昨日のことを思い出して緊張しながら声をかけると、ヴァレン殿下はいつも通りだったので拍子抜けした。
正式な婚約はヴァレン殿下が卒業してからするらしい。
ビクビクしていたステラだが、ヴァレン殿下の様子を見て、とりあえずは今まで通り過ごせそうだと胸を撫で下ろした。
「今日も素晴らしい剣技で大変勉強になりました。」
「そういえば、ステラは剣術も一位だったよね。」
「魔法剣術の実技試験はたまたま勝てたんです。」
今日ヴァレン殿下の鍛練の相手をしていたのは、近衛騎士のメーデン・グラディウス。ステラが魔法剣術の最終試験で戦ったドラード・グラディウスは彼の弟である。
ドラードはメーデンと違って騎士にはならないみたいだけど、騎士の家系で育っただけあって強敵だった。
ステラのどんくささを活かした不意打ちでなんとか勝ったことを知っているメーデンは、殿下の後ろでニヤリと微笑んだ。
そんな卑怯な勝ち方、とてもヴァレン殿下には胸を張ってはお伝えできない。
「たまたまでも学年一位はすごいよ。どこにそんな筋力があるんだ。」
「こう見えて鍛えているので。」
半袖の制服を着ていたので、ローブの袖を捲ってムキムキっと二の腕を見せてみる。
グッと力を入れたけど大して盛り上がらないステラの白い腕を見て、ヴァレン殿下は体を震わせて笑った。
後ろのメーデンは昨日の出来事を知っているのだろう。殿下の前でステラを笑ってはいけないと唇を噛んで必死に耐えているのが見えた。
「休暇中は王国魔術師団の訓練に行くんだろう。首席とはいえ、その細腕で魔術師団の訓練に参加すると思うと今すぐ近衛をやめさせたくなるな。」
ステラは自分の卒業まで婚約は先延ばしにしてほしいと思っていたが、ヴァレン殿下のご事情を考えるとそんなわがままは言えなかった。
そんなステラがヴァレン殿下に恐れ多くも伝えたわがままが、婚約しても近衛魔術師でいさせてもらうことだった。
ヴァレン殿下の隣に何もしないでただ立つだけなんて、ステラには出来そうもなかったからだ。
それに、王国魔術師団できちんと訓練をして、ヴァレン殿下を守る力を身に付けたかった。
「私は田舎育ちなので、殿下が考えているよりずっと丈夫ですよ。」
「そうは見えないから心配なんだよ。
訓練とはいえ、ステラに攻撃した者を不敬罪で罰したくなる。」
「大丈夫ですよ、ヴァレン殿下。
ちゃんと鍛えてムキムキになって、殿下をより力強くお守りします。」
「そ、それはありがとう、ステラ。」
ステラは赤面しながらも力を込めて言ったが、ヴァレン殿下はまた肩を震わせて笑った。




