259.勇者の証※
※軽いR15注意
王族がいなくなった「謁見の間」で、戦闘部隊の魔術師達は一斉に吹き出すと、その場に座り込んで爆笑した。
ステラは箱を握りしめて跪いたまま瞬時にぼぼっと赤面する。
「最高だったよ、王太子妃殿下。」
カールが目に滲んだ涙を拭いながら言った。
ディーンとエメリックは笑いすぎて身もだえている。
「消えていなくなりたいわ…。」
恥ずかしすぎて耳まで真っ赤になっているのがわかった。
「君に全部持っていかれたな。」
先程まで高貴な雰囲気を纏っていた部隊長もすっかり元に戻って豪快に笑った。
「ステラ、お前は本当に…」
「お父様の娘として不甲斐ないです。申し訳ございませんでした、師団長。」
呆れた顔で言う父に、ステラは床につかんばかりの勢いで頭を下げた。
一通りからかわれて本当に火を噴きそうになっていると、部隊長が立ち上がって言った。
「副部隊長に持っていかれたが、お前達に授けられたものだ。この栄誉を忘れるな。」
その言葉に皆がはっとしたように立ち上がった。
部隊長が手渡してくれた勲章は、王家の紋章と共に杖と剣が描かれている。
戦闘部隊として戦い、武勲を立てたことの証だ。
この勲章は今までもらったどの勲章よりも嬉しかった。
皆と共にもらったものだからだ。
片手に箱を持っているのでローブに上手く留められなくてもたもたしていると、前から父がさっと留めてくれた。
「…ありがとうございます、師団長。」
何から何まで父に頼りっぱなしで恥ずかしいが、助かったので頭を下げた。
「それも留めるから開けてみろ。」
父に言われてはっとして、片手に持っていた箱をやっと思い出した。
国王陛下から直接賜ったのだと思うと急に手がガタガタと震えてきて、また父に呆れたように笑われた。
「何をしているんだ。」
「お、恐れ多くて……」
どうにか箱を開けると、 王家の紋章があしらわれた盾が描かれた大きな勲章と、同じ意匠の小さな勲章が入っていた。
「ステラならあと一つも揃うだろうから、すぐに追い付かれるな。」
父が笑いながら言って、大きな方の勲章を手にとって、既につけていた「英雄の証」の勲章の横に留めてくれた。
勲章がたくさん輝いている父の胸を見ると、「英雄の証」と今もらった勲章の横にもう一つ勲章が輝いていた。
父はステラの胸に増えた勲章に目を細めて嬉しそうに微笑むと、国王陛下を追って「謁見の間」を退出した。
父の言葉の意味がわからなくて固まっていると、横から部隊長がバンバンと肩を叩きながら教えてくれた。
「君が賜ったのは『勇者の証』だ。その勇気で国を救った者に与えられる。
師団長は『賢者の証』もお持ちだ。『英雄の証』と合わせて三つ揃った者が、王国魔術師団長になれる資格を持つ。」
ステラは知らなかった事実を聞いて驚愕したが、それで動じるような腑抜けには師団長は務まらないと思ってどうにか立ち直した。
「君はこのままいけば『賢者の証』を手に入れる日も近いな。」
「ど、どういうことでしょうか…。」
「王立魔法学院で入学から卒業まで全科目首席を守り抜いた者には特例として『賢者の証』が与えられる。
まぁそんな偉業を成し遂げたのは私の知る限り師団長しかいないがな。」
知ってしまうと、それまで試験のことは意識していなかったのに急に緊張してきた。
「そ、そうなんですか……。勉学に励みます。」
「君が勉学に励んだら全科目千点をつけざるを得なくなるよ。…っ」
カールがニヤッと笑って言うので、ステラは先程の恨みも込めて一発食らわせた。
胸筋と腹筋の間を的確に射貫いたので、カールは鳩尾を押さえて恨みがましくステラを睨み付けた。
「…覚えてろ。後悔させる。」
「あれ以上恥ずかしい点数はないから大丈夫よ。」
まだ動けないカールにこれ見よがしに微笑むと、ステラもヴァレン様を追って私室へと向かった。
◇◇◇
ヴァレン様の私室の前には既に近衛騎士や侍従が待機していたので中にいらっしゃるのだとわかった。
先程ご機嫌を損ねてしまったようなので、少し緊張しながら扉をノックした。
「ステラが参りました。」
「入れ。」
中に入ってさっと頭を下げて顔を上げると、カウチにゆったりと腰掛けたヴァレン様がステラを見て笑っていた。
なんだかご機嫌が直っていそうなのでほっとして近づこうとすると、クスクスと笑いながら言われた。
「転ばないように気をつけてね。」
「…っ、転びません!」
ステラはその言葉で国王陛下の前で躓いてしまったことを思い出してぼぼっと赤面した。
ここで転んだら笑えないので慎重に足を運んでヴァレン様の元に行くと、手を引かれてヴァレン様の上に座らされた。
恐れ多くも王太子殿下に跨がるような姿勢になってしまって、自分の姿を見下ろして耳まで沸騰した。
「ひゃっ、ヴァ、ヴァレン様、こんな…」
「ステラは誰の物?」
「…ヴァレン様の物です。…っ」
またご機嫌を損ねたのかと思ってその目をまっすぐ見つめながら言うと、頭を抱え込まれて口付けをされた。
ヴァレン様を見下ろしてしまっているので不敬ではないかとおろおろするが、そんなステラを気にすることはなく何度も角度を変えて唇をついばんだ。
「ステラは私の物なのに、私の知らないステラがいるから腹が立つ。」
ヴァレン様の言葉でやっとご機嫌を損ねた理由がわかった。
「ヴァレン様の前で野蛮な姿をお見せするわけには参りません。」
戦闘部隊の魔術師達と接するときは、確かにヴァレン様の前のステラとは違う。
皆貴族なのになぜか領地の騎士達と話すような気楽さがあるので、どうしても気が緩んでしまうのだ。
「私にも素のステラを見せてほしい。」
「どちらも素です。ご安心ください。」
決してヴァレン様の前で無理をしているわけではないので安心してほしくてその白銀の髪を撫でると、ヴァレン様はムッとしたように顔を上げた。
「じゃあ敬語をやめて。」
「きゅ、急には無理です。」
戦場から帰ってきて再びヴァレン様の尊さと恐れ多さを実感したところなので今は無理だ。
ステラが戦いてヴァレン様から手を離すと、また機嫌が悪くなったのがわかった。
「こ、今度やります。敬語を使わない日を作りましょう。」
「…まぁいいか。」
まだ少し不満そうだったけど、ヴァレン様が頷いてくれたのでステラはほっとした。
ステラの体の力が抜けたのがわかったのか、ヴァレン様はステラをぎゅっと抱き寄せるとそのまま熱い口付けをした。
いつもと違ってステラがヴァレン様を見下ろしているので、ステラが襲っているみたいになって胸がドキドキしてしまう。
それを見透かされたように、ヴァレン様がいたずらっぽくステラを見上げた。
「たまにはステラが襲ってくれてもいいんだよ。」
「そ、そ、そんなっ…お、恐れ多くて…」
「恐れ多いけど襲いたい気持ちはあるんだ。」
「なっ……」
そういうわけではなかったのに、言われてしまうと恥ずかしすぎてぼぼぼっと沸騰した。
その日はヴァレン様に襲われているはずなのにステラが襲ったように仕向けられて、羞恥で身悶えた。
「ステラ、可愛い。」
「ヴァレン、さま……いやぁ……っ」
「嫌じゃないのに、嘘をつくの?」
「……っ、ごめんな、さい…ああっ………」
夜が更けるまで溶かされて、足が立たなくなってやっと解放された。
翌朝も足が立たないのではないかと思ったが、訓練と戦場で鍛えた足腰は無駄に元気だった。
「まだ足りないんだね。」
「っ、ヴァレン様、恥ずかしいからもうしません!」
さっとベッドから立ち上がったステラを見てヴァレン様は不敵に微笑むと、手を引いてまた自分の上に座らせた。
「昨日のステラが可愛くてたまらなかった。」
「そんな…っ、ん……、なりません…っ!あっ……」
そして、本当に足が震えて立たなくなるまで悶えさせられた。




