256.あなただけを※
※R15注意
ほぼ二ヶ月ぶりの湯殿は至高の喜びだった。
バスタブに張られたたっぷりの湯がこれほど染みたことはないし、侍女に磨き上げられるのも恐れ多さよりも感動と感謝が上回った。
心なしか気合いの入っている侍女に髪の毛一本に至るまで磨き上げられた後、ステラは侍女達に頭を下げた。
「あのときは皆さんのことを振り切ってすみませんでした。お咎めはありませんでしたか?」
「滅相もございません。王太子殿下の寛大なお心をいただきましたゆえ、ご安心ください。
どうかお顔を上げてください、王太子妃殿下。」
ステラの言葉にヴァレン様付きの侍女長が臣下の礼をとって深く頭を下げながら言った。
戦場に行くときに結界で突き飛ばしたり魔法でひれ伏せさせたりして無理矢理侍女達を振り切ったので、申し訳なく思っていたのだ。
侍女や騎士を咎めないように手紙に書いておいたけど心配していたので、何もお咎めがなかったことに安心した。
「…それならよかったわ。いつもありがとう。」
「恐れ入ります、王太子妃殿下。」
これ以上頭を下げさせないように王族らしい口調に戻すと、侍女長も姿勢を戻して微笑んでくれた。
ピカピカに磨き上げられた自分が気合いが入っているみたいで恥ずかしいが、ヴァレン様を待たせているので王城の廊下を早足で進んだ。
私室の前の廊下に着いたとき、ちょうどヴァレン様の私室からレオナルドが出てきたのでステラは驚いて駆け寄った。
「レオ様…!」
「ステラ、おかえり。」
レオナルドは一瞬目を丸くしたが、すぐに優しく瞳を細めて微笑んでくれた。
「怪我はない?大丈夫?」
「ええ、日に焼けただけよ。」
「たしかに真っ黒だな。でも可愛いよ。」
「そ、そんな…。」
寝るためのドレスを着せられたので、ローブの形にくっきり日焼けしているのを見られているのが恥ずかしかった。
でも、ステラはレオナルドに言わなければならないことがある。
ステラは姿勢を正して、レオナルドの目を見て伝えた。
「レオ様、第一王妃陛下と一緒に荷物を用意していただき、ありがとうございました。私、あれがなければ戦えませんでした。」
戦場に行く荷物を実際に用意してくださったのは第一王妃陛下だが、レオナルドが第一王妃陛下に繋いでくれたのだ。
先程まで着ていたローブも、戦場でたくさんお世話になった紅や双眼鏡や弓も、レオナルドがいなかったら持っていくことはできなかった。
ステラは二人に心から感謝していたので、早くお礼を言いたくてたまらなかったのだ。
レオナルドはまた一瞬驚いた表情を浮かべたが、そっと頭を撫でてくれた。
「君の力になれたならよかったよ。王太子殿下がお待ちだから、行っておいで。」
「恐れ入ります、レオ様。では、また。」
「ああ、またね。ステラ。」
レオナルドを見送ると、ステラは扉の前で息を整えた。
あれだけ気合いをいれて湯殿へ行くと宣言してしまったので、無性に恥ずかしくて緊張していたのだ。
「ステラが参りました。」
「入れ。」
意を決して扉をノックすると、胸に響く愛しい声が聞こえて心臓がぎゅんと跳ね上がった。
そっと扉を開けて部屋に入って頭を下げた。
「お待たせして申し訳ありませんでした、ヴァレン様。」
「大丈夫だよ。こちらにおいで。」
顔を上げるとヴァレン様も湯を浴びられたようで、普段は整えられている白銀の髪を耳にかけて、胸元のゆったりしたシャツを着てカウチに腰かけていた。
久しぶりの湯上がりのヴァレン様は致死量の色気を放っていて、近づくと鼻血が出そうだった。なぜ今まで平気で接することができたのかさっぱりわからない。
ステラが鼻を押さえてなるべくヴァレン様を見ないようにしながら恐る恐る近づくと、ヴァレン様はそんなステラを見て吹き出した。
「何をしているの?」
「う、麗しすぎて鼻血が出そうなので…。」
「今更だな。毎日見ていたのに。」
ヴァレン様は中々足の進まないステラを見て呆れるように笑うと、立ち上がってさっとステラの手を取って、そのままベッドに導いた。
ヴァレン様の部屋のベッドに二人で腰かけるとなんだかそわそわしてしまう。
ヴァレン様がさっと防音結界をかけるのを見て、ステラは緊張で縮こまって固まった。
「ステラ、よく頑張ったね。」
ヴァレン様の優しい声で、そっと顔を上げた。
「ヴァレン様、私……っ」
優しい濃い金色の瞳と目が合うと、またいろんな想いが込み上げてきて、ステラは涙を堪えて再び俯いた。
「ステラは何も悪いことはしていない。」
「でも……」
「君は私の命令に従っただけだ。それに私の妃が国を救うために出した勇気は、誇るべきものだ。」
「…っ………」
ヴァレン様はご自分の気持ちを押し殺して言って下さっているのだとわかった。
尊い優しさに返す言葉が思い浮かばなくて、ステラはヴァレン様にぎゅっと抱きついた。
胸が締め付けられる甘い香りがして、ステラはその胸にすがった。
ヴァレン様もステラを優しく抱き締め返してくれた。
しばらくして顔を上げるとヴァレン様の優しい瞳と目が合って、吸い寄せられるように唇を重ねた。
段々激しくなっていく口付けで息継ぎもままならなくなって、酸欠の脳内は目の前の麗しい御方のことでいっぱいになった。
指輪がいくつも輝く男性らしいごつごつした手がステラの体を優しくなぞる。
「怪我がなくてよかった。」
「…っ……大丈夫、です…ひゃ……あっ………」
労るような優しい手付きなのに、不純なステラは勝手にその刺激を快感に変えていった。
もどかしくなるような優しい愛撫に、ヴァレン様に快楽を覚えさせられた体が物足りなくなって身を捩った。
「……ヴァレン、様…もっと………」
「可愛い。もっと触って欲しいの?」
「…っそこ……うあっ………」
もっと強い波を求めて口に出すと、ヴァレン様は嬉しそうに目を細めてステラの求める刺激を与えてくれる。
散々ヴァレン様の手で溶かされて何度か波に飲まれると、体が狂おしいほどヴァレン様を欲して我慢ができなくなった。
「っ…もう、いやぁ……」
「嫌じゃないでしょう?」
「ヴァレン、さま………」
「言ってごらん。どうしてほしいの?」
「もっと奥に、ヴァレン様が、ほしい…です………ああああっ」
「っ、ステラ。」
そのまま時間もわからなくなるほどぐちゃぐちゃに蕩けさせられた。
「ヴァレン様、これ、以上は……っ」
「好きにしていいって言ったでしょう?」
「…っ……やぁ……っ……」
これ以上溶けたらおかしくなると思って伝えたけど、ヴァレン様がステラの体を離すことはなかった。
この二ヶ月のことが全て夢だったかのように、ヴァレン様だけを想って夜が更けていった。
何度目かわからない強い波の後、波が引くのに合わせて眠りの世界に吸い込まれていった。
ステラの呼吸に合わせて甘い香りが体の中に入ってきて、ステラは蕩けそうに幸せな夢を見た。




