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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
最終章 卒業編

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253.里帰り



その翌日も皆で飲み明かして、二日後、隊列はアルカニス魔法伯爵家の領地に入った。


たわわに実る稲穂が垂れ始めた田んぼやたくさんの果実を実らせている果樹園を見て、ステラは三年半ぶりに大好きな場所に帰ってきたことを実感して胸が高鳴っていた。


「君がここで育ったのだと思うと不思議だな。のどかでいい場所だ。」

「はい、部隊長。私の自慢の領地です。」


ステラが胸を張ると、横からクリンプトン先生ことカールがニヤッと笑いながら言った。


「ここで七歳の君が熊を狩っていたのだと思うと泣けるな。」

「もうっ!カール、恥ずかしいからやめて!」


二日間無礼講で飲み明かしたので、ステラはカールの名前を呼ぶことも、三人に敬語を使わないことにも抵抗を抱かなくなっていた。

ステラが思いっきりカールの肩をパシッと叩くと部隊長が豪快に笑った。


「本当に打ち解けたんだな。カールは元々君のことを気に入っていたようだが。」

「部隊長、カールは気に入っていたんじゃなくてからかっていたんです。」

「君が殿下と師団長に囲われていなければ私が団に推薦したのにな。」

「カールに推薦されるくらいなら正々堂々と試験を受けて入るわ。」


ステラが睨み付けると、カールも部隊長もお腹を抱えて笑った。


「私も君と話したいから今日は無礼講に加わろうかな。」

「そ、そんな…部隊長に無礼講など…」

「姫様に無礼講の方がよっぽど失礼だろ。」

「うっ…」


ステラが部隊長に恐れ多くなっていたのに、カールが横からその気持ちをねじ伏せた。


「そういうことだ。君の好きな店に行こう。」

「お、恐れ入ります、部隊長…。」


ステラがペコペコと頭を下げるのを部隊長とカールはまた笑い飛ばした。



夕方になって、隊列が領地で一番の町に入ると民衆が集まって大騒ぎをした。


「あれってお嬢様じゃ…」

「王太子妃殿下になられたんだろ?なんでこんなところにいらっしゃるんだ?」

「まさか戦われたのかしら。」

「領主様のご令嬢だしあり得るぞ。」


ここでは栗色の髪のステラはよく知られているのだ。

ステラが恥ずかしくて真っ赤になっていると横からカールが笑いながら言った。


「夜には変装した方がいいな。」

「…私もそう思うわ。」


ステラは本当にそう思ったので、珍しくカールに素直に頷いた。


興味津々の民衆に囲まれながら宿に到着すると、ステラは早々に部屋に入って《髪色を変える》指輪を外して自分に魔法をかけた。


「《我が髪を金色に変えよ》」


ステラが詠唱すると、白銀だった髪が金髪になった。

これで領地でよく見るステラではなくなった。


ステラが意気揚々と部屋から出てホールに向かうと、既に部隊長といつもの三人が待っていた。

金髪のステラを見て一瞬驚いたような表情をしたが、次の瞬間には皆が笑ってそれなら大丈夫だとお墨付きをくれた。




◇◇◇




領地を王国魔術師のローブを着て皆と歩くのは不思議な感じがした。

店に行く前にお気に入りの菓子店で焼き菓子をたんまり買い込んでいると、部隊長が笑いながら聞いた。


「そんなに買って食べきれるのか?」

「道中長いので…。」

「部隊長、ご安心ください。姫様なら一日もあれば平らげます。」

「ディーン!」

「いっっ…」


焼き菓子を抱えていて叩けないので後ろ足で蹴りを入れるとディーンが呻いた。


「姫様の蹴りは痛そうだな。」

「一撃で気絶だからな。」

「あれは急所を狙ったんです。」


エメリックとカールがからかうのでカールにまた蹴りを入れようとしたが、華麗にかわされたので睨み付けた。



焼き菓子を抱えてわいわいと歩いていると、よく父と行っていた店に到着した。

本当は高貴な公爵様である部隊長のお口に合うかは心配だが、公爵家の跡取りであるレオナルドとも来たことがあるので大丈夫だと信じたかった。


「ここです。…公爵様のお口に合うかは不安ですが。」

「姫様のお口に合うんだから大丈夫だ。」

「部隊長っ!」


部隊長にも姫様と呼ばれたので恥ずかしくて睨み付けると皆に笑われた。


「今夜は無礼講だ。敬語は不要だから楽にしてくれ。乾杯!」

「「乾杯!」」


最初はやはり遠慮してしまっていつもの無礼講の会よりは皆固くなっていたが、お酒が進むとそれも忘れていつも通りの雰囲気になった。


「部隊長が公爵様と聞いたときは信じられなかったわ。」

「なんだ、知らなかったのか。」

「爵位は関係ないと言ったのはあなたじゃない、ディーン。」


最初に王国魔術師団で挨拶をしたときにここでは爵位は関係ないと言ったのはディーンだ。

だからステラは団にいる間、頭の中の貴族名鑑を開こうと思ったことがなかったのだ。


「それであんなに驚いていたのか。」

「いつもと雰囲気が違うから誰かと思ったの。」

「そんなに違うか?」


今度は部隊長が豪快に笑った。その笑顔にはやっぱりリーズ公爵の欠片もなかった。


「今は公爵様の欠片もないもの。」

「失礼だな。」

「無礼講よ。」

「そうだったな。姫様、よろしければもう一杯いかがですか?」

「あ、ありがとう…。」


わざとらしく穏やかに微笑んでグラスを差し出す部隊長にリーズ公爵の面影を感じて、ステラは急に恥ずかしくなって赤面した。

ステラがおどおどしながらグラスを受け取るのを見て皆が爆笑した。


「確かに普段の部隊長には高貴さの欠片もないよな。」


カールが縮こまるステラを見てお腹を抱えて笑いながら言うと、部隊長がカールを軽く睨みながら言った。


「それを言ったらカールだって公爵家出身だろ。」

「私は三男だから関係ない。」

「そうなんですか?!」

「姫様は本当に社交に疎いんだな。言ってしまえば俺も次男だが公爵家出身だし、ディーンは伯爵家の次期当主だ。」

「ええ?!ひゃっ!」


今度はエメリックが笑いながら言うので、ステラは驚きすぎて椅子から転げ落ちた。


「姫様、大丈夫ですか?」


カールがわざとらしく手を差し出すが、公爵家出身だと思うと急に高貴に見えてきた。

皆も高貴な家の出身だと思うと無礼講などと言っている場合じゃない気がしてきてステラは青ざめた。


「本当に団では爵位は関係ないし、本来なら君とは口を利くことすら恐れ多いんだから気にするな。」

「ひっ…」


部隊長の言葉で自分の立場を思い出して青ざめるステラを見て、皆がまた豪快に笑った。



しばらくは恐れ多くなっていたが飲んでいるうちにまた忘れて、夜も更ける頃にはすっかり出来上がっていた。


「皆と、仲良くなれて嬉しいわ…っ。これからも、こうして一緒に過ごせたらいいのに…っ。」


入学以来の里帰りで大好きな皆と一緒に過ごせるのが嬉しくて感極まると、しゃっくりと共に何故か涙が出てきた。


「俺も君と飲めて嬉しいぞ、姫様。また飲みたいけど、王都では殿下がお許しにならないだろうな。」


ディーンがハンカチで雑にステラの涙を拭いながら呆れたように笑った。


「じゃあ殿下と一緒に行くわ。」

「やめろ。恐れ多くて酒どころじゃない。」


エメリックが真顔で言うので、今度はステラが笑ってしまった。


「皆が思っているような冷たい方じゃないのに。」

「熱いお方なのは皆よくわかっているよ。」

「ぶ、部隊長…。」


部隊長が豪快に笑いながら言われて、そういえば魔道具で甘い言葉を囁かれたのを思い出して赤面した。

それに、全てを知られている部隊長にそんなことを言われると恥ずかしさが襲ってきて、涙としゃっくりが引っ込んだ。


「学院の校則を変えた方がいいな。敷地内で男女二人きりにならないこと、とか。」

「カール!恥ずかしいからやめて!」


まさかカールまで特別寮での出来事を知っているのだろうか。

耳まで沸騰するステラを見て皆がお腹を抱えて笑うので、ステラもなんだか楽しくなって笑ってしまった。



久しぶりの里帰りは、大好きな皆と過ごした大切な思い出になった。

三年半ぶりの領地で等身大の自分でたくさん笑って、ステラはその日、ここ数年で一番幸せな夢を見た。



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