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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫
第四章 帝国編

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244.停戦



体が重い。

固い地面ではなく、ふかふかのベッドでゆっくりと休みたい。

でもなぜか枕はある。

温かい枕にぼふっと顔を埋めると、懐かしい、なんだかほっとする香りがしてステラはまた眠りの世界に吸い込まれた。


眠くなるのも当然だろう。

戦場であれほど魔力を使ったのだから。

魔力が切れていたのに動けていた方が不思議だ。


そこまで考えて、ふと我に返った。


(…わ、私、戦場で気絶して………?!)




はっと目を覚まして起き上がろうとすると、肩を強く押さえられた。


「まだ寝ていろ。魔力が回復していないから起きたら倒れるぞ。」

「お、お父様?!」


いつも通り片眼鏡をかけた父がステラを心配そうに見下ろしていた。

たしかに意識を失う直前に父の声が聞こえた気がした。

でも父は王城にいるはずだ。

いるはずのない父の姿に混乱してまた頭がクラクラしてきた。


「援軍に来た。今は停戦中だ。皆休んでいるからお前も休め。」


辺りを見回すと高台の司令部で戦闘部隊の魔術師達が寝袋にくるまって地面で雑魚寝をしていた。

メーデンとアーノルドの姿もないから二人とも休んでいるのだと安心した。


ステラもふと自分の状態を見ると、いつの間にか鎧を脱いで、父の膝枕でローブをかけられて横になっていた。

指輪を外したままだったことに気付いて、慌ててローブのポケットを探って安心した。

父にもらった指輪を嵌め直してから、気絶した上に運んでもらったので目を見て謝った。


「お父様、ごめんなさい…。」

「魔力の制御ができていないようだったから私が抑えた。落ち着いたようでよかったよ。」

「もう大丈夫です。あの、膝は申し訳ないので床で寝ます。」

「誰も見ていないから気にするな。」


皆眠っているから誰に見られているわけではないが、父の膝枕なんて十年ぶりだ。

恥ずかしくて赤面すると、優しく頭を撫でられた。


「もう少し眠っていろ。」

「し、しかし…」


父とはいえ、上司である師団長の膝で眠れるわけがないと思っていたが、そのまま頭を撫でられているとだんだん眠気が襲ってきた。

安心する香りに包まれて、ステラはまたスッと眠りの世界に落ちていった。




◇◇◇




照りつける日差しが眩しくて、ステラは枕に顔を埋めた。

もう日が高く昇っているのはわかるが、体が気だるくてもっと眠っていたい。


それにしても温かくてなんだか落ち着く枕だ。

幼い頃に馬車でよく父の膝枕で眠っていたことを思い出す。

父の膝枕……?


「私、また寝て……っ?!」

「起きたか。」

「お父様!?ひゃっ!」


慌てて飛び起きると父と至近距離で目が合って、驚いてひっくり返ってまた父の膝に着地した。

呆れ返る父の顔を見て、本当に父の膝枕で寝ていたことをやっと思い出した。


周りから盛大な笑い声が聞こえて見渡すと、戦闘部隊の魔術師達が円状になって集まっていて、ステラを見て全員が爆笑していた。


「君が無事でよかったよ。」

「部隊長…!」


横から戦闘部隊長の笑い声がして驚いてまた飛び起きた。

自分はこの状況で一人だけ呑気に父の、王国魔術師団長の膝で眠っていたのだ。


恥ずかしすぎてぼぼぼっと赤面すると、父も笑いながら言った。


「魔力は戻ったみたいだな。」

「は、はい…申し訳ございません。師団長……。」


図々しくも会議中に師団長の膝の上で眠るなど腑抜けにもほどがある。

恥ずかしすぎて顔を伏せると父にポンポンと優しく頭を撫でられた。

ステラの膝に掛かっていたローブを回収して羽織りながら父が言った。


「お前のお陰で怪我人は救助できたよ。よく頑張ったな。」


ステラはその言葉にはっとして野原を見た。

自陣は何事もなかったかのように跡形もなく撤収していたが、敵陣には多くの遺体がそのままになっていて胸が痛んだ。

だが、今優先すべきは生きている者だ。


「呪いの《解除》について話し合っていた。もう動けるな?」

「はい、大丈夫です。申し訳ございませんでした、師団長。」


ステラは姿勢を正して敬礼すると、立ち上がって部隊長とクリンプトン先生の間に座った。

部隊長が笑いながらも少し心配そうに、クリンプトン先生は爆笑して目に滲んだ涙を拭いながらステラを見たので恥ずかしくてまた赤面した。


ステラが座ったのを見届けてから父が姿勢を正した。


「ひとまず魔術師達にかけられた呪いは私が《解除》した。

解析したが、周囲に影響を及ぼす類いの呪いではない。一人ずつ《解除》していくしかないが、結界を張る必要はない。

私は明日の夜までここに滞在するから、その間に終わらせてくれ。

私が昼間に戦場を見張るから、昼部隊の魔術師は《解除》に専念しろ。」

「「「承知しました、師団長。」」」


徴兵された騎士も合わせると十二人で千人以上《解除》しなければいけないので過酷だが、それで呪いから救えるのであれば名誉な任務だ。

ステラも気を引き締めて頷いた。


「負傷者は騎士団が手当てをしているが、命に別状がある者はいない。《加護》の魔法の効果があったのかもな。」


今度は父がステラに微笑みかけた。

ステラの魔法の効果なのかはわからないが、あれだけ強力な魔術に晒されて命が奪われた者がいなかったのは奇跡だ。

ステラは父に微笑み返して、心の中で天の神様にお礼を言った。


「今は停戦状態だが、いつまた敵の攻撃があるかわからない。気を緩めるな。

それでは昼部隊は任務に行け。夜部隊は休んでくれ。以上。」

「「「承知しました、師団長。」」」


ステラも他の魔術師と共に父に敬礼をしてから立ち上がった。

もうクラクラしないので魔力も戻っていそうだ。


ステラは集まってきた昼部隊の魔術師に言った。


「まずは王国騎士から《解除》する。魔力が切れたら遠慮なく言ってくれ。いつまた戦闘状態に戻るかわからない。無理はするな。」

「「「承知しました、副部隊長。」」」


そして、山を登って野営地へと向かった。

歩いていると、クリンプトン先生に話しかけられた。


「君は次から次へととんでもないことをするな。」

「…あれは魔力が暴走しておかしくなっていました。すみません。」


クリンプトン先生は呆れたように笑っている。

ステラが勝手に最後通牒を突きつけたことだろう。ステラも未だに自分がしたことが信じられない気持ちだったが、恐らく「巫女の怒り」が発動したのだろうと思った。


なんと言えばいいのかいいのかわからなくて曖昧に笑っていると、後ろからバンバンと背中を叩かれた。


「あのとき以来だな、王家の巫女様。」

「ディーン、もう忘れてください…。」


ステラが以前「巫女の怒り」を発動したのは第一王子殿下を離宮に送り届けるときだった。

あのとき警護を担当していたのは戦闘部隊だったから、みんなステラの暴走を冷静に受け止めているのだろう。

あのときも昨日も、自分がとんでもないことを口走った自覚はあるので、ステラは耐えきれなくて赤面した。


「よくわからないが、君は怒らせてはいけないタイプだとよくわかったよ。一万点はやめておこう。」

「そうしてください。一万点は怒りますよ。」


クリンプトン先生がまたニヤッと笑って言うが、それに関してはステラも有り難いのでブンブンと頷いた。

必死に頷くステラを見てディーンもクリンプトン先生も爆笑していた。



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