241.反撃
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八月になった。
戦場にはギラギラと日差しが照りつけていて、魔法でいくらか防げるとはいってもステラも含めて皆すっかり真っ黒に日焼けしていた。
使者の騎士と一緒に王城に戻っていたエメリックも再び戦場に加わって、戦闘部隊は二十名と幹部三名で二十三名の体制になった。
今日も魔法で作った壁で日差しを避けつつ、氷の魔法で体を冷やしながら魔道具の双眼鏡で敵の陣地を監視していた。
魔法で対策しているし、戦闘が落ち着いている間は人数を減らして三交代制で見守ることになったので、暑さによる消耗は抑えられていた。
敵は最近、元あった陣地にまた新しく野営地を築き始めていたので、また燃やすべきか、もう少し様子を見て一気に叩くべきか議論していた。
交代に来た戦闘部隊長に双眼鏡を貸して確認してもらっているときに、ふと違和感があって野原の奥を見つめた。
以前に《刻印》した敵の気配がするのだ。
「…部隊長、帝国の近衛魔術師が到着したかもしれません。《刻印》した敵の気配がします。」
ステラの言葉を受けて、部隊長は双眼鏡を覗き込みながら表情を険しくした。
「まだ野営地にはいないようだ。山の裏側に到着したのかもしれないな。
今晩辺り奇襲を仕掛けられるかもしれない。
一旦、皆を集めよう。」
「承知しました、部隊長。」
ステラは部隊長の言葉を受けて、耳の魔道具に魔力を込めた。
「戦闘副部隊長から戦闘部隊へ。帝国に動きがあった。戦闘部隊は全員司令部へ集まれ。」
十分もしないうちに休憩中だった魔術師達も集まり、会議が始まった。
「《刻印》した敵の気配がします。私が帝国側で刻印した者は皇帝陛下と皇太子殿下の近衛魔術師です。
まだ距離があるようで総数は不明ですが、確実に近衛魔術師が近くに来ています。」
ステラが報告すると、戦闘部隊の魔術師達の空気が張り詰めた。
戦闘部隊長も険しい表情で続けた。
「帝国の近衛魔術師は転移魔術だけでなく、邪悪な魔法も自在に扱う。
お前達は最低限、自分の身は守れるな?」
「「「はい、部隊長。」」」
「それなら問題は騎士達の身をどう守るかだ。我々幹部の手でも、さすがに戦場全体は守りきれない。」
ステラもそれが問題だと思っていた。
魔術による戦闘だけならいいが、敵が騎士を出してきたらこちらも物理攻撃を防ぐために騎士を動員する必要がある。
ただ、騎士達の魔法剣や矢は防御結界を切り裂いてしまうので、騎士達を魔法で完璧に守ることはできない。
「私もそれを懸念しています。
私が皆さんや騎士達にかけた防御魔術は騎士相手には通用しますが、邪悪な魔法には通用しません。
防御結界を戦場に張ることもできますが、そうなると騎士達は攻撃ができません。」
「なるべく敵の騎士達を魔法で抑えるしかないな。
君が前に使った矢の魔法は、騎士達は使えないのか?」
「矢を射る衝撃で魔法が発動しないように制御する必要があるので、難しいかと存じます。」
「確かにそうか。君がいるときに戦闘が起きればいいんだがな。」
「私もそう祈っています。」
ステラがいるときであれば、相手の騎士が出陣したタイミングで矢を射ればいい。
もしくは、あまり考えたくないが「破滅の魔法」を使う手もある。
「破滅の魔法」は魔力の制御に慣れていないので、こちらにも被害が出る可能性がある。
それに、相手は文字通り殲滅するだろう。
ヴァレン様に命令されたとは言え、大量に人を殺したいと思うほどの狂気はステラにはない。
できれば使いたくなかった。
「我々が騎馬部隊と共に前線に出るのはいかがでしょうか。」
ディーンが言って、ステラは目を瞠った。
確かに戦闘部隊の魔術師は訓練を積んだ結果、馬上でも正確に魔法を撃ち抜けるようになっていたが、戦場で前線に出るには命の危険がある。
「君達にその覚悟はあるのか。」
「そのために訓練してきました。当然です。」
部隊長の問いにディーンがはっきりと答えて、他の者達も皆頷いた。
「では部隊の半数を前線に送ろう。これからは以前の二交代制に戻す。
副部隊長、君の目で昼部隊と夜部隊からそれぞれ五名ずつ前線に出る者を選抜してくれ。」
「承知しました、部隊長。」
前線に送る魔術師の選別などしたくなかった。
ステラは胸が締め付けられるような痛みを覚えながらも、騎馬訓練が得意だった魔術師達を選別した。
昼部隊のディーンと夜部隊のエメリックもそのうちの一人だ。
皆を前線に送るのは心苦しかったが、ステラに選ばれた者はむしろほっとしたような表情を浮かべていて、選ばれなかった者は悔しそうにしていた。
やはり、皆ステラと同じように戦闘が好きなのだと実感した。
「私から騎馬部隊に伝えておく。前線に出る者はくれぐれも命を優先してくれ。お前達一人一人が貴重な戦力だ。
状況が悪いときは迷わず撤退するように。」
「「「承知しました、部隊長。」」」
その後、夜部隊と交代したのでステラは夕食の時間までテントに戻った。
《刻印》した敵が近くにいると思うと胸騒ぎが止まらなかったが、寝ないわけにはいかない。
夕食が終わったらすぐに寝て、何かあったらすぐに出陣できるように寝袋の周りを整えておいた。
そして夕食に呼ばれたのでステラは食べるのが早い戦闘部隊の魔術師にも引かれる程の早さで夕食を平らげて、一目散にテントに戻って清浄魔法をかけた。
お守り代わりに第一王子殿下の紅を差して、胸には双眼鏡をぶら下げて髪にはヴァレン様からいただいた髪留めをつけたまま寝袋にくるまって、無理矢理眠った。
◇◇◇
強力な魔力を察知して、はっと目を覚ました。
同時に濃厚な《敵》の気配がして、耳の魔道具から声が聞こえた。
『戦闘部隊長から各位。敵からの奇襲だ。帝国の近衛魔術師が攻撃している。昼部隊は準備が整い次第、至急応援を頼む。
騎士団も念のため出陣の準備をしてほしい。』
「戦闘副部隊長、承知しました。」
ステラは答えながら手早く鎧を纏って、杖と剣を脇に差して弓を背負った。
物理攻撃も飛んでくるかもしれないので脇に兜を抱えて出ると、クリンプトン先生も兜を抱えて隣のテントから出てくるところだった。
「まずいな。」
クリンプトン先生は走りながら戦場の方向を見つめて呟いた。
この強力な魔力は、相手の近衛魔術師は一人ではないだろう。
相手が複数いる上にこちらも強力な魔法を放っているので分かりにくいが、《刻印》した《敵》は少なくとも五名はいる気がする。
それに《刻印》した敵以外の魔力も多数感じた。
「《刻印》した近衛魔術師が少なくとも五名はいます。魔術師を総動員しているのでしょうか。」
「その可能性もある。気を引き締めろ。」
「承知しました。」
そう言いながら山道を駆け抜けると、司令部は皆が総力戦で戦っていた。
戦闘部隊長に駆け寄りながら、ステラは司令部に強力な防御結界を張った。
司令部を襲っていた邪悪な魔法が阻まれたことに気付いて、部隊長がこちらを向いた。
「部隊長、近衛魔術師が少なくとも五名はいます。」
「皇帝陛下がお怒りなのだろうな。やけになっているとしか思えないが、恐らく全魔術師を送ってきたのだろう。」
部隊長は言いながら、無数に攻撃魔法を放っている。
ステラも防御結界を維持しながら兜を地面に投げ捨て、首にかけていた魔道具の双眼鏡で敵陣を覗いた。
そして、背中をぞっと悪寒が走った。
「部隊長、魔術師が百人はいます。背後に多数の騎士も控えています。」
「騎士団にも情報を共有してくれ。夜部隊の魔術師はかなり消耗している。昼部隊の者を前線に送ってもらえるか。」
「承知しました、部隊長。」
部隊長はステラの言葉にも動じずに落ち着いて魔法を放ち続けながら話した。
さすが戦闘部隊きっての武闘派で百戦錬磨なだけあると思った。
部隊長の横で話を聞きながら、クリンプトン先生も落ち着いて防御魔術を展開している。
ステラも動じないように心を落ち着けた。
「戦闘副部隊長から副団長へ。敵の魔術師の背後に多数の騎士が控えています。引き続き出陣準備を進めてください。
騎馬部隊長へ。魔術師団から騎馬部隊に魔術師を五名送りますので、馬を用意してください。」
『副団長、承知した。』
『騎馬部隊長、承知した』
そして、集まってきた昼部隊に声をかけた。
「前線に出る者は速やかに騎馬部隊へ合流せよ。その他の者は夜部隊の者と交代せよ。一旦夜部隊を休ませる。」
「「「承知しました、副部隊長。」」」




