233.あなたがいなくても※
※R15注意
王家の馬車が王城の馬車寄せに到着した。
「王太子妃殿下のお成り。」
侍従の声がして、騎士達とエメリックは盛大な出迎えの中に降り立つことにまた恐縮していたが、大丈夫だと言い聞かせて追い立てるようにして馬車から降ろした。
いつかのヴァレン様も同じような気持ちだったのだろうかと思うと苦笑いしてしまった。
馬車を降りると、使者の騎士に聞いた。
「まだ動けますか?」
「はい、大丈夫です。」
「それでは、国王陛下がお待ちですので『謁見の間』にお連れします。」
「…承知しました、王太子妃殿下。」
騎士は一瞬驚きの表情を浮かべたが、覚悟を決めたように頷いた。
エメリック達と護衛の騎士達とはここで別れて、ステラは使者の騎士と共に「謁見の間」に向かった。
◇◇◇
「王太子妃殿下がお見えです。」
「お通しせよ。」
父の声がして、ステラは使者の騎士の騎士をちらっと見た。
顔が青ざめていたので、その背中をとんとんと撫でるとはっとしたように顔を上げて、少しだけ顔色を取り戻してくれた。
ステラが微笑むと騎士も頷いたので入室して頭を下げた。
騎士は横でさっと跪いて臣下の礼をとった。
「面を上げよ。」
国王陛下の声がしたので、ステラは顔を上げて、騎士を立たせた。
「帝国に送った使者を連れて参りました。」
「ここへ参れ。」
「承知しました、国王陛下。」
ステラは騎士を立ち上がらせて国王陛下の元に送り届けてから国王陛下の後ろの祭壇に立たれていたヴァレン様の隣に戻った。
反対側には第一王妃陛下もいらっしゃったので、ステラは荷物を用意してくれた感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
王族が勢揃いして随分恐れ多い光景になっているので、ステラは青ざめる騎士に心から同情して心の中で応援した。
「よく戻って参った。苦労をかけただろう。」
「尊いお気遣いを賜り、身に余る光栄に存じます。国王陛下。」
国王陛下の優しい声が響いて、騎士が深く頭を下げた。
「仔細を報告せよ。」
「はい、国王陛下。」
国王陛下の問いに、騎士は先程ステラに話してくれた話をまた淡々と話した。
ステラは聞いているうちにまた怒りが込み上げてきたが、ヴァレン様も同じ気持ちだったようだ。
表情には出ていなかったが、「王家の魔法」の魔力が滲み出ているのでヴァレン様もお怒りなのだとわかった。
国王陛下からも威圧感が放たれて、「謁見の間」は重苦しい空気に包まれた。
「誠によくやった。そなたには褒章を届ける。もう休むがよい。」
「身に余る光栄を賜り、恐悦至極に存じます。国王陛下。」
騎士が再び深く頭を下げて、静かに退室していった。
「…王太子妃。」
「はい、国王陛下。」
突然呼ばれてビクッとなりかけたが、なんとか堪えて返事をした。
振り返った国王陛下が、深紅の瞳でステラをじっと見つめた。
「そなたの破滅の魔法は、帝国を滅ぼすこともできるだろう。」
ステラは目を瞠って固まった。
ヴァレン様がステラの手を取って、ぐっと強く握った。
「国王陛下、私の妃を戦場に送るわけには参りません。」
「王太子。」
ヴァレン様が怒鳴るように言い返したが、国王陛下から体を押さえつけられるような威圧感が放たれたのですぐに押し黙った。
「我が国の使者を惨たらしく拷問にかけた帝国を、余は決して許さぬ。
王太子妃、そなたの才を存分に活かす場ぞ。
好きにするがよい。」
国王陛下はステラの目を見て言い放つと、ステラの返事を待たずに退室した。
第一王妃陛下も後について退室する際にステラに気遣うような目線を向けてくれたことに気づいたが、ステラは固まってしまって反応できなかった。
「ステラ、気にしなくていい。君は私の側にいてくれればそれでいい。」
誰もいなくなった「謁見の間」でヴァレン様に強く抱き寄せられた。
ステラはなんとか動きを取り戻すが、先程国王陛下に言われた言葉の衝撃が大きすぎて頭が真っ白になっていた。
確かにあの魔法を落とせば小さな町を滅ぼすことになるだろうし、何発も落とせば国を滅ぼすことだって出来るだろう。
でも、あの魔法は父と戦うために考えたのであって人を殺すために考えたわけではない。
実際に見たので自分の魔法が持つ威力や価値はわかっていたが、自分がこの世に恐ろしい魔法を生み出してしまったことを改めて実感して、恐ま怖で体が震えてきた。
「ステラ、部屋に帰ろう。」
「…はい、ヴァレン様。」
ステラはなんとか返事をして、そのままヴァレン様に肩を抱かれて私室まで連れて行かれた。
◇◇◇
私室に着くと、ヴァレン様はステラの肩を抱いたままいつものカウチに腰掛けて、そのまま震えが止まらないステラの体を抱き締めた。
「ステラ、大丈夫。君は戦わなくていい。私が守るから。」
ヴァレン様の優しさが胸に染みるのに、それでも戦いたい自分と、自分が生み出した魔法への恐怖の狭間で感情がぐちゃぐちゃになっていて言葉が出てこない。
ヴァレン様は、ただ震えるばかりのステラの背中を優しく撫でてくれる。
「ステラ、頼む。私に守られていてくれ。」
ヴァレン様の少し掠れた声がして、ステラははっとして顔を上げた。
「ヴァレン様…。」
よく見ると、ヴァレン様の体も僅かに震えていて、その麗しい顔を歪めて切実な表情でステラをじっと見つめていた。
ヴァレン様に恐怖を与えているのが自分のせいだと思うと、また申し訳なくなって顔を伏せた。
でも、国を滅ぼす覚悟はないけど、二度と王国に手出ししようと思えないくらいの痛手を与えたい気持ちはあった。
やはりステラは戦いに取り憑かれている。
ヴァレン様の優しさを黙って受け入れることはできないのだ。
仲間と一緒に戦いたい。そこにヴァレン様にいてほしくない。
誰かの血を浴びるのは自分だけでいいから、ヴァレン様こそ守られていてほしいと思った。
自分は戦わずにはいられないのだと気づいたら体の震えがだんだん収まってきて、ヴァレン様の瞳を見つめて言った。
「私は戦闘部隊の魔術師です。戦うことを恐れる気持ちはありません。」
「ステラ。戦わなくていいんだ。私が君を戦場に行かせない。」
「ヴァレン様、私はどこにいても心はあなたのお側におります。どうか私がお側を離れることを恐れないでください。」
ステラの言葉に、ヴァレン様は再び顔を歪めた。
今度はステラからヴァレン様を抱き締めて、その胸に顔を埋めた。
ヴァレン様もぎゅっとステラを抱き返してくれる。
やがて溺れそうになるほど激しい口付けが降ってきた。
そのままカウチに押し倒されると、その手がステラを溶かすまではあっという間だった。
「はぁっ……ヴァレン、さま……っ……」
「ステラ、愛してる。」
「わ、たしも…っ、愛してる……うああっ……」
ヴァレン様は体の奥までステラを溶かして、このまま二人で消えてしまうのではないかと思うくらい激しくステラを求めた。
時間も空の色もわからなくなった頃、体が繋がっているのか離れたのかもわからないままステラは意識を失った。
泥沼にはまるように深い眠りについて、何の夢も見なかった。




