227.宣戦布告
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翌朝、ステラは耳の魔道具の声で飛び起きた。
『駐留部隊です。我が国の騎士を一名保護しました。馬を奪われたとのことで、荷馬車に紛れていました。帝国からの書状を持っています。いかがいたしましょうか。』
『戦闘部隊長から駐留部隊へ。師団長に対応を確認する。騎士に怪我はないか。』
『駐留部隊です。怪我はしていますが、まだ動けるとのこと。』
『戦闘部隊長から駐留部隊へ。では準備が整ったら王城に向けて出発してくれ。警護の魔術師を一名つけろ。
騎馬部隊長へ。警護の騎士を手配してくれ。』
『駐留部隊、承知しました。』
『騎馬部隊長、承知した。』
魔道具でのやり取りに動悸が止まらない。
使者が怪我をして馬を奪われていて一名しかいないということは、結果はわかりきっている。
反対側の耳の魔道具からは戦闘部隊長が父に対応を確認している声が聞こえた。
「ステラ、どうしたの?」
ステラが鼓動が打ち付ける胸を押さえているとヴァレン様も起き上がって、ステラを心配そうに覗き込んだ。
「ヴァレン様…。」
防音結界を張ってから魔道具でのやり取りを説明すると、ヴァレン様は険しい表情で言った。
「私の命令で書状を開けるように言って。時間がないかもしれない。」
「…承知しました。」
ステラは一瞬目を瞠ったが、すぐに頷いて両耳の魔道具に魔力を込めた。
「戦闘副部隊長から駐留部隊へ。王太子殿下より書状を開封せよとご命令です。」
『駐留部隊、承知しました。少々お待ちください。』
「ヴァレン様、準備していますので少々お待ちください。」
「ステラ、大丈夫?」
ステラが頭を下げると、ヴァレン様はステラを抱き寄せて優しく頭を撫でてくれた。
ステラの胸の中は残りの四人の使者達がどうなったのかいう不安とこれから国境で何が起こるのかという恐怖でいっぱいだったから顔が青ざめていたのかもしれない。
大好きなヴァレン様の甘い香りを嗅ぎながら、息を整えた。
ステラはこの御方を守らなければならない。動揺していてはいけない。
「…大丈夫です、ヴァレン様。ご心配をおかけして申し訳ありません。」
ステラが顔を上げると、ヴァレン様は優しく目を細めた。
そのとき、耳の魔道具から声がした。
『駐留部隊から戦闘副部隊長へ。書状を開封しました。王太子殿下宛に、帝国の皇帝陛下から宣戦布告です。一週間後に国境を攻撃すると書かれています。』
「戦闘副部隊長、承知した。現物は警護の魔術師が管理せよ。」
『駐留部隊、承知しました。』
ステラはヴァレン様から離れて、頭を下げた。
「王太子殿下、書状を開封しました。帝国の皇帝陛下から王太子殿下宛に、宣戦布告です。一週間後に国境を攻撃すると書かれているそうです。」
「すぐに王室会議を召集する。侍従を呼ぼう。」
「承知しました。」
ステラは防音結界を解除してから、隠密魔法で声を消して部隊長用の魔道具で父に呼び掛けた。
「戦闘副部隊長から師団長へ。王太子殿下が王室会議を召集されるとのことです。」
『師団長、承知した。各部隊長へ。帝国からの宣戦布告があった。一週間後に国境を攻撃するとのこと。王室会議の後にすぐに幹部会議を開くゆえ、そのつもりでいてくれ。』
各部隊長の返事を耳元で聞きながら、ヴァレン様が侍従に王室会議の指示を出しているのを聞いていた。
侍従と入れ替わりで侍女が入ってきたので、手早く王国魔術師のローブに着替えた。
平和な時間が唐突に終わってしまったことを悲しみながらも、ステラは戦いに向けて気持ちを切り替えた。
◇◇◇
王室会議は一時間後に召集されることになった。
ステラはヴァレン様の執務室でレオナルドとヴァレン様が緊迫した会話をしているのを聞きながら、話しかけるタイミングを探っていた。
ステラがじっと見ていたからか、レオナルドがこちらを振り返った。
「ステラ、どうしたの?」
「レオ様…。あの、お二人に話したいことがあるんです。」
レオナルドはステラの言葉で察したのか微かに微笑んでくれたが、ヴァレン様は顔を上げると訝しげな顔をした。
ステラは今しかない、と決意した。
「私は国境に行きたいです。」
「こんなときに何を言っているんだ。」
「王太子殿下。妃殿下のお考えを聞きましょう。」
ヴァレン様は怒気を含んだ声で遮ると、立ち上がってステラの方に来ようとしたが、レオナルドがヴァレン様を抑えてくれた。
「部下が戦いに行くのに、私だけ王城で守られているわけにはいきません。
私は王国魔術師として、国を守る責務を全うしたいです。
私の魔法で、一人でも多くの部下や民を守りたいのです。」
「だめだ。君は王国魔術師である以前に私の妃で、この国の王族だ。戦場に行くなどあり得ない。」
「私は王族としても、国を守る責務があります。
自分の身は自分で守れるだけの力はあります。
私は守られるだけの者でいたくありません。皆を守りたいのです。
どうか王城を出るご許可をいただきたく存じます。」
ステラがヴァレン様の深紅の瞳を見つめて言うと、ヴァレン様の体から威圧感が漏れ出して執務室を満たした。
「許可など出さぬ。私の側を離れるでない。
従わないのなら今この場で王国魔術師をやめさせる。」
やはり説得は無理かもしれない。
下手に強く出てこの場で王国魔術師をやめさせられたら作戦を決行することもできなくなる。
ステラがチラッとレオナルドに目を向けると、レオナルドもステラの心を見透かしたかのように僅かに首を振った。
その様子で、もしかしたら第一王妃陛下から話を聞いたのかもしれないと気づいた。
「…尊いお心を乱してしまい、申し訳ございませんでした。王太子殿下。」
「こちらへ来てくれ。」
ステラは渋々頭を下げると、ヴァレン様がまだ怒った声でステラを呼んだ。
これ以上怒らせても本当に王国魔術師をやめさせられそうなのでステラが素直に従うと、そのまま抱き込まれて熱い口付けを落とされた。
こんな状況で、レオナルドが目の前にいるのに口付けをしている場合ではない。
ステラはその胸を押し返した。
「んっ……でん、か…っ……なり、ません……っ」
「どこにも行かないでくれ。君がいないと生きていけない。」
ヴァレン様は口付けの合間に深紅の瞳でステラを見つめながら言うと、またステラの頭を抱き込んで唇を奪った。
レオナルドに申し訳なくていたたまれなくなるが、レオナルドは顔を伏せていたので表情はわからなかった。
そのうちに静かに執務室から退室していった。
誰もいなくなった執務室でステラは抵抗を諦めて、侍従が呼びに来るまでヴァレン様のされるがままになっていた。
「王太子殿下、お時間でございます。」
扉の外から侍従の声がして、ようやく体を離してくれた。
唇には紅が移っているしステラの髪は乱れているはずなのに、ヴァレン様は直す素振りもなくそのままステラの肩を抱いて執務室を出た。
王室会議が行われる部屋に到着するまで、強く肩を抱いたまま廊下を進むばかりで一言も何も言わなかった。
下手なことを言ってお怒りを助長させたら全てを失ってしまうので、ステラは黙ってヴァレン様に従うしかなかった。




