203.湯殿※
※軽いR15注意
五月に入って夜会が近づくと、耳に嵌めた魔道具のイヤーカフでのやりとりが頻繁になってきた。
ある日、執務室で勉強しながら護衛をしていると、諜報部隊長の声が耳に響いた。
『諜報部隊長より情報共有です。帝国の魔術師が入国した模様です。数日以内に王都に到着するものと思われます。警戒してください。』
『師団長、承知した。』
『戦闘部隊長、承知した。』
すぐに各部隊長の返事が返ってくる。
ステラはすぐに防音結界を張り、ヴァレン様に伝えた。
「ヴァレン様、帝国の魔術師が入国したようです。私もなるべくお側にはおりますが、ご自身でも杖を手離されないようお願いいたします。
恐れ入りますがレオ様も一緒に警護をお願いいたします。」
王族や上級文官に杖を携帯しろと頼むなど王国魔術師の誇りには欠けるが、命には代えられない。
ステラの真剣な目を見てわかってくれたのか、二人とも頷いてくれた。
「わかったよ。ステラは無理だけはしないで。」
「承知しました、王太子妃殿下。」
◇◇◇
その日の夜、普段は別々に湯殿に向かうが、ステラはこの国に帝国の魔術師がいると思うと心配になってヴァレン様の湯殿まで一緒についていった。
第一王子殿下の警護の時は湯殿まで連れ回されていたからなんとも思っていなかったのだが、湯殿で待ち受けていたヴァレン様付きの侍従達にはぎょっとした顔をされた。
「私はこちらでお待ちしております。どうぞごゆるりとお過ごしください。」
ステラが第一王子殿下の警護をしていたときと同じように湯殿の前で頭を下げると、ヴァレン様がステラの手を掴んだ。
「ステラも一緒に入ればいいよ。」
「はい…?」
「夫婦なんだから恥ずかしがることはない。」
「え?!」
そんなつもりは全くなかったのでステラは慌てふためいて崩れ落ちそうになり、ヴァレン様に受け止められた。
「も、申し訳ございません。わ、私は外でお待ちしております。ヴァレン様が私室にお戻りになってから入りますので、お気になさらないで下さい。」
「一緒に入れば護衛も出来るでしょう。」
再びわたわたと頭を下げるが、腰を抱えられたまま湯殿の中に連れて行かれそうになったので扉を掴んで踏ん張った。
「ヴァレン様、なりません。こちらはヴァレン様の湯殿です。私が使うなどふけ」
「私がいいと言ったんだし、ステラは私の妃だから不敬じゃないよ。」
「しかし、侍女が...」
「もう呼んだよ、ほら。」
その声で廊下の先を見ると、いつもステラを世話してくれているヴァレン様付きの侍女が息を切らして駆けつけてくるところだった。
いつの間にか侍女を呼ばれていたことに驚愕しつつ、こんな大勢の前でヴァレン様と一緒に湯浴みをするなど恥ずかしすぎて耐えられないと首を横に振る。
「は、恥ずかしくて無理です。」
「いつも見られているんだし今更気にすることはないよ。」
「なっ…」
たしかにその通りなのだが、それとこれとは話が違う。
ヴァレン様は扉にしがみつくステラを無理矢理引き剥がして湯殿に連行した。
侍女も続いて湯殿に入ってくると、あっという間に身ぐるみを剥がされてバスローブを羽織らされた。
ヴァレン様も自分で手早く軍服を脱ぐと、侍女から受け取ったバスローブを羽織ってステラの手を引いた。
ヴァレン様の前で洗われて磨かれるのが恥ずかしすぎて火を噴きそうになっていたが、あまりにもヴァレン様が普通なので、尊い王族方にとってはこれも常識なのかもしれないと思い始めた。
恐れ多くも一緒にバスタブに浸からせてもらったところで、侍女達が素早く退室していった。
気を遣われたことにまた恥ずかしさを思い出してぼぼっと沸騰する。
「ヴァレン様、本当に恥ずかしいです…」
湯船に浸かるために何も着ていないし、髪も魔法で軽く乾かしてもらってとりあえず上げただけなので、こんな姿をヴァレン様に見られているのが余計に恥ずかしくて体を縮こまらせた。
「気にすることはない。おいで。」
ヴァレン様は本当に気にする様子もなく、ぱっと手を広げた。
まだ濡れている白銀の髪からは水が滴っていて、隙間から見える金色の瞳が致死量の色気を放っていた。
胸から続く美しい筋肉の筋が湯から透けていて、目の保養をとうに超えて目の猛毒だ。
鼻血が出そうになって慌てて鼻を押さえると、ヴァレン様がクスクスと笑った。
「どうしたの?」
「ヴァレン様、麗しすぎて目の毒です。それ以上はなりません。鼻血が出ます。」
本当に目の毒なのでステラが目を細めてヴァレン様を見ると、何が面白いのかお腹を抱えて笑い出した。
「いつも見ているのにどうして?」
ステラはまたぼぼっと沸騰する。
その姿でそんなことを言われたら耳にも毒である。
ヴァレン様は不敵に微笑むと、ちゃぷっという湯の音を立ててステラを抱き締めた。
直接肌が触れ合って、ステラは恥ずかしすぎて本当に鼻血が出る寸前になる。
「ヴァレン様…それ以上は……んっ……」
その手が体を妖しく這うので変な声が出てしまい、湯殿に自分の声が響いてまた耳まで赤くなる。
「な、りませんっ……あっ………いや……」
「嫌じゃなさそうだよ?」
ヴァレン様の意地悪な声が耳に響いて、その手を止められないことを悟った。
ステラは手を湯殿に翳して、いつもよりは弱いけどどうにか防音結界をかけた。
ヴァレン様はそれを見てクスッと笑うと、優しい動きでステラの理性を奪っていった。
◇◇◇
湯殿でのぼせる寸前まで溶かされた後、私室に抱えられて行ってまた溶かされた。
いつ寝たのかわからないまま眠ってしまって、耳から響いた声で意識が呼び起こされた。
『師団長より警備部隊長へ。王太子殿下と王太子妃殿下が湯殿にいらっしゃる間の警護をそれぞれ手配してくれ。』
『警備部隊長、承知しました。』
ステラは一瞬で目が覚めて、ぼぼぼっと耳まで沸騰した。
窓の外の日はすでに高くなり始めていた。
朝、出勤してきた父が誰から何を聞いたのだろうと恐ろしくなる。
そして、こんなやりとりが部隊長達の耳に入っているなんて恥ずかしすぎる。
いっそ消えてしまいたいくらい恥ずかしくて悶絶していると、ヴァレン様が目を開けた。
「…ステラ、そんなに赤くなってどうしたの?」
朝のヴァレン様は何度見ても色気が滲み出ていて目の毒だ。
ステラはヴァレン様の色気に当てられて昨日のことを思い出してしまい、一段と沸騰した。
「な、な、なんでもありません。」
ステラが目を逸らすと、ヴァレン様は不敵に微笑んだ。
「今日も一緒に湯殿に行こうね。」
「きょ、今日は警護の魔術師が来るみたいなので結構ですっ!あっ!」
言ってから口を押さえたがもう遅い。ステラが赤面していた理由に気付かれたのが恥ずかしくて、また赤くなった。
「魔法伯にまた睨まれそうだな。」
ヴァレン様が笑いながら言うので、想像してしまって耳まで沸騰した。




